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Walk Hand in Hand  作者: 阿瀬 ままれ
第五章 バルドロス帝国との死闘
32/66




 * * *




 次から次へと押し寄せるバルドロス兵達を相手に、クレス達もまた疲弊しきっていた。いくら倒しても、間断なく湧いてくるバルドロス兵の大群で廊下一面がすぐに埋め尽くされ、ビックスとウェッジは心身共に困憊し、最前線で戦っていたクレスも技の切れが徐々に失われていった。

 既に、クレス達の周囲には手負いの兵が百人近く転がっていたが、それでもバルドロス兵達の勢いが衰える様子はない。このままでは、自分達の壁もいずれ突破されてしまう……討ち死にがクレスの脳裏を過ったとき、助太刀は颯爽と現れた。


 一人のバルドロス兵がクレスの頭上に剣を振り下ろそうとしたとき、突然そのバルドロス兵が呻き声を上げて剣を取り落とした。何だと思いクレスが目を凝らすと、バルドロス兵の腕には風車のような形をした武器が刺さっていた。近くにいたバルドロス兵達が呆気に取られていたところ、そのバルドロス兵達の手足にも風車の武器が突き刺さり、悲鳴を上げて膝をついた。

 自分達に加勢してくれている者がいる――そう察知し、クレスは周囲を見渡した。すると、螺旋階段の前に、額当てをつけた集団が立っているのが見えた。その中にあかねやカルロス隊も一緒にいたので、あかね達が仲間のニンジャを連れて来てくれたのだと理解した。


「あんた達、無事?」


 すぐにあかねが、疲弊しているクレス達の元へ駆け寄った。その前に立ち塞がるように、カルロス隊と六人のニンジャが並び立った。


「……俺達ニンジャは、お前ら人間と関わり合ったりはしない」


 突然、羽織と袴を着た白髪の男――睦月なぎさが、横にいるカルロスに視線だけ向けながら言った。


「だが、お前らには助けてもらった借りがある。今日限りは、俺達もお前らに手を貸してやる」

「そいつはどうも」


 カルロスはにやりと笑って礼を言った。


 バルドロス兵の群衆が剣を手に、カルロス隊とニンジャ達を囲い始める。カルロス隊とニンジャ達は、負けじと各々の武器を手に取り、身構えた。

 クレス達も加勢しようとしたが、足取りがおぼつかないのを見かねて、あかねがすぐに制止した。


「あんた達は休んでなよ。ここはあたし達に任せて」

「けど……」


 反論しようとするクレスに対し、あかねは心配ないと言わんばかりに首を振った。


「まぁ見てなって。不意打ちでもされない限り、あたし達がこんな奴らに負けるはずがないんだから!」


 あかねの自信に満ちた言葉を聞き、クレスは少し悩んだ末、バルドロス兵の撃退をあかね達に託すことにした。ビックスとウェッジにも指示し、クレスは片膝をついて体を休めながら、仲間達の戦いを見守った。


「数ではこっちの方が何倍も勝ってるんだ。こそこそと隠れることしか能がない連中に何ができる!」


 双方が睨み合う中、バルドロス兵の一人が鼻を鳴らし、優越感に浸りながら罵声を飛ばした。口喧嘩を買うつもりがないのか、なぎさは至って冷静に言葉を返した。


「そうだな。戦いは基本、数の多い方が有利だ」

「てなわけで、先手は打たせてもらうッスよ」


 こじゃれた髪型の若い男――長月あきらが、ポケットから一個の玉を取り出して放り投げた。あきらの投げた玉が床に触れた途端、玉は破裂して強烈な閃光を放った。閃光が目に入ったバルドロス兵達は目が眩み、あたふたと混乱した。一方のカルロス達は、事前にあきらと打ち合わせをしていたので、目を瞑って事なきを得ていた。


「それじゃあ、戦闘は専門外なんで、後は任せるッス」


 そう言ってそそくさと下がり始めるあきらを見て、短髪で筋骨隆々の男――文月りゅうは、呆れたようにため息をついて走り出した。

 後ろで見ていたクレスは、あることに気付き目を丸くした。カルロス達や他のニンジャ達と違い、りゅうは武器を手にしておらず、両手で印を結ぶ様子もない。丸腰で戦うつもりなのかと不安に思ったところ、すぐ近くに来たあきらが説明を始めた。


