七※
アルテリア帝国騎士団に、ルーク・オルディオという人物がいた。妻のリア、そして二人の息子クレスとラースの四人で、アルテリア帝国の城下町で暮らしていた。
そのルーク・オルディオが、突然家族全員を連れてアルテリア城へ押しかけ、当時の騎士団長であるクロム・マクシードのところへやって来た。話を聞くと、ルークの腕の中で眠っているラースが、突然ドラゴンの姿に化けたというのだ。今は大丈夫なのかと問うと、無理やり気絶させてからしばらくは安静にしているとルークが答えた。
ただ事ではないと思い、クロムはルークの家族を来賓室に匿い、ルークと共に国王の下へ相談に向かった。一通りの話を聞くと、当時の国王であるセルドアは深刻な顔を浮かべながら言った。
「クロムよ、その子には神の力が宿っている可能性が高い」
「神の力……ですか?」
セルドア国王は、数百年前に起こった出来事について話し始めた。アルテリア帝国とバルドロス帝国が戦争を繰り返し続けていた時代に、神の力を持った人物が、戦争中にイーストの大陸を断ち切って戦争を止めさせた。そして、両国の王に戦争を終わらせるよう願い出て、戦争を終結させるに至ったという。
そして、セルドア国王はルークに、ラースがドラゴンに豹変したときの様子を尋ねた。まるで人格が変わったかのように暴力的で、子供とは思えないほどに腕力も上がっていたという。鳩尾に拳をめり込ませたら元の姿に戻ったが、ドラゴンの姿がしばらく続いていたら、倒されていたのはこちらの方だったかもしれないとルークは答えた。人のものとは思えぬ強大な力はまさしく神の魂によるものだと、セルドア国王は確信した。
数百年前の戦争は終結したが、バルドロス帝国はその後神の魂を宿す者がどこにいるか密かに探るなどして、力の悪用を企んでいるようだ。故にバルドロス帝国にだけは神の魂を宿す者の存在を知られてはならぬ。早めに手を打つべきだとセルドア国王は警告する。その上でルーク達を気遣い、最終的な判断はルーク達に委ねることにした。ルークはすぐに決断することができず、国王に「妻と話し合う時間を頂きたい」と申し出て、国王はこれを了承した。
翌朝、ルークと妻のリアは苦渋の末、リアが息子二人を引き取り、半永久的にルークと別居する決断をした。アルテリア帝国には騎士であるルークだけが残り、リア達三人はリアの故郷であるサウスの田舎村ゴンガノで暮らすこととなった。
決断の際には、セルドア国王とクロム騎士団長、そしてマリー王妃、その娘のミーティア、婿のシオンが立ち会った。シオンの腕の中には、セルドア国王の孫にあたるセシリアがすやすやと眠っていた。ルークは自分達の決断を真っ先にセルドア国王に伝えたが、それを聞いたセルドア国王は難色を示した。
「お主らを追い詰めるつもりはないのだが、アルテリア帝国に住んでいたという記憶は、神の力を宿す者の存在を突き止められる足掛かりになるやもしれぬ。せめて、子供達の記憶だけでも忘却の魔法で消すべきだ」
「あなた、何もそのような惨いことを……」
ルーク達を憐れみ、異議を唱えるマリー王妃だったが、セルドア国王は譲れないとばかりに首を振った。
「今や、どこにバルドロス帝国の手先が潜んでいるか分からぬ状況なのだ。どうか理解し、聞き入れてほしい。あの子を守り抜くためだ」
ルークは感情を押し殺して黙り込み、セルドア国王の提案を受け入れるつもりでいた。しかし、一方のリアは度重なる悲運に打ちひしがれ、ぽろぽろと涙を零しながら立ち尽くしてしまった。絶望し切ったその姿があまりにも不憫で、ミーティアは思わずリアを抱き締めた。
「リア。どれだけ先になるか分からないけど、あなたたちがまた一緒に暮らせる世界をいつか必ず実現するわ。だから、それまでどうか待ってて……」
涙ながらに訴えるミーティアを抱き締め返し、リアはむせび泣きながらこくりとうなずいた。王子も決然たる顔で和平を誓い、ルークは二人に深々と頭を下げて礼を言った。
雲隠れの計画は、日が暮れぬうちに決行された。城内で遊び疲れ、いつもの時間に昼寝を始めたラース達に、魔法使いの騎士数人がかりで、脳にメスを入れるかの如く慎重に忘却の魔法をかけていった。
