閑話 ドジッ娘足軽さちちゃん(十二歳)!
これは本編の補足のようなものなので、大和がなぜ隊のメンバーに嫌われているのかを描いた話です。
アホの子や幼女の裸が苦手の方は読み飛ばしてもらって結構です。
あと語尾がうざいと思うのでそう思った方は「うざいっす!」と文句を言ってください。作者がへこみますので。
今日は蛇骨の国へ出陣の日っす。
自分らは本隊のためのおとりとして出陣するらしいっす。でもおとりとかさちにはよくわからないっす。
でもこれがさちにとって初めての戦っす。初陣っす。なんだか緊張するっす。
おっと、思わず身震いしてしまったす。これが武者震いってやつっすね。
そう思っていると隣にいる人もぶるっと身震いしたっす。
どんな人かと思って顔を見ると男だったす。
さちの隊は女性ばかりの隊のはずなのになんで男がいるっすか!?
あっ! もしかしてこの人が、栞那さんが仰っていた新しく入って来た人っすか。
なんでも女と見ると見境なくはらませるとかなんとか。
んー、はらまされるってどういう意味なんっすかね? 人生経験の浅いさちにはわからないっす!
とにかく栞那さんの口振りからとても危ない人みたいっすね。先輩方も栞那さんから話を聞いてなんだか警戒してたっす。
うー、そう考えたらそんな人が隣にいるなんて恐いっす。危険っす! はらまされるっす! 何で栞那さんはこんな男を隊に入れたっすか!
そんな風に怯えている間にさちたちは蛇骨の国へと進軍を開始したっす。
さちも慌てて進軍を開始するっす。
さちは歩幅が小さいのでついて行くのも一苦労っす。おまけに具足は重くて辛いっす!
……。
…………。
………………。
「はぁはぁはぁ」
もう結構歩いて来たようですけど休憩はまだみたいっす。
「ひー、つ、疲れったす」
「大丈夫か?」
さちの呟きに誰かが声をかけてきたっす。おお、心優しき方っす。
さちは声をかけてくれた方にお礼を言おうと顔を見るっす。
するとそこにいたのはあの男っす。さちの頭の中ではらまされるという言葉が駆け巡ったっす。まずいっすまずいっす! 早く逃げないと!
「ひゃー! はらまされるっす!」
さちは全力で逃げたっす。さっきまでの疲れが嘘のような速さで足を動かして逃げたっす。途中で転んだりしたっすけど、幸いあの男は追いかけてくるがなかったおかげで無事だったっす。
それからしばらくするとやっと町についたっす。これで休憩ができるっす。
「ふー」
宿場に着くなりさちはどかっと腰を下ろして一息つくっす。生き返るっすねー。
さちは幸せを実感していると栞那さんがさちに話しかけてきたっす。
「さち、ちょっといいですか?」
「な、なにっすか?」
栞那さんは足軽組頭っす。さちみたいな下っ端に声をかけてくるなんて緊張するっす。
でもまだ若いのに組頭になるなんて尊敬するっす。
「さっきあの男に何かされたみたいだけど大丈夫ですか?」
「ひゃ、ひゃい! 大丈夫っす! ちょっとはらまされそうになったひゃけっす!」
うう。緊張のあまり噛んでしまったっす。
おそるおそる栞那さんの顔を見ると栞那さんの表情が恐いっす。まるで人を殺す時の表情をしてるっす。
ま、まさかさちが噛んだから栞那さんが怒ったっすか?
「す、すいまひぇ――」
「ごめんなさい」
「えっ?」
さちが慌てて謝ろうとしたら栞那さんが謝ってきたっす? どういうことっすか?
「私の監督不届きだったみたいですね。次からはこんなことが起こらないように監視を強化しますから安心してください」
「あ……はいっす」
よくわからないけど一応返事をしておくっす。
栞那さんは何度もさちに申し訳なさそうに謝ると宿場から出て行っちゃったっす。
はて? どうして栞那さんはさちなんかに謝ってきたっすかね?