「りゅう兄はあれがいつもの戦闘スタイルなんで、気にしなくて平気ッス。りゅう兄は『発勁(はっけい)』っていう技のスペシャリストなんスよ!」


 発勁(はっけい)という技がどういうものなのか、クレスは疑問を抱いたが、百聞は一見に如かず。黙って様子を見ていたところ、早速りゅうがその技を披露した。

 一つ深呼吸をして心を落ち着かせ、りゅうはふらついているバルドロス兵の腹部に右手を突き出した。次の瞬間、周囲が息を呑むほどの鈍い音が響き渡ると共に、バルドロス兵の身につけていた鎧がひび割れて砕けた。悶絶するバルドロス兵の顔面をりゅうがさらに突き飛ばすと、バルドロス兵は吹っ飛んでもんどりを打ち、後ろに控えていたバルドロス兵達を巻き込んだ。


 体勢を立て直す前に、左右から別のバルドロス兵が斬りかかってきたが、りゅうが焦りを募らせることはなかった。仲間が援護してくれるという信頼があってこそだった。

 りゅうの頭上に剣を振り下ろそうとしたとき、突然、バルドロス兵二人の体は石のように動かなくなった。茶髪のミディアムボブの女ニンジャ――卯月れなの忍術によるものだったが、そんなことをバルドロス兵の二人が知る由もないだろう。

 バルドロス兵二人の影には、風車のような武器が突き刺さっていた。傍から見ればただ床に刺さっているようにしか見えないが、その武器によってバルドロス兵はぴくりとも身動きが取れなくなっていた。対象の影に武器を突き刺して動きを封じるこの技は、本来は盗みを働くときなどに使う忍術だったが、警戒さえされなければ戦闘時にも有効な忍術となり得る。


「さ、かすみちゃん、チャンスだよ!」


 バルドロス兵が動けなくなった隙に、れなは低めのツインテールの女の子――霜月かすみに呼びかけた。


「任せてください!」


 返事と共にうなずくと、かすみは手にしていた巻物を足元に広げ、印を結び始めた。


「かすみは犬使いの血族のニンジャなんだ。いざってときに、ああやってスイを呼び出して、一緒に戦うの」


 呆然とかすみを見つめているクレス達に、今度はあかねが説明した。程なくして、かすみの広げた巻物から煙が巻き上がったかと思うと、煙の中から小馬並に大きな犬が姿を現した。スイというのはあの犬の名前なのだと、クレス達は理解した。

 整った顔立ちに真っ白な毛並み、ふさふさの太い尻尾が特徴的だった。すり寄って甘えるスイの頭を優しく撫でると、かすみは小刀を手にし、スイと一緒に動けなくなったバルドロス兵に突撃した。一人をかすみが斬りつけ、もう一人にはスイが噛みつき、バルドロス兵の二人は傷を負って倒れた。


「ようし、僕達も負けてられないや。カルロスさん、姉さん、行こう!」


 ニンジャ達の戦いぶりに刺激を受けたのか、カルロス隊のユンが意気込みを露わに呼びかけた。カルロスが威勢よく返事し、アンも力強くうなずくと、それぞれの剣を片手に走り出し、戦闘に加わった。


 カルロス隊とニンジャ達が奮闘しているのを見守っている中、ふとあることを思い出し、あかねが切迫した様子で尋ねた。


「そうだ、セラ! セラはどこにいるの?」


 ビックスとウェッジが、謁見の間に続く扉を指差して答えた。


「セラ殿はラース殿と一緒に、カーツ国王とクリード騎士団長を追いに向かわれたであります」

「今は、ラース殿がクリード騎士団長と戦っているはずなのです。ただ、無事なのかどうか……」

「何でそういう大事なことを早く言わないんだよ、もー!」


 あかねはクレスの頭をぽかぽかと殴りながら怒ったが、途中であることに気付き、頬を赤らめながら咳払いして言った。


「……その。あたしが気にしてるのはあくまでセラだけだからな。あの陰険野郎を助けてやるのはついでだからな」

「はいはい。それでも嬉しいよ、あかねさん」


 クレスはにこりと微笑んで礼を言った。


「そっちに敵が来るぞ、あかね!」


 なぎさの叫び声に気付き、あかね達が前を向くと、三人ばかりのバルドロス兵が襲い掛かって来ていた。クレス達が剣を握り直して応戦しようとしたが、あかねがそれを再び制止した。


「あんた達は休んでてって言ったじゃん。あたしだって戦えるんだから!」


 そう言って、あかねは剣を振り上げるバルドロス兵達を見据えながら、印を結んだ。

 ――これまで一度も扱えなかった忍術、そして、姉のりんが使いこなすのを間近で何度も見てきた忍術。一人ぼっちになってからバルドロス帝国に立ち向かっていく中で、心身共にほんの僅かでも成長できた今なら、少しでも姉に近付くことができるかもしれない。

