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Walk Hand in Hand  作者: 阿瀬 ままれ
第八章 騎士として、父親として
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 神の力を身にまとうと、ローベルトは雷を宿した右手で太刀の柄を握り、居合斬りの態勢に入った。

 ルークとキルバードが身構える。別に気を抜いていたわけでも、高を括っていたわけでもなかった。ただ、ローベルトの斬撃が先程と比べ物にならないくらい速すぎたのだ。

 疾風迅雷――ローベルトはいつの間にかルーク達の背後に回り、二人の背中に斬撃を浴びせていた。ルーク達は一瞬たりともローベルトの動きを目で捉えることができず、立ち尽くしたままだった。異次元の速さで襲い掛かる斬撃をまともに受け、ルーク達は背中の傷口から血飛沫を上げた。

 ようやく激痛が走り、ルーク達は両膝を地面につけて呻き声を上げる。そして背後を振り向くと、ローベルトは獰猛な雷を宿した左手をこちらへ向け、次の攻撃の態勢に入っていた。

 ぞくりと悪寒を感じ、ルーク達は反射的に横へ跳んで逃げた。次の瞬間、轟く砲撃音と共に、ローベルトの左手から電磁砲が発射された。ルーク達は間一髪でかわし、放たれた電磁砲は地面を一直線に抉り、焼き焦がした。

 蒼白になるルーク達に向かって、ローベルトは無慈悲に言い放つ。


「あなた方は強い。全人類の中で一番強いと言っても過言ではないだろう。だから私も容赦はしない。全力であなた方を殺す……!」


 太刀の柄を握り、ローベルトはルークとの距離を一気に詰める。ルークは剣を構え、ローベルトの振り上げられた太刀を辛うじて防ぐ。ルークが反動でよろめいている間に、ローベルトは次の攻撃の態勢に入った。再び目にも止まらぬ速度でルークの背後に回り、ルークの右肩を斬りつけ、太刀を鞘に納めた。ルークは苦痛の声を上げながら地面に倒れた。

 雄叫びを上げながらキルバードが斬りかかる。しかしローベルトの猛攻は止まらない。居合斬りでキルバードの振り下ろされた薙刀をかち上げると、がら空きになったキルバードの胸にもう一度居合斬りを浴びせた。十字に斬りつけられ、キルバードは血飛沫を上げながら悶絶する。その隙を逃すことなく、ローベルトは電気を帯びた足でキルバードの腹を蹴り、吹き飛ばした。

 キルバードが地面に転がってうずくまる。その横で、ルークは剣を地面に突き刺し、杖のようにして体を支えながら立ち上がった。剣を引き抜いて両手に構え、走り出し、猛然とローベルトに斬りかかるも、上半身を反らすことで呆気なくかわされてしまう。そして、獰猛な雷を宿した左拳で顔面を殴られ、ルークは首がもげかねないほどの勢いでもんどりを打って倒れた。


「格段に強くなりやがった……斬撃が速すぎる……!」


 キルバードが血反吐を吐きながら呟く。そして、今の自分達ではとても太刀打ちできるような相手ではないと悟る。

 ローベルトが太刀の柄を握り、地面に倒れているルーク達のもとへつかつかと歩み寄る。万事休すかとキルバードは諦めかけたが、一方のルークはまだ戦意を失っていなかった。再び剣を地面に突き刺してよろよろと立ち上がり、肩で息をしながら剣を引き抜いて身構えた。既にルークは満身創痍であったものの、ローベルトを睨むその目は死んでいなかった。


「まずはあなたから仕留める必要があるようだ――」


 そう呟くなり、ローベルトは容赦なく居合斬りでルークを斬りつけた。四方八方から見えない斬撃が襲いかかり、ルークは全て防ぎ切れずに体中から血を噴き出しながら倒れてしまう。


