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Walk Hand in Hand  作者: 阿瀬 ままれ
第八章 騎士として、父親として
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 黒マントの男は失望したようにため息をつき、口を開いた。


「私はあなた方を信じていた。あなた方がいれば、世界を破滅に追いやることはないだろうと。だが見込み違いだったようだ」

「ローベルト……本当に人間を滅ぼすつもりか?」


 ルークが問うと、男――ローベルトは微塵の躊躇も見せずに答えた。


「無論。人間を一人残らず死滅させる。そして死者の魂を集めて力に変え、私の中に宿る神――ユピテルの力と合わせて隕石を破壊する。隕石を破壊した暁には私自身も自害する」

「それで世界に平和が訪れるってか? 冗談きついぜ」


 眉間にしわを寄せながら怒鳴るキルバードを睨みつけながら、ローベルトは問い返した。


「他に方法があるとでも? 仮に人間達を生かしたとして、その後人間達が世界を滅亡させない確証はあるのか?」


 キルバードはすぐに反論することができず、言葉に詰まってしまう。


「正直、俺達人間はまた過ちを犯すかもしれない。世界を滅亡させない確証はない」


 本音を打ち明けながらも、毅然とした態度でルークは言葉を続けた。


「だが、人間の魂を使わずとも、隕石を破壊することはできるはずだ。今この世界にいる四人の神の力を集結させれば……」

「神頼みというわけか」


 ローベルトは苛立って歯を食いしばった。


「私は断固拒否する。ユピテルも同じように答えるだろう。人間の過ちの尻拭いに付き合ってなどいられない」

「それはこっちも同じ台詞だ」


 キルバードが青筋を立てて怒鳴り返した。


「お前らの都合で俺達人間が滅ぼされるなんざ、ご免被るぜ」

「結構。話し合っても相容れないのは分かっていた」


 再び殺意のこもった目をルーク達に向けながら、ローベルトは腰にある太刀の柄を掴み、構えた。


「うおっ!」


 突然の攻撃に、キルバードは驚きの声を上げる。ローベルトが目にも止まらぬ速さで太刀を振り切り、鞘に納めると、四方八方から斬撃が雨霰と襲い掛かってきた。ローベルトの得意とする剣技『居合斬り』だ。ルークは腰にある剣を、キルバードは背に担いでいる薙刀を反射的に構え、不意打ちの斬撃を防ぐことができたものの、ローベルトに先手を打たれてしまい、二人は防戦一方になってしまう。


「隊長さんよ! 指示をくれ!」


 ルークと背中を合わせ、ローベルトの斬撃を防ぎ続けながら、キルバードが叫ぶ。


「騎士団長である以外に、一番隊隊長でもあるんだろ?」


 それを聞いたルークは目を丸くし、そして失笑した。


「そうだったな。お前もアルテリア帝国騎士団の端くれだったな!」


 ルークは、十五年前の戦争が終結した後のことを思い出した。アルテリア帝国騎士団の生き残りで組織を再編成したとき、クロム国王の抜擢で、ルークが騎士団長兼一番隊隊長に、キルバードが一番隊隊員に任命された。当時のキルバードは「騎士なんて名ばかりだ。人を斬るだけ斬って、本当に守りたいものは何一つ守れていない」と言って、騎士であり続けていることを拒み、アルテリア帝国からしばらく離れていたのだが、今回に限っては一番隊隊員でいてくれるらしい。

 ローベルトの斬撃を凌ぎながら、ルークがローベルトに聞こえない声量でキルバードに指示する。それを聞いてうなずくと、キルバードは飛び込んでローベルトの斬撃が届かない所まで遠ざかった。


「一人は逃げたか……まあいい」


 そう呟くのと同時に、ローベルトが連続で居合斬りを放ち、畳みかける。より激しくなる四方八方からの斬撃を、今度はルーク一人で捌いていく。頬、腕、足と次々に切り傷ができてもなお、ルークは防御の手を一切緩めなかった。そして、ローベルトを見据え、相手が次の居合斬りを放ってくるまでじっと待ち続けた。ローベルトが太刀の柄を強く握りしめたのを確認するなり、ルークは遠くにいるキルバードに向かって叫んだ。


