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Walk Hand in Hand  作者: 阿瀬 ままれ
第七章 兵器としてではない生き方
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「嘘だ……認めんぞ……こんな結末……」


 復活を果たした竜の姿に腰を抜かしながら、クリードは弱々しく呟いた。


「だから言ったじゃねえですか、足元をすくわれるって」


 ずっと静観していたゼブラがクリードを見下げながら言った。


クレス達(あの連中)は、あんたが一人でここを離れたのをきっかけに、魔力を探知してこの場所に辿り着いた。あんたが余計なことさえしなければ、ここまで事態が悪化することもなかったでしょうに」

「な、何か……他に手があるんだろ? ゼブラ!」


 すがるようにクリードがゼブラの足元にしがみつくも、ゼブラは蹴り払って嘲笑いながら言った。


「仮に他の手があったとしても、もうあんたと行動を共にする理由はねえ。元々、協力するのも聖水を手に入れるまでのつもりでしたしね。これ限りで、あんたとは手を切らせてもらいまっせ」

「貴様……最初から裏切るつもりでいたな!」


 クリードの言葉を聞き、ゼブラはにやりと笑った。


「ご明察。あっしは元より生者に聖水を与えたところで何の効果もないと思っていたし、仮に不死身の体を手に入れたとしてもそれは力に直結しねえ。いずれにせよあっしの計画に何ら支障はなかったわけだ」

「貴様っ!」


 クリードが激情し、ゼブラにレイピアを向けて火球の攻撃を放った。しかし、ゼブラは全く動じることなく、魔法で鏡を作り上げてクリードの火球を反射した。跳ね返った火球はクリードに直撃し、クリードは吹き飛んだ右腕を押さえながら呻き声を上げる。


「全く哀れな人間だ。あっしとあんたとで神の力の量に歴然の差があるのを忘れているようだ」


 何かゼブラを引き止める口実はないか考えを巡らせ、クリードはゼブラから横取りした魔導書のことを思い出した。


「そ、そうだ! 魔導書はこちらの手元に……!」

「ごきげんよう」


 知ったことかと言わんばかりにゼブラは魔導書を無視した。もう不要になった、魔力の探知を妨害するバリアーを消滅させると、ゼブラは転送の魔法で瞬く間に姿を消した。


 クレスとあかねは歯噛みをした。転送の魔法で逃げられては、魔法の形跡を表示するモニターを使っての探知ができないからだ。魔力の形跡を表示するモニターでは、どこでゼブラが転送の魔法を使ったかを探知できても、どこへテレポートしたかまで探知することができない。

 困った様子であかねがレミーの方を見ると、レミーはモニターを使わず、自力で魔力の探知を始めようとしていた。転送の魔法で移動した先にまだ魔力の探知を妨害するバリアーを展開していないかもしれないという、ほんの僅かな希望だった。集中のあまり鼻血を垂らしながら、レミーは何万人という数の中、四大陸の隅々に至るまでを捜し出す。


「見つけた……!」


 そう呟くと、レミーはモニターと紙切れを取り出してクレスに託し、後を追うように転送の魔法でその場から消えた。


「……今は、レミーさんがゼブラを見つけ出しているのを祈るしかないね」


 期待を込めて言うと、クレスは取り残されたクリードの方に目を向けた。クリードはやけになり、クレス達に向けて渾身の一撃を放とうとしている最中だった。


「こうなったら、貴様らもまとめて道連れにしてやる……! 塵となって消えろ!」


 レイピアの先端に宿る火球が膨張する。一度放たれれば、洞窟の中が瞬く間に火の海に呑まれかねないほどの強大過ぎる威力に、クレス達は息を呑む。


「三人共、俺の後ろに下がっていてくれ」


 クリードの攻撃にクレス達が戦く中、口火を切ったのはラースだった。下がるよう命じると、ラースは神の力を解放し、全身を竜の鱗で覆い、攻撃を受け止める態勢に入った。

 クリードが火球を解き放つ。ラースは雄叫びを上げて突進した。そして、火球を一身に受け止めると、火球は大爆発を起こし、洞窟のあちこちに弾け散った。

 爆発が収まり、辺りが火の海と化している中、ラースは竜の鱗に覆われたまま立っていた。体のどこにも損傷はなく、後ろにいたクレス達にも怪我はなかった。ラースが竜の翼を生やして羽ばたくと、辺りに飛び散っていた炎すら鎮火し、クリードの攻撃は事実上無力化された。


