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 蛇斑城を包囲した蛇骨の軍勢はいよいよ城攻めを開始した。


 蛇骨の軍勢はいきりなり足軽一〇〇〇人を投入し一気に攻め落とそうとした。


 手柄欲しさに果敢に攻め込む足軽部隊。鳥綱軍はほうぼうの体で蛇斑城に逃げ込んで籠城している弱りこんだ獲物、ここで活躍をすれば次期当主である蛟艦水に名前を売ることができるとあって勇み足で山を登っていった。


 蛇骨の軍勢の士気は高くすぐに結果が出るかと思われたが、それは失敗に終わった。


 蛇斑城へ至る道はうねうねと曲がりくねり城に近づくにつれて道幅が狭くなる。紫苑はその道中に一定間隔で縄を張った。


 縄は特別視難く改良してあるわけではない普通の縄だったが、一番槍欲しさに勇敢に駆ける者にとって目の前に城が見えてきたらどうしても城に目がいき足元の警戒が疎かになる。そういった者達が転ぶとそのまま後続の者は。つられて転ぶか転んだ者に気付かず踏み殺してしまう事態に陥った。


 これがもし広い道ならば転んだ者を避けることもできただろうし、道がうねうねと曲がりくねっていなければ先頭集団の異変に気が付いて対策がとれたかもしれないが、あいにく蛇斑城への道は狭く曲がりくねった道だった。


 そして仲間たちの犠牲を払いなんとか三の丸の前までやってきた足軽部隊だったが、縄を警戒し勢いが削がれてしまい待ち構えていた弓兵によって射殺されてしまった。


 おかげで突撃した足軽部隊は三〇〇人以上が死に、残った半数が重軽傷を負うことになってしまった。そのうち鳥綱の軍勢が実際に殺したのは一〇〇にも満たない数ほとんどが転倒による自滅だった。


 当然自分の思惑とは違う事態に蛟艦水は腸が煮えくりかえっていた。


「くそったれ! お前らは何をやっているんだ。一〇〇〇もの兵を投入して三の丸すら落とせないとはどういうことだ!」


 近くにあった床几を蹴飛ばし喚き散らす艦水。


「落ち着いてくだされ若様! しょせんは悪あがきにすぎません。次からは罠を警戒しゆっくりと進軍をすれば問題ありません。それと弓を警戒し木の板を兵に持たせてましょう」


「ほう」


 家臣の進言を聞いて怒りを収める。


「よし、明日はそれで攻めろ。一刻も早くあの城を落とすのだ」


「ははっ!」


 これで勝てると笑みを浮かべる艦水だったが、戦果は芳しくなかった。


 翌日、家臣の提案したとおり罠を警戒して進み三の丸の前までやってきた蛇骨の軍勢。飛んでくる矢は木の板で防ぎ、あとは数の暴力で三の丸を制圧してやろうと城門に近づいた矢先、それは落ちてきた。


 人の顔ほどある大きな石。


 それが降り注いできたのである。


 いくら木の板で矢は防げても大きな石まで防ぐことはできなかった。


 重力を伴って威力が増した石は木の板をやすやすとへし折り蛇骨の国の兵たちに降り注いだのだ。


 次々と降り注ぐ石によって命を奪われる仲間たち。それでも前へと進み城門へと近づく蛇骨の軍勢だったが、そこに降り注がれたのは石ではなく水。それもただの水ではなく熱々に熱せられた熱湯だ。


 痛みに多少慣れている屈強な兵たちでもあっても突然やってきた身を焼くような熱湯には悲鳴をあげて地面を転げまわった。


 結局二日目の攻撃も燦々たる結果に終わった。


 その結果を陣中で聞いた艦水は怒りをあらわにして怒鳴り散らす。


「おい! どうなっているんだ!」


「も、申し訳ありません! よもや敵があのような野蛮な攻撃をしかけてくるなど思いにもよらず……」


「言い訳はいい! ……くそっ! いったいいつになったら落とせるのだ!」


「ほっほっほ。少しは落ち着いてくだされ若」


 カッカと怒りをまき散らす艦水に家臣の一人が落ち着いた口調で声をかける。


「あの城は我が弟が築城せし城。そうやすやすやすとは落ちはしませんよ」


「芦屋あああ! お前は俺に喧嘩を売っているのか!」


 白髪の歳を召した家臣の発言に馬鹿にされたと思い喰ってかかる艦水。


「ほっほっほ。そういうわけではございません。敵のやっていることはしょせんは悪あがき。縄に石、熱湯など奇策を用いていようともしょせんは奇策なのです。手の内をさらした時点で奇策ではなくなります。縄なら足元を警戒すれば問題ございませんし、石も無尽蔵でありません。熱湯とて常に火をおこしているだけの薪があるとは思えません。それになによりこちらは数で圧倒的に勝っているのですから焦る必要はございません」


「なるほど」


 未だに自分が有利なのを確信して艦水は満足そうに笑う。


「おそらく持って一〇日。それだけあれば三の丸は落ちましょう」


「一〇日だと!? そんなにかかるのか!」


 もっと早く落とせないのかと苛立つ艦水に芦屋は困ったように言う。


「それはさすがに性急かと。まだら殿の知恵を借りれば話は別ですが……」


「……ちっ!」


 まだらと聞いて艦水は嫌悪感を丸出しにする。


「あいつに知恵を借りるくらいなら一〇日ぐらいまってやる。その代わり一〇日以内に落とせなかったらわかってるな」


「ははっ!」


 恭しく頭を下げる芦屋だったが内心は困った方だとあきれていた。


 艦水は自分こそが優秀だと思い自分より優れている人間を認めることができない男なのだ。かといって反論すれば無また茶な攻撃を繰り返し兵を疲弊させることになるし、下手をしたら気に食わないという理由でお家断絶を言い渡される危険性もあり何も言い返すことはできなかった。


 まったく、厄介な城を残したものよ。と芦屋は蛇斑城を建て先の戦で蛇斑城を敵に奪われ死んでいったた弟――芦屋達秀に愚痴をこぼす。


 そして芦屋はその一〇日後にものの見事に三の丸を制圧した。

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