表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/125

79

あらすじ:誘拐された馬頭の妹のまこを助けるために蛇骨の国との戦に参加した九十九大和。奇策を用いて蛇骨の国で勝利をあげるも、本隊である紫苑の軍勢が敵の策略によって窮地に。救援に向かう馬頭たちと大和だったがその戦いの中で馬頭が命を落としてしまった。

「馬頭おおおおお!」


 俺は馬頭の名を叫ぶ。


 しかしその声はもう馬頭へ届かない。


 俺と栞那が馬頭に追いついたと思った矢先、馬頭は宗麟に斬られ馬から崩れ落ちた。そして最後の最後に宗麟の乗っていた馬を仕留めたが馬頭は死んだ。


 そう、馬頭は死んだ。宗麟によって殺された。


 馬頭を殺した宗麟は死にゆく馬から飛び降りこちらを見ていた。


 俺の中で怒りの感情が駆け巡る。


 あの野郎を今すぐぶっ殺してやる。


 そう思いデカ鳥を宗麟へと向けて走らせようとするが……。


「落ち着くのです」


 栞那が後ろから俺を抱きしめながら諌めてきた。


「止めるな! あの野郎は馬頭を殺しやがったんだ」


「駄目です。今の我々では彼には勝てません。馬頭殿の想いを無駄にするつもりですか」


「だが……」


 栞那の言いたいことはわかっている。頭ではわかってはいるが心が納得できていない。


 今の俺らじゃあいつには勝てない。


 そのために馬頭が命を犠牲にして宗麟の足である馬を仕留め時間を与えてくれた。自分の命と引き換えにまこちゃんと仲間の想いを俺に託して。


 だと言うのに俺は宗麟をすぐにでも殺してやりたくて仕方がなかった。


「お願いです。お願いですから死んでいったみなの想いを無駄にしないでください……」


 栞那抱きしめる力を強めて必死に暴走する俺を止めようとする。その際に栞那の腕は震えていた。


「……くそっ!」


 馬頭が死んで辛いのは俺だけじゃない。栞那だってこの戦場で共に過ごして来た仲間を失いながらも屍を超えて前へと進んできたんだ。それでもなお進まなきゃいけないのは仲間の想いを無駄にしないため。敵将を討ち取り紫苑を助けること。


「悪かった栞那」


 俺は栞那に謝罪する。


「いえ、こちらこそ辛いことを言ってるのはわかっています」


 栞那も申し訳なさそうに謝罪する。


「……」


 俺は自分の未熟さを噛み締めながら俺はデカ鳥を馬頭が敵将がいると言った方角に走らせる。


 そして少し行くと真っ黒に染め上げた陰陽師が着るような服を着たやつが馬に乗っているのが目に入る。


 あの顔に見覚えがある。まこちゃんを誘拐していったまだらだ。やっぱりあいつが敵将だったか。


 ここであいつを討てばこの戦は勝ちだ。


 そう思いデカ鳥の手綱を握り締める。


 しかし敵もそう簡単には先へ行かせてはくれない。


 背後から馬の嘶き声が聞こえてくる。


「後ろからあの男が迫っています。どうやら馬頭殿の馬を使っているようです」


「ちっ!」


 栞那に言われて背後を振り返ると馬頭の馬に乗って宗麟がこちらに走って来ていた。


 このままでは追いつかれる。


 いくらデカ鳥が馬よりも速かろうとこっちは二人乗っている上に昨日から走らせっぱなしで体力も消耗している。


「ここは私が――」


「ダメだ!」


 俺は栞那が言う前に制止する。


「お前を囮にはしない」


 と言って栞那が勝手にデカ鳥から飛び降りないように腕を掴む。


「しかしそれでは直に追いつかれてしまいます。それならば私が神鳥から降りて足止めした方がいいはずです」


「ダメだ。歩くのがやっとなほどボロボロな状態なのに無理をするな。お前をみすみす死なせたくはないんだ」


「ですが」


「頼む! もうこれ以上身近な人間が死んでいくのを見たくはないんだ」


 これは完全に俺の我儘だ。


 一刻を争う状況でこんな情けないことを言うなんて栞那は俺にあきれるかもしれない。本来なら誰かを犠牲にしてでも前に進むべきなのだろう。それでも俺はもう誰かを失うのが嫌だった。