「キル、今だ!」


 ルークが身をかがめる。ルークの背後では、キルバードが薙刀の柄を長く持って構え、ローベルトに狙いを定めていた。

 ローベルトは瞬時に危険を察知し、攻撃の手を止めた。キルバードは決して逃げたのではなく、自分の攻撃が届くギリギリの間合いを計っていたのだとローベルトは理解する。

 キルバードが迅雷の如き突きを連続で繰り出した。数十メートル先から襲い掛かる攻撃を、ローベルトは上半身を反らすことでかわしていく。攻撃の手が止まった好機を逃さず、ルークは一気にローベルトとの距離を詰めた。


 本来、接近戦はルークの得意とする間合いではない。ルークやクレスの扱う『天津之太刀(あまつのたち)』は、相手の攻撃をいなす剣技であり、攻め立てる剣技ではないからだ。しかし、ローベルトの得意とする中距離の間合いを保たれては、後の先を取ることができない。故に、ルークは接近戦を仕掛けるべきだと判断した。

 その判断が間違っていなかったのか、ルークの猛攻を防ぎながら、ローベルトが一瞬だけ表情を歪めたのをルークは見逃さなかった。このまま一気に畳みかけようとしたが、攻撃の僅かな隙を突かれて腹を蹴飛ばされ、ルークは距離を引き離されてしまう。

 攻めが甘かったか――そう自責しながら、ルークはキルバードに叫んだ。


「もう一度だ!」

「合点承知の助!」


 今度はローベルトに居合斬りをさせまいと、キルバードが先に薙刀の突きを連続で繰り出した。ローベルトが辛うじて攻撃を避けている中、ルークはキルバードを信じ、走り出してローベルトとの距離を再び詰めた。

 より小振りに、よりコンパクトに。ローベルトに今度こそ隙を与えないよう、ルークは立て続けに攻め立てていく。ルークに張り付かれ、ローベルトは防御に回らざるを得なくなる。


「相手はルークだけじゃないぜ?」


 そう言って、キルバードはローベルトの背後に回った。そして、渾身の力を込めて薙刀を振り上げる。ローベルトは瞬時にキルバードの攻撃を防いだが、ルークに攻め立てられていて防御が遅れてしまったのか、ローベルトはキルバードの攻撃に弾かれ、体を宙に浮かされてしまう。


「やれ、ルーク!」


 キルバードが叫ぶ。ルークがうなずき、跳躍してローベルトを追いかける。

 逃げ場がない状況で、ローベルトは太刀を鞘に納め、居合斬りの態勢に入った。それを見た瞬間、斬りかかろうとしたルークの脳裏に危険信号が灯った。

 ローベルトの居合斬りは、四方八方から目にも止まらぬ速さで斬撃が襲い掛かってくる。このまま剣を振り切ってもいいかとルークは自問し、すぐに駄目だという答えが浮かんだ――ローベルトはカウンターを狙っている。


 次の瞬間、ルークは間抜けとも言える行動に出た。空中で体を捻り、突然ローベルトに背を向けたのだ。だが、それを見たローベルトも、驚愕のあまりはっと息を呑んだ。ルークの判断は決して間違いなどではなかったからだ。

 ローベルトは、居合斬りでルークの背中へのカウンターを狙っていた。それを刀身で受け止めていなすと、ルークは体をもう一度捻り、よろめいているローベルトの胸を振り向きざまに切り払った。ルークの一太刀を受けたローベルトは、呻き声を上げながら地面に落下し、大の字に倒れた。


 ルークが地面に着地する。ローベルトは深手を負いながらもよろよろと立ち上がった。

 ルークとキルバードが各々の武器を構え、臨戦態勢に入る。ローベルトも居合斬りの構えをしようとするも、傷が深く、体をふらつかせてしまう。

 ローベルトは自嘲するように鼻で笑った。――この二人を相手に、自分一人だけで立ち向かおうなどと考えるのは傲慢だった。やはり、この二人を倒すにはユピテルの力が必要不可欠だ。ローベルトは目を閉じ、自分の中に宿る神――ユピテルに呼びかけた。


「ユピテル、頼む。この二人を倒すために、私に力を貸してくれ……!」


 突如、耳を塞ぎたくなるほどの轟音と共に落雷が発生し、ローベルトは雷を一身に浴びた。ごくりと唾を飲みながらキルバードは言った。


「とうとう来たな。ここからが本番だぞ、ルーク」


 ルークは身じろぎながらもうなずいた。

 落雷をまともに浴びながらも、ローベルトは息絶えていなかった。それどころか、体中に電気を帯び、両手にははっきりと見えるほどの獰猛な雷を宿している。その人外の姿は、ルーク達が十五年前に初めて出会ったときの姿と何一つ変わっていなかった。

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