「何発でも撃つって言うのなら、何発だって耐えてやる。さあ、どうする?」


 問うラースに対し、クリードは敵わないと悟り、戦意喪失したようにへなへなと座り込んだ。


「ありがとう、ラース。助かったよ」


 駆け寄って礼を言うクレスに対し、ラースもまた「礼を言うのはこっちの方だよ」と言葉を返した。


「それより、そっちの状況を確認したい。兄貴以外に加勢してくれる人間はどれだけいる? それと、さっきまでいた女の子は誰だ?」

「一つずつ話そう」


 落ち着きを取り戻しながら、クレスは答えた。


「まず、こっちの方にはジュード騎士団長とキルバード殿の二人が加勢に来てくれている。今は(クリード)を見張れるのはラースしかいない状況だけど、二人が来てくれれば奴の捕縛もどうにかなるはずだ。

 そして、さっきまでいた女性は、レミー・ガガーリンという研究員だよ。ゼブラ、もといアール・フィリスの元同僚で、アール達の追跡に色々と情報提供をしてくれた人物でもある。アールが転送の魔法で逃げた後、レミーさんが転送の魔法で姿を消して以来、行方は分からない」


 ラースは目を丸くし、そしてクレスの方に顔を向けて言った。


「つまり、そのレミーってのがアールの後を追っている可能性が高いってことか?」

「僕はそう信じている。そして、それと同時に危険な状況に置かれている可能性も高い。もしアールがクリードのように神の力を手にしていたとしたら、追いついたとしても返り討ちに遭うのは間違いないだろうから」


 ラースは、先程のクリードとゼブラのやり取りを思い出した。クリードの攻撃をゼブラが易々と跳ね返していた辺り、ゼブラの方がより強大な神の力を持っている可能性が高い。


「俺が行くしかないってわけだな。レミーがどこにいるかの手がかりは掴めてねーけど……」

「手がかりならあるよ」


 そう言って、クレスはレミーから託されたモニターと紙切れを取り出し、モニターを操作しながら交互に見た。


「レミーさんが魔法を使った形跡を捜してみる――あった。サウスのリバームルから近い所にレミーさんはいるみたいだ」


 ラースがモニターの画面を見せてもらっていたところ、程なくしてジュード騎士団長とキルバード・レインズの二人が駆けつけてきた。


「来るのが遅れちまって悪かったなあ、皆」


 最初に謝るキルバードに対し、ラースは気にしていないとばかりに首を振り、続け様に言った。


「今からこの場を逃げ出したもう一人の敵を追う。クリードの方、頼んでもいいか?」


 キルバードは目を丸くしながら言った。


「別に構わないけど……ラースくんの方は大丈夫?」

「一刻を争う状況なんだ、頼む」


 そう願い出るラースに対し、キルバードとジュード騎士団長の二人は何も問い詰めないことにした。ラースがクレスからモニターを受け取り、翼を生やして空を飛ぼうとしたとき、突然ジュード騎士団長に呼び止められた。


「死ぬなよ。必ず生きて帰って来るんだ」


 ジュード騎士団長の言葉にこくりとうなずくと、ラースは改めて空を飛び、猛スピードで洞窟を抜け出していった。




 * * *




 酒樽の破片が散乱した小さな洞窟の中で、ゼブラ――アール・フィリスは姿を現した。転送の魔法で逃げる先は既に決まっていた――ここは、バーゴ一味とつるんでいたときに使っていたアジトだ。


 事の計画は、今から数か月前に遡る。研究成果の横取りという濡れ衣を着せられ、研究所を追い出されたアールは、当てもなくアルテリア帝国をさまよい続けていた。そんなアールにも、一つだけの野心があった。宇宙飛行を研究していたときと同じ、誰にも成し得ないようなことを成し遂げたいという、強い野心である。

