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引っ越しの準備が忙しくて更新が遅くなりました。

すいません。

 俺が戦場を見渡せる谷の上に到着すると紫苑の軍勢と蛇骨の軍勢との戦いが始まっていた。


 戦況は数の少ない紫苑の軍勢が徐々に押され始めていた。このままじゃ負けるのも時間の問題だ。


「くそっ! 蓮ちゃんを助けなきゃいけないってのに馬頭の野郎はどこにいやがる」


 このままあいつに死なれたらまこちゃんに合わす顔がない。なんとしても馬頭を見つけて生き延びてもらわなきゃならない。


 だというのに馬頭の姿はおろか栞那たちの姿も見当たらない。


 戦況を確認するんだったら俺が今いる谷の上にいるはずなのに見渡す限り馬頭たちの姿はない。


 ということは馬頭はもうすでに動いちまったのか!


 敵に見つからないように隠れている可能性も否定できないが馬頭が今の戦況を見て動かないわけがない。


 せっかく一晩中走り続けてやっとここまで着いたっていうのに手遅れだったって言うのかよ。


「くぇー」


 俺の乗っていたデカ鳥が疲労を訴えるかのごとく力なく鳴く。思えば一番疲れているのは走り続けたこいつなのかもしれないな。


「ムチャさせちまって悪いな」


「くぇ!」


 俺がデカ鳥に感謝の意を伝えるとデカ鳥は別にあんたのために走ったんじゃないんだからねと言わんばかりにそっぽを向く。


 ……むっ、鳥のくせに生意気な。よく見たらこいつは牧場でまこちゃんと世話した時のデカ鳥の一匹じゃねーか。


 だが今はそんなことを気にしている場合じゃない。


 俺は鍛えぬいた視力を凝らして敵の様子を窺う。


 すると少数の集団が敵陣の背後から奇襲をかけているのが見えてきた。


「あれは……」


 五〇にも満たない兵力で馬とデカ鳥という異様な組み合わせのあの集団は間違いない、馬頭だ。


 馬頭たちは敵陣に突っ込むと無謀な突撃を仕掛けていた。


 案の定徐々にその数を減らしながら馬頭たちは敵陣を駆け抜け敵将の御旗へと突き進んでいく。


 あれは後のことなんて考えていない突撃だ。その証拠に敵の密集陣形を破って馬を失った朱美が敵に飲み込まれていくのが見えた。


「あいつら……ここで死ぬ気かよ」


 どうする。


 助けに行こうにも今から谷を降って行っても間に合わない。俺はここで死んでいくやつらを見ていくしかないのか。


 ああ、また誰かが敵の槍に貫かれて殺された。


「……くっ!」


 これじゃまこちゃんが誘拐されたときと変わらないじゃないか。まこちゃんを救えなかったあの時と……。


 俺が歯痒い思いで馬頭たちを見ていると、あと少しで敵将の御旗までたどり着くというところでデカ鳥の一匹が矢で撃たれて倒れこむ。それと一緒にデカ鳥に乗っていたやつも地面に投げ出され転がる。


「栞那!」


 俺は思わず叫ぶ。


 地面を転がったのは栞那だった。


 栞那は立っているのがやっとなのか膝を屈する。その隙をついて敵兵が襲い掛かってくるが栞那は気力を振り絞ってそいつを一刀で斬り伏せた。


 何かを言っているようだが戦場の喧騒に包まれてここまで聞こえない。


 でも栞那はあのまま死ぬ気なのは確かだ。


 何か。何か策はないか。栞那と馬頭を助ける策が……。


 俺は必死に思考を巡らせるがいいアイデアが思いつかない。


「くぇ!」


 俺が考え込んでいるとデカ鳥が思考に割って入ってきた。


「なんだよ」


「くぇっくぇくぇー!」


 デカ鳥は翼を広げて自分を指差す。


「自分にまかせろ、と言いたいのか? お前に何か策があると」


「くぇっくぇ!」


 首を縦に振りながら肯定するデカ鳥。


「……」


 こいつに任せて大丈夫か? しょせんは鳥の浅知恵だぞ。


 でも俺に策がないのも事実。


 こうなったら一か八かに賭けてみるか。


「ちっ、わかったよ。お前の策に乗ってやる」


「くぇー!」


 デカ鳥は嬉しそうな鳴き声をあげて走り出す。


 どうやらデカ鳥は谷の崖っぷちに向かっているようだ。


 なるほど。このまま急勾配の崖を降れば普通に谷底に行くよりは早い。


 なかなかやるじゃないかとデカ鳥に感心していたが、デカ鳥は何を思ったのか崖っぷちに迫るとさらに加速する。


 降るのならスピードを落とすはずだが……。これはまるで助走だ。


「おいおいまさか空を飛ぶつもりか!?」


「くぇ!」


 そうだと言わんばかりに威勢のいい返事をするデカ鳥。


 本当に空を飛べるのか?


 こいつは鳥と言っても体重は一〇〇キロは優にあるんだぞ。そんな重量で空を飛ぶことができるのか?


 それとも不思議生物のこいつは空をも飛べるのか?


