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Walk Hand in Hand  作者: 阿瀬 ままれ
第九章 最後の戦い
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 キルバードは「貴賓室にいる国王達の護衛をしてくる」と告げ、大広間の前でラース達と別れた。

 クレス隊とカルロス隊の引率の下、一同が大広間から騎士団の寝室へ向かう途中、ラースは列の中にセラがいつの間にかいないことに気付いた。寝室の手前まで来たところで、ラースは皆に「セラを捜してくる」と告げ、廊下を引き返した。

 しばらく廊下を進んでいると、セラはルーフバルコニーにいることに気付いた。空は巨大な隕石のせいで相変わらず怒り狂ったかのように赤く染まっていたが、ルーフバルコニーは日陰が多く、比較的涼みやすそうな場所になっていた。

 ラースはセラの横に立ち、「よっ」と呼びかけながらセラの肩をポンと叩いた。セラは誰かがやって来るとは思っていなかったようで、ラースに呼ばれてきょとんとしていた。


「もしかして、一人でいたかったか? 邪魔なら席外すぜ?」


 ラースが気を遣ってそう言うも、セラはそんなことないと言わんばかりに首を横に振った。ならば遠慮はいらないと思い、セラと同じようにルーフバルコニーから外を眺めた。城下町の方は隕石が降って来ているせいで店が全て閉まっているのか、ネオンの光が一切灯っておらず、水を打ったかのように静まり返っていた。


「もし、私達がローベルトさんを倒して、隕石を破壊することができたなら、あの城下町も活気を取り戻してくれるでしょうか?」


 セラも同じ方を見ていたようで、視線を逸らすことなくラースに尋ねた。「そうかもな」と、ラースは隕石が降る赤い空を見上げながら答えた。

 セラとの会話が途絶える。ラースがちらとセラの顔を覗き見ると、その表情が曇っていることに気付いた。無理もないなとラースは思った。もしローベルトとの戦いに敗れてしまったら、自分達が真っ先に殺されることになるのだ。自分はともかく、今までろくに戦闘をしたことのないセラにとってはこれ以上ない恐怖を覚えていることだろう――。どうにかして励ましてやれないかなと思い、ラースは視線を落としながら黙考する。


「そう言えば……」


 ふとあることに気付き、ラースはセラに言った。


「セラが手料理を振舞うって言い出したのも、思い出作りをしたかったんじゃないのか? 明日死ぬかもしれないからって」


 さすがに思慮に欠けた発言だったなと、ラースは口に出したことを少し後悔した。どうやら図星だったようで、セラは目を逸らしながら「いけませんか」と言い返した。


「悪いとは言わねえよ。ただ俺のことを信頼してくれていないのがちょっとな」

「どういうことでしょう?」


 振り向いて尋ねるセラに対し、ラースは決然たる顔で言ってのけた。


「お前は絶対に死なせないってことだよ。ネムヘブルの村長達にもそう頼まれているからな。俺が必ず守ってみせる」


 ラースの男前な発言を聞き、セラは思わず頬を赤らめてしまう。


「あっ……今のは別に下心があって言ったわけじゃないからな?」


 慌てて弁明するラースに対し、セラは意地悪な笑みを浮かべて言った。


「分かってます。だってラースさん、りんさんのことが好きですもんね」

「うっ」


 今度はラースが頬を赤らめる番だった。予想通りの反応をするラースを見て、セラはクスクスと笑った。


「でも……」


 ラースから目を逸らし、真っ赤な空を眺めながらセラは言った。


「時々考えることがありました。私とラースさんってどんな関係なんだろうって。仲間なのは間違いないんですけど、クレスさん達と違って特別な感情を抱くことが何度かあったから」


 分からなくない気がして、ラースは思わず黙り込んだ。そして、この前りんに言われた言葉を思い出した。


 ――ラースとセラちゃんって、付き合っているの?


