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 幸いと言うかなんというか百舌の爺さんは無事だった。なんでも夢の中で川を渡りかけていたとか言っていたから大したことじゃなかったんだろう。


 心配して損した。


 それに気絶前の記憶はすっかりなかったようで俺の不祥事も問題にはならないようだ。


 しかし蓮ちゃんを助けたいという勢いで出陣する流れになっちゃったけど、本当にこれでよかったのだろうか?


 正直出陣するリスクは大きい。


 敵将を探すと言ったが容易ではないし敵将を見つけたとしても敵将のところまで無事にたどり着ける保証はない。


 恋は当たって砕けろと言うが他人を巻き込むやり方はなるべく避けたかった。


「何をそんなに考え込んでいるんですか?」


 悩んでいると栞那が声をかけてきた。


「まだ敵影が見えないとはいえここはすでに戦場なのですよ。油断していれば命を落とします」


 栞那の言う通りここはすでにいつどこから敵が出てきてもおかしくはない戦場だ。


 俺たちは蛇斑城を出陣して本隊がいるであろう東方面へと進軍している。


 こちらの手勢は四〇。


 俺や栞那を始めとしたデカ鳥に騎乗しているのが二〇騎、馬頭や朱美を始めとした敵が残していった馬に騎乗しているのが二〇騎の合計四〇騎。


 そして梗と影野たちは城で留守番だ。


 今回は騎鳥と騎馬が余っていたから全員がそれに乗って敵将を見つけ次第一気に突撃する算段だ。


 俺はいつかチカちゃんを白馬に乗って迎えるために乗馬をやっていたおかげでデカ鳥を乗りこなすのに何の問題もない。


 俺はデカ鳥の歩調を栞那に合わせると謝罪をする。


「俺のせいで戦に連れ出しちまって悪いな」


 俺が言い出さなければ城で籠城という安全策が取れて栞那が戦場に出ることもなかった。


「なぜあなたが責任を感じているのですか? 出陣の下知を下したのは馬頭殿です」


 栞那は突き放すような物言いで話す。


「そんなことを言うなんてあなたらしくないですね」


「俺らしく?」


「そうです。今までのあなたなら大胆不敵というか余裕があったのに今回はそういった雰囲気は感じられません」


「……そうかもしれないな」


 今までは策を弄してなんとか勝算がある戦いをしてきた。


 だが今回は策を弄することもしてないうえに勝算も限りなく低い。つまり死人がそれだけ出やすいということだ。


 そしてなによりこれは俺が蓮ちゃんを助けたいというワガママだ。


 これまでは戦うことが決まっていたが、今回は俺の一存のせいで戦い――人が死ぬことになる。


 それなら俺が一人で出向いた方がよっぽど気が楽だ。


「あなたは変な人ですね」


 俺がまた考えに耽っていると栞那が呆れるように言う。


「変?」


「百舌様のような格上の方々に対して礼儀も使わず自分勝手に振る舞うような自由奔放なくせに、誰かを人を殺すことや誰かがが死ぬことだけはやけに嫌う。この戦乱の世であなたのような人を私は今まで出会ったことがありません」


「……」


「私はあなたの考えは嫌いではありません。誰かを殺さないで、誰かが死なないで生きていけるのなら素晴らしいことだと思います。でもこの乱世ではそんなのは夢のまた夢です。そんな世なら私の母上も殺されることもなかったでしょうし、私も戦場に立っていません」


 栞那の言うことが正しいのであろう。この世界は強くなければ生きていけない世界だ。


 まさに弱肉強食。


 そんな世界で俺の考えは甘いのだろうな。


 でも俺はどうしても殺すことをためらってしまう。殺される人間にだって帰りを待っている家族がいる。そのことを考えるとどうしても殺すことができない。


 傍から見れば腑抜けだと言われても仕方がない。


「でも」


 と栞那は俺ではなくまっすぐ前を見据えながら優しい声音で話す。


「もし本当に誰かを殺さないで生きていける世の中を作れるのだとしたら、案外あなたみたいな人なのかもしれませんね」


「俺が?」


 思わず聞き返してしまう。


 すると栞那はすぐにかぶりを振る。


「戯言です。あなたのような甘い考えではこの乱世では生きていけません。それに戦乱を終わらせてくれるとしたら帝様になられる方でしょうし、紫苑様のような十二士の末裔ならともかくあなたには関係のない話です。忘れてください」


 そう言い残して栞那は神鳥の手綱を握り締め、はっという掛け声を出すと先に進んでしまった。


「……帝ね」


 前にまこちゃんから聞いたな。


 確か三〇〇年ぐらい前に戦乱を収めた神の御使いだっけ? んでもって子供が生まれない可哀想な体質だったっか?


 子宝に恵まれた幸せな家庭を築きたい俺には縁のない話だな。


「……でも十二士って何だ? 干支か何かか?」


「十二士ってのは帝様と一緒にこの乱世を収めた時にそばに仕えていた十二人のことだ。ほんっとにお前は常識を知らねえんだな」


 俺の疑問にどこからともなく現れた馬頭が答えてきた。


 だがあんまり興味がないので適当に流す。


「ふーん」


「紫苑様の千鳥家はその十二士の一人だ。ちなみに俺っちもその十二士の末裔だったんだけどな」


「じゃあろくでなしなやつらばかりだったんだな」


 紫苑といい馬頭といいろくな子孫がいないな。


「おめーなー。他のやつらにそんなことを言ったら殺されるから自重しておけよ。戦乱を収めた英雄として未だに崇拝されているんだからよ。なによりこの十二の国を治める連中がその末裔なんだからな。でもまあその末裔同士が国盗りを繰り広げちまってるんだけどな……」


「へー。つーか何でお前がここにいるんだよ」


 こいつは俺のいる後方ではなく先頭の辺りにいると思っていたんだが。


「ちょっとお前に話があってな」


「俺に?」


 なぜこのタイミングに? と疑問に思ったがとりあえず敵が出てくる様子もないから、俺は馬頭の話を聞くことにした。


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