「くえええええええええ!」


 そうこうしているうちにデカ鳥は崖を飛び上がり大空へと羽ばたく。


「くっ!」


 俺はデカ鳥の手綱を強く握りしめてアクシデントに備える。


 そして身体にふわりとした浮遊感が襲う。その感覚はまるでジェットコースターの急降下と同じような……。


「おい、落下してるじゃねーか!」


 デカ鳥は飛ぶことなくそのまま重力に引かれ落下していた。


 するとデカ鳥はこちらを振り返ると困った表情で鳴く。


「……くぇ」


 どうしようという気持ちが如実に伝わってくる鳴き声だ。


 どうしようじゃねーよ! 行き当たりばったりにもほどがある。


 くそっ! これだから鳥頭は。


 だが泣き言を言っている場合じゃない。こっから地上まで約五〇メートルほど。このまま落下したら潰れたトマトになる未来しかない。


「もっと翼を広げろ!」


 俺はデカ鳥に指示を出す。


「くぇー?」


「翼を広げて上昇気流――下から来る風に乗るんだ」


 確か大型の鳥は帆翔はんしょうと呼ばれる翼を広げて風に乗って飛ぶやり方で飛んでいたはずだ。

 幸いにも下は谷底。周囲の壁にぶつかった風が行き場を求めて通常よりも強い風が上へと逃げてくる。


 その風に乗ってハングライダーの要領で飛べばなんとかなるかもしれない。


「くぇ―――――――!」


 デカ鳥は俺の指示通り翼を広げると落下速度が遅くなる。


 しかしそれでも重量が重いせいとデカ鳥の翼が退化していることもあって落下はとまらない。デカ鳥はこれ以上落ちないように必死に翼をばたつかせている。


 しばらくすると眼下に見える敵兵たちが俺たちを見て「飛んでいる」なんて驚いているが飛んでいるんじゃない、ゆるやかに落ちてんだよ。


 でも敵はデカ鳥が飛んでいると勘違いしてくれたおかげで驚きのあまり呆然と立ち尽くしていたので矢で射られることがなかった。


 その間に俺たちはなんとか無事に地面に着陸すると急いで栞那の元へと向かう。最初から栞那のところに着陸できればよかったがさすがにそこまで自由には飛べなかった。矢で射られなかっただけでも僥倖だろう。


 そして敵はこちらの動きを見て冷静さを取り戻し動き出し始める。


「敵だ! 殺せ!」


「「「「うおおおお!」」」」


「邪魔をするんじゃねえええええ!」


 立ちはだかる敵を槍の柄で蹴散らしながら進むが数が多すぎて思った以上に進まない。


「あいつの狙いはそこの女だ! 助ける前にさっさと殺せ!」


 そうこうしているうちに敵は俺の狙いに気が付くと栞那を始末するよう指示を飛ばし敵が栞那を殺しに動く。


 一方の栞那は逃げようにも体力の限界なのか身体を動かすことができないようだ。


 そこへ栞那の近くにいた何人かの敵が止めを刺そうと栞那に向けて刃を振り下ろそうとする。


 まずい。


 助けようにも今のままじゃ間に合わない。


 距離にして一〇メートル。たった一〇メートルだが敵を蹴散らして進むには遠すぎる。ほんの数秒の時間があれば間に合うというのに。


 敵が一人ならなんとかなるが複数いるとなると……。


「栞那!」


「   」


 逃げろ。


 声はかすれて聞こえなかったが栞那は俺の叫びを聞くとこっちを見て力ない口の動きでそう言ったのがわかった。


 あいつ、こんな状況で他人のことなんて気にしやがって。


 だというのに俺は助けに来ておいて未だに敵を殺すことをためらっている。


 バカか俺は。


 手加減なんかしていたら栞那が殺られちまうだろうが。


 ここは戦場だ。


 殺るか殺られるかの状況で何をためらっているんだ。


 ここは俺がいた平和な世界じゃない。殺すか殺されるかの弱肉強食の世界だ。


 守るためには誰かを殺してでも戦わなきゃならないんだ。


 俺がここで躊躇っていれば栞那は確実に殺される。


「死ねえええ」


 栞那の近くにいた敵は栞那へ一斉に刃を振り下ろす。


 俺は持っていた槍をグッと握り締める。


 いい加減腹を括るしかない。


「させるかあああああ!」


 俺は槍を敵に向けて投げつける。


「ぐふっ」


「うぐっ」


「がはっ」


 俺の投げた槍は敵の脇腹を貫くとそのまま近くにいた敵まで巻き込んで突き刺さり絶命させる。


 今までのように殺さないよう敵の急所を避けていたらできない攻撃だ。


 敵はその惨状を見て腰が引けている。


 よし、これで時は稼げた。


「行け! デカ鳥」


「くぇ!」


 俺たちは敵中を突破し栞那の元へとやってくると襲い掛かってくる敵を蓮ちゃんからもらった打刀で斬り伏せる。


 肉を斬る生々しい感触。


 これが人を殺すという感じか。


 なんとも言えない気持ちになるが今は弱音を吐いている場合じゃない。


 俺は手を伸ばし栞那をデカ鳥に乗せる。


「大丈夫か栞那」


「こんな状態で大丈夫なんて言える人がいるのなら見てみたいですね」


 俺の前に座らした栞那はぐったりとした表情で答える。


「それだけ軽口を叩けるなら大丈夫だな」


 そう言って俺はデカ鳥を走らせ敵を倒しながら馬頭の元へと向かう。その際栞那がお礼を言っていたような気がするが戦いに集中していて聞き取れなかった。


 とにかく今はこのまま馬頭を助けに行かないと。馬頭の野郎がムチャをしてなきゃいいんだが。俺が着くまで死ぬんじゃねーぞ。


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