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Walk Hand in Hand  作者: 阿瀬 ままれ
第九章 最後の戦い
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 ローベルトが姿を消してから、ラースはルークの亡骸を抱きかかえ、セラ、キルバード、トトと共にアルテリア城へと引き返した。アルテリア城の玄関ホールへ入ると、クロム国王のみならず、クレス、あかね、りん、エドウィン国王、アルマン国王、ロズモンド国王も一緒に待ち受けていた。ルークの亡骸を目にするなり、一同は息を呑み、そして視線を落として黙り込んだ。ラースが「親父を埋葬しよう」と提案すると、一同は無言のままうなずき、城の裏庭にある墓場へと向かった。


「……僕の『天津之太刀(あまつのたち)』の剣技は、父さんから直々に教えてもらったものなんだ」


 墓石の前で地面を掘るラースに対し、クレスは沈み切った表情で口を開いた。


「ラースがノアールの森やカダルナ港の海でキルバード殿と会ったのも、本当はたまたまなんかじゃなくて、父さんからの頼みで空からずっと見守ってくれていたからなんだろう。僕達が気付かないうちに親の愛情を受けていたんだって思うと、なおさら悔やまれるよ……」


 ラースが手を止めて見上げると、クレスの頬を一筋の涙が伝っていることに気付いた。貰い泣きしそうになるのをぐっと堪えながら、ラースは穴の中にそっとルークの亡骸を入れ、クレスと一緒に土で埋めていった。


 ルークの埋葬を終えてから、ラース達はしばらくルークのもとから離れようとしなかった。クロム国王が「城に戻ろう」と呼びかけて、ようやくラース達は墓場を後にした。だがただ一人、キルバードだけは墓場に居残り、地面に座ってルークの墓碑と向き合い続けていた。

 キルバードは、ルークの墓碑の横にあるもう一基の墓碑に目を向けた。その墓碑にはエレナという名が刻み込まれていた。エレナは、ルークとキルバードがまだ若かった頃の隊長であった。当時は三人で世界各地に向かい、よく任務に励んでいたものだと、キルバードは回想した。

 そして、エレナはキルバードが想いを寄せていた女性でもあった。十五年前の戦争で精鋭部隊の一人に任命され、囮となるようシオン王子に命じられたとき、死ぬかもしれない恐怖のあまり、エレナが密かにキルバードに泣きついて来たのを、キルバードはよく覚えている。「もしお互い生還出来たら、その時はデートしてくれないか」とキルバードがお願いし、エレナが失笑しながらも聞き入れてくれたが、その約束が果たされることのないままエレナは戦死してしまった。

 想い人であるエレナ、そして親友であるルーク、大切な二人を失ってしまい、一人残されたキルバードは呆然とした。これから隕石を破壊するための作戦会議が行われるのだろうが、キルバードはすぐに参加する気になれなかった。少しでもエレナとルークとの記憶を呼び起こしたくて、キルバードは立ち上がり、とぼとぼと墓場を後にした。


「トト、お前も哀悼してくれるか?」


 近くで見守っていた巨鳥トトが心配して甲高い声で鳴くのに対し、キルバードは無理に口角を上げながら言った。この巨鳥トトも、元々はエレナの相棒で、エレナが戦死して以来キルバードが代わりに引き取っていたものだった。


 アルテリア城へ戻ると、キルバードは皆がいるであろうクロム国王の私室へと向かわず、三階にある騎士団の私室へと向かった。そして、当時エレナ隊が使用していた部屋のドアを開けた。今ではルークの私室となっているようで、すぐそばにあった机には山のように書類が積み重なっていた。「あいつも出世したもんだよな」と呟きながら、キルバードは近くの椅子に腰かけた。

 目の前にある机に注目すると、キルバードはふと、見慣れない魔導書が置かれていることに気付いた。だがすぐに、この魔導書はクリードから押収したものであることを思い出した。

 よく見ると、魔導書にはいくつもの付箋が貼り付けられており、その下には何やらメモらしき紙が挟まれていた。キルバードがメモ紙を引き抜いて見てみると、メモ紙にはルークが魔導書を調べた記録が走り書きされていた。隕石を破壊するのに有効な魔法が候補としていくつも書き記されており、その中で最も有効な魔法を丸で囲っていた。丸で囲まれた魔法の横には、どのように活用するかの具体的な案が書き込まれていた。


