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「うがっ」


「くふっ」


 前へ進むにつれて味方も一人また一人とやられていき敵将のものらしき御旗が見えてきた頃には味方の数は一〇にも満たなかった。


 ここまで先陣をきりながらもなんとか生き残っていた栞那だったが、騎乗していた神鳥に敵の放った矢が命中してしまい力尽きた神鳥と一緒に地面へと倒れこんでしまう。


「くえっ!」


「くっ!」


 地面を転がる栞那に馬頭はすぐに声をかける。


「栞那!」


「気にせずお進みください! ここの敵は私が引き受けます」


 倒れてもすぐに起き上がった栞那は馬頭にそう言ってすぐに刀を構えて敵に備える。


「ちっ! わかった」


 馬頭もそれだけ言って馬を立ち止めることなくそのまま敵将の御旗の元に向かって走り続ける。


 栞那はそれを見送ると片膝をつく。


「……うっ!」


 馬頭に余計な心配をかけまいと気張っていたが栞那はすでに限界だった。


 それもそのはず、栞那は先陣をきり敵の攻撃の矢面に立ち続けてきたのだ。当然無傷でいられるはずもなく身体のところどころから出血しておりボロボロの状況だった。


 だがまだ身体は動く。


「死ねええええ!」


 膝をついている栞那に止めを刺すべく足軽の一人が襲い掛かる。


「まだです!」


 栞那は一歩踏み込み刀を振りぬく。


「あがっ!」


 胸をばっさり切り捨てられた足軽はそのまま絶命しバタリと地面に倒れこむ。


「まだ私は死んではいません。私と冥府を共にしたい人は前に出て来なさい」


「ひいいっ!」


 血にまみれた栞那が冷えきった口調で鋭い眼光を細め敵兵を睨み付けると、気の弱い足軽が何人かすくみ上がる。


「ひるむな! 敵は手負いだ。そう長くは持たん。一斉にかかれ!」


「そ、そうだ。相手は死にかけだ。何も恐れる必要はない」


「行くぞ」


「「「「うおおお」」」」


 一瞬尻込みしていた足軽だったが足軽組頭の号令で一斉に栞那へと襲い掛かる。


「はああああ!」


 体力の残り少ない栞那は後のことなど考えず持てる力を全てを込めて刀を振るい一人二人三人と屍の山を築き上げていく。


 その姿は荒々しくも洗礼され、、まるで舞を踊っているかのごとく華麗で苛烈だった。吹き乱れる血しぶきもその舞に華をそえるかのように辺り一帯に舞い散る。


 しかしたった一人で無数の人間を相手できるわけもなく後先を考えないで踊るその舞も長くはもたなかった。


「……はぁはぁはぁ」


 栞那は疲労がピークに達し肩で息をするほど呼吸を乱していた。視界もぼやけてきて立っているのもやっとの状況だった。


 おまけに何人殺したのか覚えてはいないが敵の数は減るどころか増える一方。


「ここ……まで……か」


 身体にガタがきてついに言うことを聞いてくれず膝を屈する栞那。


「馬頭……殿、後は……頼みます」


 事が予定通り進んでいるのなら今頃は敵将と戦っている頃合いだ。


 結果がわからないのが悔やまれるがやれることはやった。これで馬頭から昔受けた借りも少しは返すことができたと自分を納得させる。


 ……そういえば彼はどうしているだろうか?


 栞那は薄れていく意識の中で戦場に連れてこなかった大和に想いを馳せる。


 彼のことだから勝手なことをしやがってと憤慨しているのかもしれない。それとも仲間外れにされたと落ち込んでいるのだろうか? 彼はああ見えて寂しがり屋だからな。


 死を目前にして栞那はそんな益体のないことを考える。


 とうとう彼の名を呼ぶことができなかったな。


 益体のないことを考えていたらふとそのことに思い至る。


 最初は嫌いなやつの名前を呼ぶのが嫌だから名前で呼ぶことはしなかった。だけど好意を抱くと今度は気恥ずかしくて名前を呼ぶことが出来なかった。


「やま……と……」


 最後だからとなんとなしに呟いてみたがやっぱり恥ずかしいと思い口角をあげる。


 こんなときに何をしているのだ自分はと思うが、これで思い残すことはない。あと数秒もすれば無数の刃がこの身にふりかかる。敵をそれだけ殺したのだから当然の結果だろう。


 ……。


 …………。


 ………………。


 死を覚悟した栞那だったが、一向に刃を突き立てられることはなかった。


 おかしいと思い栞那は意識を周りに向ける。


 するとみな一様にポカンと口を開けて空を眺めていた。


 空にいったい何があるというのだと、気になった栞那は視線を上へと向けると絶句する。


「……」


 鳥がいた。


 ただの鳥ではない。神鳥だ。


 神鳥は本来空を飛べる鳥ではない。羽はあるが退化しており飛ぶことはできないはずなのだ。


 それなのに目に映る神鳥は二メートルはある大きな身体を浮かせるために必死に羽をバタつかせて飛んでいるのだ。正確には飛んでいるのではなく徐々に落下しているのだが……。


 その奇跡のような光景を目の当たりにして戦場だというのにみなが神鳥に意識を向けていたのだ。


 しかし栞那が驚いたのはその奇跡よりもその神鳥に乗っている人物の存在だ。


 神鳥に乗っていたのは先ほど名前を言った人物なのだから……。


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