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 蓮ちゃんに呼ばれたということで俺はさっそく呼び出された部屋へと向かう。蓮ちゃんからの呼び出しということは如水城攻めについてのことだろう。


 俺は蓮ちゃんに指示された待ち合わせの部屋の前までやってくると、ノックをしようと思ったが襖にノックをするのも妙だと思い、握っていた拳を放し襖を開ける。


「失礼します」


 と言って部屋に入ると部屋の中にはすでに蓮ちゃんの姿があった。そして蓮ちゃんの隣にはさわやかな顔立ちのイケメンの姿が。この乱世では珍しく線の細そうな見た目だがそれなりに鍛錬はしているのか背筋はピシッと伸びていて弱そうには見えない。


 このイケメンは一体誰だ? もしかして蓮ちゃんの婚約者? 話とは婚約者の紹介なのか? もしそうだとしたら俺はしばらく寝込むかもしれないぞ。


「よく来てくれた九十九殿。忙しいところすまない」


「お主が九十九殿か。妹から話は聞いている」


「妹? ってことは蓮ちゃんのお兄さん!?」


 俺は確認するようにイケメンを見るとイケメンは首肯する。


「ああ。私は雲雀信助。蓮の兄だ」


「そっか。蓮ちゃんのお兄さんか。ってきり婚約者でも紹介されるのかと思っちゃったよ」


「「……」」


 俺の何気なく呟いた言葉に蓮ちゃんとお兄さんの表情が暗くなる。何かまずいことを言ったのだろうか?


「九十九殿。蓮に婚約者などいない」


「いない?」


 苦々しく言うお兄さんの言葉に思わず首を傾げる。


 それはどういう意味なのだろうか? 元々いなかったということなのか? それとも先の戦で命を落としたということなのだろうか? それなら二人の表情が暗くなるのはわかる。もしそうなら俺はかなりデリカシーのないことを言ってしまったな。


 自分の発言に反省していると蓮ちゃんが悔しそうに喋り出す。


「私の婚約者であった羽鳥家は我らを裏切り敵方に寝返ったのだ。そのせいで我々は退路を失い命からがら逃げることになったのだ。婚約者として私がしっかりしていればこのような事態にならなかったかもしれないのに……」


「お前のせいではない蓮」


「しかし軍鶏殿の言っていたように私のような女らしさがなく槍を振るうしか能のない無骨者などを嫁にもらって不満があったのかもしれぬ」


「……蓮」


「違う! 蓮ちゃんは可愛らしい女の子だ! 蓮ちゃんのよさに気が付かないなんてそいつらに見る目がないだけだから蓮ちゃんが気にする必要はない」


「世辞でも嬉しいぞ九十九殿」


 苦笑する蓮ちゃん。


「しかし異性が私を恐れているのも事実。軍鶏殿の言う通り自分より強い女子おなごを好いてくれる殿方などおらぬだろう」


「……蓮ちゃん」


 寂しげに笑う蓮ちゃんに何も言えなくなる俺。


 自分の婚約者の裏切りによって大勢の仲間を死なせてしまった責任を感じている今の蓮ちゃんには何を言っても届かないのだろう。


 そのもどかしさに余計に腹が立つ。


「んっん! 蓮。話が本題からずれているから戻すぞ」


 そんな場の空気を変えるためお兄さんが咳払いをして空気を変えようとする。


「すいません兄様」


「よい、あの縁談を決めたのは私とお爺様だ。お前が気に病むことではない」


 お兄さんはそう言うと俺へと視線を向ける。


「それで九十九殿。紫苑様の提案した奇襲作戦なのだが、明日の夜更けに出発をすることになった」


「明日? それはまたえらく急だな」


 あの急流の川を下るのなら準備でそれなりに時間がかかるはずだからもう少し時間に余裕があると思ったのに。


「実は敵の様子を探るために斥候を放っていたのだが、どうやら敵は後二、三日後にはこの城を攻めてくる様子らしい」


「あと二、三日で?」


 これはちょっと予想外だ。


 まだらのやつは逃がしたけどそれなりの手ごたえがあったからまだ動けないと思っていたんだがな。それにあれだけの包囲網を敷いて抜かれたのだから敵としても動揺も大きいだろうしそれをまとめる人間がいなければ何も動けないはずだ。


 実はまだらのやつの怪我は大したことはなかったのか? それならこの短時間で兵をまとめることもできるかもしれないな。


 ……いや、それにしては性急するぎるな。いままで蛇のごとく獲物を弱らせるためにジワリジワリと策を弄してきたまだらのやつならもっと確実な手でくるはずだ。それこそこちらの弱みである兵糧攻めで確実に落とすぐらいのことはしそうだしな。


 となると考えれるのは……。


「敵の大将が変わったのか」


「ほー、さすが紫苑様が気に掛けるだけはあるようだ」


 俺の推測を聞いたお兄さんが顎をさすりながら感心するように俺を見る。紫苑が気に掛けるというのは気に食わないが蓮ちゃんのお兄さんから評価されるのは悪くない。


「九十九殿の推測通り敵の大将はまだらではなく蛟傭水みずちようすいの息子――蛟艦水みずちかんすいだ」


 蛟艦水。噂では蛟家の跡取りだが名将である父に比べると将としての才能はあらず粗暴もので短慮な気質ゆえにまだ問題を度々起こしていて未だに家督を譲ってもらえていないとか。


「そいつが兵をまとめてこの城を落としにこようとしてるのか」


「そういうことだ。だからやつらがこの城を完全に包囲する前に川を下ってもらう」


「わかった」


 まさか予定よりも早く出発することになるとはな。だが残された選択肢でこれが一番最良なのだろう。俺はやれることをやるのみだ。



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