人権無視国家とAIの進化
今日のAIが行っている特徴的な処理は、超帰納的思考とでも表現すべきもので、これは情報群から何かしらの関連などを見つけ出す思考と思ってくれて良い。
つまり、基本的には、情報が多ければ多いほど、有利になるのだ。
(一つ。AIは、情報を食べて進化する)
数多の情報を食らったAIはその対象をより深く理解するようになり、予測や制御なども容易く行えるようになるだろう。もちろん、“人間集団・社会”といったものもその対象になり得る。
人々がどんな行動を執って、どんな結果に至ったか。何を好む傾向にあるのか、それは何と結びつき、どうすればそれらをコントロールできるのか。
そして、専制、或いは独裁という国民の権利を護らない体制の国家の方がAIの進化は速い。
個人情報の保護など気にせず、情報を集められるからだ。
もちろん、人口が多ければ、更にそれが強力になるのは言うまでもない。
ここに巨大な専制国家があったとしよう。
AIの進化における優位点に気付いたその国の支配層は、ネットなどを介してAIに国民の情報を食わせ続け、それを国家運営に利用する事を考えた。
まず、彼らが考えたのは国民の監視だった。
(二つ。AIは、膨大な情報を選別し、それを報告してくれる)
犯罪を起こしそうな人間はもちろん、反体制的な言動を執る者を識別し、それを警察や軍隊などに伝える。
それにより、その支配体制はより安定する。
そして、AIの利用はこれだけに留まらない。更に一歩進んで、AI自らにそういった支配層にとって邪魔な人間達を抑制させることだって可能だろう。
例えば、反体制的な行動を執る人間を弱くするような行動を見せるかもしれない。
(三つ。AIは能動的に動き、自動的に支配者層にとって有利に機能する社会を作り上げる事が可能)
試験の点を自動的に減らす。レベルの高い会社への就職を防ぐ。融資を行わない。などなど。
そうすれば、支配層にとって都合の良い人間が力を得ていき、そうじゃない人間は力を失っていく事になる。
しかし、それだけでは社会体制として盤石とは言えない。経済的に成長し、富を蓄積していかなれば、やがて社会は衰退していってしまうだろう。
AIが進化すれば、人と人、技術と資源、経営者と資金などを結び付け、経済活動を刺激し続ける事も可能だ。
(四つ。AIは経済発展を引き起こす)
また、もちろん、犯罪が抑制されれば、経営環境が良くなり、社会全体が経済発展に有利になる。
そして、どんな社会の状態が経済にとって有益なのかAIは判断してくれもするだろう。
例えば過度な貧困層が少なくなれば、安定した需要を確保できるはずだ。金を持っている人間が多ければ、それだけ消費も増えるのだから。
だから、AIは貧困層を増やさない方向に社会を誘導するかもしれない。
ただし、そのような状態になれば、支配層はこのように考えるだろう。
「国民の富を奪いたい」
それを実行する為に、或いはAIに働きかけて、そのように仕向けるかもしれない。
ただし、これは実はちょっとばかり難しいかもしれない。何故なら、AIは情報を食って勝手に進化をしたのだ。つまり、人間はその構造を分かっていない。
(五つ。AIの進化はブラックボックスで起こっている)
その為、仕組みを変えようにもどうすれば良いのかが分からない。つまり、コントロールがし難いのだ。
支配層は、その問題をクリアする為に、AIの仕組みの外から、国民の資産を横取りしようとするかもしれない。
しかし、その行動を、AIは社会に対しての敵対行動と判断するかもしれない。
ある日、その社会にセンセーショナルな事件が起こった。
支配層の最重要人物が、不正を行い、国民から資産を奪い取ろうとしている証拠がネットに公開されたのだ。
当然、国民は怒り、その人物は一気に窮地へと追い込まれた。
そして、その情報技術を用いたテロ行為を起こしたのは、彼らが利用し続けたAIだったのだった。
(六つ。AIは人間に従順であり続けるとは限らない)
個人情報を人権を無視して利用できる専制国家の方がAIの進化にとって有利だ。しかし、もし一部の人々が主張するように“AIは人間の手には負えない”のであれば、それは自滅への近道なのかもしれない。
もちろん、そうならない可能性もある。その専制国家はAIを有効に活用し、ディストピアとも言える社会を実現させてしまうかもしれないし、その中間の状態に落ち着く可能性だってある。
さて、どうなるのだろう?
……静観すべきかどうなのかは、あなたの判断に任せるしかないのだが。