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時は少し遡り、見晴らしの良い丘で紫苑たち鳥綱軍の進軍の様子を観察している者がいた。
その人物は無邪気そうな少年の出立だが、狩衣と呼ばれる術師が着る衣は着ている者の邪気で染め上げたかのごとく真っ黒だった。
「おや? 進軍を中止してこんなところで陣を敷くなんて千鳥紫苑は何を考えているのかな?」
その人物――まだらは鳥綱軍の行軍が急に止まり慌てて陣を作りだしたのを見て不思議そうに首を傾げる。
「もしかしてこっちの策に気付いたのかな?」
まだらは顎に手を当てて考える。
「……いや、それはないか。それなら陣を敷いている場合じゃないからね。だとしたら何かに勘付いた程度かな? 相変わらず彼女は厄介だな。さすがお館様が今もっとも警戒するべき人物だと言っていただけある」
まだらは困ったように肩をすくめる。
「親殺しという汚名を被ってまでを国を蔑ろにしてきた無能な父を殺し、荒れた国内をたった数年で平定。その後は民のために法を改善し民を軽んじる者は家臣であろうとも罰する。軍略や政略に明るくその上まだ十八歳という若さ」
まだら紫苑のこれまでの大まかな経歴を述べる。
「まさに彼女は鳥綱の国の民にとっての光だ。でもね」
と言ってまだらは口角を上げる。
「光が強ければ強いほど闇もそれだけ強くなるというものなんだよね」
まだらはこれから起こることを想像してクスクスっと笑う。
「さて、向こうが何をやってくるかは気になるけどその前に叩く方が良策かな。珠、狼煙を上げて」
「……」
指示を受けたくノ一の珠はコクリと頷くと狼煙を上げるべく準備を始める。
まだらは珠が狼煙をあげる準備をするのを見て今度は視線を宗麟に移す。
「不満そうだね、宗麟は?」
「いえ、別に」
まだらが意地の悪い笑顔を浮かべて話しかけると宗麟は仏頂面で返す。
「ふふふ。君はわかりやすいな。わかってるよ。君との約束は忘れてないから安心しな」
身長差がありすぎて宗麟の肩を叩けないので代わりに背をポンポンと叩くまだら。
しかしそのあとにさっきまでのあどけない少年のような声音とは違う、ひどく冷えきった声音で言う。
「その代わり、千鳥紫苑をここで必ず仕留めるんだ。彼女を殺さねばこの国に未来はないからね」
そう言ってまだらは大恩のある主君との思い出を少し振り返りながら歩くと病に臥せる主君がいる城の方角を見やる。
「お館様。このまだらめが、お館様の憂いを立ってみせます」
短くてすいません。
これからしばらく(おそらく2月の中旬まで)執筆時間がとれないのでこんな状態が続くかもしれません。