 そんなアールの野心をくすぶるかのような、風の噂をアールは耳にした。何でも、アルテリア帝国にある図書館の閲覧禁止の棚には、古より伝わる魔導書が残っているらしいと――。閲覧禁止の棚にあるということは、その魔導書には未知なる魔法が記されているに違いない。その中でも飛び切り難しい魔法を発動させてみせれば、自分の野心も実現できるのではないか――。そうと決まればと、アールは早速行動に移した。


 アールはまず、城下町の裏道に息を潜めていた荒くれ者のバーゴ一味と接触し、自分を売り込んだ。そして、城下町で暴れるだけ暴れた後、転送の魔法で遁ずらする作戦を持ち掛けた。バーゴ達にも概ね好評で、すぐにでも暴れ回りたいバーゴの意思の下、作戦は翌日に決行することとなった。

 翌日になり、バーゴ一味が城下町で暴れ回り出した中、アールは一人図書館へ向かい、閲覧禁止の棚を警備する図書館員を催眠の魔法で眠らせた。そして、閲覧禁止の棚を漁り、古代の魔導書を見つけ出した。外でバーゴ達が騒動を起こしていたおかげで、他の図書館員や客の注目はそちらに集まり、アールはばれることなくその場を去ることができた。

 そして、バーゴ達の暴動も度が過ぎ、アルテリア帝国の騎士達に包囲されたところで、アールは転送の魔法を使い、自身と共にバーゴ達をサウスの洞窟へと逃がした。金目の物や酒樽をいくつか盗んでいたこともあり、洞窟の中は歓喜の渦に包まれた。


 バーゴ達が宴を始めている中、アールは盗み取った魔導書の解読を始めた。そして、最難関であろう魔法を見つけ出すことに成功した。後はその呪文を唱えるだけで良い――そう考えていたアールだったが、ここで一つの問題に直面した。魔法を発動するために、必要な魔力が圧倒的に不足していたのである。解決策を見出せないまま、アールはバーゴ達の馬鹿騒ぎに付き合う羽目になった。

 時間だけが過ぎていく中、ある日、バーゴが「酒が足りない」と言い出して近くの街へ向かった。そして、戻ってきたときには憤慨した様子でいた。何でも、酒場で暴れていたところ、ラースという名の男に返り討ちにされたらしい。復讐に燃えていたバーゴは一味を連れてその街へ向かい、アールもまた争いの場に駆り出されることとなった。

 ラースは確かに強かったが、理詰めでいけば渾身の一撃をお見舞いすることくらい造作もない相手だった。予想外だったのが、ラースの加勢に来た男が人間離れした強さを持っていたことだった。男が魔法で竜巻を発生させ、アールは下手に抗うようなことをせず竜巻に敢えて巻き込まれた。


 そうして遠くの彼方まで吹き飛ばされ、バーゴとアールはバルドロス城の庭園に行き着いた。バーゴが気絶しているのをよそに、アールが陰に隠れながら見張りの騎士達の様子を探っていたところ、このような話を耳にした。


「調査部隊がディアナの居場所を突き止めたらしい」

「ディアナというのは膨大な神の力を宿した人物のことを指すそうだ」


 この噂が本当なら、そのディアナの力さえ手に入れれば、魔力不足の問題も解消されるのではないか。願ってもない、何とも都合のいい幸運――。さらに話を聞いていると、また興味深い話題が上がってきた。


「今、カーツ国王は研究員十余名を集めて、生物の複製を作る装置を開発させているらしい」


 どうにかしてバルドロス帝国に寝返る策を考えていたところ、自分の居場所を作る格好の場所を見つけた気がした。すると、城門からレイピアを腰に付けた男が現れ、見張りの騎士達は慌てて噂話を止めた。そして、騎士達はその男を「クリード騎士団長」と呼んだ。


「クリード騎士団長」


 見張りの騎士達を真似て、アールは男をそう呼びながら姿を見せた。「何者だ!」とクリードが声を荒らげると共に、アールは瞬く間に見張りの騎士達に包囲され、剣を突き付けられた。