「もう無茶だ……ルーク……」


 キルバードがルークを止めようとするも、傷だらけの体で立ち上がることすらままならない。

 今度こそルークの息の根を止めたとローベルトは確信する。しかし、ルークはまたしても剣を地面に突き刺し、立ち上がろうとしていた。

 流石のローベルトも動揺を隠せなかった。ルークの目はまだ死んでいない――。




 * * *




 ラース、セラ、クロム国王の三人は、アルテリア城の玄関ホールで話し合いを続けていた。


「もし、そのローベルトさんが人間を滅ぼそうとしているなら……それをジュード騎士団長達が許すはずがありません」


 セラの言葉にクロム国王はこくりとうなずいた。


「ええ。そして衝突は免れないでしょう。ローベルトは神の力を使ってでもジュード達を殺しにかかると思われます」


 セラは息を呑み、そして緊迫した表情で言った。


「助けに行きましょう! 例え『あの』戦争の英雄と呼ばれていた方々でも、神の魂を宿す者相手に勝ち目はないです!」


 床に座っていたラースが立ち上がり、憤りを隠せない様子で言った。


「そもそも何で、二人はそんな無茶な真似をしたんだよ? 神相手に人間が立ち向かうなんざ自殺行為だって、普通に考えれば分かるはずだろ?」


 それを聞き、クロム国王は目を閉じて黙り込んだ。返答に窮しているというより、返答を躊躇っている様子だった。

 ラースとセラが疑問に思っていたところ、クロム国王はやがて意を決し、口を開いた。


「確かに、ローベルトに対抗できるのは、同じ神の魂を宿す者である君達しかいないだろう。それでもジュードは君達に……特にラース、君に危険な目に遭わせたくなかったんだ」

「どういう意味だ?」


 ますます疑問が膨らむラースに対し、今度は迷うことなくクロム国王が答えた。


「ルーク・オルディオ。それがジュード・アルゼルクの真の名だ」


 クロム国王の口から告げられた真実に、ラースは驚愕した。


「ルーク……俺の親父……それがジュード騎士団長だって言うのか?」


 ラースの言葉を聞き、セラもはっと息を呑んだ。


「でも、ラースさんのお父さんは『あの』戦争で死んだって……!」


 信じられない様子で言うセラに対し、クロム国王は首を横に振った。


「生きています。本人の要望で、ルークがまだ生きていることをずっと隠していました」

「何でそんな真似を……!」


 ラースがクロム国王に詰め寄る。クロム国王は申し訳なさそうに答えた。


「ルークは、十五年前の戦争で、君達の母――リアを救えなかったことを悔やんでいた。そして、リバームルの住人に君達が引き取られたことを知ってから、家族を守ってあげられなかった自分に父親を名乗る資格は無いと考え、君達に会うのを避け続けていたんだ。

 こんなことになるなら、もっと早くから真実を打ち明けておくべきだった……本当にすまない」


 ラースは歯を食いしばった。母のことで怒ってなんかいなかったのに、話してくれればよかったのにと、ラースは父を恨んだ。


 その時、玄関ホールの外からバサバサと羽ばたく音が聞こえてきた。ラース達が外に出てみると、巨鳥トトが空を飛びながら、アルテリア城の前で自分達が来るのを待っていた。

 恐らくは、トトは父とキルバードの居場所を知っていて、自分達を二人のもとへ案内しようとしてくれているのだろう。トトもまた助けを求めているのだとラースは察した。

 途端、遠くではっきりと見えるほどの落雷が発生し、遅れて轟音が響き渡った。戦闘が激化しているのか、あるいはローベルトが神の力を発揮したのか――早く二人のもとへ向かわなければと、ラースは自身に言い聞かせた。


「セラ、悪いがバルドロス兵を治癒するのは後回しだ。親父達を助けに一緒に来てくれ。今ならまだ親父達を死なせずに済むかもしれない」


 ラースのお願いを聞き、セラはこくりとうなずいてみせた。クロム国王も一緒に行こうとしたが、それをラースが制止した。


「悪いが、足手まといだ。相手が神の魂を宿す者である以上、俺とセラにしかローベルトを止めることはできない」

「……すまない、その通りだ」


 何もできない悔しさのあまり、クロム国王は唇を噛んだ。


「行きましょう、ラースさん!」


 セラの呼びかけに、ラースはこくりとうなずいた。ラースは竜の翼を、セラは天使の羽を背中から生やし、地面を蹴った。トトが先導して空を飛び、ラースとセラはその後を追っていった。




