八
* * *
ラースが洞窟から出ていくのを見届けた後、ジュード騎士団長とキルバードは、迅速にクリードの捕縛に取り掛かった。キルバードがレイピアを取り上げ、ジュード騎士団長が魔法の縄でがんじがらめに縛り付けた。クリードは既に戦意喪失したようで、特に抵抗することなく神妙にしていた。
一同がノースの洞窟を抜けると、南の方からどす黒い光が上空に向かって放たれるのを目撃した。どす黒い光が空を突き破ったかと思うと、空が怒り狂ったかのように赤く染まり、無数の隕石が地上に向かって降り注いできた。あと数分もすれば、隕石が地上に墜落してしまう。そして――世界が滅亡する。
「……終わった」
一同が唖然とする中、拘束されていたクリードがぼそりと呟いた。
「ゼブラが禁書の魔法を発動したに違いない。俺達はもうこれ以上生き延びることができない――終わったんだ!」
そう叫ぶと、クリードは狂ってげらげらと高笑いし始めた。あかねは蒼白になりながら両膝をつき、クレスは悔しそうに拳を地面に思い切り打ち付けた。
その横で、セラは胸に両手を当てながら、自分の中にいるディアナに呼びかけるように念じた。セラは一縷の望みを捨てようとしなかった。神の力を使えばこの惨事を止めることができるかもしれないと信じ、セラは何度も何度もディアナに救いを求めた。
「無駄だ、セシリア・リゼル・アルテリア!」
希望を打ち砕こうと、クリードはセラに向かって叫んだ。
「貴様の中にいるディアナの力は、全てゼブラが吸い尽くしている。言うならばディアナはもぬけの殻の状態だ。貴様が神の力を発揮することは不可能だ!」
「いや……まだだ」
カダルナ港の酒場でセラが神の力を発揮したときに、ラースが話していたことを思い出しながら、クレスは希望を捨てずに言った。
「神の力は、セラさん自身の想いに比例して強くなる。セラさんの想いが強ければ、きっと……ディアナは復活を遂げるはずだ!」
クレスの言葉を信じ、セラはひたすらに念じ続けた。先程ラースがクリードに喉を突き刺されて殺されたとき、傷を癒そうと念じたものの、神の力は発揮されなかった。ならば、あの時よりもっと強い想いで念じなければならないと、セラは自身に言い聞かせる。
思い返せば、これまでの自分は、皆に助けられてばかりだった。弱くて、ドジで、皆に迷惑をかけてばかりで……。そんな自分を変えたいとセラは切に願った。
そして、前まで人を傷つける力だと思っていた神の力を、セラは拒もうとしなかった。それは、同じくして神の魂を宿しながら、人を守る盾として生きることを決意したラースに、強い憧れを抱いたからだった。
――ラースさんと同じように、人を守る盾として神の力を使うことができるなら。私も大切な皆を守りたい。だからお願い、ディアナ――目を覚まして。私に力を貸して。
その時だった。セラの体から、突如として眩い強烈な光が発されたのだ。一同が息を吞む中、セラは皆を守りたいとより強く念じ続けた。
――大丈夫、ディアナは決して力尽きてなんかいない。自分の中にいるディアナに呼びかけるように、セラは声を振り絞って叫んだ。
「お願い、ディアナ……隕石を打ち砕く力を! 大切な皆を守り抜く力を!」
セラが右手を頭上に掲げる。すると、セラの想いに呼応するかのように、右手に光り輝く弓矢が出現した。それを手に取ると、セラは矢を番えて弦を引き、射った。
セラの放った光の矢は何十本もの数に分裂し、あちこちに落下していく隕石に向かって飛んで行った。光の矢が隕石に命中すると、隕石は爆発を起こして砕け散り、塵となった。
「凄い……凄いよ、セラ!」
あかねが歓喜するも、まだ全ての隕石を破壊したわけではない。息をつく間もなく、セラは二本目の光の矢を出現させ、番えて放った。光の矢は先程と同じように分裂して隕石に向かっていき、次々に隕石を破壊していった。