王家の者達やクロム騎士団長にも見守られる中、三十分ほど経過したころだろうか、騎士達が忘却の措置を無事に終えると、ルーク達は間もなく別れを余儀なくされた。ルークは熟睡している子供達の耳にそっと別れを告げ、リアとも最後の口付けを交わした。付き添いの騎士によって子供達が抱き抱えられ、家族の姿は騎士達と共に、魔法によって一瞬にして消えた。
それから、一年ほどの時が流れた。セルドア国王の策は功を奏したようで、ルークが家族と離ればなれになってから、バルドロス帝国が神の魂を宿す者の存在に感付くことはなかった。セルドア国王達は文通すら禁じられているルーク達のことを心配したが、家族を信じている故か、ルークは精力的に任務をこなしており、リア達の方も一年ぶりに視察に向かわせた兵から無事であると報告を受け、安堵した。そして、悲劇に見舞われたルーク達を一秒でも早く再会させようと、国王達もまた国政に精を尽くした。
このまま何事も起こらないことを願ったが、そんな国王達アルテリア帝国を再び悲劇が襲った。しかも皮肉なことに、一年前と全く同じ悲劇が国王達に降りかかったのである。
事態に逸早く気付いたのはクロム騎士団長だった。城の玄関ホールに飾られた異国の花々を鑑賞しているセシリア王女と教育係の執事の護衛に就いていたときの出来事だった。色取りどりに咲き誇る中、セシリア王女はふと、枯れて萎れた一輪の花を見つけた。セシリア王女が労わるように手を取ると、突然彼女の手から枯れた花を包み込むほどの眩い光が発された。そして光が収まったときには、枯れていた花はすっかり元気になり、元の可憐さを取り戻してしまっていたのである。
クロム騎士団長が一部始終をセルドア国王に報告すると、セルドア国王は事の重大さに気付き、みるみる血の気を失った。人間の怪我を治すならともかく、植物に活力を与えるような魔法はこの世に存在しない。それを呪文を唱えることなく扱ったとなると、セシリアが発動した力が神の魂によるものだと結びつけるのは難しいことではない。ルーク・オルディオの息子にも神の力が宿ったというのが記憶に新しかったこともあり、なおさらだった。
すぐさまセシリア王女の個室に向かうと、セルドア国王達は、執事の絵本の読み聞かせを聞いていたセシリア王女に恐るおそる尋ねた。
「何か、眠りについているときに変わったことは起きたりしていないかい?」
少し悩んだ後、セシリアは無垢な笑顔を浮かべてはきはきと答えた。
「『ディアナ』とはなしてる! すごくきれーで、ふしぎなおねーさん!」
セシリアの返答を聞き、セルドア国王は深く絶望した。数百年前に同じくして神の魂が宿った人物の遺した記録によると、神というのは眠っているとき――つまり、自身の精神に意識が向いているときにしか姿を拝むことができないらしい。ほぼ間違いなく黒と受け取れる発言だったが、どうしても信じたくない気持ちが勝り、セルドア国王は諦めきれずに質問を重ねた。
「その『ディアナ』さんとはどのくらい前から出会ったか、覚えているかい? 夢の中だけでなく、起きているときにも会ったということは?」
しかし、それらの質問は、セシリア王女にも神の魂が宿ったという事実を裏付ける結果にしかならなかった。夢の中以外で会ったということは一度もなく、最初に出会ったのはルーク・オルディオの息子に神の魂が宿った時期と同じ、一年くらい前だと……。とうとう真実として認識するのと同時に、家族の身が危険に晒されることがどれほど辛いものであるのか、セルドア国王はこの時初めて痛感した。
「厳しい言葉になるやもしれぬが」
きょとんとしているセシリアに、セルドア国王は深刻な顔を浮かべて言った。
「その者はセシリアにとって、いずれ危険な存在となり得る。次に会ったときに、もう二度と姿を見せないでほしいと、そうわしから言いつけられたと伝えてほしいのだ。お主の身を守るためだということを分かっておくれ」
それは、一年前に同じ事件が起こってから、セルドア国王が城に遺された文献を漁り、神について調べ上げ、彼なりに考案した数少ない対策の一つだった。
文献によると、数百年前に神の魂が宿った人物は、眠りについた際に神と対話し、意思疎通を取ることが出来ていたらしい。具体的にどういった話をしていたのかまでは記されていなかったが、少なくとも、相手がもし理解のある神であれば、どれだけ面と向かっても神に危害を加えられることはないようだった。