 * * *




 ぼろ雑巾のような傷だらけの体でありながら、ルークは撤退することなく前へと歩んでいく。戦意を保ちながら、ルークは十五年前の出来事を回顧した。


 『あの』戦争が始まったのは、ラースが神の魂を宿し、その存在を隠すために家族と離ればなれになってから、一年が経過した頃のことだった。

 シオン王子とクロム騎士団長の招集によって、ルークがキルバードや他の精鋭部隊と共に呼び出されたのは、当時のアルテリア帝国の王であるセルドア国王とマリー王妃の死体が転がる殺人現場だった。夥しい量の血が飛び散る中、先にセルドア国王とマリー王妃を埋葬すると、シオン王子の口から状況が伝えられた。一緒にいたミーティア姫の腕の中で眠るセシリア王女の中には神の魂が宿っており、そんなセシリア王女を強奪しようとバルドロス帝国が戦争を仕掛けてくる。故に、今ここにいる者達で何としてもセシリア王女を死守しなければならない。

 そして、セシリア王女を死守するための作戦がシオン王子から告げられた。まずクロム騎士団長がセシリア王女を連れてアルテリア帝国から逃れ、他の精鋭部隊とシオン王子、ミーティア姫がアルテリア帝国に残り、敵を欺くための囮となる。腕利きであるルークとキルバードの二人だけはバルドロス国王の征伐に向かい、その他大勢のアルテリア兵は世界各地を襲撃しているバルドロス兵の鎮圧に向かわせるというものだった。


 シオン王子の作戦は迅速に決行された。ルークは囮となるシオン王子達を守ることも、バルドロス兵の襲撃を受けている家族を守ることも許されず、キルバードと共にバルドロス国王の征伐に向かうことを余儀なくされた。

 バルドロス帝国には、国王を防衛するためのバルドロス兵が数百人配備されていた。ルークとキルバードは、シオン王子の命令に忠実に従い、バルドロス兵数百人との戦闘を開始した。しかし、いくら目の前の敵を斬り倒そうと、大切な仲間達を、そして愛すべき家族を救い出すことができない。前を向けば大群、振り向けば血の海――ルークは途端に自分の行いが虚しくなり、バルドロス兵達に向かって言った。


「お願いだ、逃げてくれ。上役に命令されただけならば、俺はアンタ達を恨みはしない。こんな不毛な戦いをこれ以上続けたくないんだ。だから頼む、逃げてくれ――」


 しかし、ほとんどのバルドロス兵は耳を貸そうとしなかった。多勢に無勢、兵数の差で人をなぶり殺しにできる――そんな風に考える狂った兵しか残っていなかった。「こいつらにはもう何を言っても無駄だ」とキルバードに諭され、ルークは涙を零しながら殺傷を繰り返した。

 最初はルーク達を殺す気満々でいたバルドロス兵達も、百、二百と斬り倒されていくにつれ、ようやく戦意を失い逃げ出す者が徐々に増え始めた。バルドロス兵達が手薄になってきたところで、ルーク達はバルドロス帝国へ攻め込んだ。

 そして、バルドロス城の前まで来たところで、ルーク達はバルドロス国王の首を持ったローベルト・ハーヴィーと対峙した。ローベルトもまた神の魂を宿しており、人間の姿ではなくなっていたが、ルーク達を傷付けるようなことはしなかった。「あなた方のような良識ある人間が世界の平和を守れるかどうか、見届けさせてもらう」と言い、ローベルトはバルドロス国王の首をルーク達に放って渡し、神の力によるテレポートで姿を消した。


「バルドロス国王は死んだ! これ以上無意味な戦争は止めろ!」


 トトの背中に乗って世界各地に飛び回りながら、キルバードはバルドロス国王の首をかざし、襲撃を続けていたバルドロス兵に向かって叫んだ。こうしてバルドロス兵達は戦意を失い、アルテリア兵達によって鎮圧され、戦争は終結した。

 バルドロス兵達の襲撃を止めると、キルバードは一目散に、ルークの家族が暮らしているサウスの田舎村ゴンガノへと向かった。シオン王子達の無事を確認するのが先決ではあったが、キルバードはそれでもなおルークを気遣い、無理にでも田舎村ゴンガノへ連れて行った。しかし、ゴンガノは既に焼け野原となっており、ほとんどのログハウスが全焼し、住人は老若男女問わず殺されていた。

 一軒だけ全焼していないログハウスがあり、(わら)にも(すが)る思いでそのログハウスに駆け込んでみたところ、ルークはようやく妻のリアと再会した。しかし、リアは既に何十人ものバルドロス兵の手によって串刺しにされ、息絶えていた。リアの亡骸を抱き締めながら、ルークは号泣し、「すまない、すまない」と何度も謝り続けた。


