九話 しおりと俺と
「……い……ーい……おーい」
「浩介ー、起きてーついたよー」
「爆睡やったなー浩介www」
三人の声で俺は目を覚ました。目をこすりながら周りをみると、行きに乗ってきた普通電車の中で
今は通過の急行を待っているようだった。駅名を確認すると俺としおりが降りる駅だった。
俺はさっきまでの景色が頭から離れない。
(今度この電車の終点まで行ってみるか…)
「ねえ、浩介聞いてる?というか起きてる?」
顔の真ん前にしおりが顔をずいっと寄せてきた。俺は一瞬焦った。しおりの顔がここまで近くなることなんてあまりないし、ましてやしおりの顔なら尚更だ…
「起きてるし、聞いてる」
「なら良かったー」
俺はぶっきらぼうに答えたが、しおりは御構いなしのようだ。これでこそしおりだと俺は思うが…
そんなことしているうちに急行列車が警笛を鳴らしながら、駅を勢いよく通過した。沈みかけた陽の光が点滅しながら車内を照らす。
ーまもなく、この電車は発車いたします。扉にご注意くださいー
唐突に流れたアナウンスを聞きながら、しおりと俺はホームに出る。雄亮と高橋さんは電車の中から手を振ってくれていたが、電車が発車する時にはまたなにか言い合っていた。
電車がホームを出ていった後、俺としおりは改札に向かった。
「そういえば、浩介どんな夢を見てたの?ボソボソなんか言ってたよ?」
しおりが唐突に聞いてきた。少し俺は焦ったが、いつものように
「特に何も見てねえよ」と言い放つ。
「ふーん…まぁいいっか。それより浩介ー家まで送ってー。お願い♡」
「は?なんで?」
「だって暗いし、一人じゃ怖いもん」
「へえ、しおりみたいな見た目からは想像できないゴリラおんn…っていたいっいたいっ」
「私全然力強くないもん。か弱い女の子を一人にする子じゃないよねー浩介くん♡」
(誰が、か弱い女の子だ…)
俺は、しおりに掴まれた手をさする。相変わらず女子とは思えない力だった。見た目と言動からすると想像もつかないほど強い。しおりの父親が空手を教えていたらしいが、こっちにはいい迷惑である。
「ねえ、送ってよー。浩介ー」
俺の痛さなど、知らずにまだ言ってくる。さすがに二発目は食らいたくないので
「わかった、わかった。その代わり、今日だけだからな」と俺は言い放つ。
しかし、こうは言うもの結局送ってしまう俺だった。俺の前を軽やかに歩くしおりの後ろ姿に俺は少しドキドキした。
(昔から見てるのにどうしたんだろ俺…)
俺は何気に上を見上げるとそこには満月が煌々と夜の街を照らしていた。
更新が遅くなってしまいました。何かと忙しく、インフルエンザと格闘中です泣
読者の皆様をお待たせしてすいません。また不定期更新になりそうですが、どうか宜しくお願いします