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大和たちとまだらが戦っている一方で鳥綱軍と蛇骨軍がぶつかり合っていた。
数に劣る鳥綱の軍は二〇〇〇の兵を横に広げる鶴翼の陣を展開し、それに対して総勢五〇〇〇を超える蛇骨の軍は魚鱗の陣で鳥綱軍へ攻め込んでいた。
当然数に劣る鳥綱軍の鶴翼の陣は敵を覆い尽くすことなく陣形本来の機能を上手く果たすことはできず戦線を維持するのが手いっぱいで戦況はあまり芳しくない。
「本陣から人を出し右翼の守りを固めよ! 敵につけ入る隙を見せるな! 左翼はそのまま現状を維持しつつ後退し敵を引き付けよ!」
押し寄せる敵の軍勢を前に紫苑は敵の動きを読み戦況に合わせた指示を次々と飛ばし敵の猛攻をなんとか凌いでいたが……。
「し、紫苑様!」
伝声の足軽が息を切らしながら紫苑の元へと駆けてくる。
「鵲殿、鶫殿、共に討死! 戦線は乱れ軍鶏殿がなんとか敵を食い止めている模様です! このまま敵が本陣まで押し寄せてくるのは時間の問題です」
伝令が切迫した口調で紫苑に現状を報告をする。
紫苑の的確な指示で敵の猛攻をなんとか凌いできていたが、さすがに数の差は大きく徐々に追い込まれつつあった。
「紫苑様! どうかお逃げを」
刻一刻と悪化する戦況に、そばに仕えていた家臣の一人がそう進言する。
「馬鹿者! この戦場に逃げ場など無い。ここで勝利を掴めなければ死も同然だ」
「ですが……」
「くどい。ここで死ぬのならあたしはその程度の人間で国を治める器ではなかっただけのことだ」
そう言うと紫苑は蓮が突撃していった敵本陣の方角に視線を向ける。
「心配するな。この戦は必ず勝つ!」
紫苑は大胆不敵な笑みを浮かべて伝令に次なる指示を出す。
「伝令! 右翼と左翼にいる将に伝えろ。小賢しいことは考えず目の前の敵を屠れ! あとのことなど考えるな! とな」
「はっ!」
紫苑の命を受けて伝令がすぐさま駆け出していく。
「両翼が注意を引けば中央を突破する蓮の部隊の負担も減るだろう。あとは頼んだぞ、蓮」
☆
「せやっ!」
「むんっ!」
槍と刀が音を立ててぶつかり合い激しい火花を散らしその衝撃で辺りに砂埃が舞い上がる。
「まだまだ!」
「甘い」
舞い上がる砂埃に目もくれず神鳥に乗ったまま目にも止まらぬ速さで槍を突き出す蓮。一方馬に乗ったままで身の丈以上の大きさの大太刀を隻腕で軽々と振り回し攻撃を防ぐ宗麟。
そして蓮の連撃が終わったタイミングを見計らい宗麟が反撃を繰り出す。
ブンッと空気を切り裂くよう振るわれる一刀。まともに喰らえばそれだけで一刀両断されるような強烈な一撃だが、蓮はそれは槍の穂先でいなし軌道を変え回避する。
二人の戦いは一進一退の攻防を繰り返していたが、どちらも決め手に欠けていた。
片方が攻撃を仕掛ければ片方が守りに入り敵の攻撃を防ぐ。どちらか片方が判断を誤ればそれだけで命を落とすという緊張感の中、二人は四半刻近く戦い続けていた。並みの人間ならそれほど長い間緊張感を強いられながら戦えば体力と気力が持たずに集中力が切れて力尽きてもおかしくはない。
「……ふー」
「……すー」
お互い一旦距離を置き呼吸を整えながら睨み合う。それから次の攻撃に出る機をうかがっていると――。
少し離れた方で激しい閃光が煌めく。
「何だあの光は……」
蓮は宗麟を警戒しつつ閃光が煌めいた方角へ意識を向ける。閃光のあった方角は大和たちが敵将へと向かった方角だ。
「……まさかこんな結果になるとはな」
蓮とは対照的に閃光の理由を知っている宗麟はほんの少し驚きを混じらせながら呟く。
「長居は無用か」
と言ってその場から立ち去ろうとする宗麟。
「貴様! どこへ行く。あの光の意味はなんだ!」
「それを素直に教えると思ったか。はっ!」
宗麟は失笑すると馬を反転させ、閃光が煌めいた方角と反対の方へと駆けていく。
「……っ!」
蓮は考える。
状況がわからず動くのは得策ではない。
だがこのままじっとしてるわけにもいかない。数に劣る鳥綱の軍は時が経てば経つほど不利になっていく。
かといって宗麟を放っておくわけにもいかない。蓮の直感だが宗麟という男を生かしておくのは得策ではない。
追って討つべきか閃光があった方角へ向かうべきか。
今宗麟を追えば間に合う。しかしそうなれば閃光があった方で何があったのかはわからないままだ。
どうするべきか考えている蓮の元へ一つの影が近づいてくる。
「誰だ!」
蓮もその近づいてくる影の気配に気付きそちらをみる。
「お前は」
蓮は近づいてきた影を確認するとやや驚きながら聞く。
「なぜお前がここに……」
更新が遅くなりすいません。
続きが明日か明後日までに投稿します。