「あっしは通りすがりの研究員でっせ。どうか、あっしの頼みを聞き入れてもらいてえ」


 そう願い出るアールだったが、当然クリードは聞く耳を持たずだった。


「殺せ!」


 クリードが命令するや否や、見張りの騎士達は一斉にアールへ突撃した。アールは全く動じることなく、右手を地面にかざして呪文を唱えた。途端、アールの周囲に稲妻が発生し、見張りの騎士達は稲妻をまともに受け、一人残らず失神して倒れた。

 呆然とするクリードに向かって、アールは落ち着き払った態度で言葉を続けた。


「バルドロス帝国が内密にしている、生物の複製を製造する装置……その開発に、あっしも携わらせてもらいやせんかね」


 クリードはしばらく呆然としていたが、やがて、騎士達を一掃したアールに興味を持ち始め、彼の要求を聞き入れることにした。


 こうして、複製製造装置の開発に参加することとなったアールだったが、アールの目的は膨大な神の力を宿す人物――ディアナただ一人だった。その力を得るために、まずは自由に行動できる場所が必要だと考えた。

 アールは、あと半年はかかるとされていた複製製造装置の開発をその日に終わらせ、国王達に他の研究員を不必要な存在だと見立てさせた。アールの思惑通りとなり、装置の開発はアール一人で十分だとカーツ国王達が判断するなり、他の研究員はクリードの手によって一人残らず斬殺された。

 そして、カーツ国王の前では従順な研究員を演じ、隙ができたところで、アールはクリードに別の計画を持ち掛けた。カーツ国王を裏切り、神の力を二人だけで強奪する計画である。そのためには自分自身の複製を製造する必要があると話すと、クリードは躊躇いもなく二つ返事で了承した。クリードもまた、野望のためならば手段を選ばない人間であることを、アールは見抜いていた。

 アルテリア帝国がバルドロス帝国の野望を察知し、バルドロス城に乗り込もうと計画を立て始めたタイミングで、アールとクリードは自分自身の複製と身をすり替え、本人達はカーツ国王がアルテリア帝国の手によって捕縛されるのを静観していた。そして、想定とは違ったものの、カーツ国王に断罪の剣が振り下ろされたタイミングで、アール達は計画を実行に移した。ディアナ――セラと一緒にいたラースを不意打ちで倒し、セラを拉致してノースの大陸にあるアジトへ逃げ込んだ。そして、アルテリア帝国で盗んだ魔導書に記された魔法の数々を駆使し、セラから神の力を強奪することに成功した。一部の神の力はクリードに奪われてしまったものの、それでも目的の魔法を発動するためには十分過ぎるほどの魔力が残っていた。


 全ては順調だった。追っ手も全員まき、目的の魔法を発動する準備は既にできていた。

 はやる気持ちを抑え、アールは魔導書から切り離した紙をローブのポケットから取り出した。目的の魔法を発動するための呪文が書き記されたページだ。一通り目を通して呪文を暗記すると、アールは紙をポケットにしまい、鼻で深く息を吸った。

 ――あとは呪文を唱えさえすれば、自分の野心は満たされる。口で息を吐くと、アールは意を決し、右手を掲げて口を開いた。最初の一行を唱えると、アールの足元に複雑な結界が現れた。一体どれほどの規模の魔法なのだろうかと、アールが期待に胸を膨らませた、その時だった。


 背後に人の気配を感じたのと同時に、アールは体を魔法の縄でがんじがらめに縛られた。アールが振り向くと、レミー・ガガーリンが鼻血を垂らしながら、自身を縛る魔法の縄を右手から発しているのが見えた。

 ここまで追ってくるなどあり得ないと最初は思った。だがすぐに、不可能ではないとアールは考えを改めた。先程までラース達と対峙していたアジトと違い、このアジトには魔力の探知を妨害するバリアーを張っていない。故に、魔力を探知する魔法で追いかけることが可能であるとアールは理解した。とはいえ、世界中の何万といる人々の中から一瞬で自分を見つけ出すなど、並大抵のことではない。それをレミーはやってのけたのだと、アールは素直に感心する。


