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「ひどい目にあった」


 畜生! デカ鳥ども覚えてろよ。


 俺はデカ鳥に復讐を誓いながら全身唾液まみれでベトベトになった身体を近くにあった川で洗い流す。そして厩舎に残していたまこちゃんの元へと向かう。


 仕事を手伝うはずが放り出してちゃったな。それに必死に逃げてたせいで迷子になったりしてかなり時間を喰っちゃったし。


「あっ! 大和さん」


 俺に気が付くとまこちゃんが厩舎からとてとてと駆け寄ってくる。俺はすぐにまこちゃんに謝罪する。


「ごめんねまこちゃん。急にいなくなったりして。掃除の方はどう?」


「大和さんが神鳥達を外に出してくれたおかげでいつもより早く掃除も終わりました」


「まじで!?」


 デカ鳥が五〇匹もいる厩舎をこの短時間で一人で掃除しちゃったの。


「それよりもすごいですね大和さん!」


「はいっ? すごいって何が?」


 急にまこちゃんが尊敬の眼差しで俺を見てきて困惑する。すごいのはまこちゃんの方だ。


「だってあんなに神鳥に好かれるなんて!」


「好かれる?」


 好かれる要素なんてあったか? むしろ嫌われてるんじゃないだろうか。


「ええ。普段おとなしい神鳥があんなになって大和さんを追いかけまわすなんて好かれてる証拠ですよ」


「でも追い回されたあげく全身を舐められたんだけど」


 思い出しただけでも忌々しい。デカ鳥どもめ!


 憎悪で煮えくり返っている俺とは対照的にまこちゃんは目をキラキラとさせながら感心していた。


「えー! 羨ましいです! それって神鳥の最大の愛情表現じゃないですか!」


「愛情表現?」


 なんてけしからん愛情表現なんだ。即刻駆逐した方がいいんじゃないのか。


「わたしもいつかは舐められたいです」


 グッと拳を握りしめながら意気揚々と言うまこちゃん。


 いかん! デカ鳥の魔の手からまこちゃんを守らねば。じゃないと規制される。


「まこちゃん! 俺が君を守ってみせる」


「えっ? あっ! ひゃ、ひゃい」


 まこちゃんは頬を朱に染めて戸惑いながら返事をする。


 だが今のままじゃ俺はヒモだ。何も手伝っていない。まこちゃんにご飯を恵んでもらってるだけ。なんとか挽回せねば。


「それで掃除は終わったみたいだけどこのあとは何をやればいいんだ?」


「うーん。今日はもうやることないですよ」


「うそっ!」


「さっきも言いましたけど大和さんが神鳥をみんな外に連れ出してくれたおかげでいつもより大分早く終わりましたから」


 本当かな? まこちゃんのことだから俺を気づかってくれてるんじゃないのか? 何か他に仕事はないかな。


「エサやりとかはやらないの?」


「神鳥は雑食なので放牧してあげるだけであとは自分で勝手に取って食べますから餌とかあげる必要はないですよ。それにあまり甘やかすと戦場で大変ですからね」


「戦場……」


 そうか。あいつらは愛玩用動物とかじゃなくて戦場を駆ける騎馬ならぬ、騎鳥のために飼われてるのか。

 そういえば蓮ちゃんもデカ鳥に乗ってたってことは彼女も戦場に出るんだよな。出会った時に山賊討伐の帰りだって言ってたし蓮ちゃんも誰かを殺したりしてるのか。誰かを殺すってどんな感じなんだろう。


 ……つくづくここが自分がいた平和な世界ではなく戦国乱世だということを思い知らされる。


「あれっ? もしかしてまこちゃんがもらってる肉ってデカ鳥の……」


「違いますよ。ここでは神鳥以外にも鶏といった鳥も飼ってますからそれらを解体していらない部位を分けてもらってるんです」


「そうなんだ」


「そうですよ。そうだ! 今行けばちょうど解体が終わってると思うので大和さんには荷物持ちをお願いしますね」


「任せてくれ」


 これでやっとまこちゃんの手伝いができる。


 ということで俺とまこちゃんは肉をもらいに行く。


「おや、まこちゃん。今日は終わるのが早いね」


 肉をもらいに行くとさっき会ったおっさんがいた。


「はい! 大和さんのおかげで随分早く終わりました」


「ほう」


 おっさんがニヤニヤと笑みを浮かべながら肉の入った壺を二つ渡してきた。


「これがいつもの壺だ。あとおまけで精がつくように卵もつけといたよ。今日は早く帰って二人でしっぽりとこづく――」


「ほわたぁ!」


「――りぃ!」


 壺を受け取った俺は目にも止まらぬ速さで動きおっさんを黙らせる。


 すかさず周囲を見回して警戒するが都条例の影はない。


 危ない危ない。危うく不適切な発言のせいで都条例に消されるところだった。


「ちょっと何やってるんですか大和さん!」


 突然のことに驚くまこちゃん。


「大丈夫問題ないよ、ほら」


「ダイジョウブダヨ、マコチャン」


 おっさんはカクカクとした動きで返事をする。こんなこともあろうかと腹話術を練習しておいてよかった。


「ほらね」


「……首がおかしな方向に向いてますけど」


「ダイジョブダイジョブ」


 たぶん死んでないはずだ。


「……」


 押し黙るまこちゃん。なんとか誤魔化せたようだ。絶句してるようにも思えるがきっと気のせいだ。


 さて、肉も手に入ったことだしこんなところに長居は無用。おっさんが目を覚まして不適切な発言をされても困る。


「よし、行こうまこちゃん」


「えっ! ちょっ! 大和さん!」


 俺はおっさんを放り捨てると肉の入った壺とまこちゃんを抱きかかえてその場を立ち去る。


「このまま放置するのはまずいですよ。お医者様に見せないと。離してくださーい!」

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