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「ここで私を降ろしてくれませんか」


 蓮ちゃんと別れてしばらくデカ鳥を走らせていると栞那が突然俺にそう言い出してきた。


「ダメだ」


即答する俺。


 ここに来て栞那を見殺しにするわけにはいかない。


すると毅然とした声で反論する。


「勘違いしないでください。別に死ぬつもりはありません。ただ」


 と言って栞那は敵将であるまだらに視線を向ける。


「敵将であるあの黒い呪術師と戦うのなら正面から戦うのはあまり得策ではありません」


 確かに栞那の言う通り金縛りを使えるあいつと正面から戦うのは不利だ。おまけにやつの身の回りには護衛が三人もいる。下手をすれば金縛りの術で動きを封じられて打つ手もなくなぶり殺しにされる可能性だってある。


「幸い敵は前線に注意が向いているのでこちらの接近にまだ気が付いていません。まずはあなたが単身敵将へ奇襲をかけ護衛をなるべく倒してください。その後に私がさらに奇襲をかけ敵将を討ちます。それならば万が一あなたが敵に動きを止められても対処できます」


「……」


 栞那の策なら二人で行くよりも金縛りで動きを封じられるリスクは分散できるかもしれない。


しかし今の栞那は疲労困憊で立つことですら辛いはずだ。そんな彼女に無理をさせるのか……。


「だが――」


「私のことなら心配は無用です。一人二人相手にする力ぐらい残ってますから」


 俺の反論を打ち消すかのように言葉を紡ぐ栞那。その言葉には強い意志が感じられる。


 どうやら折れるつもりはないようだ。それにここで言い争ってる時間もない。今は護衛が少ないが増える可能性もあるしそのまま姿を眩ます可能性だってある。


「……わかった」


 俺は渋々了承することにする。


 俺はデカ鳥のスピードを緩めて栞那が飛び降りやすいようにする。さすがに一刻を争う状況でデカ鳥の足を止めて降ろすだけの余裕はない。


「では頼みます」


「ああ」


 デカ鳥から栞那が飛び降りると俺は再びデカ鳥を加速されまだらへ奇襲をかける。


「むっ!」


「敵か!」


「まだら様へは手出しはさせぬ」


 俺の接近に気が付くと護衛の連中が馬を走らせこっちへと駆けてくる。


よし、敵はこっちが一人だから油断して飛び出してきやがった。これならまだらのやつも金縛りは使えまい。


「邪魔だ!」


「ぐあっ!」


「うぐっ!」


「がふっ!」


 俺は馬に乗ってこちらに近寄ってくるバカな護衛どもを槍で突いて仕留める。


 そしてまだらがそのまま逃げださないように持っていた小太刀と槍をまだらとその馬に投げつける。


 まだらに向けて投げつけた小太刀は咄嗟に馬から飛び降りてかわされたが馬に槍が刺さったようで馬が地面に倒れ伏す。


「やっと会えたな」


 俺はデカ鳥から飛び降りてまだらを見据える。


「おや? おやおや? 君は確かあの屋敷で僕に突っかかってきたやつじゃないか。へー、生きていたんだ。生身で呪術を破っといて生きてるなんてほんとしぶといなぁ」


 まだらは俺の姿を視認すると楽しみを邪魔された子供のように不機嫌そうな声音で話す。


「それで僕に何の用だい? 生憎僕は忙しくてね。君の相手をしてあげるほど暇じゃないんだけど」


「んなもん決まってんだろ。テメェをぶっ飛ばしてこの戦を終わらせてまこちゃんを返してもらうんだよ」


「ふふ。面白い冗談だ。君ごときじゃ僕をぶっ飛ばすどころか触れることもできないよ。僕と戦うのなら霊装ぐらい用意してこないとね」


「ごちゃごちゃうるせえな陰険野郎」


