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81-2

「大和、おい大和!」


 敵将を撃退し安堵したせいか意識を失ってその場に倒れた大和を心配して栞那が慌てて駆け寄る。


「……呼吸は落ち着いている。大事はないようだ」


 大和の状態を確認してホッと一安心する栞那だが、先ほどの戦いを思い返して栞那の脳裏にある疑問が浮かぶ。


「しかし大和はどうやってあの敵将の呪術を破ったのだ。あれほど強力な術を破るのは並大抵のことではない。それに大和が最後に繰り出した一撃。あれは間違いなく闘気を込めた一撃だった。闘気を身に纏うなど天虎てんこの国の者しか扱えないはずだが。いったい大和は何者なんだ……」


 疑問を口にする栞那だったがそれで疑問が解消するわけもなく謎だけが残る。


 とそこへ馬の足音を響かせて何者かが栞那の元へと駆けてくる。


 栞那は咄嗟に大和をうつぶせに寝かせ死体に偽装させる。


「おい貴様! 何者だ。この国の者ではない者がなぜ本陣にいる」


 栞那が大和をうつぶせに寝かせると甲冑を身に纏った屈強そうな鎧武者たちがやってきて栞那を取り囲む。


 そんな鎧武者たちに栞那は声を張り上げて言う。


「下がれ! 貴様らの大将は敗走した。これ以上の戦いは無用だ」


 ここで弱気なところをみせれば侮られると考え栞那は残りわずかな気力を振り絞り喋る。


 大将が敗走したと聞けば戦意を失うと思った栞那だったが、敵の反応は栞那の予想外のものだった。


「それは好都合だ」


 鎧武者の中で一番身なりのいい鎧武者がニヤリと口角をあげて笑みを浮かべる。


「なに?」


 敵の予想外の反応にやや困惑する栞那。


「あんな若造が大将など気に入らなかったからな。お館様に目をかけてもらってるからって調子に乗りやがって。隙あらば手柄を奪ってやろうと思っていたところだがこんなところで好機が巡ってくるとはな。この戦の手柄は俺らがいただくとするか」