 根拠のない確かな自信を胸に、あかねは印を結んだ。続けざまにあかねが手を振り払うと、バルドロス兵達の足元から突如として炎が吹き荒れ、バルドロス兵達の体を覆い被さった。バルドロス兵達は情けない声で悲鳴を上げながらのたうち回った。


「あかねちゃん、『五遁』を使えるようになったの……?」


 近くで見ていたれなが驚愕するのに対し、あかねは指で鼻の下を擦りながら、「お姉ちゃんの見様見真似だけどね」と満更でもなさそうに言葉を返した。昨日、アルテリア城の大広間で、あかねが「忍術だけで火を起こすのは相当難しい」と話していたのを思い出し、本当に凄いことをやってのけたんだなとクレスは想像した。


「それでも、まだまだだな。あかね」


 慢心するあかねに歩み寄りながら、なぎさは厳しい言葉を投げた。むっとした顔で振り向くと、なぎさがあかね達の前に立ちはだかり、突撃してくる数人のバルドロス兵を今まさに迎え撃とうとしていた。

 なぎさが全く動じずに印を結び、床に手をつけると、なぎさの手から目も眩むような光と共に激しい稲妻が放たれた。稲妻は目の前まで迫っていた数人のバルドロス兵のみならず、他の仲間が戦っていた大勢のバルドロス兵をも巻き込み、数十人もの数が一瞬にして気を失って倒れた。


「さ、さすがは戦闘バカ……」


 格の違いを見せつけられ、あかねとあきらの二人は青ざめながらぼそりと呟いた。


「おい、そこの人間!」


 クレスも呆気に取られていたところ、突然なぎさから冷たい口調で声を掛けられた。


「俺達は、レイピアを担いだオールバックの黒髪の男にやられたんだ。その男が今、あの奥の部屋にいるんだな?」


 クレスは返事の代わりにこくりとうなずいた。


「そうか」


 なぎさは青筋を立てて拳を鳴らしながら呟いた。


「散々こけにしてくれやがって。あの野郎は一発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まん……」


 早速奥の部屋へ向かおうとしたなぎさを、突然りんが制止して言った。


「なぎさ様。あの男を倒すのは私に任せてくれませんか?」


 あかねを助けてくれた二人に、直接礼を言いたいから――なんて、本心までなぎさに話すわけにはいかない。慌てて口を閉ざしたが、先程なぎさに我が儘を言ったばかりなので、今度はさすがに聞き入れてもらえないかもしれないとりんは不安を募らせた。しかし、そんなりんの予想とは裏腹に、なぎさはりんの申し出を快く承諾した。


「お前が我が儘を言うなんて珍しいな。まぁ、お前が代わりに行ってくれるのなら安心だな」


 激励するようにりんの背中を叩きながら、なぎさは続けた。


「ここは俺達が食い止める。お前はあの男とバルドロス国王を倒すんだ。頭さえ叩けば、この下っ端共の統率も取れなくなるだろうからな」


 予想外の反応にきょとんとしながらも、りんは期待にそぐわぬよう力強くうなずいてみせた。


「さて……それじゃあお前ら、憂さ晴らしに付き合ってもらおうじゃないか」


 拳を鳴らしながら不敵な笑みを浮かべるなぎさに、バルドロス兵は動揺してたじろいだ。ただでさえカルロス隊や他のニンジャ達が手強い上に、なぎさの余りある力を目の当たりにし、バルドロス兵は既に戦意を失いかけていたが、ここでさらに恐怖を募らせることとなる。

 突然、数人のバルドロス兵が不意打ちの斬撃を受け、何が起こったのか理解できないまま呻き声を上げて倒れた。全員が呻き声のした方を振り向くと、螺旋階段の前に一人の人影が立っているのが見えた。

 茶髪のミディアムヘアーに、勇壮なデザインの鎧。真紅のマントを背に羽織るその男は、クレスやカルロス達の方がよく知っている人物だった。


「なぜ、貴様がここに……!」


 愕然とするバルドロス兵達に対し、男――ジュード騎士団長は剣を後ろに構え、猛然と走り出した。

 バルドロス兵達が身構える間もなく、ジュード騎士団長は目にも止まらぬ速さで駆け抜け、しなやかに剣を振り払った。雨水のように澄み切ったその剣技は、何物にも遮られることはない。ジュード騎士団長が足を止め、背を向けたまま剣を鞘に納めると、手足に傷を負った大勢のバルドロス兵が一斉に膝から崩れ落ちていった。