「……あっしを止めるつもりですかい」


 冷酷な目を向けながら問うアールに対し、レミーはぽろぽろと涙を零しながら呼びかけた。


「アールさん、もう終わりにしましょう。一緒に研究所へ帰りましょう。これ以上あなたが悪に染まっていくのを見るのは耐えられない……!」


 しかし、アールの意志が変わることはなかった。掲げていた右手を魔法の縄にかざし、呪文を唱えると、レミーが渾身の力で縛っていた魔法の縄は一瞬にして打ち消されてしまった。


「あっしはあんたを殺すつもりはねえ。だが邪魔をするなら、あっしは神の力であんたに抵抗することとなる。命の保証はできやせんぜ」


 右手を突き付けながら、アールはレミーに警告する。しかしレミーは聞く耳を持たず、右手をアールに突き付け返した。

 アールが呪文を唱える。その瞬間、吹雪が吹き荒れ、アジトの中は一瞬にして銀世界と化した。レミーは火の魔法で対抗しようとしたが、呪文を唱えるまでもなく氷漬けにされ、動かなくなった。

 吹雪を止め、積もり積もった雪の中で、アールはレミーが戦闘不能となったのを見届けた。そして、目的の魔法を発動させるために、呪文を唱えるのを再開した。

 足元に現れていた結界が光り出し、アールは結界から発される強烈な光に呑まれる。このまま最後まで呪文を唱えた暁には、どんな光景が待ち受けていることだろう――そんなことを想像しながら、アールはひたすらに呪文を唱え続けた。


「アール!」


 途端、聞き覚えのある声がアールの耳を伝った。視線を向けると、竜の姿になったラースがこちらに駆けつけようとしているのが見えた。しかし、アジトの中は大量の雪で埋もれていたため、すぐに来ることは不可能だとアールは判断した。何より、あと十秒呪文を唱えれば、目的の魔法を発動することができるのだ。

 ラースが口から炎を吐き出し、辺り一帯の雪を溶かす。氷漬けになっていたレミーを抱きかかえながら、ラースは再びアールの方に注目する。レミーを地面に寝かせ、翼を生やしてアールの魔法を阻止しようと飛びかかるも、既に遅かった。

 アールの足元にある結界からどす黒い大きな光が放たれ、アジトの天井を突き破った。その反動で、アジトが轟音を立てて崩れ落ちようとしたが、アールはその場から一歩も動こうとしなかった。目的を達成した今となっては、もう命を落としてしまっても構わない――そんなことを考えながら、頭上に落ちてくる岩石を呆然と眺めていたが、ラースに左腕で抱えられ、すんでのところで直撃を免れた。アールが視線を横に向けると、ラースの右腕には気を失ったレミーが抱えられていた。

 ラースが翼を生やして飛び、崩れ落ちたアジトから間一髪で脱出した。安心したのも束の間、外の奇妙な薄暗さに異変を感じ、ラースはふと空を見上げた。そして驚愕した。


 地獄絵図だった。空は燃え盛る炎のように赤く染まり、幾多もの隕石が降り注いで来ている。中には地上近くまで迫っている隕石もあり、あちこちで衝撃波や熱風が巻き起こっていた。

 アールがラースの左腕から離れ、同じように空を見上げる。そして衝撃のあまり両膝をついた。ただ誰にも成し得ないことを成し遂げようとしただけだったのに、まさか自分の発動した魔法が世界を滅亡させる魔法だとは想像もしなかった。

 ラースは絶望した。今すぐに隕石を全て打ち砕くことは、例え神の力を使ったとしても不可能だ。こうなってはもう、ただ隕石が地上に落下するのを黙って見ていることしかできない――そう諦めかけたときだった。


 突如、北の彼方から強大な光が発され、無数の矢となって隕石に向かって放たれた。光の矢が隕石に命中すると、隕石は空中で爆発を起こし、次々に砕け散って塵となった。

 何事かと最初に思った。そして、自分のものとは別の神の力が解放されているのだとラースは察した。誰が解放しているのかは言うまでもない――あの強大な光は、カダルナ港でラースが見たものと全く同じものだ。


「セラ――!」

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