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「……っ」


 俺は目を覚ますと布団の中で寝ていた。


「ここは……いつっ!」


 辺りの様子を探ろうと起き上がると全身に激痛が走る。


 大きな外傷はないが筋肉の節々が痛む。それでも身体が全く動かせないわけでじゃないようだ。


 俺は手を開いたり閉じたりして身体の調子を確認する。


 しかしどうして俺はこんなところで寝かされているんだ?


 俺が寝ている部屋は八畳程度の大きさで部屋の中は余分な飾りものはない。しかし床が木の板ではなく畳が敷いてあるということはかなりいい部屋だということだ。


 俺は確か紫苑を助けようと特攻する馬頭を追いかけて戦場にいって……。


「……くっ!」


 記憶を手繰り寄せるとフラッシュバックする光景。


 死屍累々の戦場。


 一人、また一人と志半ばに倒れていく馬頭の仲間たち。


 そして斬り捨てられ馬から崩れ落ちる馬頭の姿。


「……馬頭」


 馬頭はあの戦いで死んだ。


 目の前の死んでいく姿を見ていたが未だにあいつが死んだなんて信じられない。あの戦いが夢だったらどんなによかったか。


 思わず現実逃避をしたくなるが馬頭の死はまぎれもない事実だ。俺の手には人を殺した時の感触がいまだに残っている。


「……そうだ! 戦の結果は?」


 まだらが敗走してからの記憶がない。あの後はいったいどうなったんだ。


 俺たちは本当に勝ったのか?


 俺が疑問を抱いているとそこへ、襖の向こうから誰かがやってきた。


「大和。目を覚ましたのですか?」


 襖の向こうから聞こえてきたのは栞那の声だ。間違いない。ということは栞那は生きているのか。


「ああ、さっき目を覚ました。よかったら状況を教えてほしいんだが」


「……わかりました」


 と言って栞那は襖を開けて部屋にやってくるのだが……。


「ってお前なんて格好してるんだよ」


 俺は思わず突っ込む。部屋にやってきた栞那の格好は寝間着だった。ところどころに包帯を巻いているが寝間着のせいで服の上から胸のふくらみがよくわかる。なんだかエロい。


 すると栞那若干を頬を赤らめ反論する。


「仕方がないじゃないですか。私だってあなたと同じように怪我人で寝たきりだったのですから」


「そうか」


 となぜか納得してしまう俺。


「……って! それよりもあの戦は結局どうなったんだ。何か話は聞いているのか?」


「私が聞いた限りあの戦はひとまずはこちらの勝ちといったところでしょう」


「ひとまず?」


「敵将が敗走したことで戦況が乱れた隙に紫苑様の軍勢はこの蛇斑城まで非難できましたが戦はまだ続いていますからね」


「……そうだな」


 あの戦いは紫苑をこの蛇斑城へ逃がすための戦いだった。だが紫苑のやつをここに逃がしたところで鳥綱の国と蛇骨の国との戦が終わったわけではない。つまり戦でまた誰かが死ぬかもしれないってことだ。


「なあ? 俺ら以外に馬頭の部隊は誰が生き残ったんだ?」


「それは……」


 言葉を詰まらせ俯く栞那。


 その反応をみれば栞那が言わなくてもわかる。


 みんな死んでいった。馬頭だけでなくあの戦にいった連中全員が。俺はあまり深く関わりはなかったが栞那にとっては一緒に過ごしてきた仲間だったんだ。そして死んでいった奴らの中には栞那の部下だっていたはずだ。


「悪い」


「なぜあなたが謝るのです?」


「俺がもっと早く戦場に来ていれば……いや、俺がもっと早く覚悟を決めていれば一人でも助けられたかもしれないのに」


 自分の不甲斐なさと悔しさのあまり拳を握りしめる。


「あなたが気に病むことではありません。彼らは彼らの意思で戦い散って逝ったのですから。彼らの死が無駄にならなかっただけで僥倖です」


「でも――」


「今更悔やんでも遅いですよ。悔やんだからといって死者が甦るわけはありませんから。そう思うのなら今後はそうならないように行動すべきです」


「……」


 栞那の言うことはもっともだ。今さら後悔しても遅い。それよりも今は目の前の戦いに集中するしかない。


「栞那、俺は死んでいったあいつらのためにもこの戦を終わらせる」


 この戦を一刻も早く終わらせて馬頭たちの想いに報いらなきゃならない。そのために立ち止まらずに進むんだ。


「なるほど。九十九殿の覚悟はよくわかった」


 俺が決意を新たにすると襖の向こうから誰かが声をかけてくる。


「誰です!」


 突然の来訪者に警戒する栞那。しかし俺には襖越しでも声の主が誰だかすぐにわかった。


「その声は蓮ちゃんか?」


「そうだ」


 蓮ちゃんは襖を開けて部屋に入ってくる。蓮ちゃんは簡易な具足を身に纏いいつでも戦えるような格好をしていた。


「これは蓮殿。声を荒げてすいませんでした」


 来訪者の正体が蓮ちゃんだとわかり栞那は深々と頭を下げる。


「いや、こちらこそすまないな。盗み聞きするつもりはなかったのだ」


「それは別にいいけど。蓮ちゃんがどうして俺の部屋に?」


 まさか友達だから見舞いに来てくれたのか?


「実は紫苑様が九十九殿と話があると仰ってな。叩き起こして来いと言われたのだが起きていてよかった」


 ホッと胸を撫で下ろす蓮ちゃん。紫苑のやつめ。相変わらず嫌なやつだ。


「寝起きで悪いが来てもらえるか?」


「もちろん。こっちも紫苑に話があったところだし」

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