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Walk Hand in Hand  作者: 阿瀬 ままれ
第七章 兵器としてではない生き方
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 ラースは神に歩み寄ろうとしたが、途中で神の攻撃により阻まれた。鎖で繋がれた不自由な状態でありながら、やはり神の意思は変わっていないようだ。ラースの足元から液体のようなものが現れ、もぞもぞとラースの体中へ這い巡っていく。


「何で俺を殺そうとする……?」


 神の攻撃を堪えながら、ラースは神に尋ねた。


「ユピテルの暴挙がいつ始まってもおかしくないからだ。俺は、一刻も早くユピテルの暴挙を止めなければならん」


 攻撃の手を緩めることなく、神は言葉を続けた。


「俺は天上界から見ていた。数百年前、ユノが下界へ降り立ったとき、器となった男はユノの魂を拒み続けていた。お前も同じように俺の魂を拒むのなら、いっそお前の魂を潰し、器を乗っ取る方が手っ取り早い。下界を守るために犠牲になれ、人間──」


 全身に覆い被さった液体が体内に入り込み、ラースは溶けるような痛みを覚えた。だがそれでも、ラースは痛みに耐え、血反吐を吐きながら歩み続け、叫んだ。


「あんたが何か困っているって言うなら、俺はあんたに協力する……! だからお願いだ、話し合いをさせてくれ……! 俺はあんたを拒みはしないって、どうか分かってくれ……!」


 立ち止まらずに歩み寄ってくるラースを見て、神は動揺を隠せなかった。少なくとも、神は攻撃をさらに強めようと考えはしなかった。ラースの懸命な呼びかけは、例えほんの僅かでも、神の胸に届いていた。


「なぜそこまで、頑なに俺の魂を受け入れようとする? 俺の力を欲しているだけなんじゃないのか?」


 神が問うと、ラースは足を止めることなく言った。


「それもある……あんたの力を借りなければ、俺の仲間を救い出せない……。だがそれを除けば、俺にとってあんたの力は人を傷付ける兵器としか思えなかった……。そんな考えで拒み続けるのは駄目だって、今ようやく気付けたんだ……。俺はあんたの力を、人を守る盾として受け入れたい……!」


 辛うじて神の攻撃を堪え続けていたラースだったが、とうとう我慢の限界が近づき、地面に片膝をついて動かなくなった。

 あとほんの少しでも攻撃を続けていれば、ラースの魂を潰し、ラースの器を我が物とすることができる。だが、神にはそのもう一押しをすることができなかった。ここまで強く共生を望んでいながら死にゆくのが、あまりにも哀れだと思えたからだった。


「立とうとするな、もう十分だ……」


 神は攻撃を止め、再び立ち上がろうと歯を食いしばるラースを制止した。全身の激痛が治まって気が抜けたのか、ラースはうつ伏せにどさりと倒れ込んだ。


「人間よ。俺の魂を受け入れたいというのであれば、まずは俺の事情を聴いてもらう必要がある。そこで休みながらでも聴くといい」


 倒れたままのラースに向かって、神は言った。ラースはぜいぜいと息を切らしながらうなずいた。


「まずは、天上界で起こったことを話してやろう。俺達の住む世界(天上界)お前達の住む世界(下界)に挟まれた次元の狭間を監視するために、俺とディアナとユピテル、三人の神が立ち会ったときのことだ。下界で悪事を働いた者が死ぬと、魂が次元の狭間へと迷い込むのは知っているか?」


 ラースは顔だけを上げて答えた。


「知ってる……。その魂が怨念となって、次元の狭間を突き破ってくることがあるってのも……」

「なら話が早いな」


 神は鼻で一息ついて言った。


「今回も数百年ぶりに、愚者の魂が次元の狭間を突き破って現れた。愚者の魂は暴れ回ったが、抑止すること自体は造作もなかった。他の神を呼び集めるまでもなく、俺達は愚者の魂を次元の狭間へと追い返した。

