五
クレスが落雷を吸収しているのを見て、ラースはキルバードが前に話していたことを思い出した。キルバード達がローベルトと戦っていたとき、父――ルークは剣技『天津之太刀』の奥義でユピテルの力を剣に吸収していたと。その奥義をクレスが今まさに発動しているのだ。
ラース達の近くまで来たところで、クレス達はトトの背中から飛び降り、地面に着地した。クレスが稲妻の剣を掲げて落雷を吸収し続けながら、ラース達の前に立ちはだかる。
「何で、お前達までここに来たんだ……! 俺達でないと太刀打ちできる相手じゃないんだぞ……!」
駆け寄ってくるあかね達に対し、ラースは突っぱねるように怒声を飛ばした。あかねがラースの頭をごつんと殴りながら怒鳴り返した。
「そんなボロボロの状態で言われても説得力がないんだよ! 大人しく休んでろ!」
りんが両膝をついてラースの両肩を掴み、無理矢理地面に寝かせる。クレスが落雷を吸収してくれている間に、セラが両手に温かい光を灯し、すぐさまラースの胸に当てた。みるみるうちに傷口が塞がり、ラースは自力で動けるようになるまで回復した。
ラースが上半身を起こしてクレスに注目すると、ローベルトとの死闘を繰り広げている真っ只中だった。落雷による攻撃は効果がないと悟ったのか、ローベルトが瞬時にクレスとの距離を詰め、迅雷の速さで斬りかかってくるも、クレスは全く怖気づくことなく、手にしている稲妻の剣で攻撃を捌いていった。
「今はクレスさんが時間を稼いでくれています。その間に、ローベルトさんを倒す策を考えましょう!」
レミーが片膝をついて呼びかけるも、ラースは悲観的になって首を横に振った。
「無謀過ぎる。ローベルトが力任せでどうにかなるような相手じゃないってのは十分分かるだろ?」
「それでも力になりたいのさ、ラース君」
キルバードがしゃがみ込みながら言う。
「今ここにいる奴等は皆、例え死んでも本望と思って戦おうとしているんだ。いつも体を張って戦ってくれているどっかの誰かさんみたいにね。だからどうか、無理を承知で一緒に戦わせてほしい。駄目か?」
ラースが見回すと、皆して決意に満ちた表情をしていることに気付いた。トトも「自分も戦う」と言わんばかりに、羽ばたきながら甲高い声で鳴いた。そんな皆の気持ちを無下にするのは失礼だとラースは感じた。
「俺も力にならせてくれ、ラース」
途端、聞き覚えのある声がラースの脳に直接響いた。
「リックか?」
ラースは、リックがテレパシーで自分に話しかけているのだと気付いた。
「あぁ。戦闘の力になれるわけじゃないが、今戦っているお前の仲間にテレパシーで何か伝えることくらいはできる。お前達が作戦を立て次第、その内容を俺がお前の仲間に伝えてやる」
それはありがたいと思い、ラースはリックに礼を言った。死に物狂いで戦っているクレスに水を差すような真似はできないが、テレパシーであれば邪魔をすることなくクレスに作戦を伝えられるはずだ。
「皆、聞いてくれ」
仲間達を集めて小声でラースは話を始めた。
「ローベルトは今、雷の力を蓄電して電磁砲を放とうとしている。その電磁砲を空中に向かって放たせて、反動で少しでも動けなくなった隙に渾身の一撃を見舞わせる。皆、俺の指示に従ってくれ。リックは今から言う作戦を、兄貴――今戦っている俺の仲間に伝えてほしい」
一同はこくりとうなずき、リックはテレパシーで「分かった」と一言だけ返した。
ラースが一通り作戦を伝え終えると、リックがテレパシーで伝えてくれたのか、傷だらけになりながらも、一瞬だけクレスがラースに視線を向けてうなずくのが見えた。
「行くぞ、皆。兄貴の一振りが作戦開始の合図だ」
そうラースが呼びかけるのと同時に、クレスが足元を稲妻の剣で振り払った。地面が抉れて砂埃が吹き荒れ、ローベルトはクレス達を見失ってしまう。
一瞬、殺気を感じ、ローベルトは後退してラース達の攻撃に備えた。すると、ローベルトの予感した通り、砂埃の中から光の矢が飛んでくるのが見えた。
「その程度の攻撃が通用すると思ったか? 見くびられたものだ」
そう呟き、ローベルトはドーム状のバリアーを展開し、セラが放った光の矢を防ごうとした。
「引っかかったわね!」
光の矢が喋った。ローベルトがはっと息を呑むのと同時に、光の矢が煙に包まれ、煙の中からりんが姿を現した。
りんがドーム状のバリアーに片足を着ける。そしてすぐさま印を結び、無数の分身を次から次へと出現させた。りんの分身達は一斉に、ローベルトが展開したドーム状のバリアーに群がり、一筋の光すら差し込まなくなるまで囲い込んだ。
「失せろ!」
ローベルトが居合斬りでりんの分身を瞬く間に一人残らず叩き斬った。次々にりんの分身が煙を上げて破裂し、本体も胸を斬られて血飛沫を上げながら吹き飛ばされた。
ローベルトがラース達のいた方に再度注目する。砂埃はとうに晴れ、ラース達を目視できるようになっていた――が、それを見たローベルトは息を呑み、そして舌打ちを零した。ラースとセラ、そして稲妻の剣を手にしたクレスから、神の力がまるで感じられないのだ。
