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真っ昼間の心

作者: 永夢

「ケン!早く、早くってば!早くしないとコートとられるっての!」


飽きた味だと思いながらパンを頬張っていると後ろから幼馴染に大声で喚きながら背中をバシバシと叩かれた。


思わず咽ながら、意味はないが胸を叩く。

こいつ、自分の力の強さってのをわかってない。


ちなみにだが、幼馴染は同性、男だ。

これが可愛い女の子だったら、俺だって眉間にシワを寄せずに応じていただろうに。


「ヒカル、煩いよ。まずさ、毎日言うけどさ、俺が食べるの遅いこと知ってるじゃん?

だから先行ってていいってば」


自販機で間違って買ったいちごミルクの紙パックを手に取り、ストローで吸い上げると半透明な筒が薄っすらピンクに染まる。

あ、ちょっと綺麗、だなんて思ったけど


「うぇ、あっま……」


前言撤回。甘すぎて無理だ。

更に眉間の皺を深くしているとヒカルは俺の目の前に座り込んだ。


「だからさぁ、俺も毎日言うけどさ、

俺はケンとバスケで遊びたいんだよね!

体格だって同じくらいだし、あ、お前の方がひょろいけどね」


……あーあ、こちらも前言撤回。

幼馴染が男だろうと女だろうと、ヒカルのこういうところは弟ぽくて可愛い。

変な意味は断じてないけど。昔からこいつのお願いは断れない。


175cmはあるだろうデカブツに見られながらの食事をさっさと済ませると、そいつは勢い良く立ち上がった。


「ッシャー!遊ぶぞー!」


「おいこら、待つなら待つで最後まで待ちやがれ!」


完全に俺を無視して教室から飛び出したヒカルに怒鳴りながら、財布をポケットに突っ込み、ヒカルを追いかけて走りだした。


でもこういうの、嫌いじゃない。

気兼ねなく話せる幼馴染と、定番メンバーと化した奴らと本気でバスケして日頃のストレスを発散する毎日。

そう、嫌いじゃない。



――――――――――――


「ケンジってバスケやってたんだっけ?中学とかで」


ちょっと休憩、となったところで近くにいたサトシにそう聞かれ、縦に首を振る。

まあ、今はやってないけど。


「なんか、身のこなしが軽いっていうか、サラッとやってのける感じがかっこいいよ。

普段からそんな感じだけど」


「え、まじ?急にどうしちゃったの、サトシくん。照れるじゃん」


そんなやりとりをしているとヒカルがすかさずやってきた。


「うわ、本当に照れてる!耳真っ赤だ。

ケンは照れると耳赤くなるよな」


ニヤニヤとした笑いでそう言われ、思わずヒカルの膝裏に軽く蹴りを入れた。

大袈裟に吹っ飛ぶヒカルを見て、やっぱりこいつ馬鹿だと笑ってしまう。


「お前ら仲良いよな。ケンジが幼く見えるもん、ヒカルにつられて」


「まぁな、幼馴染だし。俺こんなんだけど弟ばかりだから兄ちゃん欲しくて、昔からこいつのこと兄ちゃんみたいに思ってる」


また背中をバシバシと叩かれ、睨む。

でもそんなのは慣れっこだと言わんばかりに笑われてしまう。


そんな風に思われてたなんて、知らなかったんだけど。


俺は逆に上には姉しかいないから男兄弟が欲しくて、ヒカルのことを弟みたいに思ってきた。

つまりはお互いのことを兄弟みたいに思っていたわけだ、お互いの知らないところで。


「キモチワリ」


隣でギャーギャー騒ぐヒカルの頭を押さえつけながら、耳にかけていた髪を戻した。



―――――――――――


「ヒカル、喉乾いたから自販機行こ」


5時間目が終わった後にヒカルのところへ行くと、驚いた顔で見上げられた。

ケンから誘うなんて珍しいじゃん、って言うんデショ。

頭の中で考えていると


「ケンから誘うなんて珍しいじゃん。

全然、いいけど。なんで?」


「いや、あそこ女子多い。行きにくいったらないよ、ほんとに」


「何、お前、女の子苦手なの?態度変わらないからそりゃ知らなかったな」


「苦手っていうか、あー、なんだろう、得意じゃない」


「それ苦手っていうんじゃないの?」


「お前はさ、得意の他は苦手しかないと思ってんの?

そんなわけはさ、ないよ」


「はいはい、わかったよ。だからそんな蔑むような顔やめて」


「お前がさせてるんだよ。………またやってしまった」


喋りながら、いつもの癖で右端のボタンを押してしまい、取り出し口には昼に痛い目を見たばかりのピンク色のアレがある。


「わお、売り切れだってよ、それで。人気なんだねー」


仕方なく取っているとヒカルがそんなことを言う。

知るか。万人に人気でも俺は苦手なんだ。

立ち上がろうとした時、


「え、さよちゃん、いちごミルク売り切れだってー!どうするー?」


女子特有の高い声が後ろから聞こえてきた。


「え、っと。そこまで飲みたくはなかったし、大丈夫だよ?」


無理して出したような遠慮がちな声が更に聞こえてきた。


状況から判断するに、その"さよちゃん"とやらはこのブツが飲みたいらしい。なら、簡単だ。

立ち上がって振り返ると、一人、財布を持った、やけに顔色の悪いくまの目立つ女の子が違う自販機に移動しようとしていた。


「はい。これ、間違えて買ったやつだし、どうぞ」


そう言って差し出すと彼女はびっくりした顔で俺を見上げた。

瞬きを何回かしたあとにハッとした顔になり、

真っ白な顔をほんのり赤くして下を向いた。


「さっきの話聞こえてたんですよね、ごめんなさい。大丈夫ですから。そこまでいちごミルクにこだわりないし、本当に大丈夫です」


「いいですって、これ飲めないから。はい」


無理矢理手に持たせてヒカルの元へ戻ると、奴は予想通りニヤニヤ笑っていた。


「お兄さん、イケメン!

てかさっきまで女の子苦手〜、って言ってませんでした?」


「いや、飲めないもの持ってても仕方ないしさ」


「ふーん?」


「髪の毛毟るぞハゲ」


「あ、ちょっと薄いの気にしてるのに!ひどいわ、ケンジくん!」


何気なく後ろを振り返ると、さっきの女の子がぼんやりした顔でこちらを見ていた。

目が合うとまたハッとした顔になり、勢い良く頭を下げてくれた。

恐る恐るといった感じで顔が正面に戻ったとき、また目があい、笑ってしまった。

すると向こうもきょとんとした顔から、なんとなく微笑みを浮かべ、もう一度頭を下げると友達と校舎へ戻っていった。


「お兄さん、何やらいい感じじゃないですかね」


「何が?」


「俺は寂しいよ……」


「だから、何がさ」


「仲間だと思ってたのに!」


「いや、お前だってさ、モテるでしょ、黙ってたら」





たまには、こんな日もいいな、なんて思った新しいことだらけの真っ昼間。


一応ですね、真夜中の心と対になるよう心がけて書いてみました。なのでタイトルに深い意味はないのです。

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