 後は突き破られた次元の狭間への入り口が自然と閉じていくのを見届ければ良かったんだが……その時にユピテルが言ったんだ。『この時を待ちわびていた。下界の人間共を消し去る絶好の機会を』とな。そして、俺とディアナに雷の魔法を放ってきた。俺は瞬時にかわし、ディアナはバリアーを張って防いだが、足止めをするには十分な一撃だった。俺達が体勢を整えている間に、ユピテルは閉じかけていた次元の狭間への入り口に入り込んでいった。

 ディアナは転送の魔法でワープして後を追い、俺は既に閉じかかっていた入り口を無理やりこじ開けて次元の狭間へ入っていった。それから、ユピテルとディアナがどうなったのかは分からない。次元の狭間をこじ開けた反動で深手を負った俺は、為す術もなく次元の狭間をさまよい続けた。そして、次元の狭間の出口を見つけたんだ。恐らくはユピテルが切り開いたものだろう。出口を通り抜けると、俺は下界へと辿り着いた。その瞬間、俺はユノと同じように魂だけの存在となり、人間の体の中へ吸い寄せられていった」

「それが、俺の体……」

「そうだ。まだ幼児だったお前の体に、俺の魂は吸い込まれていったんだ」


 神は話を続けた。


「俺はユノのように不死身の体を持っていない。自己回復もままならないまま、俺は足掻き、気絶していたお前の体を乗っ取った。だが、無駄だった。お前の父親に鳩尾を殴られ、俺は呆気なく力尽きた。それからずっと、俺はお前の体の中で傷が癒えるのを待ち続けることになった」


 ラースは合点がいった。セラに神の力を扱えて、自分が神の力を扱えなかったのは、神自身が深手を負っていて、その傷が自然治癒するまで時間がかかっていたからなのだ。


「……これで、俺の話せることは全て話した。さっきも言ったが、次元の狭間へ入り込んでから、ユピテルとディアナがどこにいるのか分からない。それでも協力し得ると言えるのか、人間?」


 ラースはこくりとうなずいて言った。


「俺の仲間に、ディアナの魂を宿した人間がいる……。その仲間が今、悪い奴らにさらわれているんだ……。仲間の命が惜しければ、ウェストにある聖水を持って来いって……」


 神は失意のあまりため息をついた。


「神が人間に翻弄されるとは、何とも虚しい限りだな。ユピテルが人間達を滅ぼそうとしているのを知っていながら、今まで何もできずにいた俺も大概だが――」


 神は首を振り、言葉を続けた。


「話が逸れたな。そのウェストにある聖水ってのは、ユノの力によって生み出されるもののことだろう。不死身の能力も持っているから、ユノの魂を宿した人間がまだウェストで生きながらえている可能性が高い。その人間と接触すればいいということだな?」

「ああ。現状、それしか仲間を救い出す方法がない……」


 ラースが答えると、神はうなずき、質問を続けた。


「ディアナの方は分かった。ではユピテルの方はどうだ?」


 ラースは視線を落としながら答えた。


「そっちの神は、どこにいるのか分からない。名前すら聞くのも初めてだ……」

「そうか」


 神は怪訝な顔を浮かべた。


「そもそも、俺の傷が癒えるまで、十年はくだらないだけの猶予がユピテルにはあったはずだ。その間ユピテルは何をしていたんだ? その気になれば、俺達を差し置いて人間達を滅ぼすことだってできたはずだ」