「あいつ、いつの間にこんなものを調べていたのか……!」


 そう呟くなり、キルバードは魔導書とメモ紙を手に取り、椅子から立ち上がってルークの部屋から飛び出した。このメモ紙はきっと自分に後を託してくれたのだと、キルバードは重責を感じた。早くクロム国王達に報告しなければと、キルバードは廊下を駆け抜けていった。

 クロム国王の私室へと向かい、扉を勢い良く開けると、予想通りラース達が隕石を破壊する方法について話し合っている真っ最中だった。ラース達の輪に割って入り、キルバードはルークから託されたメモ紙を広げ、口を開いた。


「皆、聞いてくれ。隕石を破壊する具体的な案を、ルークがこのメモ紙に書き残してくれた。今からその内容を読み上げる」


 メモ紙に書いてあった内容はこうだった。まず、世界中にある武器を一か所に集め、魔導書に書かれていた合成の魔法で一本の巨大な剣を作り上げる。その巨大な剣に、マーズ、ディアナ、ユノ、そしてユピテル、四人の神の力を宿させるというものだった。


「本当にそんなことが可能なのか?」


 猜疑心を抱くエドウィン国王に対し、キルバードは迷いなく首を縦に振った。


「俺達がローベルトと戦っていたとき、ルークは剣技『天津之太刀(あまつのたち)』の奥義でユピテルの力を剣に吸収していた。その理屈が通るなら、このメモ紙に書かれている案も理論上は可能なはずだ」


 同調するようにクロム国王はうなずいた。


「キルバードの言っていることが本当なら、その方法であれば四人の神の力が分散することもないだろう。皆の者、異論はないか?」


 クロム国王が問うと、ラース達は異議なしとばかりに無言のままうなずいてみせた。


「ですが、その方法を取るには、まず世界中の人々に武器を手放すよう説得しなければならないでしょう」


 呻り声を上げながら言うクレスに続いて、りんもキルバードに意見した。


「あと、武器を運ぶにあたって、転送の魔法も多用することになると思うわ。今この中で転送の魔法が使えるのは、セラちゃんとレミーさん、そして地下牢に監禁されている研究員の三人だけ」


 キルバードは腕組みして首を捻った。


「アール・フィリスって言ったっけか? あいつにも協力を仰ぐかどうか、考えなければいけねえな。もしまだ何か悪さを企んでいたとしたら、迂闊に地下牢から出すわけにもいかねえだろうからな」


 これまで黙っていたあかねが向きになって言った。


「あたしは反対! あれだけ酷いことしてきた奴を易々と信用できるわけないじゃん! それに、バーゴといいクリードといい、味方だったあいつらを平気で裏切ってきたくらいだから、どうせそのうち裏切ってくるに決まってる!」


 あかねの意見は間違ってなどいなかった。故に、あかねの意見に対し異議を唱えようとする者は誰一人としていなかった。だが、それでもなお、ラースは挙手し、思い切って賛成の意見を述べた。


「あいつは、今は前ほど落ちぶれてはいないと思う。レミーが気絶していたとき、魔法の縄で拘束されるまで、誰よりも率先してレミーの体を抱えてくれていたからだ」

「うぐ……そ、それはそうだけどさ」


 ラースの意見を聞き、あかねは口ごもってしまった。他の者達も、ラースの意見を真っ向から否定しようとしなかった。あかねとラース、二人の意見を聞き、クロム国王はしばらく悩み抜いた末、口を開いた。


「確かにあかねの言う通り、アール・フィリスは信用に値する人間であるとは言い難い。だが、転送の魔法を使える人間は極めて貴重な存在だ。ラースの言うように僅かながらでも心の変化があるとするなら、協力を仰ぐのも一考の余地はある」

「なら、すぐにでも確かめに行きましょう。彼が本当に信用に値する人間であるかどうか」


 そう言って、セラはラースとクロム国王に、自分のそばまで来るよう促した。ラースとクロム国王が近くまでやって来ると、セラはディアナの力によるテレポートで、自分とラース、クロム国王を一階の地下牢まで運んだ。


