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なれない携帯からの投稿なので変なところがあるかもしれませんので、指摘してもらえると助かります。

直せるようなら直してみます。


 馬頭は馬に乗って敵将目指して戦場を駆ける。当然敵もみすみす通すわけもなく馬頭の前に立ちはだかる。


「こっから先は行かせぬ!」


「しゃらくせ!」


「うぎゃっ!」


「くふっ!」


 立ちはだかる敵に大太刀を振り回して次々と蹴散らす馬頭。


 いまや馬頭を守る仲間はいない。みな馬頭に希望を託して散って逝った。気の合うやつや剃りの合わないやつもいたがみな馬頭に全てを託して逝った。


 敵将を討ちこの戦に勝利し国とそこに住む家族を守るために。

 馬頭はその想いを背負い走る。


「……っ! 居たっ! あいつか」


 そして馬頭はとうとう敵将の元までたどり着く。


 馬頭の視線の先には術師が着る衣を真っ黒に染め上げた年若い少年が兵士に守られるように馬に乗っていた。


「あいつがまだらか。大和のやつが言ってた通りまだ餓鬼じゃねえか」


 あんな子供が将として戦場に立っていることに疑問を感じるが今はその疑問を頭の片隅に置いて馬頭は馬をさらに加速させ敵将を討つべく突き進む。


 敵将を守る敵の数は一〇人。


 生まれ故郷である但馬の国で仕込んだ馬術を持ってすれば敵を切り抜けて敵将まで行くことは可能だ。


「あの者をまだら様に近づけるな!」


「「「「うおおおおっ!」」」」


 迫りくる馬頭を討つべく敵も迎撃に出る。


「はあああっ!」


 馬頭は馬を巧みに操り敵の攻撃をかわしつつ反撃を入れる。


「ぐはっ」


 攻撃をくらった敵兵はあっけなく事切れて馬から崩れ落ちる。


「あぐっ」


 次に迫りくる敵兵には馬の速度を落とし攻撃のタイミングをずらして攻撃をかわして仕留める。


 その後も人馬一体という言葉が相応しい動きで敵を翻弄しながら仕留めていく馬頭。


 それもこれもここまで自らを犠牲にして馬頭を守って散った仲間のおかげだ。馬頭も馬もそこまで疲弊していないからこそ敵を圧倒しながら戦えるのだ。


 そして馬頭は立ち向かってくる敵を蹴散らすとまだらの首を取るべく接近する。


「やれやれ、たった少数でここまで来るなんて称賛に値するよ。でもまあこれはこれで約束は守れたからいいのかもね」


「ごちゃごちゃとうるせぇんだよ!」


 余裕綽々の態度のまだらに接近した馬頭は大太刀を振り下ろす。


 大太刀の長身を活かした遠心力と馬による加速による勢いの乗った必殺の一撃。


 しかしその刃はまだらへは届かない。


 馬頭の大太刀はまだらに当たる直前で颯爽と馬に乗って現れた第三者の太刀によって防がれた。


「ちっ! やっぱりてめーが出てきやがったか」


 馬頭は忌々しそうに自分の一撃を防いだ人間を見る。


 視線の先にいたのは片目隻腕の大男。馬頭がかつてライバル視していた宗麟だ。


「ふんっ。相変わらず大雑把な太刀筋だな」


 馬頭の一撃を防いだ宗麟は澄ました表情で言う。


「その刀をどけろ! じゃなきゃ今後こそ殺すぞ」


 と言って馬頭は恫喝すると大太刀を両手で握り渾身の力を込めて邪魔する太刀を押しのけて振り下ろそうとする。


「笑止」


 だが馬頭の大太刀は宗麟の太刀を押しのけるどころかピクリとも動かない。


「……なにっ」


 馬頭は驚く。


 片腕の宗麟に対してこちらは両腕で力を込めているうえに刀身に体重も上乗せているというのに力負けしているのだ。


 馬頭にはそれが信じられなかった…というよりも信じたくなかった。


 国を追い出されて数年。流民生活をしながらも鍛錬を重ねて昔よりも強くなったという自信はあった。だというのに片腕という不利を抱えながらも自分の両腕以上の膂力を相手は有している。


 もしや術師の格好をしているまだらが呪術を使っているのではないかと疑って視線を向ける。


「それじゃあ僕は約束通り手出ししないで見守っているからさっさとけりをつけるんだよ」


 馬頭の予想とは裏腹にまだらは馬頭と宗麟の二人から距離をあける。


 呪術を使っているのならばその場から動けない。まだらが動けるということは呪術は使っていないということだ。


 つまり宗麟の膂力は馬頭よりも上だと言うことだ。


「くっ!」


 このまま押し切るのは無理と判断した馬頭はいったん距離をとり攻め方を変えることにする。


 片腕というハンデを抱えつつもなお力負けするということにかなりの悔しさを覚えるが今はなんとしてでも宗麟を討ち取りまだらを討ち取るために次は機動力を活かしてして攻める。