「まだ足りない……まだ……!」
そう自身に言い聞かせながら、セラは立て続けに光の矢を出現させ、放っていく。二十本近く放った頃には、遂にほとんどの隕石を破壊することに成功していたが、あと一つだけ、はるか上空にある一際巨大な隕石がまだ残っていた。
息を整えながら弓を下ろし、セラは最後に残った巨大な隕石を見上げる。そして、先程までと同じ矢の放ち方では、あの巨大な隕石を破壊することはできないと察した。分散させていた威力を一本の矢に集約させる必要がある――そう判断するや否や、セラは隕石に負けじと劣らない巨大な光の矢を出現させた。
光の矢を番え、弦を引こうとするも、矢が巨大すぎるが故、なかなか弦を引くことができない。自分が発揮している神の力は光の弓矢であって、自身の肉体が強化されているわけではないことをセラは思い知る。だが、だからといって矢を射るのを諦めるわけにはいかなかった。今まで自分を守るために体を張ってくれた仲間達のことを思えば――。
「うあああああああっ!」
雄叫びを上げながら、セラは渾身の力を込めて弓を引き絞る。ぶちっ、ぶちっと、右腕の筋繊維が断裂する音が聞こえる。それでも構うことなく、セラは歯を食いしばりながら弦を引き続けた。まだ粘れる、まだ頑張れると無理に自分に言い聞かせていたところ、ふっと弦を引く力が和らぐのを感じた。
疑問に思ったセラが弓矢に注目すると、竜の手が矢柄を握っているのが見えた。背後を振り向くと、上半身を竜の姿に変えたラースが、いつの間にか一緒になって光の矢を引いてくれていた。
周囲を見渡すと、気を失ったレミーと、そんな彼女を抱きかかえるアールの二人もいることに気付いた。アールを捕まえた後、自分が発した光に気付いて駆け付けて来てくれたのだと、セラは理解する。
「セラ、一緒に手を放すぞ。俺が合図するから」
ラースの呼びかけに対し、セラは真剣な表情のままこくりとうなずいた。
「いくぞ。一、二の、三!」
合図と共に、二人は一斉に手を放した。放たれた光の矢は直線に飛んでいき、はるか上空にある巨大な隕石へと向かっていく――そして、命中した。光の矢が隕石に突き刺さると、激しい轟音と共に、世界は目が眩むほどの強烈な光に包まれた。
次第に光が収まってきたところで、一同は瞑っていた目を開けた。すぐさま上空を見上げ、そして息を呑んだ。
巨大な隕石は砕け散ることなく、地上へ降り続けている。空も怒り狂ったかのように赤く染まったままだ。セラが放った渾身の一矢は、隕石を破壊するには至らなかった。そのことを知り、セラはゆっくりと迫ってくる隕石を見上げながら悔し涙を零した。
「セラ、お前はよく頑張ったよ。お前がいなかったら世界はとっくに滅亡していたはずなんだ」
ラースが宥めるも、セラはぶんぶんと首を振った。いくら他の隕石を破壊したとしても、全ての隕石を破壊しなければ意味がない――そうセラは自責した。
ラースが再び空を見上げる。そして、せせら笑うように残り続ける巨大な隕石を見つめながら唇を噛んだ。何とかしてあの隕石を破壊しなければならないが、セラの中に宿る神の力ではどうにもならなかった。ならば自分の中に宿る神の力ならどうだ? とラースは考えたが、すぐに首を振った。例え隕石を破壊できたとしても、真正面からぶつかりに行けば自分の命が保証できたものではないし、そんな危険な策に出るのを仲間達が許してくれるとは到底思えない。
恐らくは皆も同じことを考えていることだろう。いかにしてあの隕石を破壊するか――。その解決策を見出すことができないまま、今はまだ、一同は混沌とした空をただ眺め続けることしかできなかった。
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