「もう来ていただいたんですか、騎士団長!」


 クレス達が歓喜の声を上げて駆け寄ると、ジュード騎士団長は柔和な笑みを浮かべ、ポケットの中を手で漁り始めた。


「腐れ縁の奴に助けてもらったんだ。今は俺の代わりにあいつがハインブルクで戦ってくれている」


 そう言ってジュード騎士団長が取り出したのは、一枚の大きな朱色の羽根だった。カルロスが首を傾げる一方、クレスはその腐れ縁が何者なのかをすぐに理解した。十五年前のもう一人の英雄であるキルバードが、ジュード騎士団長を巨鳥のトトに乗せて、ここまで運んでくれたに違いない。


「ここに駆け付ける前に皆が殺されてしまわないか、それだけが気掛かりだった……。皆、無事で本当に良かった」


 安堵しながら言うジュードに対し、カルロスは緊迫した様子で状況を伝えた。


「俺達はどうにか平気なんですが、ラースとセラの二人がクリードと戦ってるんです。今、あの水無月りんってニンジャが助太刀に向かおうとしてるところです」


 カルロスが指し示すと、ジュード騎士団長はりんに視線を移して言った。


「ラースとセラの命、君に託す。どうか、あの二人を守ってあげてくれ」


 言われなくてもとばかりに、りんは無言のままうなずいた。少なくとも自分にとっては、ラースとセラは命の恩人であり、あかねを助けてくれたかけがえのない仲間だ。自分達のために命を懸けて戦ってくれている仲間達を、見殺しにすることなどできるはずがない。


「お姉ちゃん、手遅れになる前に……!」


 あかねにも急かされながら、りんは駆け足で謁見の間へ向かっていった。




 そうしてりんは、クリードと対峙するラースとセラの元へ駆け付けた。謁見の間の扉を開けたときには、クリードの放った炎がラース達に差し迫っていたので、ほんの少しでも救援が遅れていれば二人の命はなかったと思い、りんは胸を撫で下ろした。

 りんが膝をついているラースに手を差し伸べ、ラースは差し出された手を握って立ち上がる。前方を向くと、クリードが炎を宿したレイピアの先端をラース達に向けている。


「りん、俺に考えがある。今から俺の言う通りに……」


 剣を手にクリードを睨み付けたまま、ラースは小声でりんに耳打ちをした。

 雄叫びを上げ、クリードがレイピアの先端から炎を放つ。猛火が蛇のように地を這い、ラース達に迫ってくる。

 ラースの耳打ちに対してうなずくと、りんはすぐに印を結んで応戦した。目の前に巨大な水の弾が作り出され、りんが手を突き出すと、大砲のような爆発音と共に勢いよく放たれた。水の弾はクリードの放った炎と衝突し、爆風と水飛沫を上げて弾け散った。

 爆風と煙がクリードの方にも押し寄せ、クリードは腕で目を覆った。煙が晴れ、再びクリードが前方を向いたとき、目の前の光景を見て息を呑んだ。クリードが怯んでいる隙に、ラースが間合いを一気に詰め、振り上げた剣でクリードのレイピアを叩き落としにかかっていた。


「なめるな――!」


 ひらりとラースの攻撃を避けると、クリードは恐ろしい剣幕でレイピアを振り上げ、ラースの胸部を刺し貫いた。

 刺し貫かれたラースの傷から、血が噴き出すことはなかった。苦痛の叫び声を上げることもなかった。クリードがレイピアで突き刺した瞬間、ラースと思われたものが煙を上げて破裂し、跡形もなく消えてしまったのだ。


 ここでようやく、クリードはラース達の策略にはめられたことに気付いた。今刺し貫いたものはラース・オルディオではなく、ラースに化けた水無月りんの分身なのだと――。

 焦りを募らせて、クリードは突き上げたレイピアを引っ込めようとしたが、もう遅かった。本物のラースが、既にクリードの懐に潜り込み、攻撃の態勢に入っていた。

 左足を力いっぱい踏み込み、ラースは右拳を振り上げ、クリードの顔面に渾身の一打をお見舞いした。めり込むほどの強烈なパンチに、クリードはもんどりを打ち、床にごろごろと転がって倒れた。


「これで止めよ!」


 りんが印を結び終えて叫ぶと、クリードの周囲に巨大な炎の渦が上がり、立ち上がれずにいるクリードを一瞬にして覆った。炎の渦はうねりを上げながら狭まり、握り潰すようにクリードの体を炙った。

 容赦なく襲い掛かる熱に、クリードは叫び声を上げてのたうち回った。りんが両手を解いて炎を静めると、クリードは黒焦げになって気を失い、床に倒れたままとうとう動かなくなった。


