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Walk Hand in Hand  作者: 阿瀬 ままれ
第九章 最後の戦い
59/66

七※

 船着き場に着船した大型の船から、ぞろぞろと騎士が降りて来ている。百人以上もの数だ。そして、住民達を見つけては、老若男女問わず手当たり次第に斬り倒している。悍ましい光景だった。住民達は悲鳴を上げながら家に逃げ込み、逃げ遅れた人達は斬られた傷口からどくどくと血を流しながら既に息絶えていた。

 ほとんどの住人達が逃げている中、一人だけ立ち向かい、大勢の騎士達に囲まれている者がいた。ローベルトが注目し、その腰に長太刀を下げていることから、その人物が自分の父であると判断した。


「父上!」


 ローベルトが叫び、父の加勢に向かおうと駆け出す。アイリスもついていこうとしたが、ローベルトは「来ちゃ駄目だ!」と叫んで制止し、一人で騎士達に突撃していった。

 ローベルトの存在に気付いた何人かの騎士が斬りかかりに来るも、ローベルトは瞬時に居合斬りで刀を振り切り、峰打ちで騎士達を気絶させる。乱れた騎士達の輪を強引に突破し、ローベルトは父のもとへ駆け寄った。

 近くで見ると、父は疲弊している様子だった。既に五十人以上もの騎士達が気絶して倒れていたが、次から次へと騎士達が押し寄せてきて、敵の数は増える一方だ。

 そして、騎士達の様子を窺うと、余裕綽々としていた。圧倒的な数の差で優越感に浸っているのもあるのだろうが、それ以上に、騎士達は父が峰打ちでしか攻撃して来ないことに気付いてしまっているようだった。父の攻撃を受けても死にやしないと分かれば、恐れるものはない。仮に気絶させられたとしてもすぐに起こしてしまえば、また戦力になり得る。このまま戦闘が続けば、父の体力が限界に達し、騎士達になぶり殺しにされてしまうのが目に見えた。

 ならば、自分が父を守らなければ――例え騎士達を殺傷することになろうとも構わない――そんな風に考えていたところ、ローベルトは突然、父に背中をむんずと掴まれて引き留められた。


「何故邪魔をするのです、父上!」


 ローベルトが殺意を剥き出しにして叫ぶと、父はローベルトの背中を離すことなく答えた。


「居合斬りを人殺しのために使ってはならん……! 今のお前の考えは、私の教えに反している……!」

「しかし……!」


 我慢ならずにローベルトが振り向き、そして父を見て息を呑んだ。父が背後から騎士の攻撃によって首を刺し貫かれている。騎士が勝ち誇った笑みを浮かべながら剣を引き抜くと、父は鮮血でローベルトの顔を汚しながら、ずるずるとローベルトにもたれかかった。


「父上……父上!」


 ローベルトが何度も肩を揺らして呼びかけるも、父からの返事はない――即死していた。その周囲でゲラゲラと嘲笑う騎士達に、ローベルトは堪忍袋の緒が切れた。


「貴様らぁっ!」


 ローベルトが父の死体を地面に置き、居合斬りで騎士達に斬りかかろうとするも、それよりも速く騎士達が地面にローベルトを押さえつけ、腕と足を剣で突き刺して身動きを取れなくした。

 痛がりもがくローベルトの目の前にしゃがみ込み、騎士の一人が問う。


「お前の親父、死んだなぁ。今どんな気持ちだ? どんな気分がするものなんだ? 俺らにはっきりと分かるよう教えてくれねえかなぁ?」


 再び騎士達の嘲笑が響く。ローベルトは言葉の代わりに騎士を睨みつけた――憎い、憎い、こいつらが憎くて仕方がない!