 恋愛感情はないが、確かに自分もセラを特別大事に思うことが少なからずあった。セラに抱くこの感情は一体何だろうと悩み込むラースを見て、セラはクスリと笑って言った。


「私達って、何だか兄妹みたいだと思いませんか?」


 的確な例えに納得し、ラースは思わず大笑いした。


「そうだな。確かに妹みたいな存在だよ、お前は」


 ラースにつられてセラもクスクスと笑った。


「邪魔をするぞ」


 不意に、背後から第三者の声が聞こえた。ラースとセラが振り向くと、そこにはエドウィン国王の姿があった。


「ラース、少しの間彼女と話がしたい。構わないか?」


 エドウィン国王がそう尋ねるのに対し、ラースはうなずいて問い返した。


「別に構わないが……席を外した方が良いか?」


 それを聞いたエドウィン国王は首を横に振った。


「いや、いてくれた方が彼女にとってもありがたいだろう。バルドロス帝国に不信感を抱くのは当然のことだからな」


 そう言って、エドウィン国王はセラに視線を向けた。気付けば、セラはいつの間にかラースの背後に隠れていた。


「……用件は何でしょう?」


 恐るおそる姿を見せながら尋ねるセラに対し、エドウィン国王は単刀直入に答えた。


「セシリア・リゼル・アルテリア殿。アルテリア帝国の王室に戻る気はないか?」


 エドウィン国王の言葉にセラは息を呑み、一方のラースは納得した。


「そうか。バルドロス帝国がアルテリア帝国への服従を誓った以上、もうセラが雲隠れする必要はないもんな」

「それもあるが、これは個人的な願望でもある」


 そう言って、エドウィン国王は昔話を始めた。


「十五年前の戦争が始まる前のことだ。国交でアルテリア帝国とバルドロス帝国とのパーティーが開かれたときに、まだ幼児だった俺とセシリア殿も参加した。大人達が腹の探り合いをしている中、セシリア殿は独りぼっちでいた俺に気さくに声をかけてくれた。そして、セシリア殿の純粋な心に俺は惹かれたんだ。この懐中時計も、その時にセシリア殿から友情の証として頂いたものだ」


 エドウィン国王は、首にかけている懐中時計をセラに見せた。セラは全く身に覚えがなく、当惑した。


「覚えておられないのも当然だ。セシリア殿の当時の記憶は、アルテリア帝国の者達が忘却の魔法で消してしまったのだから。だが確かに、この懐中時計はセシリア殿から頂いた物なんだ」


 エドウィン国王が懐中時計を裏返すと、事実を裏付けるように『アルテリア帝国』という刻印が刻まれていた。


「セシリア殿――」


 深々と頭を下げ、エドウィン国王は願い出た。


「どうか、アルテリア帝国に戻っていただきたい。今なら、あの時二人で交わした世界平和の約束を果たすことができる。長年実現できなかった平和な世の中を、俺はあなたと共に築き上げていきたい」


 エドウィン国王の真剣そのものの態度に、ラースとセラは圧倒された。そして、言葉通りの意味だけではないということを察した。

 エドウィン国王は、幼少の頃からずっと、セラのことを一途に想い続けていたのだ。そして、アルテリア帝国とバルドロス帝国の不仲が解消された今、エドウィン国王は一世一代の告白をしているのだ。エドウィン国王の言葉の重みを理解した上で、セラはしばらく悩んだ末、口を開いた。


「確かに私は、アルテリア帝国の人間です。でも私は、ネムヘブルで育ったセラ・マリノアでもあるんです。セラ・マリノアとして皆と過ごしてきた日々を、私は蔑ろにしたくない。だから……ごめんなさい」


