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「さて、我々がここからどう動くかだが、九十九殿の意見を聞きたい」


 着替えをし俺の元に戻ってきた蓮ちゃんはそう相談してきた。


「そうだな……」


 俺はその相談に少し考える。


「今俺たちのいる場所は蓮ちゃんが溺れるというトラブルがあったけど、川を下っていた時間から逆算して当初考えていた上陸地点とほぼ同じぐらいの位置とみていいただろう」


「う、うむ」


 溺れたという言葉に微妙な表情を浮かべる蓮ちゃん。そういうところも可愛いな。


「これなら当初の予定通り東に進路をとって如水城を目指すべきだと思う」


「そうか。九十九殿も私と同意見で安心した」


「えっ? それはつまり両想いということ!?」


「なぜそうなるのだ?」


 困惑した表情で聞いてくる蓮ちゃん。


 おっと、シリアスな蓮ちゃんの気を紛らわそうと半分冗談で言ったつもりだったけどダメっぽいな。


「ごめん、冗談だよ。けど蓮ちゃんの中で意見が固まっていたなら何でわざわざ俺の意見を聞くの?」


「それは他人の意見を行くことによって違った観点から物事が見えるかと思ったからだ」


「なるほど」


 今回は意見が一致したけど意見が違った場合は自分とは違う考え方を知って新しいものの見方ができるかもしれない。さすが蓮ちゃん。


「といってもこれは紫苑様の受け入りだがな」


「……紫苑の」


「そういう顔をしないでくれ九十九殿。紫苑様は素晴らしいお方なのだから」


 俺のあからさまに嫌そうにする態度に蓮ちゃんが困ったように注意する。


「けどなぁ……」


 初対面であんなことをされて好きになれるやつがいたら教えてほしい。


「それに紫苑って親殺しをしたって聞いたけど」


「……そのことか」


 蓮ちゃんはどこかやるせないような複雑そうな顔をすると、少し間をおいてから重々しく口を開く。


「表向きはそういうことになってはいるのだが……」


「表向きは?」


「ああ。九十九殿は紫苑様にご兄妹がいるのは知っているか?」


「兄妹? 姉妹じゃなくて?」


 俺が知っているのは紫苑の家族といえば柚子姫だけだ。兄妹というからには兄がいるというはずだけどそういえばその兄に会ったことはない。


「紫苑様には六つ上の兄がいたのだ。あの方は紫苑様のように秀でた方ではなかったものの私の様なものにまで気にかけてくれるほどお優しい方だった」


 その紫苑の兄という人物のことを思い出したのか蓮ちゃんは悲しそうな顔をする。


「だったってことはもう死んでるってことか?」


「うむ。己の父を殺し自害したのだ」


「えっ? でも父親を殺したのは紫苑だったはずじゃ?」


「それは紫苑様が兄上の名誉を守るために流した嘘なのだ」


「嘘? どうしてそんなことをあいつがしたんだ?」


 計算高いあいつが親殺しという汚名を被ってまで嘘を流すメリットはないはずだ。なのにどうしてそんなことをしたんだ?


「それは紫苑様に聞いてみないとわからない」


 頭を振って答える蓮ちゃん。


「だが九十九殿には紫苑様のことを誤解しないで欲しいのだ。あの方は本来なら争いを好まないお優しいお方なのだから」


「あの紫苑がねぇ……」


 蓮ちゃんの話を聞いてもいないちピンとこない。


 けどあいつなり色々と複雑な事情を抱えていると言うことはよくわかった。


「善処はしてみるよ」


「そうか。そうしてもらえると助かる。あと、紫苑様の兄上の件は内密に頼む」


「……わかったよ蓮ちゃん」


「うむ、長々と話してしまったがさっそく移動を開始しよう。急がねば蛇斑城が落ちてしまう」


「そうだね」


 蛇斑城はもって一月と言ったが、それは食料がきれるまでの時間ということで、向こうが犠牲をかまわず強引に攻めてくるとなるといつまで持つかは予想はできない。


 ヘタをしたら明日にでも城が落ちる可能性だってゼロではない。


「理想としては五日でつけばいいのだが……」


「……」


 如水城までの正確な地図はなくわかっているのは方角のみ。距離的に言えばデカ鳥に乗っていけば三日あれば着く距離だが、ここは知らない土地……それも山道を走るとなると五日以上かかる可能性が高い。


 それに到着してもすぐに如水城を攻略するというわけにはいかない。できるのなら攻略するために情報を集める時間だって欲しい。


「蓮ちゃん。焦りは禁物だよ」


「わかっている九十九殿」


 と返事をする蓮ちゃんだがその表情に余裕はない。


 時間に余裕がないのは俺もわかっている。けど焦ってもいい結果につながる可能性は低い。なんとか蛇斑城が持っていてくれればいいが……。


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