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「……んっん」


 馬頭を部屋に連れて来てしばらくすると百舌の爺さんが目を覚ました。


「ここは……」


 百舌の爺さんは寝たまま周囲を見回し現状を把握しようとする。そんな百舌の爺さんに馬頭が姿勢を正すと堅苦しい口調で説明する。


「ここは蛇斑城でございます百舌様」


「お主は……足軽大将の馬頭か」


「はっ!」


「ということは蛇斑城を落としたという噂は本当であったか」


 百舌の爺さんはゆっくり起き上がると驚き混じりに述べる。


「はい。朽縄城を奪取したのちこの蛇斑城を落としました。それで百舌様、大変失礼かと思いますが百舌様がこちらにいらしたのは何用でございましょうか」


「そうだったな。儂……いや正確には儂らはこの城が本当に落とすことができていたのか確認しに来たのだ」


「確認を……ですか。しかしながらこの蛇斑城は敵の居城である大蛇城とは方角が別なのでは?」


 と馬頭は遠回しな質問を続ける。さっさと本隊がどうなったか聞けばいいのに回りくどい会話だ。


「うむ。お主の言う通り儂らは大蛇城を目指して進軍しておった。進軍は順調で城を二つ攻め落としたのだがな……」


 そこまで行って言葉を区切ると、百舌の爺さんは腸が煮え返ったかのように表情を険しくさせる。


「三つ目の城を攻めようと進軍していると後詰めを務めておった羽鳥家の連中が敵に寝返って背後から奇襲をかけてきたのだ。おかげで儂らは退路を断たれ敵国で孤立したあげく、潜んでいた敵の伏兵が紫苑様を討ち取ろうと次々と攻撃をしかけてきおった」


「なんですとっ!」


 それまで礼儀正しくかしこまっていた馬頭は急に我を忘れて百舌の爺さんの肩を掴むとガクガクと激しく揺さぶる。


「百舌様! 紫苑様、紫苑様はどうなったんです。まさか敵に討ち取られたんじゃ」


「お、おおおおお」


 激しく揺さぶれる百舌の爺さんは壊れたラジオのような声をあげる。ヘタしたらポックリ死んじゃうんじゃないかと心配するくらいだ。


「落ち着いてください馬頭殿!」


 暴走する馬頭を見てそれまで見守っていた栞那が慌てて止めに入る。しかし馬頭は止まらない。


「おい、どうなんだ百舌様!」


 まさか馬頭がまこちゃんのこと意外でここまで取り乱すなんてな。あいつはそれだけ紫苑を慕っていたのか。俺には理解できんな。


「あなたも見てないで手伝ってください!」


 感慨に耽っていると栞那に助勢を求められる。


「ったく馬頭も余計な手間をかけさせるな」


 仕方なく俺は馬頭を止めることにする。


「おい馬頭。それ以上やると百舌の爺さんが死んじまうぞ。そんなことになったらまこちゃんを助ける前にお前が腹を切ることになるんじゃないのか」


「あっ」


 冷静になった馬頭は百舌の爺さんから手を離すと深々と頭を下げる。


「申し訳ございませぬ百舌様」


「……よ、よい。お主がどれだけ紫苑様に忠節を誓っておるのかよくわかったわ」


「寛大なお心に痛み入ります」


「それに安心せよ、紫苑様はまだ討たれておらぬ。この城の方角からは敵の包囲網が薄かったので紫苑様は今この城へ向かっておる。儂は先行してこの城が本当に落ちたのか確かめに来たのだ。もしこの城が落ちたという噂も敵の策のうちという可能性も少なからずあったからの」