 ローベルトは怒りに身を任せ、地面ごと剣が突き刺さった左腕を強引に引きちぎった。そして、ぶらりと垂れ下がった左手で残りの剣を引き抜こうとするも、それを遮るように騎士達に左腕を踏まれてしまう。


「あそこにいるのはお前の女かぁ?」


 ローベルトの目の前でしゃがんでいる騎士が、親指でアイリスを指しながら、へらへら笑って言った。


「なかなかのべっぴんさんじゃねえか。殺しちまう前に俺らの手でたっぷりと可愛がってやろうかなぁ!」

「逃げろ、アイリス!」


 ローベルトが叫ぶ。しかし、アイリスは首を横に振り、その場から逃げようとしない。


「ローベルト……最期に夢を見させてくれてありがとう」


 そう言って、アイリスはポケットから小型のナイフを取り出した。大粒の涙を零しながらローベルトに微笑みかけ、アイリスはナイフを自身の首に突き立てた。


「頼む……逃げてくれ、アイリス……!」


 ローベルトも涙が止まらなくなる。力を振り絞って叫ぶも、アイリスは聞く耳を持たない。


「このままじゃローベルト、あなたが死んでしまう……。でも安心して、私も一緒に死ぬから……。どうか、天国でも一緒にいようね……」


 その言葉を最後に、ナイフが肉体を刺し貫く音が響き渡った。ローベルトの視線の先で、アイリスは首から大量の血を吹き出しながら、地面に倒れ、動かなくなった。

 ローベルトは泣き叫んだ。張り裂けるような胸の痛みに耐え切れず泣き叫んだ。

 悲嘆するローベルトを見下ろしながら、騎士達はなおもゲラゲラと馬鹿笑いを続ける。目の前でしゃがんでいた騎士はたまらないと言わんばかりの快楽に満ちた顔で、自身の剣を引き抜いた。


「残念だったなぁ! 安心しろ、俺らは優しいからよぉ。すぐにあの女のもとへ連れてってやるよ! とっとと逝っちまいなぁ!」


 そう叫び、騎士は両手で剣を持ち上げ、ローベルトの首に突き刺した。騎士が剣を引き抜くと、ローベルトの首から鮮血がどっと溢れ出し、ローベルトは力尽きた。




 ――俺は、死んだのか?


 そう自身に問いかけ、再び目を覚ますと、ローベルトは闇ばかりが広がる真っ暗な空間の中で、うつ伏せに倒れていた。何も見えない空間だったが、自身の体と、目の前で仁王立ちしているトガを着た中年の男性だけは、はっきりと視認できた。


「お前は一体……?」


 ローベルトが問うと、トガを着た男性は説明を始めた。


「我の名はユピテル。全能の神である。汝らが住まう世界である『下界』から人間を滅ぼすため、神々の世界である『天上界』からこの世界に降り立った」

「人間を……滅ぼすだって?」


 耳を疑うローベルトに対し、男――ユピテルは言葉を続ける。


「我は下界に降り立ってから、魂の姿になったまま、しばらく下界を観察していた。下界に降り立った神は、魂のみの存在となり、不愉快だが――神に近しい存在である人間の体にいずれ憑依することとなる。汝は我の魂を宿す器として選ばれたのだ」

「何を言っているんだ?」


 ローベルトには、ユピテルの言葉の意味がよく分からなかった。


「直に理解できるようになるだろう。その証拠に――立ち上がってみるがいい」


 ユピテルが促す。ローベルトが手足に力を込めると、剣を突き刺された痛みはなくなり、千切れた左腕も癒えてくっついていることに気付いた。貫かれたはずの首も元の状態に戻っている。ユピテルの言葉通り、ローベルトはいとも簡単に自力で立ち上がることができた。


「汝は本来死にかけていた存在――だが、我の魂を宿したことによって、人間共に受けた傷が全て癒えたはずだ」


 ローベルトは無言のまま両手を握り直してみたが、ユピテルの言う通り、確かに体の異常は特にないようだった。

 ローベルトが視線をユピテルの方に戻したところで、ユピテルは言葉を続ける。


「汝には人間の滅亡に協力してもらう。すぐに承諾できずとも、いずれ思い知らされるときが来るだろう。人間共が生存する限り、下界が破滅の危機に瀕することになると。

 まずは、汝を瀕死に追いやった人間共をその手で葬り去ってやるのだ。さあ――目を覚ますがよい」


 その言葉を最後に、ローベルトの視界が真っ白な光に包まれ、ユピテルの姿も何も見えなくなってしまった。


 次に目を開けたときには、ローベルトは自分が港町レクライナで突っ立っていることに気付いた。空を見上げると雷雲が立ち込め、足元を見ると地面が深く抉れ、自分の手足を突き刺していた騎士の剣は遠くに吹き飛ばされていた。そして自身の体に注目すると、体が電気を帯びていることに気付き、目を見張った。