 ラースが剣を持ち上げ、玉座に座っている、最後の一人となったカーツ国王に剣先を向ける。りんとセラも互いに目配せをしてうなずき、ラースの元へ駆け寄って、カーツ国王の前に立ちはだかった。

 カーツ国王は動揺を隠し切れない様子だった。身を乗り出してクリードを呼び起こそうとするも、クリードは白目を向いて倒れたまま、微動だにしない。これ以上は太刀打ちできないと悟ったのか、カーツ国王はクリードを呼ぶのを止め、視線を落として黙り込んだ。


「もう逃げ場はありません。あなた達がどれだけ酷いことをしてきたか、アルテリア帝国は全てを見抜いています。大人しく投降して、報いを受けてください」


 歩み寄ってカーツ国王の前に立ち、セラは誠実な言葉を投げた。さすがに観念しただろうとラース達も安心したが、カーツ国王は、そんなラース達の予想とは真逆の反応を示した。万事休すの状況まで追い詰められたにもかかわらず、カーツ国王は突然、人目を憚らず高笑いをし始めたのだ。

 血迷って発狂したのか、それともまだ心の余裕でもあるのか――。呆然とするラース達に対し、カーツ国王は椅子にもたれかかって足を組み、頬杖を突き、太々しい態度で不敵に笑いながら言った。


「いいだろう、ここは大人しく連行されようではないか。だが貴様らがいくら束になろうが無駄なことよ……この我輩を法で裁くことなど不可能なのだ」




 やがて、バルドロス兵と戦っていたクレス隊、カルロス隊、あかね達ニンジャ、そしてジュード騎士団長が謁見の間にやって来て、カーツ国王達はいよいよ逃げ場を失った。程なくして、ハインブルクに待機していたアルテリア兵達もバルドロス城内に集まり、ついにアルテリア帝国騎士団の勢力がバルドロス帝国騎士団を上回った。唯一の勝算までもがなくなってしまうと、残り僅かとなったバルドロス兵は戦意を失い、次々に降参していった。

 ジュード騎士団長の指揮の下、アルテリア帝国騎士団がバルドロス帝国の一味を連行していく中、気絶していたクリード騎士団長、そして玉座に座ったままのカーツ国王にもとうとう縄がかけられた。クリードが未だ目を覚まさずに数人がかりで運ばれていく一方、カーツ国王はアルテリア兵に縄で引っ張られていく間も、依然として不敵な笑みを浮かべており、遠くで眺めていたラースは奇妙に感じた。

 何か、アルテリア帝国を出し抜く奥の手でもあるのだろうか――そんな懸念がラースの脳裏に浮かんだが、やがて、考えに耽るのが億劫に思えてきた。相手が何と言おうと、バルドロス帝国はついに敗北したのだ。あかね達の念願も果たされ、バーゴや両親の無念も晴れ、いずれはバルドロス帝国の悪事やセラの秘密についても暴かれていくことだろう――。そう思い浮かべた途端、これまでの長い戦いによる疲れがどっと押し寄せ、ラースは床の上に大の字になって倒れた。


「格好がつかないわね」


 ラースが安堵し切っていたところ、近くで声がしたので見上げると、水無月りんが隣に腰掛けてくすくすと笑っていた。


「ほっとけっての」


 そう言い返すと、ラースは上半身を起こし、扉の方を振り向いた。扉の前には、セラやクレス達人間とあかね達ニンジャが集まっていた。

 心の温まる光景だった。セラとあかねはお互い無事であることに歓喜して抱き合い、疲弊していたクレス達はりゅうやかすみ、アンに介抱され、カルロスとユン、そしてあきらとれなは、お互いの健闘を称えて肩を叩き合い、その周りを犬のスイがくるくるとご機嫌に走り回っていた。


「……人間達との仲を取り戻すのは、私の夢でもあったの」


 皆が和気あいあいとしているのを遠くで眺めながら、りんは嬉しそうに言った。


「あなたとセラちゃんのおかげよ。本当に感謝しているわ」


 ラースは首を振り、りんに顔を向けて言った。


「お互い様だよ。あんたが来てくれなかったら、俺達も今頃無事じゃ済まなかったんだ」


 りんもラースに顔を向け、「ありがと」と礼を言って微笑んだ。ラースも口元を緩めて笑うと、拳を上げてりんの前に差し出した。りんも握り拳を固め、差し出されたラースの拳にこつんと合わせた。

 人間とニンジャの間に友情が芽生えたこの日のことを、ラースとりんは決して忘れないだろう。これから先もずっと、この温かな光景が色褪せることなく続いてくれることを、二人は胸の内で願った。

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