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「……ここは?」


 艦水によって気絶させられたまだらは意識を取り戻すなり自分の置かれている状況を冷静に把握しようとする。


 まずは自分の身の回りである手と足には手枷がハメられていてまともに動くことはできない。そして首には原理はわからないが猿樹えんじゅの国で作られた呪術をなどを使えなくするための封具がつけられている。しかし口に猿ぐつわなどはされていないので声を出すことは可能だった。


 怪我の方はひどい。折られた肋骨を思いっきり蹴られたせいで悪化している。幸い内臓までは傷ついておらずじっとしていればなんとかやり過ごせるが、これではまともに歩くことすらできないだろう。


 次に確認するのは自分が今いる場所。


「座敷牢……か」


 自分が今いる場所が土牢ではなく座敷牢というのは不幸中の幸いだろうか。ここ最近は気温も下がりつつありもし日の当たらない土牢なんかに押し込められたら凍死していたかもしれない。


 それとも自分を本当に手籠めにするために座敷牢に詰め込んだのだろうか。だとしたら自分のような幼児体型を凌辱しようとするなんて変な趣味の持ち主だと嘲笑したくなる。


「……いや、それはそれで……なんか惨めだな」


 まだらとしても自分で自分を貶すのは許せなかった。


「むしろ僕は女として魅力があったからこそあそこで殺されなかった……そういうことにしておこう」


 と自己肯定をするまだら。


「とりあえず今は大人しく待つのが賢明かな。見張りもいないから外の様子も聞けないし」


 まだらはそう結論づける。


 逃げようにも怪我のせいでまともに動けないし、逃げたとしても行く場所がない。今の自分は味方から追われる身だ。蛟傭水のいる如水城まで行けば形勢も逆転できるかもしれないが如水城まで行く手立てがない。


「……はぁ。僕としたことが千鳥紫苑に気を取られていてあんな男に足元をすくわれるなんてね」


 情けないなぁ、と深く反省するまだら。


 出る杭は打たれる。自分が周囲から疎まれているのは少なからず知っていたがこの状況でこんなことになるとは予想だにしなかった。


「しかしまぁ兵の犠牲を考えなければ力づくもなくはない手段ではありますけど、場所が蛇斑城なうえに相手が千鳥紫苑ですからね。最悪の事態が起きたらお館様になんて言ったらいいんでしょうか」


 まだらにとって蛟傭水は父の様な存在だ。


 まだらは物心ついた時から孤児であった。親の顔など知らず孤児ゆえにろくなものを食べておらず今にも死にそうな状態であった。そんな時にまだらは傭水に拾われた。


 傭水は自分と同じような孤児を集め文字や計算、軍略、武芸、呪術などありとあらゆることを仕込んでいった。将来自分の息子を支えることのできる人間を育てるために。息子が愚かならその周りにいる人間を優秀なので固めればいいという苦肉の考えだった。


 そんな理由はどうあれまだらはそのことに感謝をしていた。じゃなければ今頃自分は野垂れ死んでいたから。


 そして頭の回転のよかったまだらは必死に勉強し傭水に見い出され若くして軍師として頭角を現していき、これから蛟家のために辣腕を振るうつもりだった。


 だというのに今はその力を発揮せず牢の中。


「……おや」


 しばらく牢屋で大人しくしているとまだらの元に誰かがやって来た。


「遅かったですね」


 まだらは足音も立てずにやってきた人物の顔を見てそんなことを言う。


「……」


 やってきたのは黒い忍び装束を着こんだくノ一の球。


「それで、外の状況はどうなんだい? 君がここにいるということは若殿はもう出陣したのかい?」


「……」


 珠はコクリと首を縦に振り肯定を示す。


「そうか」


 と予想通りの返答にまだらはあきれる。


 牢屋に閉じ込めておきながら見張りをおいていないのは見張りをさせるだけの人手がないと思っていたからだ。つまりすでに出陣していて自分を閉じ込めた城に人手にあまり余裕がないということだ。


 しかしそれだけ兵を連れ出しても蛇斑城へ行く道は狭いので数の利を活かせない。圧倒的な数で相手を威嚇するとしても今さら鳥綱軍が怯えるとは思えない。そんなことができたのなら先の戦で敗けるはずがない。


 自分だったらこんなずさんな戦はしない。


 だが逆に考えれば見張りもおけない状況だからこそ珠がこうやって自分に会いに来れるわけだが。


「もう戦は始まっているのか?」


「……」


 今度は首を横に振る珠。


「出陣はしたけどまだ戦にまではなってないということですか。若殿はどう攻めるつもりなんですかね……」


 思案顔で何か考えるまだらだったがすぐに新しい指示を飛ばす。


「とりあえずあなたと宗麟はお館様のところに行ってこれまでのことの詳細を説明してきてください」


「……」


 そうなれば自分はどうするつもりだという目で珠はまだらを見る。もし自分がいなくなれば何かあった時に助けることはできなくなってしまう。


「僕かい? 別にどうもしないよ。僕はこの通り動けないからね。それに……何かあった時のために僕はここに残らなくちゃいけない」


「……」


「……ああ。もしここで僕が死ねば君との契約も果たせなくなるからそのことについては謝っておこう」


「……」


「怒ったかい? 大丈夫。そう簡単に死ぬつもりはないから。それじゃあ急いでお館様のところに行ってくれ。もし僕が千鳥紫苑だったらこの形勢を逆転させるためにお館様の暗殺……もしくは如水城を攻め落とそうとするかもしれないから警戒するようにと急いで伝えるんだ」


「……」


 球はコクリと頷くとその場から消え去る。


「……まぁ。攻めてくるにしてもそこまでの数は出せないだろうし如水城が落とされるとは思わないけど、念には念を入れておかないとね。僕はどうなってもいいけどお館様に万が一があったらいけないし」


 と言うとまだらはこれ以上今の自分にできることはないと考え、怪我を治すため目を瞑り眠りに入った。

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