「何だ、この電気は……?」


 ローベルトが疑問に思っていたところ、突如として頭上に落雷が発生し、ローベルトは雷を一身に受けた。ローベルトは心臓が飛び出たのではないかと思うほど仰天したが、雷を受けて死ぬことはなかった。むしろ力がさらにみなぎっていくようだ――。左右の腕を見てみると、自身でもはっきりと見えるほどの獰猛な雷が宿っていた。

 ローベルトは自身の変わり果てた姿を見て、自分は決して夢を見ていたわけではないことを悟った。あのユピテルという神の魂が自身の体に宿り、力を自分に分け与えてくれているのだと理解した。そして、人間を滅亡させるために協力を仰いでいることも――。ローベルトは、先程ユピテルが言っていた言葉を反芻した。


 ――まずは、汝を瀕死に追いやった人間共をその手で葬り去ってやるのだ。


 ローベルトが辺りを見渡すと、騎士達は自害したアイリスの遺体に群がっていた。遺体をなぶるつもりで手を出しているのか、それとも彼女がエルフであることに気付いて売り物にしようとしているのか――いずれにせよ、自分のやることはただ一つだ。


「その汚らわしい手で触るな……!」


 ローベルトは稲妻の速さで騎士達との距離を詰め、居合斬りで騎士達の首を次々に跳ね飛ばした。何事だと騎士がようやく慌てふためいたところで、ローベルトはアイリスの手を掴んでいる騎士に駆け寄り、腕をむんずと掴んで肩から引き千切った。騎士が悶絶しているところにすかさず居合斬りを浴びせ、騎士は腹部から腸をぼとぼとと落として呻き声を上げた。

 騎士達が悲鳴を上げて逃げ始める。しかしローベルトは容赦しない。獰猛な雷を宿した右手を頭上に掲げ、暗雲から雷を呼び出した。雷は蠅のように逃げ回る騎士達を一人残さず打ち落とし、感電してショック死させた。

 ローベルトが最後の一人になった、アイリスに手を出そうとしていた騎士に目を向ける。その騎士は、父やアイリスを死に追いやりローベルトを煽って来た人物そのものだった。先程の憎悪が蘇り、ローベルトはつかつかと騎士のもとへ歩み寄る。


「お願いだ、殺さないで……」


 騎士の心身はとうに弱り切っていた。腕は千切れ、腹も抉れ、放っておいてもそのうち死んでしまうような状態だった。それでもローベルトは容赦しない。自身の刀を引き抜き、騎士の首に目掛けてゆっくりと持ち上げる。


「死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない……」


 騎士がいくら命乞いをしようと、ローベルトのやることは決まっていた。容赦なく刀を振り下ろし、ローベルトは騎士の首を思い切り突き刺した。蚊の鳴くような声を上げ、騎士はみっともない涙を流しながら息絶えた。

 騎士の血飛沫で汚れた顔を拭い、ローベルトはアイリスに目を向ける。そして、両腕の獰猛な雷を打ち消し、アイリスの頬に触れた。


「守ってやれなくてすまない、アイリス――」


 そう呟くと、ローベルトは騎士の手によって着崩れたアイリスの衣服を着直してあげた。最後に耳を折りたたんで耳当てを被せると、ローベルトはアイリスの遺体を抱え、倒れたままである父の遺体の横に並べた。自身が落雷を受けた辺りに深く地面が抉れた跡があったので、そこに二人を埋葬しようとローベルトは決めた。

 父の長太刀だけ譲り受け、二人を地面に埋め終わり、一人取り残されたローベルトは、雷雲垂れ込める空を見上げながら亡き父に向かって言った。


「父上。あなたは私に『人を斬るために居合斬りを使ってはならない』と言いました。その結果、私はあなたを、そして最愛の彼女の命を失いました。これでも同じことが言えるというのですか? 人を斬るのは間違っているというのですか? 父上が人を斬る覚悟を持ちさえすれば、このような結末にならなかったというのに……」