 リアを埋葬し、その後ゴンガノを隈なく捜し回ったが、息子のラースとクレスの姿が見当たらない。再びトトに乗って近辺の街や村を飛び回ってみると、リバームルという街でラースとクレスが生存しているのを発見した。どうやら息子達だけでも逃げ延びて、リバームルの住人に引き取られたようだった。

 会いに行こうとしたが、ルークはすぐに躊躇った。そして、自分にその資格があるのかと自問した。妻のリアを見殺しにしてしまった自分に、息子達と顔を合わせる資格なんてない――そう自責し、ルークは息子達に会いに行くのを断念した。考えすぎだとキルバードは怒ったが、それでもルークの意志は固かった。


 それから、ルークは騎士団長ジュード・アルゼルクと名乗り、父親としてではなく騎士として振舞うことを決心した。クレスがアルテリア帝国騎士団に入団しても、ラースがアルテリア城に訪れても、ルークは決して意志を曲げなかった。

 そして、一度も自分の正体を息子達に打ち明けることのないまま、ルークは決戦の地へ乗り込んだ。神の魂を宿すローベルトに対抗できるのは、同じ神の魂を宿す者であるラースとセラの二人しかいないことは重々承知していたが、クリード達との戦闘や隕石の破壊で神の力を少なからず消耗していた二人に勝算があるとは言い切れなかったし、何よりラース達をこれ以上危険な目に遭わせたくなかった。


「それは、騎士としての想いか? それとも父親としての想いか?」


 不意に、ルークの脳裏から自分自身の声が聞こえてきた。未だにラース達の父親でありたいと未練がましく考えている自分を滑稽に思い、ルークは失笑する。


「何故立ち上がれる? それだけの致命傷を負っていながら、何故闘志を失わずにいられる?」


 ローベルトが問うと、ルークは歯を食いしばり、鉛のように重い両腕を上げて剣を構えながら、叫んだ。


「俺の妻――リアは、息子達を守るために犠牲になった。アルテリア帝国のシオン王子、ミーティア姫、そして精鋭部隊は、セシリア王女をお守りするために犠牲になった。俺だけがのうのうと生きているわけにはいかないんだよ。例え刺し違えてでも、俺はアンタに立ち向かわなければいけないんだ……!」


 ルークが剣を頭上に掲げる。そして雄叫びを上げ、雷の力を剣に呼び寄せた。剣技『天津之太刀(あまつのたち)』を極めし者のみが扱える奥義である。天空から雷が突き破り、激しい轟音と共にルークの持つ剣の刀身に宿った。そして意外なことに、『天津之太刀』の奥義は、ローベルトの両腕に宿る獰猛な雷をも吸収した。


「馬鹿な……神の力を手玉に取るなど……!」


 神の力を奪われたローベルトが驚愕する。かくして、神をも斬り裂く稲妻の剣が完成した。ルークは頭上に掲げていた稲妻の剣を構え直し、最後の力を振り絞って走り出した。

 ローベルトが柄を握り、居合斬りによる迎撃態勢に入る。ルークが目の前まで距離を詰めて稲妻の剣を振り下ろし、ローベルトが太刀を振り払った。互いに確かな感触を残して振り切り、二人は背を向け合ったまま微動だにしない。そして――先に膝が折れたのはローベルトの方だった。

 ルークの稲妻の剣は、神の魂を宿すローベルトに通用した。肩から横腹まで斜め一文字に斬り裂かれ、ローベルトは深い傷口からどくどくと血を流しながら悶絶する。

 だが、ローベルトが倒れることはなかった。ルークの渾身の一撃は、ローベルトの意識を断つには至らなかった。傷口を手で押さえながら、ローベルトは未だに微動だにしないルークに顔だけを向けて言った。


「見事。ユピテルの力を得たこの体に致命傷を負わせることができるとは。だが――一歩及ばなかったようだ」


 ルークの両手からごとりと剣が落ち、その刀身に宿っていた稲妻がふっと消滅する。次の瞬間、横一文字に引き裂かれたルークの胸から夥しい量の血が噴き出した。どさりと地面に倒れ、ルークは目を見開いたまま石のように動かなくなった。

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