一話:始まりと出会い
こんにちは!
宮川光です。
今回、ちょっと思いついたネタがあり、この小説を書き始めました。
しかし、私の記憶が曖昧で、もしかするとこれに似たような作品があったかもしれません。
もし、そんなことがあったら、お知らせください。
よろしくお願いします。
七月中旬、セミが鬱陶しく鳴く中、いつもと同じように人が通る。
じめじめした暑さを凌ごうと、手で仰いだり、エアコンがついている店に入って休憩する人もいた。
その中に、だるそうにゆっくりと歩く少女がいた。
長い、ストレートの緑色の髪をそのまま垂れ流し、とても涼しそうなTシャツ短パンを着ていた。
少女は汗を手で拭きながら、もう片方の手に持つ紙を見ていた。
その紙には“西野探偵事務所”と書いてあった。
首都を東京とする島国、日本。
第二次世界大戦においてアメリカに敗北。
その後、食料危機等で経済に影響を及ぼすも、1954年以降、高度成長を果たした。
しかし、その後オイルショックによりバブル期に入っていたが、崩壊。
その後は何年も不景気が続いていた。
そんな歴史を持つ日本だが、現在の日本国民は経済について興味なんてない。
そのせいか、昔はよくあった学生運動はなくなっていた。
しかし、その代わりにと言うのか、少しづつ、裏で隠れていた奴らが騒ぎ始めた。
「次のニュースです。昨夜二時頃、東京都中央区新川のコンビニエンスストアに男が押し入り、従業員を刃物で脅し、現金三万六千円を奪って逃走しました。なお、従業員には擦り傷等の軽症がありました。警察庁は強盗傷害事件として調査しています。警察関係者の取材によりますと、男の身長は――ブチッ」
「はぁ……全く。ここ最近の奴らは弁えるというのを知らねぇのか。」
不機嫌そうにリモコンをテレビに向け、紅茶をズズッと音を立てながら飲む男性―西野正志は、自分が寄りかかっていたソファーに勢いよく座る。
「はは……。それには僕も同感だよ。」
それとは逆に、紅茶を音を立てずに飲む、警察官特有の制服を着た佐野大輝は苦笑いをした。
西野は、この年齢の日本人では珍しい白髪をポリポリと掻き、ため息をつく。
「……で、今回はこの事件か…違反者だな?」
「ああ。さっきのニュースでは、刃物で脅したとか言っているが、実際は何も持っていなかった。たぶん、風属性の超能力者だな。」
佐野の推測を聞いた西野は、やる気のなさそうにため息をつき、テーブルに肘をつけた。
「やっぱりか…。今聞いたニュースじゃあ、従業員とか言って、性別を言ってねぇ。怪我をしたのが男性だと可笑しいしな。それに警察関係者ねぇ…。めちゃくちゃ隠してんのバレバレだ。」
西野の遠回しのない言葉にまたもや苦笑いをする佐野は、テーブルに置いてあった資料を西野に手渡した。
「ん~。これでも上の人達が頑張ってくれたんだけどなぁ……。今回は特に被害者に手を出した事もあったからなぁ。このぐらいしか出来ないよ。」
「だから馬鹿なんだよ。そういう奴らほど大規模の被害に対処出来ねぇ。……ふーん。この男、今はフリーターか。」
資料に目を通しつつ、自分の上司の悪口を言われる佐野。
しかし、彼はその事については怒らず、また苦笑いをしているだけだった。
彼は西野が悪気があって言っているのではないのを知っているからだ。
西野正志
自称二十二歳、男性、職務は売れているのかは知らないが、探偵をしている。
しかしその裏では、規則を破った“違反者”を捕獲、或いは存在自体を抹消する掃除屋をしている。
しかもその“違反者”というのは信じられないだろうが、人の人智を超えた力を持つ超能力者の事だ。
昔から、超能力者はいるとかいないだとか言われていたが、実は昔から超能力者は存在していた。
けれども彼らは、その存在が世間に知られない様、息を潜めあって暮らしていた。
そして、その内彼らは規則を作っていったんだが、ここ最近の奴らはそれを破るようになっていた。
西野はその違反者を佐野のような警察官等から依頼をもらって掃除しているのだ。
そんな仕事を受け持っているせいなのかはわからないが、とにかく人との付き合いも、対処もすごく下手なのだ。
「わかった。今日か明日までにはこの件は片づけておく。後はもうないか?……どうやらありそうだな。」
資料を片手にまた頭を掻く西野は、佐野の方を見るや否や、ため息をつく。
後はもうないのかというのに反応したようだった。
気まずそうにしている。
「いや~…。ちょっと面倒な事があってさ…その、…お、女の子を…一人、預かって欲しいんだが…いいだろうか…?」
「……は?」
バサッ
資料を持っていた片手が、佐野の思いもよらぬ言葉に、力が抜けた。
「すまない。本当はお前に聞いてから決める予定だったんだが、こっちで今回まずい事が起こっただろう?それのせいでその子を世話係までてんやわんやで……その、もうこっちに来てると思うんだが…。」
「いやいやいや聞いてない。聞いてねぇよ。その話!」
テーブルをバンッと叩き、驚く西野。
佐野は気の毒そうな顔をしながら、すまんと一礼をした。
「彼女にはもう、ここで住んでもらうと言ってしまったんだ。まぁ、これはこっちの落ち度が原因だから、生活費とかはこっちで負担するからさ。」
「いやいやいやいやいや。待てよおい。ここがどこだか知ってるよな?殺伐とした掃除屋に何預けようとしてんだよ!?」
西野の顔はだんだんと険しくなっていくも、佐野の顔を見るとそれはなくなり、本日何回目になるかわからないため息をつきつつ、ソファーに座る。
「……で、そいつには俺の職業は言ってんのか?」
「いや、その子には、お前の住所を書いた紙と名前しか教えてない。だから、職務とかは言っても言わなくてもどちらでもいい。要はこっちの騒ぎが収まるまでの間、預かってくれればいいだけだから。よろしくね。」
にっこりと笑顔で向かれたその無邪気な顔に逆らえることは出来ず、またため息をつく西野。
しかし、彼は誰かがこの階に来るための階段を上る足音を聞き、ドアの方を見た。
カランカラン
客が来たのかを知らせるベルが鳴り、ドアが開いた。
そして、一人の緑色の髪の少女が入ってきた。
「正志、紹介するよ。この子が今回預かってもらいたい、笹野希菜ちゃんだ。今は訳あってこちらで保護してるけど、今年から中学一年なんだ。よろしく頼むね。正志。」
「よ、よろしくお願いします。」
緑色の長い髪を垂れ流させながら、少女、希菜も続けてお辞儀した。
「は…はは。よ、よろしく……」
西野は顔を引きつらせながら、少し不気味に笑ってしまった。
しかし、西野は人付き合いなど得意ではない。
なので、少女に好きにしていいと言いつつ、部屋で寝ることにした。
今日の仕事に備えて。