 ローベルトは地面に転がっていた騎士の剣に目を向けた。手に取って柄の辺りを見てみると、『バルドロス帝国』という刻印が刻まれていた。他に転がっている騎士の剣を拾い、同じように調べてみると、どれも『バルドロス帝国』という刻印が刻まれていることを知った。


 ――いずれ思い知らされるときが来るだろう。人間共が生存する限り、下界が破滅の危機に瀕することになると。


 ローベルトの脳裏に、先程のユピテルの言葉が蘇る。今はその言葉の意味を完全には理解できないが、いつかはユピテルの言った通り、分かる日が訪れるのかもしれないと感じた。現に、あの騎士共を逸早く皆殺しにしていなければ、唯一のエルフの生き残りだったアイリスが死なずに済んでいたはずなのだから。

 ローベルトは再び自身の体に雷を落とし、獰猛な雷を両腕に宿した。戦闘態勢に入ると、ローベルトは空を飛びたいと願い、背中から天使の翼を生やして空を飛んだ。

 レクライナへの襲撃がバルドロス帝国の騎士達によるものであれば、これからやる行動は決まっている。ユピテルの言葉が完全に理解できずとも、悪は万死に値するという根本的な考えは同意見だ。バルドロス帝国が建っているであろうイーストの大陸を遠目に見ながら、ローベルトは殺意を込めて呟いた。


「バルドロス帝国国王、まずはお前から殺してやる――」




 * * *




 そして十五年の時を経て、ローベルトは人間が生存していればいずれ世界が破滅するというユピテルの言葉を、身をもって理解した。空から降り続ける巨大な隕石は、自分が良識ある人間の生存を許容しようとしたが故に出現してしまったのだと、ローベルトは自戒した。

 人間を存続させるつもりならば、誰であろうと容赦しないと誓った。例えラース、君であろうと……。そう決意を固めながら、ローベルトは僅かな力を振り絞り、右手に強力な雷を宿した。そして、丸腰のまま立ち向かうラースの腹に目掛けて、電磁砲を解き放った。満身創痍であるからかすぐに電磁砲は途切れてしまったが、その威力は十分で、電磁砲はラースの腹を抉り貫通した。

 今度こそ倒したとローベルトは確信する。しかし、予想外の光景にローベルトは目を丸くした。腹に大きな風穴を開けていながら、バケツで流したかのように大量の血を零していながら、ラースはなおも倒れない。ローベルトに闘志の眼差しを向けたまま、ラースは徐々に、しかしながら確実に、一歩ずつ歩を進めていく。


「く、来るな!」


 ローベルトは居合斬りでラースを斬り倒そうとした……が、ついに体力が限界に達し、ローベルトは地面に膝をついて倒れてしまう。

 なかなか立ち上がれずにいるローベルトに向かって、ラースは大粒の涙を零しながら、力の限り叫ぶ。


「ローベルト……! 俺は、あんたの心も救いたいんだ……!」


 ローベルトは、揺るがぬ意志を持って歩み寄ってくるラースに、不思議な感覚を覚えた。

 ――嫌悪感でも恐怖心でもない、この温かい気持ちは一体何だ? 仮に自分の過去を知ったとして、ラースはその上で自分を救おうとしてくれているのだろうか?


「頼む……倒れてくれ、ラース……!」


 ローベルトはうつ伏せに倒れたまま、目からぽろぽろと涙を零して叫んだ。

 ――人間を滅亡させる決断をして、自分は善人だったルーク殿を殺した。そして今、君をも殺めようとしている。もう後戻りできないところまで来てしまったのだ。そんな自分を今更救う価値など無いだろう……?

 しかし、ラースの意志は変わらない。向けられる闘志の眼差しには、確かに温かな感情が込められていた。独りぼっちで考えるのはよしてくれ。悲しみに暮れないでくれ。俺達はあんたと話がしたいだけなんだ――。


「ラース……」


 ローベルトが呟く。気付けば、ローベルトはとうに戦意を失ってしまっていた。父とアイリスを失った悲しみと、自ら道を踏み外してきた罪悪感とで、ローベルトは地面に顔をうずめながらむせび泣いた。

 ラースがローベルトのもとに辿り着く。遅れて、セラ達がラースとローベルトのもとへ駆け寄って来る。かくして、ラースとローベルトの因縁は決着を迎えたのだった。

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