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66

 俺たちは急いで百舌の爺さんを城内に運び込むと布団に寝かせる。


 ボロボロではあったが見た感じ大きな外傷はなく疲労で倒れたみたいだからこのまま寝かせておけば目を覚ますだろう。


 それよりも今はこの爺さんのことをどうするかだ。


 俺はさっそく栞那に聞くことにした。


「それで、これからどうするつもりだ?」


「どうするとは?」


 慎重な声音で栞那は聞き返してくる。


「このまま爺さんがここにいることを他の誰かに言うわけにもいかないだろ」


 本隊にいるはずのこの爺さんがこんなところにいるということは間違いなく本隊に何かあったってことだ。そんなことが他の兵に知れ渡ったら大騒ぎなること間違いないからな。


 現状がわからない状態でヘタに騒ぎを大きくすることは得策じゃない。


「そうですね……」


 と言って栞那は顎に手を当てて考える。


「とりあえず今は馬頭殿だけに知らせて百舌様が目を覚ますまで様子を見ようかと思います」


「まあそれが妥当か」


「ということであなたが馬頭殿のところまで知らせにいってもらえますか」


「えっ? 何で俺が?」


「私が今行くのは体裁が悪いと言うかなんというか……」


 栞那は気まずそうに言葉を濁す。


「ん?」


 栞那がこんなことを言うなんて珍しいな。何かあったのか?


 でもまあ爺さんの介護をするよりはましか。ついでに馬頭から呼び出されていたしな。


「わかったよ。ちょっくら行ってくる」


「お願いします」


「あいよ」


 ということで俺は馬頭のいるであろう城主の部屋へと向かう。


 そういえば馬頭と会うのは久しぶりだ。


 馬頭は馬頭でここ数日籠城の準備で色々と指示を飛ばしたりと忙しいせいでほとんど会っていなかった。


 管理職ってのは大変なんだろうな。


「おい馬頭」


「なんだよっ!」


 俺が部屋入ると、馬頭は読んでいた巻物から顔を上げて不機嫌そうに返事をしてきやがった。


「なんだよって、お前が呼び出したんだろうが!」


「ああ、そうだったな。お前を呼び出したせいで余計な仕事が増えたんだった」


「どういうことだよ?」


 さすがの俺も呼び出されただけで問題を起こすようなことはできない。


「お前を探しにいった栞那がぶち切れて暴れたんだよ! おかげで怪我人が出てな」


「俺を探しに行って暴れたって……」


 そんなに俺を探すのが嫌だったのかあいつは。じゃあさっき栞那が言っていた体裁が悪いってのはこのことか?


「……ん? ちょっと待て! それなら俺は関係ないだろ! 悪いのは栞那に俺を探させたお前じゃねーか」


 と俺が言うと馬頭は呆れたようにため息を吐く。


「はぁ。お前は本当に鈍いな」


「あ?」


 俺が鈍いだと? 極限にまで鍛え上げられた俺の反射神経が鈍いと言うのかこいつは。


「もしお前が好意を寄せる相手の悪口を目の前でされたらどうする?」


「んなもんどうするんもこうするも生まれてきたことを後悔するほどボッコボッコにしてやるだけだ」


「ちっとばかし過激だがそういうことだ。あいつは真面目だからそう言うことを流せないところがあるんだよ」


「どういうことだよ?」


 今の会話の中で栞那がブチ切れる要素なんて一つもなかっただろうが。


 俺が理解できない様子を見て馬頭は頭をガシガシと掻きながら言う。


「やっぱお前にゃあ女心を理解するのは難しそうだな」


「なにっ! この俺が女心をわからないだと」


「事実だろ。そもそもお前にもっと協調性ってもんがあればな……」


 馬頭はやれやれと首を横に振る。


「オメーは俺にケンカ売るためにここに呼んだのか?」


「おっと。今はそんなことを話してる場合じゃなかったな。お前はこの城を落としてから敵が攻めてない状況をどう考える」


「そのことか。どうやら最悪の状況みたいだぜ」


 馬頭の質問にそう答えると馬頭は若干目を鋭くする。


「って言うからには根拠があるんだろうな?」


「さっき麓で百舌の爺さんを拾った」


「はあ? 麓で爺さんを拾うとかお前何してたんだ――っておいっ!」


 訝しそうに俺を見る馬頭だったがすぐに血相を変えて俺に詰め寄ってくる。


「その百舌ってのは譜代家臣の百舌様か?」


「そうだ」


「それは間違いないんだろうな」


「さあな。俺は顔を見たことがないから知らん。栞那がそう言ってるから間違いないんじゃないのか?」


「ならその百舌様は今どこに?」


「今は栞那が部屋で看病してる」


「看病ってことは重傷なのか?」


「いや、疲労で倒れているからしばらくすれば目を覚ますだろう」


「そうか。でもそれが事実なら本隊に何かあったってことか」


「だろうな」


 俺の返答に馬頭は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「くそっ! とにかく百舌様のところに行くぞ。本隊に何があったか話が聞きたい」


「わかったよ。つっても相手は爺だからムチャさせるなよ。ポックリいっちまうかもしれないからな」


「わかってるっつーの。早く百舌様がいるとこに連れて行け。百舌様の話しだいじゃ俺っち全員の行く末に関わることになるんだからな」


 俺は馬頭にせがまれて百舌の爺さんが寝ている部屋まで案内することにした。


次は2月10日の月曜になりそうです……。

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