 申し訳なさそうに頭を下げるセラを見て、エドウィン国王は酷くショックを受けた様子だった。だが、すぐに目を瞑って平静を取り戻し、エドウィン国王は返事を返した。


「承知した。それがあなたのお望みであるならば、やむを得ない」


 途端、廊下の方から何者かの足音が近づいてくるのが聞こえた。ラース達が足音のした方を振り向くと、ニーナが廊下の曲がり角から顔を覗かせているのが見えた。


「セラお姉ちゃん、ちょっといい?」


 ニーナの問いに対しセラがこくりとうなずくと、セラはニーナに手招きをして呼ばれ、曲がり角の奥へと走っていってしまった。


「……ものの見事に振られてしまった」


 意気消沈しながら呟くエドウィン国王の肩に手を置き、ラースはエドウィン国王を慰めた。


「俺だけ恥をかくのは許せん。お前も想い人に告白して、恥かいてこい」


 顔だけを向けて無茶ぶりを言うエドウィン国王に、ラースは苦笑いして言葉を返した。


「何だよその理屈。いつ何をしようが俺の勝手だろ?」

「鈍い奴だな、お前は」


 エドウィン国王はため息をつき、ルーフバルコニーから外を指差した。ラースが見下ろしてみると、いつの間にか、クレスと新人のメイドが二人きりで話をしているのが見えた。


「明日に死ぬかもしれない中、ああやってプロポーズをする連中が後を絶たないんだ。お前がそうやってもたもたしている間に、お前の想い人が他の奴に取られてしまうかもしれないんだぞ?」


 エドウィン国王の言葉を聞き、ラースは目を丸くした。

 外を眺め続けていると、新人のメイドが頬を真っ赤にしながら頭を下げるのが見えた。恐らくはエドウィン国王の言う通り、クレスにプロポーズをしているのだろう。それを受け入れたのか、クレスが首を縦に振ると、新人のメイドは晴れやかな笑みを浮かべ、感涙しながら、クレスに思い切り抱きついた。


「じゃあ、そういうことだ。健闘を祈っている」


 呆然とクレス達を眺めていたところ、ラースはエドウィン国王に肩をポンと叩かれて言われた。ラースが我に返って振り向いたときには、エドウィン国王は既にルーフバルコニーを後にしていた。


「せ、セラちゃん!」


 突然、廊下の曲がり角の奥から大声が聞こえた。ラースが廊下の曲がり角にこっそりと近付き、顔だけ覗き込んでみると、トーマスがニンジャ達、カルロス隊、ビックスとウェッジ、レミー、マルク、ニーナ、カルロスの兄、ラムおばさんに背中を押されながら、今まさにセラに告白をしようとしている真っ最中だった。


「ちょっと待って、心の準備が……」


 大袈裟に深呼吸をするトーマスを見て、セラはクスリと笑った。


「いつまでも待ちますよ」


 セラも告白されようとしているのを察したのか、柔和な笑みを浮かべながら言った。セラの優しい言葉を聞いてようやく決心がついたのか、トーマスは(まなじり)を決して口を開いた。


「セラちゃん、好きだ。子供の頃からずっと好きだった。今まで遠目にしか見てこなかったけど、これからはもっと近い距離でセラちゃんと触れ合っていきたい。だから……俺と結婚を前提に付き合ってください!」


 セラは喜色満面になりながらうなずいた。


「喜んで!」


 トーマスはバッタのように跳び上がって歓喜し、周囲からは歓声と祝福の拍手が送られた。


「羨ましい限りです、これでカップル成立三組目ですね!」


 かすみが頬に両手を当てながら黄色い声を上げる。その横で、あかねとあきらが意地悪な笑みを浮かべながら言った。


「セラとトーマス、りゅうとれな、カルロスとアンの三組だっけ?」


 気付けば、れなはりゅうの腕に、アンはカルロスの腕にぴったりくっついており、りゅうとカルロスは決まりが悪そうにそっぽを向いて後頭部を掻いていた。


「クレス殿も今頃、新人のメイドさんと恋仲になっておられることでしょう。後は、今この場にいる中だとアールだけになるのですが……」


 ウェッジがそう言い、ビックス、ユン、あかね、あきらと一緒に意地悪な笑みを浮かべてアールに目を向ける。あのアールが告白するのかと仰天しながら、ラースは奥の方に立っているアールに注目した。


「あっしからは何もありやせんぜ」


 一同の注目が集まるも、アールの意志は固かった。厳格な態度をそのままに、アールは口を開いた。


「セラ・マリノア、あんたはあっしとクリードに拉致されたときのことを覚えているでしょう。あっしはあんたに魔法をかけ、人々を殺戮(さつりく)する幻覚を見せた。神の力を手にしてしまった恐怖に付け込んで、兵器としてしか生きられないのだと錯覚させた。それだけ惨いことをあっしはしてきたんだ」