もしそうならば、そして夢の中でセシリアと良好な関係を築いてくれているこの神であれば、自分の切実なる頼みを聞き入れてくれるやもしれぬ――。藁にも縋る思いだったが、まともに孫娘を守ってあげられる方法が、ルークの家族のように雲隠れさせるくらいしか他になく、セルドア国王は嫌がって駄々をこねるセシリアに何度も懇願し、やっとの思いで承諾させた。
その後、セルドア国王はクロム騎士団長を連れて私室に戻り、早急に王族の者達を招集した。ミーティア王女だけは娘のセシリアの昼寝に付き添うため、席を外させてもらった。
一同が集まるなり、セルドア国王は書類が積み重なった机の前に座り、そしてセシリアにも降りかかった不幸について打ち明けた。そして、セシリアを守るための策を募ったが、かつてルーク達が実践した策以外に納得できる良案が浮かばず、セルドア国王は困憊し切った様子で頭を抱えた。マリー王妃は号泣し、シオン王子とクロム騎士団長は力になれない不甲斐なさでうつむくばかりだった。
進展がないまま時間だけが過ぎていく中、セルドア国王は重いため息をつき、声を上げた。
「……少しばかり休憩にしよう。根を詰めてばかりいても仕方ない。誰か、皆に紅茶でも持って来てはくれぬか?」
返事と共に部屋の扉から現れたのは、セシリアの教育係を務めていた執事だった。ミーティア王女が代わりに世話をしに行ったので、今の間だけ手隙になってしまったのだろう。そして、国王の身の回りの世話にも慣れているのか、セルドア国王の呼びかけを聞くと、執事は速やかにポットとティーカップを乗せたカートを運び、カップに紅茶を注ぎ入れて国王達に差し出した。
茶葉の上品な香りを味わい、まずはセルドア国王が一口。よほど気を静めたかったのか、セルドア国王は誰よりも早く紅茶を口にした。マリー王妃は立ち上がる気力すら失い、とても喉に通りそうにないと言って遠慮した。
セルドア国王に続いて、シオン王子とクロム騎士団長も紅茶を飲もうとカップを持ち上げたとき――突然、パリンとガラスの砕ける音が部屋中に鳴り響いた。一同が振り向くと、セルドア国王がティーカップを取り落とし、口から紅茶を垂らして喉を押さえながら呻いていた。
セルドア国王は足掻き、悶え、書類を散乱させながら机に突っ伏し、そして、二度、三度と机一面に血を吐き出した。それを最期に、セルドア国王は血だらけになった机に頬をつけたまま、白目を向いて動かなくなった。
マリー王妃は悲鳴を上げ、シオン王子とクロム騎士団長は息を呑み、そして執事は――笑っていた。皆が動転している間に、執事はすぐさま次の行動に出た。ポケットに隠していたナイフを取り出して構え、突進し、マリー王妃の喉元に深く突き刺した。傷穴から噴水のように血を噴き出しながら、マリー王妃は石になったかのようにごとりと倒れ、ひくひくと痙攣した。
執事がシオン国王に狙いを定める――しかしここで、平静を取り戻したクロム騎士団長の剣に阻まれ、執事は手にしていたナイフを弾き飛ばされた。執事がナイフを拾い上げる前に、クロム騎士団長は執事の頭を掴んで床に叩き付け、馬乗りになって取り押さえた。そして、まだ生存しているシオン王子に向かって叫んだ。
「その紅茶を飲んでは駄目だ!」
クロム騎士団長の警告を聞き、シオン王子はつい先程まで飲もうとしていた紅茶のカップに目を向けた。そして、執事の手によって毒が盛られていたことに気付くと、シオン王子は汚らわしいとばかりにカップを床へ投げ捨てた。
「セルドア国王! マリー王妃!」
シオン王子が慌てて二人の下へ駆け寄り、体を揺すって呼びかけるも、二人はぴくりとも反応を示さない――即死していた。シオン王子が無念のあまり泣き崩れる一方、クロム騎士団長は憎悪を剥き出しにし、うつ伏せになっている執事の首に剣を突き付けながら怒鳴り声を上げた。
「貴様……バルドロス帝国に内通していたんだな? セシリア様に神の力が宿っていたことを先に知っていながら、バルドロス帝国に密告するために隠し通す気でいたな?」