「あの若造が敗走した中我々が兵をまとめあげ鳥綱軍を叩きのめすってわけだな」


「そうなればあの若造も立つ瀬がないだろうよ」


「あの若造が失脚すれば若にも喜んでもらえるますな」


「若にしてみればお館様の信頼の厚いあの若造は目の上のたんこぶだかなら」


「そうなれば俺らも取り立ててもらえるかもな」


 と鎧武者たちは口々に嬉しそうに語り顔を見合わせる一斉に刀を抜く。


「つーわけでお前にはここで死んでもらうぜ」


「……くっ!」


 相手は五人。各々かなりの武芸者のようで今の状態の栞那では手も足も出ずに殺されてしまう。


 せめて体調が万全であれば逃げることも可能だったかもしれないが疲労困憊の今ではそれも無理な話だ。


「おっ! よくみたらいい女じゃねーか」


 鎧武者の男の中で一番身分の高そうな男が栞那の顔を見て下卑たる笑みを浮かべる。


「どうだ? 俺らの慰みのものになるってなら命だけは見逃してやってもいいぜ」


「ほざけっ! 貴様らのようなものの相手をするぐらいなら死んだ方がましだ」


 毅然とした態度で対応する栞那。それに苛立った鎧武者の男は小馬鹿にしたように笑う。


「けっ! もう立ってるのがやっとなぐらいぼろぼろのくせに言ってくれるじゃねーか。おい、お前らは辺りを警戒していろ。この女の相手は俺一人で十分だ」


「ちっ! まあいいぜ。ただし俺らが遊ぶ分は残しておけよ」


「わーってるよ」


 他の者たちが周囲の警戒をしに離れるのを見て鎧武者の男は満足そうに笑いなが馬から飛び降りて栞那へと歩を進める。


「へへ、せいぜい俺を楽しませて死んでいきな。おらよっ!」


 言葉とともに繰り出される斬撃。


「……っ!」


 かろうじてその斬撃を刀で防ぐことに成功する栞那。しかし身体が鉛のように重く自分の身体とは思えないほど反応が鈍い。


 そんな栞那の動きの鈍さを見て鎧武者の男は嗜虐的な笑みを浮かべながら次々と攻撃を繰り出す。


 栞那はなんとか繰り出される攻撃を防ぐが、それは相手は栞那がギリギリ反応できる速度で攻撃を繰り出して栞那をもてあそんでいた。


「……」


 防戦一方の栞那は自分の無力さとに歯噛みする。


「おらおら、さっきの威勢はどうした! このままじゃおっちんじまうぞ」


 鎧武者の男はだんだんと攻撃を繰り出す速度をあげて栞那をどんどんと追い詰める。


 このままではまずいと焦る栞那だったが反撃するだけの余裕はなく追い詰められていく。


「おらよっ!」


「……しまった!」


 栞那の疲労が限界にきた矢先、鎧武者の男の切り上げの一撃が栞那の刀を弾き飛ばす。


「おっと、動くなよ。こっからが本番だぜ」


 刀を栞那に突きつけて身動きを封じる。


「……くそう」


 仲間たちの屍を超えてせっかく敵将を敗走させたというのに戦を終わらせるどころか目の前の敵になすすべもない状態に絶望する栞那。


「大分いい表情になってきたじゃねーか。気の強い女のそういう表情はそそるぜ」


 鎧武者の男が栞那の顔を撫でようと手を伸ばした瞬間、その間に割って入る一つの影。


「誰だ!」


 突然の乱入者に憤る鎧武者の男。一方割って入った影は毅然とした態度で立ちふさがる。


「くええええ!」


 その影の正体は神鳥だった。


 神鳥は憤る鎧武者に強烈な蹴りをお見舞いする。


「……かはっ」


 神鳥の蹴りを喰らって吹っ飛んだ鎧武者の男。


「神鳥だと……どうしてこいつがこんなところに……」


 鎧越しにでも十分に衝撃は伝っており内臓がやられており吐血しながらバタリと倒れる。


「お前は大和の乗っていた神鳥か」


「くえ!」


 神鳥はそうだと言わんばかりに頷く。


「さっきから見ないと思ったがまさか時に現れるとは」


 神鳥の登場に苦笑する栞那。


「いったい今までどこにいたんだか」


「くえっ!」


 栞那の疑問に神鳥はあっちを見ろと言わんばかりに首を横に振る。


「あれは……」


 神鳥に言われて視線を動かすとそこには鎧武者の男の仲間たちが次々と討ち取られていく姿が目に入った。


「あの鬼神のごとき強さは蓮様か」


「くえ!」


「お前があの方をここまで連れてきたのか」


「くえ!」


 首を縦に振って肯定する神鳥。


「すまないな。助かった」


「くえ!」


 お礼を言う栞那に神鳥は気にするなと言う様に励ます。


 ちょうどそこへ鎧武者の男の仲間を討ち取った蓮がやってくる。


「そなたは大和と一緒におったものだな」


「はは!」


「よい、無理をするな」


 恭しく頭を下げようとする栞那だったが、蓮は立っているのもやっとな栞那を見て止めさせる。


「遅くなってすまぬ。して敵将は?」


「敵将は大和があと一歩のところまで追いつめたのですが逃げられてしまいました。ですが敵将もかなりの重症のようでしばらくは戦場に出られないかと思います」


「そうか。九十九殿が。まさか九十九殿がここまでやるとはな。初めて出会った時には思いにもよらなかったものだ」


 フッと微笑する蓮。


「蓮殿? どうかなさいましたか?」


 普段めったに笑うとこを見せないと噂される朱槍の蓮の笑みを見て栞那が心配そうに声をかける。


「いや、何でもない。それで九十九殿はどこに?」


「あちらで気を失っております。しばらくは起きないかと」


「そうか。無理をさせたのだな」


 蓮は申し訳なさそうに目を瞑る。


 そんな蓮の元に敵陣を抜けて神鳥に騎乗したものたちがやってきた。彼らは蓮の部下だ。


「蓮様。遅くなり申し訳ありませぬ。敵陣を抜けるのに手間取っておりました」


 と頭を下げ申し訳なさそうに謝る蓮の部下たち。


 みなボロボロで甲冑には返り血だけでなく自身の血まで付着しており無傷のものは誰一人いない。敵陣を突っ切ってきたのだから当然といえば当然なのだが、それだけここへ来るのが厳しい道のりだったのかを物語っている。


「気にするな。ご苦労であった」


 その苦労を労う蓮。


「して、蓮様。敵将はいずこに?」


 敵の本陣だというのに敵の姿がないという異様な状態に部下の一人が尋ねる。


「敵将は敗走した」


「おお!」


 蓮の言葉に湧き出す部下たち。


「ということはこの戦は我らの勝利ということですか!」


「そうだ。至急我が軍の旗を掲げこのことを周りに知らしめるために勝鬨をあげるぞ」


「はっ!」


 蓮の指示で部下たちが旗を高く掲げる。


 敵軍の旗が次々と倒され雲雀家の家紋が入れられた旗が高々と掲げられ風に揺られてたなびく。


 そして蓮が声を張り上げて勝鬨をあげる。


「えい、えい」


「「「「「おー!」」」」」


「えい、えい」


「「「「「おー!」」」」」


 勝利を告げる声が戦場に響き渡る。







「紫苑様! 敵本陣に蓮殿の御旗が掲げられたと報告がありました。それに伴い敵に動揺が広がり動きが鈍くなっているそうです」


「そうか。蓮のやつがやってくれたか」


「紫苑様。敵が混乱しているこの機に敵を返り討ちにしてくれましょうぞ!」


 家臣の一人が戦況がこちらに有利になり敵を一気に叩こうと紫苑に進言する。


 しかし紫苑はそれを否定する。


「ならぬ」


「なぜですか! 敵が混乱している今ならば敵を打ち倒す好機ではありませんか」


「こちらの兵の損耗がひどすぎる。今の状態では長く戦えぬ。たとえ向こうに打撃を与えてもこちらの損害の方が大きい。なにより敵が冷静さを取り戻し打って出られたらそれこそ一巻の終わりだ」


 と冷静に現状を分析する紫苑。


「ここは頭を失い混乱している隙に一気にここを抜け蛇斑城へ向かうぞ。戦はこれで終わりではないのだからな」


 と言い紫苑は全軍に指示を飛ばす。

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