「本物はどこだ?」
ローベルトが辺りを見渡す。それと同時に、ラース達が一斉に煙に包まれ、煙の中からあかねが姿を現した。
ローベルトが目にしたものは、あかねが分身を作ってそれらをラース達に変化させたものだった。一瞬で見破られてしまったものの、ラース達を見失わせただけでも十分過ぎる活躍で、あかねとりんは勝ち誇った顔を浮かべた。
目視では見つけられないと判断したのか、ローベルトは目を閉じて魔力の探知を始めた。そして息を呑み、すぐさま上空を見上げた。ローベルトの頭上では、巨鳥トトがラース、セラ、クレス、レミー、キルバードを乗せて猛スピードで降下していた。
「行くぞ、兄貴! キルバード!」
ラースの合図を皮切りに、ラース、クレス、キルバードがトトの背中から飛び降りた。三人を降ろすなり、トトはセラとレミーを乗せたまま上昇し、旋回してローベルトから距離を取った。
「ルーク殿と同じ剣技を扱う者か……厄介だな」
稲妻の剣を手にしたクレスを見上げながら、ローベルトは眉間にしわを寄せて呟いた。落雷を発生させて迎撃しても、クレスにまた雷を吸収されるのが目に見えていたからだ。
ならばと、ローベルトは呪文を唱え、自身の周囲に大規模な竜巻を発生させた。まだ電磁砲を放ちたくないが故、電磁砲以外での迎撃手段がないか考えた上での判断だった。だが、これもラースにとっては想定内のことだった。
ラースはあらかじめ、ローベルトが電磁砲以外での迎撃をしてきたときには、セラがディアナの力で守ってくれと指示を出していた。その指示の通り、セラは巨大な光の矢を出現させて放った。巨大な光の矢はローベルトが発生させた竜巻を貫通し、消滅させた。
「小癪な……いいだろう!」
ローベルトはついに痺れを切らし、獰猛な雷を宿した右手をラース達に突き出した。
「まずはラース、キルバード殿、そしてルーク殿と同じ剣技を扱う者よ、君達から消し去ってやろう! 落雷を吸収できても、この電磁砲は吸収できまい!」
耳がつんざくような砲撃音と共に、巨大な電磁砲が解き放たれた。上空から降るラース達に、猛スピードで電磁砲が迫ってくる。
「レミー、今だ!」
ラースが叫んだ。次の瞬間、ラース達が上空で突然姿を消し、巨大な電磁砲は空を切った。
これこそが、ローベルトに渾身の一撃をお見舞いするラースの作戦だった。ラース達は、レミーの魔法によりローベルトのすぐ近くまでテレポートで移動していた。ローベルトが電磁砲を放った今がチャンスだとばかりに、ラース、クレス、キルバードの三人は猛攻を仕掛けようとする。
「電磁砲を無力化し、私を叩く隙を作ったか。見事だと言おう」
ラース達に目を向けることのないまま、ローベルトが口を開く。
「だが、あと一歩……及ばなかったようだな!」
ローベルトが獰猛な雷を宿した左手をラース達に向けた。そして、先程と同規模の巨大な電磁砲がローベルトの左手から解き放たれた。ローベルトが電磁砲を二発放ってくるのは、ラースにとって想定外の出来事だった。
「避けろ、二人共!」
そう真っ先にラースが叫んだが、クレスとキルバードは臆することなく前進を続けた。ラースの作戦でここまでローベルトの隙を作ることができたなら、次にローベルトに渾身の一撃を見舞う機会は二度と巡って来ないと考えたからだった。何より――。
「ここで退いたら――ルーク達に――顔向けができないだろう?」
キルバードが叫ぶ。クレスも同調するようにうなずいた。そして、クレスは稲妻の剣を、キルバードは黒と銀で彩られた薙刀を力一杯振り上げ、ローベルトの電磁砲と衝突させた。
「弾けろおおおおっ!」
クレスとキルバードが雄叫びを上げる。渾身の力で振り上げようとする。例え相打ちになって死しても構わないという覚悟で、クレスとキルバードは神の力に抗った。
ローベルトの電磁砲を断ち切るまでには至らない。クレスとキルバードの振り上げた両腕は千切れて電磁砲に巻き込まれ、消し飛んでしまう。しかし、僅かながら、電磁砲の軌道を上空へ逸らすことに成功した。
「やれ……ラース!」
クレスが叫ぶ。ラースもそのつもりで、既に竜の姿になり、翼を生やしてローベルトに向かって飛び掛かっていた。そして、右拳に目一杯力を込め、電磁砲を二発連続で放った反動で動けなくなっているローベルトの顔面に、今度こそ渾身の一撃をお見舞いした。
めり込むほどに拳を押し込み、地面に叩き付けると、地面一帯が轟音を立ててひび割れ、クレーターのような窪みが出来上がった。その中心で、ローベルトは地面に埋まったまま大の字に倒れていた。ユピテルの力による雷がローベルトの体からふっと消えるのを確認すると、ラースも竜の姿から元の姿に戻り、片膝をついて肩で息をした。
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