執事は何も答えようとしなかった。気が狂ったかのように高笑いを上げたかと思うと、次の瞬間、ぶちっと、背筋が凍るほどの生々しい音が響いた。執事が自身の処刑を悟り、舌を噛み千切る音だった。口からぼたぼたと血を零し、執事は狂気の笑みを浮かべたまま絶命した。
矢継ぎ早に起こった不測の事態に立ち竦むシオン王子だったが、ふとあることを思い出し、クロム騎士団長へ命じた。
「ミーティアとセシリアの様子を見てくる。クロム騎士団長は他に人が入らぬよう、ここで見張っていてくれ!」
そう言うや否や、シオン王子は剣を抜きながら部屋を飛び出していった。
セルドア国王とマリー王妃の見るも無残な姿と、執事の勝ち誇った顔を浮かべながらの死に様を交互に見ながら、クロム騎士団長はこれらが何を意味するのかを推測した。孫娘のセシリアに神の力が宿っていると判明して間もなくの、王族の暗殺。間諜だったこの執事は、既にバルドロス帝国への密告を始めていたのだろう。そして、このような大胆な手段に踏み切ったということは、もう隠し通す必要がなくなったということ――密告を済ませてしまっていたということに他ならない。
バルドロス帝国が裏で世界征服を目論む危険な連中だというのは、クロム騎士団長も王家の者から何度か聞かされていた。もし、神の魂に関する情報をバルドロス帝国も覚えていれば、連中にとって神の魂を宿す者は喉から手が出るほど欲しい存在となるに違いない。
そして、クロム騎士団長は一つの結論に行き着いた。――戦争が始まる。今の混乱に乗じ、バルドロス帝国は総動員してアルテリア帝国を攻め落としにかかり、神の魂を宿す者を強奪しようとしてくるだろう。間諜が密告していたことを考えると、バルドロス帝国が戦争を起こす前に兵を増強した可能性だってある。
いざ戦争が始まってしまったとき、自分達は何をするのが最善なのか考えていたところ、シオン王子がミーティア王女とセシリアを連れて戻ってきた。どうやら彼女達の方は無事だったようだ。
「ミーティア、国王と王妃の亡骸はこの先だ。セシリアは私が預かる」
そう言って、シオン王子がミーティア王女の腕からセシリアを持ち上げ、抱き寄せた。ミーティア王女は信じられないといった様子だったが、そろりと部屋の中に入っていき、そして二人の無残な姿を目の当たりにして、血溜まりに両膝を突きながらおいおいと泣き崩れた。
「クロム騎士団長。この後何が起こるか、あなたなら察しがついているんじゃないか?」
シオン王子がクロム騎士団長に尋ねた。クロム騎士団長は深刻な顔つきで答えた。
「ほぼ間違いなく、バルドロス帝国が攻め入ってくるでしょう。神の魂が宿るセシリア様を強奪するために」
「ああ」
シオン王子は落ち着き払った様子で言った。というよりは、これからさらに降りかかる悲劇に立ち向かう覚悟を既に決めているかのようだった。
「何か策があるのですか?」
クロム騎士団長が問うと、シオン王子は決然たる顔のまま答えた。
「セシリアを何としても死守する。これから忘却の魔法をかけ、バルドロス帝国が押し寄せる前に、どこか遠い田舎へ存在を隠す。それは恐らくあなたの役目になるだろう、クロム騎士団長」
「シオン王子、あなたは何をなさるのです?」
シオン王子は、鼻で大きく息を吸って言った。
「囮になる。私とミーティアと、少数精鋭の騎士をアルテリア帝国に残し、あたかも城の中にセシリアがいるように欺く」
「ですが、そうすればあなた方の命が……!」
「覚悟の上だよ」
クロム騎士団長に身を案じられても、シオン王子は即答した。この絶望的な状況でするべき最善策は、セシリアをバルドロス帝国の手に渡さないことであるのを、シオン国王は既に理解していた。
「それよりも、国王と王妃の埋葬が先だ。クロム騎士団長、腕の確かな兵を何名か呼び集めてくれ。埋葬を終えたら、作戦の説明に取り掛かる」
クロム騎士団長は反論もできないまま、返事だけを返し、兵の招集に向かって行った。
そこから先の出来事はあっという間だった。それだけ早いうちに、バルドロス帝国の兵が押し寄せてきたからだ。
シオン王子の口から告げられた作戦は、先程クロム騎士団長が教えてもらった内容とほぼ変わらなかった。一つだけ意外だったこととして、バルドロス帝国はアルテリア帝国の勢力を極限まで分散させるため、世界各地への襲撃を同時に始めたのだ。元々、残りの兵はアルテリア帝国の城下町の防衛に充てるつもりだったため、襲撃の阻止に兵を分担する以外、作戦に大きな変更はなかった。