 地下牢に来てみると、レミーが鉄格子越しにアールに話しかけている真っ最中だった。ルークとキルバードがローベルトと対決している間も、脇目も振らずにアールに話し続けていたのだろう。だが、一方のアールはというと、魔法の縄で体と口を縛られたまま、目を閉じてレミーの言葉を無視し続けていた。


「レミー、一体何の話をしているんだ?」


 ラースが単刀直入に問うと、レミーは目に涙を浮かべたまま、救いを求めるように答えた。


「アールさんに、これまでの罪を詫びるよう説得していたんです。そうしたら、少しでも処罰が酌量されるんじゃないかって」


 しかし、それを聞いたアールは頑なに首を横に振っていた。


「クロム国王、構いませんか?」


 アールの言葉を聞きたくて、セラが魔法の縄を外す許可を求めるのに対し、クロム国王は「ええ」と手短に返事した。セラが手をかざして念じると、アールの口を縛っていた魔法の縄が消滅し、アールは自由に喋れるようになった。


「無駄でっせ」


 喋れるようになるなり、アールは真っ先にレミーに向かって言った。


「あっしは人を殺している。バルドロス帝国の世界征服の野望に少なからず加担している。そして何より、世界を滅亡させる魔法を唱えちまった。あっしの死罪は免れないでしょうよ」

「そんな悲しいこと言わないでくださいよ……!」


 レミーはぽろぽろと涙を零しながら叫んだが、クロム国王がレミーの肩に手を置き、説得は無駄だと悟らせた。アールの言う通り、情状酌量の余地がないほど、アールは数え切れないだけの罪を犯してきたのだ。今更謝ったところで減刑されることがないのは分かり切っていたし、それをアールも重々承知しているようだった。

 泣き崩れるレミーを見て、ラースとセラは察した。レミーはアールのことを一途に想い続けていたのだと。どうにかして彼女のためになってやれないか考えていたところ、ラース達は当初の目的をふと思い出した。


「アール、お前に頼みがある。詳しい説明は省くが、これから隕石を破壊する上で、転送の魔法を多用することになる。そのために、お前の力も貸して欲しいんだ。転送の魔法を扱える人間は極小数に限られるからな」

「あっしの力を借りるんですかい?」


 アールはくっくっと肩を揺らして笑った。


「滑稽な話だ。あっしがこれまでしてきた罪のことを考えれば、普通あっしをここから出そうだなんて思わねえはずなんですがね」


 ラースは動じることなく首を振った。


「確かに普通ならそうだろうな。だが、お前はレミーが気絶していたとき、魔法の縄で拘束されるまで、誰よりも率先してレミーを運んでくれていた。お前は悪人だが、前ほど落ちぶれてはいないって俺は信じている」


 初耳な話で、レミーは目を丸くしながらアールに顔を向けた。アールもそのことはレミーに知られたくなかったようで、ばつの悪そうな顔を浮かべていた。


「衛兵! 牢屋の鍵を開けてくれ!」


 クロム国王が近くのアルテリア兵に向かって叫んだ。アルテリア兵はアールが監禁されている牢屋へと近付き、鍵を取り出して恐るおそる鉄格子の扉にかけられた南京錠を開けた。

 鉄格子の扉がクロム国王の手によって開かれる。隣にいたセラが、ディアナの力を使ってアールの体を縛っていた魔法の縄を消滅させた。こうしていつでも地下牢から脱走できる状態となったアールだったが、アールはそうしようとする素振りすら見せなかった。その理由を、そばで見ていたラースが言い当ててみせた。


「お前の目的は、きっと隕石を降り下ろす魔法を発動させた時点で果たされたんだ。あの直後、洞窟の天井が崩れ落ちてきても逃げようとしなかったくらいだしな。だから、今のお前には無理に脱走する理由がないんだ。

 今のお前なら、俺達の要求にも応じてくれるはずだって信じているよ。レミーのためにも、隕石を破壊するために俺達と一緒に来てくれ」


 途端、レミーが立ち上がり、開かれた牢屋の中に入ってアールに抱きついた。アールはレミーの抱擁を突き放そうとしなかった。座ったままレミーの背中にそっと手を添えると、アールは天井を仰ぎ見て、涙を流しながら呟いた。


