チートな仲間たちの自己紹介
Sideヨシュア・ガーランド
長老の家に、俺、フレイチェリ、リーリア、連れの男、同じく連れの少年、この村の警備隊長そして爺さんが集まっていた。
俺たちの軽い自己紹介を終えた後に、リーリアが連れの二人の紹介をする。
「あー、彼はコウノスケさん。多分、フレイチェリさんと話が合う気がするわ」
この俺と同年代と思しき緑服の男の名前はコウノスケというのか。あまり聞かない名前だが……。それに、黒髪黒眼というのも気になる。それを言ったら、俺も黒髪蒼眼という珍しい組み合わせなのだが。
「どうも、紹介に預かったコウノスケだ。武器は小銃と刀。……そうだな、こっちの言葉で言うならばえーっと……」
まて、銃使いなのか!?
妙に軽装だと思っていたが……。
隣では、フレイチェリも驚愕していた。この世界に七千年前に栄えていた古代文明は、魔術を用いた連発銃まで実用化していたらしいが、現在ではデッドコピーの“魔力弩”が武器として流通している。
発射のための魔力がかかる上に、射程や連射力は大弓以下のものが大半という代物だが、威力は鷲獅子の頭蓋骨すらぶち抜く威力を誇る。
しかし、“銃”と言う言い方をするのは古代文明の文献だけだ。
「あなた、古代文明の……!?」
「いや、違うが……むしろ、この世界にも銃はあったのか」
コウノスケが、驚いたような表情で言った。
そして、さらっと正体を明かしてしまう。
「本来はもう少し隠しておく予定だったのだが……この分には隠す必要もなさそうだな。――――私はもともと日本という国の海軍、その技術士官だった。いわゆる“異世界人”ってやつだよ」
異世界人……?
いや、さっぱりわからん。
隣では、フレイチェリも首を傾げていた。
「はは、そういうもんだと思ってくれ。……しかし、この世界にも銃があるとはな」
「……七千年前に栄えた古代文明は、魔術が高度に発展していた。軍隊の装備も、自動実弾小銃に魔術式防護結界だった。私は自動銃は使わせてもらえなかったけど……」
「自動小銃か……私が生きた時代は、一部の国ではすでに実用化されていたものの、私の国はまだボルトアクション小銃が主流だったな……」
「私の銃はセミオート銃。でも、精度も高い」
すみません、ちっとも話についていけないのですが。
ちなみに、古代文明とは、この星で七千年ほど前まで栄えていた文明だ。高度に発展した魔術は“なんでもあり”だったと、フレイチェリから聞いた。
そう、彼女は――――。
「……ところで、その言い方だと、フレイチェリさんは古代文明に生きていたようだが?」
コウノスケの、鋭い眼差し。
しかし、残念ながらそれは事実だ。
「……ええ。私は世界有数の大国、ログライズン合衆国の大統領、その一人娘。……七千年ほど、地の底の迷宮に封印されていた」
「「「……なっ!?」」」
そういえば、リーリアには話していなかったか。
そう、彼女もコウノスケと同レベルには規格外の存在なのだ。
俺が、地の底の迷宮で出会った少女。彼女はロリババアでした。
「……ヨシュア、今失礼なこと考えた?」
「滅相もございません」
「……はぁ。とりあえず、私はそう言う存在」
フレイチェリが、そう締めくくった。
言い知れぬ沈黙が落ちる。
「ねえ、もしかしなくても、敵は、詰んだ?」
「……フォッフォッフォッ、これだけいれば安心じゃの」
あ、爺さんもいたこと忘れてた。
「あのー、俺のこと忘れないで……」
「……誰だっけ?」
「……え」
あ、そういえばコウノスケさんのほかにもう一人連れがいたな。
「ごほん、気を取り直して。ーーーー俺はアルド。魔王見習いってやつ……」
彼は、最後まで言葉を言い切ることができなかった。なぜなら、強烈な殺気とともに俺の半曲刀とフレイチェリの巨銃が突きつけられていたからだ。
魔族は、人族ーーーー特に人間と敵対している。不倶戴天の敵だ。
そして、それを統べるのが魔王なのだ。統一国家を形成している魔族のルールは“力こそ全て”。故に、その王である魔王は強大な力を誇るのだ。
いくら見習いとはいえ、敵になるのだったら遠慮容赦なく抹殺する覚悟を決めて、俺は曲刀を突きつけた。
しまったな、大剣の方が威圧感あったか?