バルドロス兵が城の中まで来る前に、クロム騎士団長は一人で、記憶を失ったセシリアを抱えてアルテリア帝国を離れていった。大事な部下が無残にやられても、城に火を打たれても、クロム騎士団長は決して振り返らなかった。バルドロス兵の手にかかり、焼け野原となった村を転々としながら身を隠し、戦争が収まった頃合いを見計らい、クロム騎士団長はまだ無事である田舎村をあちこち探していった。そうして、サウスの大陸で、ネムヘブルという村を見つけたのである――。
* * *
「――これが、ラースとセラに隠された秘密、そしてバルドロス帝国がセラを執拗に狙う理由だ」
一通り語り終えると、クロム国王はふうと一息ついた。初めて聞かされる真実ばかりで、一同は唖然とするばかりだった。その中でも特にクレスは驚きを隠せない様子だった。
実の父親と離ればなれになる理由を知らないでいたが、まさか、ラースにそのような秘密があったとは思いもしなかった。だって、ずっとこれまで何事もなく生活していたじゃないか――。他の人と何一つ変わりなく過ごしていたラースの中に神の魂が入っているなんて、すぐに信じられるような話ではないとクレスは思ったが、クロム国王の口から告げられたとなると、真実なのだと受け入れざるを得なかった。
「皆の者、問題は今だ」
クロム国王の呼びかけに、一同は我に返った。
「ジュードの報告を聞くからに、今やセラ――いや、セシリア様はクリード達の手に渡っている可能性が高い。もしかすると、神の魂を悪用する手段まで既に用意している可能性もある」
「そうなったら、絶対まずいでしょ? あたし達の世界全てが!」
あかねの言葉に、クロム国王は深刻な面持ちでうなずいた。
「アルテリア帝国とバルドロス帝国、どちらだろうと関係なしに手玉に取られるだろうな……。もはや世界の主導権を握られているといっても過言ではない。奴らが一体何を企んでいるのかが分からないのが余計に質の悪い……」
クロム国王の言葉を最後に一同は黙り込んだが、少しして、なぎさが奮い立たせるように口を開いた。
「……捜すしかないってわけだな? 何としても、奴らを」
なぎさの言葉に、今度はジュード騎士団長がうなずいた。
「そうだ、何としても。どんなに絶望的な状況でも、奴らをこのまま野放しにするわけにはいかない」
エドウィンもまた、奮起するように言った。
「希望だって少なからずあるさ。バルドロス帝国の兵もいる。ニンジャ達もいる。決して何もできないわけじゃない」
もはや、今のアルテリア帝国、バルドロス帝国、そしてニンジャ達の間に蟠りはとうになかった。クリード達を捕らえ、セラ達を救出するという目的のために結束していた。
「それじゃあ、ここは一つ、拳を合わせましょ! 友情の証として!」
突然、かすみが突拍子もないことをクロム国王、エドウィン、なぎさの三人に言い始めた。クロム国王となぎさは呆れたようにかすみを睨み返した。
「あう……もしかして、余計な一言でしたか?」
涙ぐむかすみに対し、唯一否定しなかったエドウィンが首を振った。
「俺らバルドロス帝国は、過ちを犯してばかりだった。こんな形でも許してもらえるのなら、俺は嬉しく思う。クロム国王」
そう言って、エドウィンはクロム国王に拳を差し出した。クロム国王もさすがにこれを無視するわけにはいかなくなった。
「お前達を許したつもりはない。だが、お前の言動は信用に値すると思えるものだった。お前達が協力を望むなら、我々は喜んで受け入れよう」
クロム国王も拳を差し出し、エドウィンの拳にこつんと合わせた。こうなると、残りはなぎさただ一人となる。
「全く、しょうがないな」
やれやれと言わんばかりに後頭部を掻きながら、なぎさは仕方なく拳を差し出した。
「こちとら、りんもいなくなっちまってるからな。早いとこ見つけ出してやらないとな」
こうして、アルテリア帝国、バルドロス帝国、ニンジャ達の三勢力は、互いに拳を合わせあった。照れくさくも、お互いがお互いを仲間と認め合った瞬間であった。
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