「陰険野郎? 心外だな。これでも僕は――」


「はっ!」


 まだらが肩をすくめてるところにこっそりと近づいてきていた栞那がまだらの背後から不意打ちをかけた。


 しかし不意打ちをかけられたまだらは動じることなく対処してきた。


「甘いよ。不動金縛りの術」


「っ!」


 まだらが術を唱えると栞那の動きが急に止まる。


「やれやれ。君が僕の前現れたのは背後にいる彼女の存在を隠すためか。でもね、こんな不意打ちが僕に通じると思っ――」


「思ってるよ!」


 まだらの注意が栞那に向いてる隙にまだらへ接近した俺は蓮ちゃんからもらった打刀を振り下ろす。


「くっ!」


 まだらは一瞬焦った表情を浮かべる。


 だがまだらに当たるあと一歩のところで見えない壁のようなものに当たり打刀が弾かれた。


「ちっ!」


「ふー、危ない危ない。中々素早い動きだったけど僕を倒すだけの力はないみたいだね」


「そいつはどうかな」


 俺が意味ありげに言うと同時に栞那がまだらへ攻撃を加えた。


「せやっ!」


「無駄だよ」


 栞那の攻撃は俺と同様に見えない壁の様なものに弾かれてしまった。


「そんな攻撃じゃ僕の結界を破ることはできないよ。無駄だってことがわからないのかな」


 まだらは俺たちを見下すように喋る。俺はそれを鼻で笑う。


「無駄だと? そいつはどうかな。さっきまで金縛りで動けなかった栞那が動けるってことはお前は同時に二つの術を操れないってことだろ。術の発動が異様に入ってだけでそれ以外は普通の呪術師と同じように制約があるんだろ」


「それがどうかしたのかい」


「つまりお前は一対一なら鎖で動きを封じれるかもしれないが二対一なら結界を張るしかできないってことだろ。いくらお前の結界が強固だろうがいつまでも維持できるもんじゃないんだろ」


「へぇ。多少は知恵がまわるようだ。でもね、その程度のことぐらい僕も予想済みだよ。行け珠」


 まだらがそう命じるとどこからともなく現れたくノ一が栞那へと襲い掛かる。


「っ!」


 くノ一の攻撃を受けた栞那は勢いを殺し切れずに地面を転がる。


「栞那!」


「大丈夫です、問題は――くっ」


 すぐに起き上がりそう言うが、そこにさらに追い打ちをかけるくノ一。栞那も間一髪しのいだようだがこのままじゃまずい。


「今助けに――」


「おっと、そうはさせないよ、不動金縛りの術」


「くそっ!」


 俺が栞那を助けに行こうとすると見えない鎖に絡まれて身動きを封じられる。


「残念。奥の手ってのは最後までとっておくべきのものだよ。呪術師である僕が護衛を手放すわけがないだろ。さっき倒した彼らは囮でしかないよ」


「……くっ」


 迂闊だった。馬頭の死やら色々あり過ぎてあのくノ一の存在をすっかり忘れていた。あの時屋敷にはまだらと宗麟、そしてあのくノ一がいたじゃないか。


「……」


 くの一は無言で淡々と攻撃を繰り出す。その攻撃は無駄はなく殺すことに一切の容赦がない。


「……うっ」


 素早い動きで的確に急所を狙ってくる攻撃をなんとか捌きながら辛そうに呻く栞那。


 ただでさえ栞那は疲労困憊で動きが鈍っているんだ。あの素早い動きをするくノ一の相手をするのは厳しい。


 このままじゃ栞那がやられる。


 だというのに俺はこんなよくわからない金縛りなんかに身動きを封じられやがって助けるどころか何もできない。


 このまま馬頭が殺された時と同じ様に栞那が殺されるのを見てなくちゃならないのか。


 ……イヤだ。


 俺の前でこれ以上かけがえのないやつが死んでいくのはイヤだ!


