五話あの日のこと
俺たちの学校は駅から歩いて20分かかり、都会の喧騒から少し離れた片田舎のところにある。
学校の裏には山もあり、冬になるとごくたまに猿が出てくるらしい。
なぜ、こんなところをわざわざ選んだのか?
それは、しおりが静かなところの学校の方があいつ自身に合ってるらしく学校の評価も結構いい
この高校を選んだのだ。選ぶにあたって担任が一番苦労したらしい。当の本人は悪びれる様子もなかった。
「入学式の時も思ったけど、駅から結構歩くしバスも本数少ないし田舎すぎないか?」
30分満員電車に揺られてグロッキーな俺の前を意気揚々と歩くしおりに話しかける。
「えー、そんなことないよー。浩介がへちょいんだよー。」
ニマニマしながら、俺にカバンをもたせてるしおりはスキップしている。
「お前のカバンを持たされてるから一番しんどいんだよ。なんでこんなに重たいんだ?」
「それはねー、ヒ・ミ・ツ・♪」
「どうせお前のことだからくだらないものでも入ってるんだろ。」
「あー、言ったなー。女の子は持っていくものが多いんだよー。知らなかったのー?」
「知らねえよ、知ってたら引くだろ」
「あ、そっかー浩介彼女できたことなかったもんねー。そりゃ知らなくて当然だよねー。」
「そうそう、俺に彼女なんて…って知ってたのかよ」
「えー、知ってるよー?だって、他のクラスに広まってたもん」
最悪だった。しおりにだけは知られたくなかったその噂はすでに広まり、手遅れだった。
「そんなかわいそうな浩介くんにしおりお姉さんがチョコをあげよう」
そう言って、しおりが渡してきたのは10円で売ってる小さなチョコだった。
「これ賞味期限いつの?」
「三ヶ月前♪」
こいつが本当に女子かどうかを疑った。渡されたチョコをポケットに入れて。
そうこうしているうちに学校についていた。田舎の学校にしては大きな校門が
新入生を吸い込むように開いていた。
校門をくぐって靴箱の方に向かう。靴箱からはまだ少しだけ花を残した桜が見えていた。
新たに始まる学校の生活に胸を躍らせながら、クラス発表の掲示板を見にいく。
俺は、1組から順番に名前を探しているとしおりが能天気な声で俺に、
「浩介ー、よかったねー。私と同じ3組だよー。」
その声を聞いた途端、俺は気分が沈むのを感じた。
「どうしたのー?あからさまに嫌そうな顔してるけど」
「お前なぁ、俺の楽しみを取るんじゃねえよ」
「えー、私は親切で言ってあげたのにー」
子供みたいに頬を膨らませて怒っているしおりを置いて俺は自分のクラスに向かう。
俺のクラスは4階にあるため入学式の日に入った3階の変な扉を見に行ったが、そこには扉はおろか教室すらなかった。場所を間違えたと思い、3階をくまなく探したがやはりなかった。
俺はあの日の出来事が夢だったのか、現実だったのかわからないまま自分の教室に向かう。これから待つことなんて知らないまま…