 そのために馬頭は馬を走らせて宗麟の死角である右目へと回り込みそのまま背後へ回り込もうとする。


 真っ直ぐ走るだけなら手綱を握らなくてもできるが手綱を使わずに馬の方向転換をさせるのは難しい。片腕の宗麟では武器と手綱を同時に持つことは不可能だ。


 もし宗麟が武器を捨てて手綱を握ろうとすれば隙ができるし仮に手綱を握らなくても馬に乗ったままでは背後からの攻撃には遅れるのは間違いない。


「そこだっ!」


 背後へと回り込んだ馬頭は宗麟ではなく宗麟の乗っている馬に大太刀を振り下ろす。


 馬を神獣とする但馬の国の人間にとっては将ではなく馬を狙うことは恥辱の極みと言われており禁忌とされていることだ。


 但馬の国で生まれ育った馬頭もその考えを十分に理解しそのようなことはしないと誓っていた。


 だが今の馬頭の目的は宗麟を討つことではなく敵将であるまだらを討つことだ。


 そのためには宗麟と戦う必要などない。


 例え恥辱の極みだろうが卑怯者だと言われようが自分をここまで送り届けた仲間の想いを無駄にするわけにはいかない。


 だから宗麟の足である馬を狙い宗麟が動けない間にまだらを討つつもりであった。


 しかしそんな馬頭の思いと裏腹に宗麟は手綱を使わず馬を反転させて馬頭の斬撃を防いでしまった。


「……っ」


 驚きを隠せない馬頭。


 たかが反転するだけだが、手綱を使わずにそれをやってのける難しさを馬頭は知っている。手綱を使わずに意志疎通をするなどそれこそ人馬一体の妙技なのだから。


 でもここで引いたら心まで挫けそうな気がして馬頭は馬を止め二撃目三撃目と斬撃を繰り出す。


 一方の宗麟は涼しい顔でその斬撃をさばいていく。


「どうした。その程度か」


「……」


 強い。


 片腕と片目という不利を抱えているというのに馬頭には勝てる気がしなかった。


 同時に違和感を覚える。


 前は奇襲とはいえ片手と片目を奪えたはずだというのに今は触れることすらかなわない。


「以前との違いに戸惑っているのか」


 宗麟は斬撃を逸らしつつ馬頭の心を見透かしたかのように喋る。


「ちっ」


 馬頭は心を見透かされた恐怖を拭うかのように盛大に舌打ちすると斬撃を繰り出し続ける。だが宗麟は喋りをやめない。


「それは当然だろう。あの時はあえて斬られてやったのだからな」


 刀と刀がぶつかり合い鍔迫り合いになると宗麟がそんなことを言ってきた。


「なんだとっ!」


「私にはお前が邪魔だった」


「はっ! 俺っちを悪者にして国を乗っ取ろうと考えてたのか?」


 当時の宗麟は優秀で但馬の国の当主である黒駒家の養子になる話もあったほどだ。そうなれば嫡男である馬頭がいなくなれば家督を継ぐ可能性もあった。


「でも残念だったな。片腕と片目になった価値がないと判断した親父はお前を見捨てたんだから――な!」


 馬頭は大太刀の柄から片手を離し腰に差した脇差を抜くと宗麟へと向ける。


「ふんっ」


 宗麟は持ち手が片手になって押しが弱くなった馬頭の大太刀を払いのけそのまま迫りくる脇差を払い飛ばす。払い飛ばされた脇差は空高く舞い上がりやがて地面へと突き刺さる。


 そしてお返しとばかりに宗麟が反撃の一撃を繰り出す。


「……うっ!」


 馬頭は頭上に大太刀を構えてなんとかその一撃を防ぐ。


 重い一撃。確実に自分を殺しに来る殺意を込めた一撃は防いでも馬頭の身体の芯まで響く。


 たった一撃だが力の差は歴然だというのがわかってしまう一撃だった。同時に今まで手を抜かれ遊ばれていたことも。


「勘違いしているようだが私は元よりあの国など興味はない。私が興味があるのはあの方――まこ様のみだ」


「まこだと!」


「そうだ。私は一目あった時からあの方に心を奪われた。可憐で健気なあのお姿に」


 と言って宗麟は昔を思い出し恍惚とする。その表情はまるで狂信者のようであった。


「私はあの方に振り向いてもらいたかった。しかしあの方の心には常にお前があった。たかが兄というだけでな」


「そのために邪魔者の俺っちを国から追い出そうとしたってわけか。昔から気に入らねえと思っていたが狂ってやがんなお前」


「愛に狂うのであればこれほど至高なことはあるまい」


「だが残念だったな。愛だなんだほざいときながら目と腕を失ったその結果まこは俺っちと一緒に国を出ちまったわけだしな」


 手も足もでない状態でせめて反論してやろうと馬頭は嫌みたらしく言う。


「だがあの方は今こちらの手の内にある」


「……」


 馬頭は思わず歯噛みする。こんな変態野郎にまこが捕まっている状況に晒してしまった自分の情けなさに腹が立つ。


「そして今度こそ失敗しない。ここでお前を殺すからな」