 確かに百舌の爺さんの言うことも一理ある。


 普通に考えたらたった一〇〇の軍勢で城を攻め落としたなんて考えられないことだ。敵の流したウワサだと勘繰ってもおかしくない。


 しかし逆に考えれば俺たちがこの城と朽縄城を落としたからこそこの城の方面の包囲網が薄くなったということだ。


 だからといって安心できる状態でもない。


 本隊は敵の包囲網を完全に抜けたわけでもない。未だに敵の手の中にいる状況だ。


 それに百舌の爺さんが一人だったということは敵に見つかって率いていた味方は全滅したんだろう。


「それならば我らもここを出て援軍に向かうべきでは」


「馬頭殿。我々の手勢は六〇。戦でまともに動けるのは五〇がいいとこです。その状態で援軍に行ってもあまり効果がないのでは」


 援軍に向かおうとする馬頭に栞那が諌める。


 俺も栞那の意見に賛成だ。


「まったくだ。紫苑の率いる兵は二〇〇〇近くで敵もそれに匹敵するかそれ以上の数だろう。そんな中俺らが加勢に行ってもムダだ」


「だけど……」


 反論しようとする馬頭だったが百舌の爺さんに遮られる。


「他の者の言う通りだ。たったそれだけの手勢で攻めても焼け石に水。それよりも万が一敵にこの城を取られないように守りを固めることを優先した方がいいかもしれぬな」


「そう……ですか」


 馬頭は自分にできることがただジッと待つことしかできないことを実感して落ち込む。


 その様子を見て百舌の爺さんは馬頭を安心させるように言う。


「なに心配はいらん。紫苑様の近くにはあの朱槍の蓮殿がおるからな」


「なにっ!」


 この爺今蓮ちゃんが敵軍の真っただ中にいるといったのか。


「おい爺! それは本当か! 蓮ちゃんが敵軍に取り囲まれている状況なのかこらっ! しかも紫苑を守るためとか一番危険な役目じゃねーか」


 敵は紫苑を討ち取るべく死ぬ物狂いで襲い掛かってくるはずだ。その真っただ中に可憐な蓮ちゃんがいるなんて危なすぎる。


 これは友達として助けに行かねば! そう友達として!


「……ぐぐぐ」


「ちょっとあなたは百舌様に何をやってるんですか。その手を離しなさい」


 栞那が爺の胸ぐらを掴む俺を止めに入る。それに続いて馬頭が言う。


「そうだぜ大和。そのままじゃ百舌の爺さんが死んじまうぞ」


「うるせー! こんな老い先の短い爺の命よりも蓮ちゃんの方が大事に決まってんだろ! おい馬頭。今すぐデカ鳥を一匹借りるぞ! 俺は一人で蓮ちゃんを、友を助けに行く」


「何言ってんだお前。さっきお前だって加勢するだけ無駄だっていってただろう。それなのにたった一人で攻めていって何ができるっていうんだよ」


「敵は紫苑を討ち取ろうと必死になってるってことはそれだけ敵の守りが手薄になるってことだろう」


 敵が紫苑を討ち取ろうと攻め入ってくればそれだけ敵将も前線に出るか、守りを薄くして攻撃の手勢の数を増やしてくるはずだ。敵にとっては紫苑を討ち取れば戦は終わりだからな。


「だから高い所から全軍の様子を窺いながら敵将の場所を探って敵将を倒す。できるなら総大将を倒したいところだがおそらくそこまでの大物は前線には出てきてないだろう。でも中核となる敵将を討てば敵も総崩れになって味方は城に逃げ込むことができる。そして蓮ちゃんを無事に助け出して万々歳だ」


「ったく。お前は大馬鹿だな。そんなの一人じゃできるわけねーだろ」


 俺の意見を聞くと馬頭はあきれ果てたように呟く。


「うるせー! 俺の命だ。どう使おうと勝手だろうが」


「はんっ! この戦で栞那は変わったってのにお前は相変わらず変わってねーな」


「んだとっ」


「どうして手前は一人で突っ走ろうとしやがるんだ。一人でやることには限界があるってことに気が付きやがれよ。お前みたいな戦場で人を殺せないやつが打って出てもしょせん犬死にだ。だから俺っちが……俺っち隊が総出でお前の策に乗ってやろうじゃねーか」


「馬頭……」


「どうせこのまま黙って見てるのは性に合わねえ。他の連中もきっと俺っちと同じだ。それならお前の一か八かの大博打に乗ってやろうじゃねーか」


 ニヤリと馬頭は楽しげな笑みを浮かべる。


「ちょっと待ってください! その前に百舌様を離してあげてください!」


 意気揚々とする俺と馬頭に栞那が怒鳴りつける。


「あっ!」


 気が付けば百舌の爺さんはグッタリと首を横に寝かせて口から泡を吹いて呼吸していなかった。蓮ちゃんを助けることに夢中ですっかり忘れてた。


「「も、百舌様!」」


 馬頭と栞那が慌てて介護する。


 や、やべぇ。殺っちまったかも……。


次は2月12日の予定です。


ここ最近忙しくて執筆時間がとれず更新が遅くなりがちですいません。


※後半部分の内容を多少変更しました。

大和が軍勢を出せと言うところを、大和が単騎で出ようとするようにし、それに伴い後半部分を改稿しました。

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