「……ほう、それが『古代文明の銃』、ですか……」
「……コウノスケは黙って。アルド、返答によってはその頭、吹っ飛ばす。その覚悟で答えろ」
「ひっ!?」
フレイチェリの脅迫に、アルドは肩をすくみあがらせた。
まあ、フレイチェリは気迫とそれに見合う実力は持ち合わせているからな。俺も殺気をぶつけるぐらいはできるが、うまく脅迫できる自信はない。
そんなフレイチェリの殺気に当てられた彼は、かたかたと震えながらしゃくりあげるような声で弁解を始めた。
「えっと、魔族の中では内部抗争が起こっていて……それで、俺は不利な陣営の方の次期魔王なんです」
「それで?」
「……このままだと、魔族は滅びます。ですから、人族の下で経験を積んでくるついでにコネの形成と説得を任されたんです」
ほう。
これは面白いことを聞いたが……いったん整理しないと頭が追い付かなさそうだ。
「……とりあえず、敵対意思がないのは分かった。話を整理しよう。正直キャラの濃い奴が多すぎて情報がこんがらがっている」
「……そうじゃな。お主らもお互い知らないことが多いと難しかろ。……安心せい、私は口外するつもりはないわい。この老骨に誓ってな」
そういって、長老と爺さんは笑いながら部屋を出ていった。
◇
「……なるほど、ヨシュア殿たちはそのような体験をしてらしたのか……」
「というか、あんたがここまで雰囲気変わったのってすべて彼女のおかげね……」
「ええ……思わず口を滑らせちゃいましたが、この人たちなら魔王すら殺せちゃうのでは……?」
俺とフレイチェリの話を聞いた後の、三者三様の感想だ。
ちなみに俺たちが話したことは、
・古代文明の滅亡と自分が封印された流れ
・二年前、俺が地の底の迷宮をさまよっている間にフレイチェリに出会ったこと
・フレイチェリの得物である銃のスペック
といったところだ。
リーリアに出会う前の俺の過去については……一度も話したことがなく、今回も話さなかった。
そもそも今回俺の過去語りなんて不要なんだがな……。
ちなみに、俺の過去はフレイチェリどころかリーリアですら全く知らないはずだ。二人ともどうやら察しているみたいだが……。
しかし、はっきり言って話したくないのも確かだ。
フレイチェリは、大体俺が知っていることをしゃべっていた。ただし、いくつかぼかされているところはあったが……。
彼女によれば、古代文明はその末期にエネルギー資源の取り合いとイデオロギー――――思想の対立で戦争を起こし崩壊したのだ。高度に魔術が発展しすぎた結果、ありとあらゆる国を焼き尽くすだけの力を、知らず知らずのうちに人々は手に入れてしまっていた。そして、それがふとしたきっかけで誰かに振るわれることになったとき……どうなったかは、言うまでもないだろう。
彼女は、家臣によりその難を逃れ地下に封印――――長い眠りについていたらしい。
そして、七千年後に俺と出会い、再び地上へ出てきたということだ。
ちなみに、彼女の使っている銃は当時最新型だった大型銃である。騎士の鎧など4枚重ねでも貫通し、人体に直撃したら体の一部を文字通り吹き飛ばす。どうやら、古代文明の人々をして人に向けたらアカンと言わしめた代物らしい。
魔物相手には有効すぎる武器である上に、そもそも戦争で反則などと言っていたら始まらないと思うのだが。
一方、コウノスケたちの身の上話も聞いたが、こちらもヤバさがてんこ盛りだった。
まずリーリア。
俺が地の底に転落した後、フリーで傭兵をやっていて、今は帰省中だったらしい。得物は大弓であり、その扱いは呆れるほどに習熟している。
また、リーリアだけではなくエルフという種族は精霊魔法に長けており、彼女もそれなりの使い手らしい。
魔術のような複雑な術式が不要な代わりに、精霊と交信し、彼らに信用してもらう必要がある。
しかし、その効果は時として魔術を凌ぐ代物であり、搦め手としても有効なのだ。
次にアルド。
彼は、魔族の派閥の中で、比較的穏健な方の子息らしい。武器は魔剣で、おそらく俺の大剣に匹敵する威力を持っていると思われる。防具も魔族の鍛冶屋が拵えた一品モノで、その武具に見合う戦闘力を持っているというのはリーリアから聞いた。
可愛い子には旅をさせろ理論なのかもしれないが、正直これだけの実力があるのなら警戒されるだけな気もしなくもない。
最後にコウノスケだが、彼が一番ヤバい。
まず、異世界の軍人であり、敵の攻撃で一度死んでいるとのこと。目が覚めたら森の中を彷徨っており、その最中にリーリアと出会ったらしい。
色々あって正直分からないのが本音なのだが、特にヤバいと感じたのは、技術士官……すなわち技官だったことだ。
故に、銃などは再現済み、今は空を飛ぶ機械を再現しようとしているらしい。恐るべきことに、彼はその開発者の一員だったそうだ。
うん、俺なんて目じゃねえぞ。
ちなみに、今コウノスケの手元ではフレイチェリの銃が分解整備されている。
「……おお、ショートリコイル、それもロータリーボルト式の自動狙撃銃……! しかも、この弾ならばおそらくアメさんの装甲車すらブチ抜けるぞ!」
「ふふ、すごいでしょう。ログライズン合衆国の会心作。元々別の国の地雷処理具を魔改造したモノで、対物ライフルとか言われてる」
……すまん、全く話についていけない。というか、ここまで目を輝かせているフレイチェリの姿は俺も見たことがない。
ダメだこいつら、手遅れだ。
「ヨシュアは口が裂けても言えないと思うわよ」
「リーリア、言っちゃダメ!」
……黙秘で。
次回あたりに、登場人物の整理を入れておきます。