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「愛! 愛! 愛~、この気持ちは愛! 君の何気ない優しさに心を奪われた~」
「なんですかその気持ち悪い歌は?」
「うおっ! 栞那か!?」
俺が自作の歌を歌いながら作業に没頭していると栞那が話しかけてきた。っていうか気持ち悪いってひどいな。
「何でお前がここにいるんだよ」
「あなたこそ何でこんな麓の竹林にいるんですか? おかげで探すのが大変だったじゃないですか」
「探す? 俺を?」
まさか栞那は俺を探しに来てくれたのか?
小学校のレクレーションの授業でかくれんぼをやった時ですら探してもらえなかった俺を探しに来ただと……。
不覚にもウルッときてしまった。
「何で若干涙目になるんですか?」
胡乱げな眼差しで俺を見る栞那。
「べ、別に泣いてないやい!」
「はあ? まあそんことはどうでもいいです」
と栞那は適当に流す。
「馬頭殿があなたを呼んでましたよ」
「馬頭が? それじゃあお前が俺を探しにきたのも馬頭の命令?」
「そうです」
素っ気なく答える栞那。
クソッ! 感動して損した。でも担任の教師ですら俺のことを忘れてかくれんぼを終わらせようとしたあのころに比べたらましか。あの時はチカちゃんが気付いてくれたからよかったものの気が付いてくれなかったらグレてるところだった。
「だというのにあなたは城のどこにもいませんし、あなたを見たという人もほとんどいませんでした。それどころかあなたの話をすると嫌悪する人が大勢いて探すのに苦労しましたよ」
なんだろう。違う意味で泣きそうになった。
「しかしあれだけ嫌われているなんて、あなたはいったい何をしたんですか」
「こっちが知りたいぐらいだっつーの!」
おかしいな。隊の雰囲気を悪くしないようなるべく関わらないようにしているはずなのに……。
今だって誰にも見つからないようこうやってこっそり麓にやってきているというのに。
「で、馬頭が俺を呼び出す用事って何だよ」
「おそらく今後のことを話したいのでしょう。この城を落としてすでに一〇日以上経つというのに敵が攻めてくる様子がないというのに妙な違和感を覚えますし」
「違和感ねえ……」
確かに栞那の言う通り蛇斑城を攻め落としてから敵が取り戻しにやってくることはなかった。
考えられるとすればこの城にそれだけの戦略的価値がないか、それともこっちに兵力が全くないのを見越して紫苑を討ち取ってからジワジワ包囲して落とすつもりなのか。
「どっちにしろこっちにはできることがないだろ」
「それはそうなんですが……」
と栞那は困ったような表情を浮かべる。
栞那としては何もせずにジッとするしかない状況に思うところがあるんだろう。
それがわかっているからか栞那は話題を変えようと質問してくる。
「ところであなたはどうしてこんなところで竹を刈っているんですか? それもこんな大量に」
そう言って栞那は積み上げられた竹に視線を送る。
「おまけに城にも毎日のように竹を持って帰っているみたいですし。竹なんて集めてどうするつもりなんです?」
「そりゃあ――」
俺が竹の使い道について説明しようとすると、ガサガサっと竹藪を掻き分けて誰かがやってきた。
「誰です!」
栞那はすぐに刀に手を当てて臨戦態勢に入る。
やってきた人物は小柄な体躯の老人。
老人は刀を杖替わりにしなければ歩けないほどボロボロななりをしているせいでまるで落ち武者のようだった。
そして栞那はやってきた老人の顔を見て驚愕するように呟く。
「あなたはもしや……百舌様では」
栞那の問いかけにボロボロの身なりをした老人は残っているわずかな気力を振り絞って答える。
「いかに……も」
「大丈夫ですか百舌様!」
百舌と呼ばれた爺さんが意識を落とすと栞那が慌てて支える。
「百舌っていうと確か譜代家臣の百舌か」
「そうです! どうして本隊にいる百舌様がこんなところに……。とりあえずすぐに手当てをしないと。あなたは百舌様を運ぶのを手伝ってください」
「お、おお」
鬼気迫る栞那の気迫に飲まれながらも俺は百舌の爺さんを城へと運んだ。
次の更新は明後日の土曜日になります。