「……はぁ」


 案の定栞那は俺の答えにため息を吐く。


 しかしその先の答えは俺の予想していなかったことだった。


「仕方ありませんね。ですが本当に危なくなったら私を見捨ててください」


「……すまない」


「いえ、謝罪するのはこちらの方です」


「――っ! きやがった」


 そうこうしているうちに蹄の音が間近に迫ってきていた。


 背後からビシビシと伝わってくるプレッシャー。このペースなら時期に追いつかれる。


 かといって栞那を見捨てるわけにはいかない。


 こうなったら戦うしかない。


 そう思いデカ鳥を反転させようとするが突然声をかけられる。


「そのまま走れ!」


 声の人物は俺にそう言うと俺の横をデカ鳥で走り抜けていった。


「あの声は……」


 たった一瞬すれ違っただけで姿もろくに見えなかったが俺は声の主が誰だかわかった。なんたってこの世界で初めて出会った人物の声なのだから忘れようがない。


「蓮ちゃん!」


 俺は後ろを振り返ると同時に武器と武器がぶつかり合う激しい衝突音が聞こえてくる。


 蓮ちゃんの槍と宗麟の刀がぶつかりあい互いに乗っていた騎鳥と騎馬の足を止めていた。


 どうして蓮ちゃんがここに? まさか敵将を討ち取るために敵陣を正面から突っ切ってここまでやってきたのか。


 正面は背後の何倍もの敵がいたんだぞ。それを突っ切ってくるなんて無謀にもほどがある。


「九十九殿! この男の相手は私が引き受ける。敵将は任した」


「無茶だ!」


 いくら蓮ちゃんでもたった一人であの宗麟を足止めするなんて無茶にもほどがある。


「笑止」


 宗麟が立ちふさがる蓮ちゃんを仕留めようと刀を振るう。


「甘い」


 蓮ちゃんはそれを槍でいなすと反撃の一手を繰り出す。


 騎乗で片腕というハンデを抱えながらも必殺の一撃を何度も繰り出す宗麟に対し、俺の心配をよそにその攻撃をいなし反撃を繰り出す蓮ちゃん。


 強い。俺の想像していた以上に蓮ちゃんは強かった。


「今が好機です。蓮殿が時間を稼いでいるいまのうちに」


 二人の戦いに魅入っていた俺に栞那が注意をうながす。


 そうだった。今の俺にできることは敵将のまだらを討ち取ってこの戦を終わらせることだ。


 本来なら蓮ちゃんがそれをやっていたはずだ。なのに蓮ちゃんは俺たちを助けるためにわざわざ助けにやって来てくれたんだ。敵将を討ち取るという好機を逃してまで。


 このまままだらのやつを見失っちまったら全てが無駄になる。


 馬頭に蓮ちゃん、それに戦場で散って逝ったやつらの想い。それを無にするわけにはいかない。


 みなの想いを背負い俺はまだら目指して突き進む。







 ぶつかり合う刀と槍。


 宗麟と蓮の戦いは拮抗していた。


 蓮は宗麟の必殺の一撃を槍でいなし、宗麟は蓮の放つ反撃をものともせずにかわし攻撃を繰り出してくる。


 通常の戦闘であればリーチの長い槍の方が有利なのだが、宗麟の使う刀はただの刀ではなく馬頭の使っていた刀身が一メートルを超える大太刀。それは斬馬刀と呼ばれる但馬の国では名刀として知られる一振りだ。


 普通の槍使いならば勢いに乗った大太刀をいなすことなど不可能だが蓮は針に糸を通す精密さで力を逃がしいなしていた。


 それでも十分にすごいことなのだが蓮はそこから反撃を繰り出す。しかしその反撃は宗麟の動物的直観と優れた反射神経でかわし決め手にかけていた。


 一瞬の隙が命取りの戦い。


「やるな」


 宗麟は蓮と距離を取り呼吸を整える。


「だが修羅などと呼ばれた朱槍の蓮ともあろうもが仲間を助けに将を討つ好機を逃すとはな」


「それは違うな。私は最善の策をとったまでだ」


 宗麟の挑発に蓮は軽くかわしながら答える。


「最善だと。あの小僧は呪術師を討つ武具などは持っていなかったが根拠でもあるのか」


「さあな。強いて言うなら女の勘というやつだ」


 おどけるように答える蓮。


「笑止」


 呼吸を整えた宗麟は再び蓮へと斬りかかる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