 ラースは憶測で言葉を返した。


「今のあんたと同じように、自分の意思で神の力を使うことができなかったからじゃないか? あるいは、ユピテルの魂を宿した人間が、良識のある人間だったとか……」

「……考えるだけ埒が明かなさそうだな」


 神は肩を落として言った。


「今となっては、お前の推測通りであることを願うしかない。まずはディアナの魂を宿した人間を救い出すことが先決だな」


 体中の痛みが大分治まり、ラースは口にこびりついた血を腕で拭いながら、よろよろと立ち上がった。


「あんたの力を借りるために、俺は今から何をすればいい?」


 神は体中を縛り付けている鎖に目を向けながら言った。


「この鎖を外してくれ。この鎖さえ無くなれば、俺の魂は自由の身となるはずだ」


 ラースはうなずき、躊躇いなく神に歩み寄り、鎖外しに取り掛かった。


「……少しくらい疑ったりはしないのか? 俺の魂が解放された後に、今度こそお前の体を乗っ取ろうとすることだってあり得るんだぞ?」


 怪訝そうに尋ねる神に対し、ラースは鎖外しの手を止めることなく答えた。


「本当にそんなことを考えているなら、手の内を明かすような真似はしないだろ。それに、あんたは俺を信じて事情を話してくれた。それだけでも信頼するには十分だ」


 呆然とする神を尻目に、ラースは鎖外しを続けた。がんじがらめに縛られた鎖を一本一本丁寧に外し、ラースは鎖から神を解放した。

 神は礼を言おうとしたが、ここで予想外の出来事が起こった。神から外した何本もの鎖が独りでに動き出し、突然ラースの目の前に集まったのだ。鎖が全部集まると、次に鎖から眩い光が放たれ、ラース達は目を覆った。

 光が収まり、ラースが再び前を見ると、何本もの鎖は別の姿に変わっていた。その姿を見て、ラースは驚愕した。癖毛のあるロングで、ラースと同じ青い目をした女性――ラースの目の前には、十五年前の戦争で死んだはずの母が立っていた。


「何で母さんがここに……?」


 すかさずラースが問うと、母は神を睨み付けながら答えた。


「そこの神様がラースに乱暴をしないよう、死んで魂だけの存在になってでも神様を魔法で封印し続けていたの。私一人だけの魔力じゃ不安だったけど、それなりに効果があったみたい。ここ最近になって、どうやらまた暴れ始めていたみたいだけど……」


 ばつの悪そうな顔をする神を見かねて、ラースは慌てて仲裁に入った。


「もう大丈夫だよ。この神も事情を話してくれたし、今は協力関係にあるんだ。これ以上俺を襲うような真似はしない」


 母がラースに柔和な顔を向けて言った。


「うん、知ってる。だからこそ、私の封印をラース自身が解いたのよね」


 母の言葉を聞き、ラースは神を縛っていた鎖が母の魔法によるものであることを理解した。自分の気付かない所で、母は十五年もの間、自分のことを守ってくれていたのだ。


「母さん、俺……」


 久しぶりの再会に、ラースは何か言葉にしようとしたが、すぐにできなかった。それどころか、自分が人を殺したときの記憶が脳裏に蘇り、ラースの目からぽろぽろと涙が零れ落ちた。


「ごめん、母さん。俺、人を殺したんだ。それが世界平和のためになると思って、何人もの人をこの手で斬り殺してしまった」


 母は目を丸くした。そしてしばらく黙り込んだ。見放されて当然のことをしたと思い、ラースもまた黙りこくっていたが、母は歩み寄り、労わるようにぎゅっとラースを抱き締め、頭を撫でた。


