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「うーん」


 翌朝、俺は与えられた自室で朝食を食べ終えると如水城攻略について考えていた。


 俺が噂で仕入れた限り如水城は周りを大きな湖に囲まれた水城だ。そしてその城へ至る道は一本のみ。


 そんな道を真正面から突っ込めば弓の的になるだけだ。かなりの兵を犠牲にすれば正面突破も可能ではないかもしれないがこっちの兵力はたった五〇人。無謀すぎる。


 逆に道が一本しかないことを利用するか?


 そこを塞いで籠城させるとかは……ダメだろうな。


 正面の道を塞いだとしても向こうが船とかを用意していたら意味がないし、普通に考えてそんなところに城を建てるやつがそこまで配慮してないわけがない。それに攻略に時間をかけていればこの城が落ちてしまうし敵の増援もくるはずだ。というかそもそもたった五〇人で道なんかを塞げるわけがない。おまけに捕らえられているまこちゃんも無事に救出しないといけない。


 たった五〇人で城を落としてまこちゃんを救出するとなるとどうしたらいいものか……。


 そもそも如水城まで敵に見つからずに移動することも考えなくちゃいけない。


「……はぁ」


 問題がありすぎていくら考えても妙案は浮かんでこない。完全に煮詰まっている。だけどこのまま無策でいくわけにもいかない。なんらかの手段を考えないと。


「……仕方ない。気分を変えて散歩でもするか」


 いくら考えても妙案が出てこない時は気分転換をするのが一番だ。


 ということで俺は部屋を出て城内を散策することにした。


 部屋を出てみると右へ左へと人が動き回っていて城内はバタバタと慌ただしい空気が流れていた。みんな籠城の準備のために動き回っているようだ。


 敵がいつ攻めてくるのかわからないから壊れた柵を急いで修理する者や新たに防壁になりそうなものを急ごしらえで作っている者、兵糧の準備やらでみんなてんてこ舞いのようだ。


「……けど妙だな?」


 俺はその様子を見ながら不可解に思い首をかしげる。


 ここには命からがら逃げのびてきたというのに兵たちの目が死んでいない。敗走したなら兵達の士気は下がっているはずなのにその気配はなくそれどころか籠城に向けて気合が入っている。


 普通なら籠城なんて言われて士気が上がるはずがないっていうのに何でだ? それだけ周りが紫苑のやつを信頼しているということなのか? それはそれでなんか気に入らないな。馬頭たちもそうだったけど紫苑のやつは兵達から好かれているみたいだけど、あいつに人徳があるというのはやっぱり納得できない。


 そんなことを考えながら周囲を散策していると城内の片隅で梗の姿が目に入った。梗は大量に並べてある石の前で手を合わせてた。


「何してんだ?」


「ん? あんたかい」


 思わず気になって俺が声をかけると梗はばつの悪そうな表情を浮かべる。


「……墓を作ってたんだよ。つってもあいつらの遺体はないし籠城の準備で時間がなくて墓石に名前を掘ったわけじゃないけどさ」


 墓石を見ながら寂しげにつぶやく梗。


「……そうか」


 大量に並べられた石は墓石ってことか。


 馬頭達の遺体は今頃獣の胃の中かそのまま腐敗しいるかのどっちかだろう。どちらにせよこの城から出られない以上死体を供養してやることはできない。


 いくら死がありふれた乱世で生きてきた梗でも仲間の死に対して思うところがあるのだろう。こうして墓を作ってやることが彼女にとって今できること唯一のことなのだろう。


「けどまぁ皮肉だねぇ」


 と言って梗は墓石の前で肩をすくめる。俺は言葉の意味がわからず聞き返す。


「何が皮肉なんだ?」


「あれを見な」


 俺は梗に言われて指差された場所を見る。


 視線の先には籠城の準備のために働く兵士の姿があった。その兵士の中には流民部隊の人間と一緒になって鳥綱の国の兵士も混じっていた。あれがどうかしたのだろうか?


「馬頭のやつは流民たちが差別されないようにしたいって常々言ってたんだ。それが馬頭達の犠牲のおかげで今は流民だろうが鳥綱の人間だろうが関係なく協力しあっている。これが皮肉以外のなんなのさ」


 苦笑する梗。


「さて、こんなところで時間を潰している暇はないからもう行くよ」


 そう言って立ち去る梗だったが何かを思い出したかのように立ち止まると俺の方へと振り返る。


「そうそう、栞那のことを頼むよ」


「栞那を?」


 言葉の意図がわからず聞き返そうとするがすでに梗の姿はなくなっていた。


「栞那を頼むってどういうことだよ」


 わけがわからん。


「しっかし馬頭のやつは流民たちの差別をなくしたかったなんて知らなかったな。一緒に生活していたころはシスコンだったってことしか知らなかったしな」


 改めて思い返すと俺は馬頭がシスコンだったってこと以外ほとんど知らなかったんだな。


「もう少しお前と色々と話しておけばよかったな……馬頭」


 そんな想いをこぼしながら俺は馬頭の墓の前で手を合わせる。


 ここ最近俺は後悔してばかりだ。だからこそ次の戦では後悔がないようにしなければならない。


 そう決意を新たにして俺は墓石から立ち去ってしばらくすると蓮ちゃんから呼び出しをもらった。


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