「そんなことしたらまこはお前を許さないだろうな」


「それがどうした。むしろそうすればあのお方は常に私のこと思っていただけるではないか。憎悪という感情でな。ああ、もっと早くそのことに気が付けばよかったのだ」


「……手前はやっぱり狂ってやがる。あのときに殺しておくべきだったな」


 このままこの男を放置しておけば妹に近いうちに危害が及ぶ可能性がある。馬頭は片手と片目を奪った時に殺せなかったことを悔やむ。


「それはお互い様だ」


 妹に狂う男とその妹に狂う男。それは決して相容れぬ存在であった。


「……ぐっ」


 力負けして徐々に押され始める馬頭。


 だからといって馬頭もこのままでは終われない。仲間のためにも妹のためにも。


 しかし現状を打開する手段が浮かばない。


 敵将のまだらを討とうにも宗麟が邪魔をして討ちにいけない。逆に宗麟を討とうにも実力に差がありすぎて文字通り太刀打ちできない。


 考えあぐねていると馬頭は聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 始めは幻聴かと思った。


 なぜならそいつは戦場にいるはずはないのだから。


 だというのに聞こえてくる声。


 もしやと思い視線を一瞬だけ向ける馬頭。


「……あの馬鹿」


 視線を向けた先には神鳥に乗った大和と栞那の姿があった。

 どうして戦場にいるのかはわからないが、馬頭は大和が来たことである決意をする。


 大和と二人がかりで宗麟に立ち向かっても勝つことは難しい。というよりも大和が着くまで自分の命があるかも厳しい状況だ。


 それでも一人ではないのなら本来の目的を達成する方法はある。


「大和! 敵将はこの先だ。いけっ!」


「馬頭!」


 馬頭の声を聞いて大和が叫ぶ。


「こいつの相手は俺っちで十分だ!」


「戯言を」


「はっ、手前はここで殺す。まこにもあいつらにも近づけさせねえ」


 宗麟の刀に押さえつけられる馬頭は宗麟をキッと睨み付ける。


「威勢だけでは何もできないぞ」


「それはどうだか」


「笑止」


 馬頭が頬を吊り上げて笑うと宗麟が止めを刺すべく一気に力を込める。


 馬頭がそれと同時に持っていた大太刀を握る力を緩める。


 すると宗麟の刀は馬頭の肩口から肉を斬り骨をも断つほど深く入り込んでいく。


「……っ」


 激しい痛みが馬頭を襲う。傷口からは血が溢れ焼ける様に熱い。傷口は深く致命傷だ。


 だがそれでも意識は手放さない。


 馬頭は満身創痍の状態で刀を引き抜こうとする宗麟の腕を握り締める。


「逃がさねぇぞ」


 と言って馬頭は最後の力を振り絞り大太刀を宗麟に向けて振るう。


 いくら宗麟といえども唯一の攻撃手段である腕を封じられてはどうすることもできるはずがない。おまけに馬上では足もろくに使えず馬を使って逃げようにも腕を掴まれて逃げられない。


 馬頭は肉を切らせて骨を断つのではなく肉も骨も切らせて相手の命を絶ちにいったのだ。


 誰かが敵将を討たなければならないこの状況で自分一人だったらできなかった選択だ。皮肉にも大和が助けに来たからこそ馬頭は道連れという選択をした。


「愚かな」


 迫りくる刃に宗麟は動じることなくそう言うと馬頭に刺さっている刀を手首の力でえぐるように捻る。


「……がっ」


 馬頭の全身に電流が流れたかのような衝撃が走るが歯を食いしばり堪える。


 しかしそこにわずかな隙が生まれる。


 その隙は針に糸を通すようなほんのわずかの隙だが宗麟はその隙をつく。


 激痛で宗麟の腕を掴む力がわずかに弱まった一瞬に腕を引き馬頭からの拘束を逃れ、自由になった腕で迫りくる大太刀を弾くと馬頭に止めの一撃をあびせる。


 なんと宗麟は馬頭の決死の攻撃をたった数瞬のうちに打ち破り形勢を一気に逆転させてしまった。


「かはっ」


 宗麟の止めの一撃を食らった馬頭はぐらりと馬上から崩れ落ちかける。


 致命の一撃。


 だんだんと薄れていく意識。


 その視界には宗麟の見下した顔が映る。


 まだだ。まだやるべきことが残っている。


「うおおおおおお!」


 馬頭は最後の力を振り絞り宗麟の馬に刃を突き立てる。


 急所を討たれ宗麟の馬は崩れ落ちる。


 宗麟は討てなかった。だが宗麟の足は奪った。


 これで大和たちがは敵将まで行く時を稼げた。


 大和が敵将を討ってくれれば戦には勝てる。


 馬頭は最後の最後に仲間の想いを大和に託したのだ。


「頼むぞ……大和……。……そしてすまない……まこ」


 その言葉を最後に馬頭は息を引き取った。

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