「うーん。わからないっす!」
わからないものは考えても仕方ないっす。忘れるっす。あなたは深く考えれない子だねって死んだ母も困った顔で言ってたから仕方ないっす。
それから数日は特に何事もなく進んで鳥綱の国を出て蛇骨の国に入るために山道を登ったっす。
山道は平坦な道と違って危険がいっぱいっす。生い茂る木々のせいで視界が悪くどこから野生の獣が襲ってくるかわらないっす。それに敵軍もどこかに潜んでいたらたまったもんじゃないっす。
でも道中そういった危険なことはなく順調に山道を進むことができたっす。
このまま行けば無事に国を抜けられると思っていたら事件が起きたっす!
下っ端のさちが雑用を終えて近くにあった川で鼻歌を歌いながら水浴びをしているとやつが現れたっす。
全長一尺ほどの体躯でうねうねと這い寄ってくる生物、そう蛇っす! 蛇はさちを見つけるとにょろにょろと這い寄ってきたっす。
「いやああああああああっす!」
さちは蛇が恐いっす! あのうねうねした感じが駄目っす! あまりの恐さに身がすくむっす。
誰かに助けを求めたいところっすけど、あいにく一番下っ端のさちが水浴びをするのはみんなが水浴びをしたあとっすから、周りにはすぐに来てくれる人がいないっす。
ああ、さちはきっとあの蛇に噛まれて死ぬっす。死ぬのならせめて戦場で死にたかったっす。
そんなことを考えているうちに蛇がさちに襲い掛かってきたっす。
「ひゃう!」
さちは現実逃避するように目をつぶったっす。
すると不思議なことに蛇に噛まれた感触がないっす。おかしいっす?
さちはおっかなびっくり目を開けたっす。さちの目の開けた先にいたのはさちをはらませようとしたあの男の人だったっす。
「あっ? えっ?」
唐突のことなので言葉が出てこないっす。どうしてこの人がここにいるっすか?
「おい、大丈夫か」
「え? はいっす」
もしかしてこの人はさちを助けてくれたっすか?
「それならよかった。じゃあな」
男の人はさちの無事を確認するとぶっきらぼうにそう言うとすぐに立ち去ろうとしたっす。
やばいっすやばいっす! なんなんすかこの胸を鷲掴みされたような感覚は!? 心臓の鼓動が早くなってどきどきしてるっす。おまけにお腹の舌あたりがきゅんっとしちゃったす! おかしいっす! こんな経験初めてっす!
「ま、待つっす!」
さちはとっさに男の人の服を掴んで引き止めるっす。ここでお礼も言わずに返したとあっては女がすたるっす。
「ちょっ! 離せ!」
さちが服を掴んで男の人を引き止めると男の人は激しく動揺したっす。
「駄目っす! 離さないっす」
「俺の経験からしてこのままここにいるとまずいんだ!」
男の人は何か焦ってる様子だったっすけどさちは掴んだ服を離さなかったっす。助けられたら死んでもお礼を言えと死んだ母も言ってったっす。
それからしばらくそんなことをやっていると、さっきのさちの悲鳴を聞いて足軽組頭の栞那さんが颯爽と駆けつけてきたっす。
「大丈夫ですかさち! ――っ!」
栞那さんが心配そうな声で駆けつけてくると、さちと男の人を見て絶句したっす。
ん? どうしたんっすかね?
とそこでさちは少し冷静になって自分の状況を確認してみたっす。
川で水浴びしてさちは全裸っす。まっぱっす! すっぽんっぽんっす。
はわわわ! さちは殿方の前でとってもはしたない格好をしてったっす!
さちは慌てて服を着て裸を隠すっす。
そして男の人はさちが服を引っ張ったせいで服がはだけていたっす。
あわわわ! はれんちっす!