「うおおおおお!」


 身体中から力を振り絞る。そのせいで身体中に激しい痛みが走るがそんなのは関係ない。誰かが死んでいくのを見てるだけの苦しみに比べたら大したことない。


 そんな俺の行動を見てまだらがあきれるように笑う。


「無駄だよ。前みたいに気合と偶然で破れるほどやわな術を組んでないからね」


「無駄だと? んなもんテメェが決めんじゃねえ! 無駄かどうかは俺が判断する。テメェの意見なんか関係ねーんだよ!」


「やれやれ、無駄だというのがわから――なっ!」


 さっきまで余裕の表情だったまだらの表情が一変する。


「この力はなんだ! なぜ僕の術がおされるんだ」


「なにゴチャゴチャ言ってんだよ! こっちが必死なってるのにさっきからうるせえーんだよおおおお!」


 その瞬間、さっきまで身体を縛っていた鎖のようなものの拘束が解かれたのがわかった。不思議と前のように身体の辛さはあまり感じられない。それどころか力が湧いてくるのを感じる。


 俺は身体が自由になると術が解かれて驚愕しているまだらへ接近する。


 こいつを仕留めるのなら今がチャンスだ。今なら結界を張る前にしとめることができる。


 まだらへ接近すると俺はそのまま持っていた打刀をまだらへと振り下ろす。


「おりゃああああ!」


「……しまった!」


 このまま振り下ろせば致命傷を与えることができる一撃だった。


 だが俺の手元目掛けて飛んで来たクナイのせいで一瞬動きが止まり手元がブレる。


 幸いクナイは俺の手には直撃しなかったが一瞬動きが止まったことと手元がブレたせいでまだらへと振り下ろした刃は狙いがズレて頬をかすめるだけに終わってしまった。


「ちっ!」


 せめて一撃だけでも、そう思い俺は蹴りを繰り出す。


「かはっ」


 がむしゃらで繰り出した蹴りはまだらの腹を直撃し内臓を傷付けたのか血を吐き出す。その衝撃でまだらは気を失う。


 さらにそこから追い打ちをかけようとするが、俺と蹴り飛ばしたまだらとの間にクナイが投げつけられる。


「くっ!」


 俺がクナイで怯むとその隙にくノ一がまだらを抱きかかえ地面に何かを叩きつけようとしていた。


「待ちやがれ!」


 直後、眩い閃光が俺の眼を襲い視力を奪う。


「くそっ! どこだ! どこにいやがる!」


 俺は何も見えない中必死にまだらを探すが見つけられず、視界が回復する頃にはまだらたちの姿はなかった。


「クソったれ!」


 俺はまだらを仕留めることが出来なかった。これじゃあ何のために馬頭が死んでいったんだ。馬頭だじゃない。馬頭に思いを託して死んでいったやつらの行動すら無駄死になっちまう。


「何をそんなに落ち込んでるのです」


 俺が自分の無力さに憤っていると栞那が疲労困憊ながらも俺を見て呆れるような表情を浮かべていた。


「何でもくそもあるかよ! 俺はまだらの野朗を仕留め損なったんだ! この戦に勝てる千載一遇の好機を逃したんだ。死んでいった馬頭に何て言えばいいんだよ!」


「何を言ってるのですかあなたは」


「なにって――」


「この戦はこちらの勝ちです」


「えっ?」


 栞那の言葉に困惑する俺。勝ったってどういうことだ?


「先ほどの閃光。戦場とはいえ本陣であのような光があれば本陣に何かあったとどの兵でも疑問に思います。それを利用して大将を敗走させたと神鳥に乗って勝鬨をあげれば敵は瓦解するでしょう」


 この戦の大将であるまだらが敗走した知れれば敵の戦意は著しく落ちる。そうなれば敵は自然と撤退していく。


「つまり勝った……のか?」


「ええ」


「そう……か。勝った……のか……」


 そう呟くと俺は緊張の糸が切れてそのまま気を失った。


更新が遅くなってすいませんでした。

携帯が壊れて保存していた小説に関するデータが全てなくなってしまいました。

なんとかバックアップが取れればいいんですが……。

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