「参った……参ったなぁ。どこまでお人好しなんですかい、あんたは……」




 こうして、ラース達はアールを仲間に引き入れることに成功した。あかねなど一部の者はまだアールに不信感を抱いているようだったが、ラースとセラが責任を持って監視すると説得し、どうにか聞き入れてもらった。

 まずは世界中から武器を集めることから始めようとしたが、既に日が暮れ始めていたのと、セラ達三人共消耗しているだろうとのことから、作戦は翌朝から決行することとなった。今日はゆっくり休むようクロム国王から告げられた途端、ほぼ同じタイミングで、クレス隊のビックスとウェッジが慌てて部屋の中へ入ってきた。


「そう言えば、二人を別行動させたままだったね。ごめん、ビックス、ウェッジ」


 二人の姿を見るなり謝るクレスに対し、ビックスとウェッジは畏まって首を振った。


「いえいえ、お気になさらず……って、それどころじゃないであります!」


 ビックスが当初の目的を思い出して叫び声を上げた。ウェッジもそれに続いて口を開いた。


「バルドロス城に民衆が集まって、暴動を起こし始めたと伝達があったのです!」


 ウェッジの報告に一同が息を呑んでいたところ、口火を切ったのはエドウィン国王だった。


「ラース! 俺をバルドロス城へ連れていけ!」

「何のつもりだ?」


 ラースが問うと、エドウィン国王は切迫した表情をそのままに答えた。


「暴動を止めに行く。それ以外にあると思うか?」


 クロム国王が口を挟んだ。


「何故ラースに連れて行かせようとする? セシリア様やレミー、アールに転送の魔法を使ってもらった方がいいんじゃないか?」


 エドウィン国王は首を横に振った。


「俺達が行かないと意味がないからだ」

「どういう意味だ?」


 クロム国王が首を傾げるも、エドウィン国王はそれを無視して言葉を続けた。


「説明している暇はない。ラース、すぐにでもバルドロス帝国へ飛び立つぞ」


 ラースは合点がいかないながらも、エドウィン国王の気迫に押されてうなずいた。エドウィン国王が部屋の窓を勢い良く開けると、ラースはエドウィン国王を両腕で抱え、窓から外へ飛び降りた。すぐにマーズの力で竜の翼を背中に生やし、羽ばたきながらバルドロス帝国へと向かっていった。


「何故民衆はバルドロス城で暴動を起こしたと思う?」


 ラースに担がれながら、エドウィン国王はラースの顔を見上げて問うた。


「お前の親父――カーツ・クルエル・バルドロスの悪事が世間に知れ渡ったからか?」


 視線を下ろしながら答えるラースに対し、エドウィン国王はこくりとうなずき、言葉を続けた。


「あぁ、それが一つ。もう一つは、お前に殺された者達の遺族や仲間の恨みだろう」


 エドウィン国王の言葉に、ラースははっと気付かされ、悄然とした。


「殺された者達の遺族や仲間は今、怒りをどこに向ければいいか分からない状態にあると思う。それを受け止めるのはお前の役目だ、ラース。……騎士達を悪事に付き合わせたバルドロス帝国にも非がある話だがな」


 やがて、リックが斬りつけてできた大陸の亀裂を飛び越えた先に、バルドロス帝国が見えてきた。バルドロス城の前まで来てみると、ビックスとウェッジが言っていた通り、大勢の民衆が喚き声を上げながら暴動を起こしていた。バルドロス城の外にあった庭園は、民衆が火を放ったのか、葉っぱ一枚残らず燃え盛っていた。

 あと少しで炎がバルドロス城に燃え移るというところで、ラースは地上へと降り立ってエドウィン国王を下ろし、竜の翼を羽ばたかせて激しい風を吹き荒らした。風は燃え盛る庭園へと一気に広がり、瞬く間に鎮火させてしまった。


「じゃ、邪魔をするな!」


 民衆は、人外の姿をしたラースに怯えている様子だったが、それでも民衆の一人が声を振り絞って叫んだ。この姿のままではまともに話し合いができないと思ったラースは、マーズの力を打ち消し、元の姿へと戻った。