「母さん……俺を軽蔑しないのか?」


 呆然としながら問うラースに対し、母は首を横に振った。


「私とルークの子だもの、悪意があってやったはずがないわ」


 涙ぐむラースの肩に手を置き、母は目を合わせながら言った。


「その代わり、罪はちゃんと償うこと。それと、自分を決して見失わないこと。ラースは良い子なんだから、しっかり胸を張っていなさい。いいわね?」


 ラースがうなずくと、母はまた柔和な笑みを浮かべた。

 途端、母が輝き始め、ふわりふわりと宙に浮いた。神の封印を解いた今、まるで魂が行き場を失ってしまったかのようだった。


「そろそろお別れみたいね……」


 これ以上ラースの精神に留まれないのを察したのか、母は名残惜しそうに言った。


「クレスに会ってあげられなくてごめんねって伝えてね。それと、私が昔によく言ってた言葉、覚えてる?」


 ラースは当然とばかりにうなずいた。


「どんな人にも手を差し伸べれるような、優しい人になれ――だよな」

「正解!」


 母は手でオーケーサインを送った。煌めく光となって消えゆく母を、ラースは涙ながらに見届けた。

 母の姿が完全に見えなくなると、ラースは腕でごしごしと涙を拭き、神の方を振り向いて言った。


「名前、教えてくれないか? 俺はラースって言うんだ」


 名乗り返すのと同時に、神は先程言いそびれた礼を次こそ言った。


「俺の名はマーズだ。ラース、俺の封印を解いてくれたこと、恩に着るぞ」

「そういう生き方をしろって、教わってきたからな」


 ラースはにっと笑い、神――マーズに握手を求めるように手を差し出した。


「それは手を差し伸べているつもりか? まあいい」


 マーズは鼻で笑い、ラースの手を強く握った。


「ディアナの救出とユピテルの捜索のために、俺はあんたに協力することを誓うよ」

「律儀な物言いはよせ、むず痒くなる」


 呆れたように言葉を返すマーズに対し、ラースは「悪かったな」と言ってまた笑った。




 これ以上眠り続ける理由はないと思った途端、ラースは丁度よく目を覚ました。それと同時に、ラースの喉元に小刀が近付けられ、ラースは目を丸くした。そういえば、神に体を乗っ取られたらすぐに殺せとりんに頼んでいたのを思い出し、ラースは警戒心を剥き出しにしているりんを落ち着かせるように言った。


「大丈夫だ、りん。神と和解できたから、もう体を乗っ取られることはない」


 その一言を聞いて、りんもラースが無事であると理解してくれたようだ。手にしていた小刀をラースの首元から離して鞘に納めると、りんは突然ラースを抱き締めながら言った。


「……無事でよかった」

「大げさだよ」


 照れ隠しをしながら、ラースはりんの抱擁をそっと離した。そして、マーズが話してくれた事情をりんにも打ち明けた。


「どうやら、ユピテルって神が人間達を滅ぼそうとこの世界にやって来ているらしい。それを止めようと、マーズとディアナ、二人の神も一緒にこの世界へ降り立ったそうだ。その時に魂だけの存在となったマーズが俺の体に、ディアナがセラの体に吸い寄せられたらしい」

「ということは、セラちゃんを救い出すのと、ディアナを救い出すのとで、互いに利害が一致したということ?」

「そうなるな。結局、ユピテルがどこにいるのかは分からず仕舞いだったけど……」

「ひとまずは、目の前の問題を解決することにしたのね」


 りんは納得したようにうなずいた。


「セラを助けるためにウェストの聖水を持って来いって脅されているのも、マーズには話している。まずは俺一人でウェストに向かうよ。そして、ユノの魂を宿すリックに会って、聖水を貰えないかって相談してみる」

「分かったわ。その間、私は――少しだけ寝させてもらうわ」


 何時間も起き続けて眠気が限界に達していたのか、りんはごろんと横になった。


「ずっと俺に付き合ってくれてありがとな。ゆっくり休んでいてくれ」


 ラースの言葉に無言のままうなずくと、りんはすうすうと寝息を立て始めた。


 ラースが屋根裏部屋から下を覗き込むと、窓から日光が差し込み、既に朝を迎えていることに気付いた。梯子を降りて一階に向かうと、既に起きていた老人と鉢合わせた。


「もう起きていたんだね?」

「こっちの台詞」


 鉢合わせたのが意外だったあまり、二人は何だかおかしく思えて失笑した。


「私はこれから羊の放牧に向かうところだ。ラース君も何か用事でもあるのかい? それとも朝食を先に作ろうか?」


 ラースは首を振った。


「いや、すぐにでもウェストの大陸に向かうつもりだ。リックに会って、聖水を貰えないか相談してみる」


 老人は目を丸くした。


「ということは、君の中に宿る神とも話がついたのかい?」

「ああ。何度か殺そうとしてきた神だけど、今は互いに事情を話し合って、協力関係にあるんだ。神の力を使えるかどうかは、これから試してみるつもりだ」


 老人はほっと胸を撫で下ろした。


「いやはや、それは良かった。君の中で、神の力との向き合い方に結論が出たというわけだね」

「ああ。人を守るための盾になるって決めたんだ」


 ラースはにっと笑って言った。




 まずは老人が先に家を出て、牧舎から羊を放しながら辺りを警戒した。騎士がいないことを知ると、老人は家へ戻り、ラースに外へ出ても構わないと伝えた。

 そして、ラースは老人の家を後にした。防寒着が必要なほどの寒さではなかったが、外はひんやりとした風が流れていた。


「さて、どうしたものか」


 外で突っ立ったまま、ラースはどのように神の力を引き出すか考えた。ネムヘブルの村長が言っていた言葉に倣うなら、神の力は使用者の想いに比例して強くなる。ならば、まずは神の力を使いたいと念じることから始めようと考えた。