 悪夢のような幻覚を思い出し、セラは唾を飲み込んだ。自嘲するかのように鼻で笑いながら、アールは言葉を続ける。


「それを差し引いても、あっしは人を殺し、バルドロス帝国の世界征服に加担し、そして世界を滅亡させる呪文を唱えた大罪人だ。そんなあっしが恋? 告白? 笑わせる――。仮に相手が受け入れたとしても、あっしを待ち受けているのは極刑だ。相手を悲しませるだけでしかねえ」


 正論を述べられ、一同は思わず黙り込んでしまう。廊下の曲がり角から覗き込んでいたラースも、「その通りだ」と呟き、壁に背中をくっつけてずるずると腰を落とした。


「俺も、多くの命を奪った殺人鬼だ。アールと同じように、いずれ極刑が待ち受けている。そんな俺が恋だなんて――」


 ラースも自虐的な言葉を並べていたところ、突然曲がり角の奥からバチンと強烈な音が響いた。鞭で引っ叩いたかのような、何とも痛々しい音だった。

 ラースが驚いてまた曲がり角の奥を覗き込むと、遠くからでもくっきりと見えるほど、アールの頬に真っ赤な平手打ちの跡ができていた。アールの前にはレミーが目に涙を浮かべながら立っており、レミーが平手打ちを放ったのだとラースは理解した。


「セラさんを傷付けたとか、人を殺したとか、世界を滅亡させたとか……そんなの関係ない!」


 両手でアールの胸倉を掴み、レミーは声を上げた。


「重要なのは、あなたが私をどう思っているかでしょう? 好きなのかどうかでしょう? 正論をかざして自分の気持ちに蓋をするのは止めて! そんなこと、私は望んでなんかいない!」


 ひとしきり叫ぶと、レミーは顔中を涙だらけにしながら、「ごめんなさい」と言ってアールの胸倉を手放した。

 再び一同の注目が集まる。アールは決まりが悪そうに後頭部を掻きながら、「敵わねえな……」と呟き、レミーに言った。


「あんたはこんなあっしを最後まで見放さずにいてくれた。愛していまっせ、レミー。どうか、ほんの短い間だけでも、あんたと恋人の関係でいさせてほしい」


 アールがレミーに手を差し伸べる。レミーは今度は感極まって涙をぽろぽろと零しながら、うんうんと首を縦に振った。レミーが差し伸べられた手をぎゅっと握ると、二人は一同から背中を叩かれて祝福された。


「俺も行かなきゃ」


 ラースは自らを奮い立たせるように言い聞かせながら、立ち上がった。


「こんなところで腑抜けている場合じゃない。りんもきっと、そんな結末は望んでなんかいない――」


 廊下の曲がり角から姿を見せると、マルクとニーナが真っ先にラースの存在に気付いた。


「あっ、ラース! ラースも好きな人いるんでしょ? 一人だけ告白しないなんて許されないよ!」

「ラースお兄ちゃん、こっちこっち!」


 マルクとニーナに駆け寄られ、引っ張られるがまま、ラースは皆のいる所へと進んでいった。

 すると、ラースの気持ちに気付いていたのか、りんが一同の先頭に立って待ち構えていた。あれだけ一目惚れしているとからかわれたのだから、気付かれない方がおかしいかと、ラースは自虐的に鼻で笑う。


「ラース、私とあなたの気持ちはきっと同じ。でも、できればあなたの方から言ってほしい」


 頬をピンクに染めながら言うりんに対し、ラースはもちろんと言わんばかりにうなずいた。


「俺も、レミーの言葉で気付かされた。大罪人だからって告白を避けるのは、独りよがりな考え方でしかないって。だから俺の気持ち、ちゃんと言葉にして伝えるよ。このまま何もしないで後悔するのは嫌だから……」


 りんは無言のまま、ラースの一言一句に耳を傾き続けた。――あぁ、想いを伝えるのってこんなに勇気がいることだったんだな。脈打つ心臓を深呼吸して落ち着かせながら、ラースはりんに言った。


「りん、俺はお前のことが――」




 * * *




 寝室の窓の外から聞こえる小鳥のさえずりで、ラースは目を覚ました。左腕に着けている腕時計に目を向けると、その短針は朝の五時を指していた。


「おはようございます、ラースさん」


 声が聞こえたので、ラースがベッドから上半身を起こして顔を向けると、セラが洗面台からこちらへやって来るのが見えた。


「おはよう、セラ」


 ラースは大きなあくびをしながら挨拶を返した。そして、昨夜に自分が告白してからどうなったっけと、ラースは当時を振り返った。そして、悪い結末を思い出し、ラースは眉間にしわを寄せた。