「あいつ、ラース・オルディオだ――」


 ラースが元の姿へと戻るなり、民衆はそう言ってざわつき始めた。民衆がまた暴動を起こす前に、ラースは民衆の方へ歩み寄りながら口を開いた。


「暴動はさせない。だが、あんた達を真っ向から否定するつもりもない。何故こんな真似をするのか、教えてくれないか?」


 民衆の憎しみがたちまち込み上がった。


「十五年前の戦争もそうだった。昨日発覚した世界征服の計画もそうだった。これ以上バルドロス帝国に脅かされる人生を送るのは真っ平だからだ! どうせあの隕石も、バルドロス帝国の連中が魔法か何かでしでかしたことなんだろ?」

「あぁ……その通りだ」


 ラースの隣に来たエドウィン国王が、包み隠さずにうなずいて答えた。それを聞き、民衆の一人が殺意を込めて叫んだ。


「例え討ち死にに遭っても構わない。どうせ隕石が落下した暁には俺達も死ぬのだから。せめてバルドロス帝国にはこの手で復讐してやるって決めたんだ!」


 民衆が各々の武器を掲げながら(とき)の声を上げ、一斉にバルドロス城へ突撃し始めた。しかし、ラースがすぐさま剣を抜き、民衆の武器を次々に弾き飛ばして突撃を食い止めていった。


「どうして邪魔をする! お前もバルドロス帝国の連中を殺しているじゃないか!」

「そうだそうだ!」


 民衆はラースを指差しながら騒ぎ立てた。


「だからこそ分かるんだ。人を殺したって後悔と罪悪感しか芽生えないって!」


 ラースが怯むことなく反論する。


「そんなはずはない! お前は元凶のカーツ・クルエル・バルドロスを殺し、世界征服の野望を阻止した! 英雄と呼ばれて然るべきことをしたんだ!」


 民衆の言葉に、ラースは真っ向から反対した。


「俺は英雄なんかじゃない……! 多くの命を奪った殺人鬼だ!」


 ラースの一言を聞き、民衆は思わず黙り込んでしまう。


「信頼してくれた仲間達を裏切った。俺が人を殺したっていう悲しみを仲間達に背負わせた。俺が殺した人達の仲間や家族達にも、命を奪われた悲しみを背負わせた。法だけでは収まりきらない罪の重さを思い知ってから、俺は罪という名の底なし沼をさまよい続けたんだ!」


 ぽろぽろと涙を零しながら、ラースは言葉を続けた。


「例え隕石を破壊できたとしても、殺人鬼の俺はいずれ処刑される。あんた達には俺の二の舞を演じてほしくないんだ。だから頼む、堪えてくれ……!」


 ラースは地面に剣を放り、土下座をして民衆に願い出た。民衆は当惑するばかりだった。バルドロス帝国に対する憎しみが消えることはないが、ラースの精一杯の訴えを無視することもできない。

 すると、ラースの隣にいたエドウィン国王も、無言のまま民衆に向かって土下座を始めた。


「誰だお前は?」


 民衆が問うと、エドウィン国王は額を地面につけたまま口を開いた。


「バルドロス帝国国王、エドウィン・アトン・バルドロスだ」


 エドウィン国王の答えに、民衆は息を呑んだ。


「俺からは何も要求しない。今のバルドロス帝国にそのような資格などないからだ。ただせめて、謝罪だけでもさせてほしい。本当にすまない――」


 ラースの説得とエドウィン国王の謝罪が通じたのか、民衆は誰一人として突撃しようとしなかった。


「隕石を破壊するって言ったな。本当にそんなことができるのか?」


 民衆の一人が問うと、ラースは決然たる顔でうなずき、言った。


「隕石は俺達が責任を持って破壊する。だから自分の命を無下にするのは止めてくれ」


 民衆は黙り込み、次々に武器を下ろしていった。ほとんどの民が戦意を失い、ラースが安堵していたところ、突然夫婦と思わしき男女二人が前へ出て、ラースに歩み寄ってきた。


「私達の息子は、あなたに頭を叩き斬られて死にました」


 女性の言葉に、ラースは息を呑んだ。頭を下げようとするラースを、隣にいる男性が制止した。


「もう十分です。本当はあなたとバルドロス帝国が憎くて仕方ない。けど、あなたの覚悟と謝意は十分に伝わりました。どうか然るべき法の裁きを受けてください」


 涙ながらに男性は言った。隣にいる女性も、深い悲しみのあまり号泣した。ラースは唇を噛み、黙ってうなずくことしかできなかった。

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