「あなたという人は……」
栞那さんが冷めきった目で男の人を見るっす。
「一応言っておくけど俺はやましいことは一切してないからな。子供に手を出したら都条例が黙っちゃいない」
「ち、違うっす! さちはもう大人の女っす!」
「おい、変なこと言うな! 誤解されるだろうが」
「あ、あう」
子供と言われて反論したら男の人に怒鳴られたっす。これでもさちはもう子供を産める身体っす。胸だってほんのり膨らんでるっす。子供じゃないっす。
「やめなさい! この子を傷物にしただけじゃなく心まで傷つけるつもり!」
「ちょっ! だから違うんだって。俺はその子には何もしてない」
「……。本当ですかさち?」
栞那さんがさちに優しい声音で尋ねてきたっす。さっきの男に対する態度と全然違うっす。
「……あうあう」
さちはもう何が何だかで頭が真っ白になってったっす。蛇に襲われたり裸を見られたり憧れの人である栞那さん問い詰められたり混乱し過ぎて目がぐるぐる回りそうっす。
「辛いのらな何も言わなくていいんですよ」
栞那さんが何も言えないさちの肩を優しく叩いてくれたっす。
でも何か言わないと行けないっす。
えっと、えっと……あの男の人に蛇から助けてもらって……声をかけられて……それからそれから……。
「胸を鷲掴みにされたっす!」
ぴしりっ。
さちが必死になって言葉を紡いだら空気が凍てついたっす。さちの悲鳴を聞いて駆けつけてくれた隊の人たちも固まってるっす。
あれっ? さち今なんか変なこと言ったっすか? 混乱しすぎて何を言ったか覚えてないっす。
「あなたがそこまで外道だとは知りませんでした」
栞那さんが修羅の様な形相で男の人を見るっす。こ、恐いっす。危うくちびっちゃいそうだったっす。
「さち、あなたには恐い思いをさせて本当に申し訳なく思うわ。許してもらえることじゃないけどごめんなさいね」
「……」
栞那さんは物憂げな瞳でさちを見てきましたがさちは首を縦に振ることしたできなかったっす。
「あなた達、さちをお願いします。彼の後始末は私が責任を持って処断します」
と言って栞那さんは腰に差した刀を抜いたっす。
あわわわ! 何でこんなことになってるっす! もしかしてこれは全てさちのせいっすか! さちは罪な女っす!
ってそんなこと考えてる場合じゃないっす! 栞那さんはそこいらの男なんかより強いっす。このままじゃあの男の人が斬られちゃうっす。
「待って下さいっす! あの、あの……」
さちは慌てて栞那さんのところまでやってくると精一杯弁明したっす。頭が混乱しすぎて何をいったか覚えて無かったっす。
たぶん支離滅裂だったっす。正直さちの言いたいことが伝わったかどうかわからなかったっす。
でもなんとか栞那さんは納得してくれたようで刀を鞘に収めてくれたっす。
「わかりました。いえ、正直蛇が恐かったということ以外何が言いたいかわかりませんでしたが、あなたがそこまで庇うのなら今回の一件は不問とします」
栞那さんは少し困ったような表情でそう言ってくれたっす。そして栞那さんはさちの悲鳴を聞いて集まってきた人たちを解散させたっす。
よかったっす。これであの男の人が助かったっす。けどさちのせいであの人にはすごく迷惑がかかっちゃったす。変な悪評が立ったら申し訳ないっす。
「あ、あの!」
「ん?」
さちは何も言わずに立ち去ろうとする男の人に声をかけて呼び止めたっす。
「も、申し訳ないっす! さちを助けてくれたのにさちのせいで悪者みたいになっちゃったっす」
さちは怒鳴られる覚悟で謝ったっす。最悪殴られることも覚悟したっす。でももしさちが逆の立場だったら許せないっすから当然の報いっす。
なのに男の人はなんでもないことのように許してくれたっす。
「気にするな。こういうのは慣れてるからな」
「……」
さちはまたしても胸を鷲掴みされた気分になったっす。
この人はさちの知ってる男の人とは全然違うっす。とっても優しい人っす。さちに気を遣わないように慣れてるなんて嘘までつくなんて。普通こんなことに慣れてる人なんていないっす。ばればれの嘘っすけどさちのためを思ってついてくれた嘘っす。優しい人っす。
「な、名前を聞いてもいいっすか?」
気が付けばさちは名前を聞いていたっす。
「俺の? 九十九大和だ」
「さ、さちはさちっす!」
「さちか。じゃあな、風邪引くなよ」
そう言い残して大和様は去って行ったっす。
「か、かっこいい人っす」
さちは大和様の去る後ろ姿に見惚れてたっす。
その後さちは必死になって大和様の悪評を改善しようとしたっす。
だけど効果は全然なかったっす。
さちが同じ隊の人に大和様がどれだけいい人か話すと逆に悪い男に騙されている駄目女みたいな扱いを受けたっす。
屈辱っす!
おまけになぜか大和様は女を幼気な少女をたぶらかす最低な男という噂まで出てくる始末。
でもさちは負けないっす!
大和様の素晴らしさを伝えて悪評を晴らしてみせるっす!
さちの戦いはこれからだ!