「昨日は災難でしたね」


 セラも同じことを思い出していたのだろう、そうラースに言葉をかけると、ラースは「全くだよ」と言ってため息をついた。

 結論から言うと、ラースの告白は上手くいかなかった。「好きだ」とりんに告げようとしたのとほぼ同時に、ニンジャのなぎさが寝室のドアを開けて「いい加減うるさいぞ、お前ら!」と怒鳴り声を上げたのだ。


「明日はラースもセラも早いんだぞ? 二人が寝る邪魔をしてどうする! お前ら、とっとと床に就けー!」


 そうがみがみと叱りつけるなぎさに、一同は逆らうことができないまま、散り散りになって寝室へと入ってしまった。こうして、りんへの告白はお預けとなってしまったのである。本人に悪気はないのだろうが、あの千載一遇のチャンスを物にできなければ、告白の機会はもう巡って来ないんじゃないかと、ラースは改めて気落ちした。

 どう励ませばよいか困っている様子のセラを見て、ラースはこれ以上しょげてばかりいるのはよそうと思った。今は目の前のこと――ローベルトとの戦いに備えようと考えた。「先に外で待っててくれないか」とセラに頼むと、ラースは洗面台に向かい、軽く口をゆすぎ、寝癖を整えた。

 壁に立てかけている黒刀を腰につけ、遅れて寝室から出ると、セラがこちらを見ながら目を輝かせているのが見えた。


「ラースさん、ほら!」


 怪訝そうにしているラースに対し、セラは廊下の奥を手で示しながら呼びかけた。示された方を見て、ラースは目を丸くした。視線の先では、なんとりんが自分達を待ち受けて立っていたのだ。


「りん、悪いがローベルトとの戦いには連れて行けねーぞ?」


 そう言いながら駆け寄るラースに対し、りんはむすっとした顔をしてラースの額を小突いた。


「どこまでも鈍い人。昨夜の続きに決まってるじゃない」


 りんの言葉を聞いて、ラースはりんに告白をし損ねたのを思い出した。改めて告白をしようとラースが思ったとき、突然りんに人差し指で口を抑えられた。


「大丈夫、気持ちは十分に伝わってるわ」

「ん……そ、そうか」


 頬を赤らめながら返事するラースを見て、りんはクスリと笑った。そして、ラースの口から人差し指を離すと、りんは歩み寄ってラースの前に立ち、同じように頬を染めながら言った。


「私も、何もしないまま後悔だけはしたくないから――」


 どういう意味だとラースが問おうとした途端、予想だにしないことが起きた。りんが目を瞑り、ラースの口に唇を重ねたのだ。一瞬困惑するラースだったが、ここで退くのはりんに失礼だと――何より、この柔らかな感触がどれほど嬉しいことか――そう思い、ラースはりんと同じように目を瞑り、唇を重ね続けた。

 どれほど長い時が流れたことだろう。ほんの一瞬だったかもしれないが、二人にとってはとても濃密な時間だったように感じられた。ラースの方からそっと唇を離すと、二人は互いに目を合わせ、頬を赤らめたまま、えへへと笑い合った。


「頑張ってね、ラース。セラちゃんも!」


 激励するりんに対し、ラースは力強くうなずいてみせた。遠くで頬を真っ赤にしながら呆然と眺めていたセラも、我に返って返事し、ラース達の下に駆け寄った。

 りんが差し出した拳に、ラースは握り拳を固め、こつんと合わせる。セラも同じように拳を合わせると、りんはラースとセラに手を振りながら、寝室へと戻っていった。


「それじゃあ……」


 お互いに目を合わせながら、ラースはセラに呼びかけた。


「行くか!」

「はい!」


 セラは力強く返事してみせた。そして、二人は廊下を駆け抜けてルーフバルコニーへ向かい、ラースは竜の翼を、セラは天使の羽を生やして空を飛んだ。目指すはウェストの大陸――ローベルトが待つ、決戦の地へ。

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