 少し念じただけで、見違えるほどの変化が現れた。砂塵が吹き荒れ、全身にマーズと同じ古風な兵士の姿を形取ったオーラをまとった。

 背中にはマントがあり、これで空を飛ぶのかなとラースは思ったが、その予想は大きく外れた――空を飛ぼうと念じると、背中から巨大な翼が生えた。それも天使のような羽翼ではなく、コウモリのように飛膜のある翼だった。いや、全身を覆えるほどの巨大なこの翼は、どちらかと言うとドラゴンと呼ぶのが正しいだろうか?


「早く行った方がいいよ、もし騎士や他の人の目に留まったりしたら大変だ」


 老人の警告でラースは我に返った。老人に礼を言うと、ラースは翼をばさりと広げて上空へ飛び立った。

 地平線に朝日が輝く綺麗な空だったはずが、滑空しながらウェストの大陸に到着した途端、全く別の光景へと変わった。雨雲に覆われ、空を飛ぶラースを打ち落とそうと沢山の雷が襲い掛かってきた。

 確かに生身の人間が踏み入ったら返り討ちにされていることだろう。だが、神の力を持っているラースにとってはむしろ生温い攻撃だった。翼を駆使して雷を華麗にかわしていきながら、ラースはウェストの大陸を見下ろした。

 リバームルで黒マントの男から聞いた話によれば、ウェストの大陸には聖なる洞穴が存在するらしい。洞穴が見つかるまで空を飛び続けようとした矢先、突然相手の方から反応があった。


「お前、神の力を持っているのか?」


 話しかけてきているというより、テレパシーか何かで直接脳に響いてくるかのようだった。こちらからも何か言えば、相手に伝えることができるのだろうか? ラースは試しに大声で叫んだ。


「ああ、持ってる! マーズという神の魂を宿している!」


 ラースの叫び声は、どうやら相手の耳に届いたようだ。相手の神の力による落雷の攻撃が途絶えるのと同時に、相手からのテレパシーがまた響いてきた。


「光の柱で俺の居場所を記す。そこへまっすぐ向かって来てほしい。十五年前に、ユピテルの魂を宿した男が俺のいる所へやって来たんだ」

「ユピテルだって?」


 ラースは目を丸くした。次第に雨雲が晴れ、ラースは遠くまで景色を見渡せるようになった。相手――恐らくはリックが魔法で天候を操作し続けていたのか、ウェストの大陸は草一本生えない荒野と化していた。

 そんな荒野の中で周囲を見通してみると、相手が言っていた通り、遠くに光の柱が立っているのが見えた。一目散に飛んで向かうと、下り階段になっている洞穴の入り口が見えてきた。自身の周囲は魔法で天候を操らなかったのか、洞穴の入り口の付近には草花が生い茂っていた。ラースが地面に降り立って洞穴の入り口に到着した途端、光の柱はふっと消えてなくなった。


 ドラゴンの翼を消しながら洞穴の入り口へと入っていくのと同時に、ラースの中で一つの疑問が芽生えた。ウェストの大陸でリックが聖水を作り、人間達を追い払うために神の力で天候を操るまでのところは、ルクラーカ村の老人も知っていた。だが、リックが洞穴の中で生活しているところまでは、あの老人も知らなかった。それをなぜ黒マントの男が知り得ていたのだろうか?

 もし彼が二大帝国に関係する人間で、リックが洞穴のことを二大帝国の王に話していたとなれば、まだ説明がつく。だがもし二大帝国の王にもそのことを話していなかったとなれば、自分の目で確かめるしか知り得る方法がない。しかも、ユノの力によって人間達が追い払われていたとなれば、自分の目で確かめられる人物は限られてくる――神の力を有している人物に絞られる。

 黒マントの男は、聖なる洞穴のことを、とある男から聞いた話だと言っていた。その男が何者なのか、ラースは何となく分かった気がした。

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