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「つまりお前は善意であの馬糞を飲ませようとしたのか? 嫌がらせでなく」


 と俺は腫れあがったタンコブを押さえながら馬頭に問う。


「当たり前だ!」


 馬頭は真っ赤に腫れた頬を押さえながら言う。


 俺たちはさっきまで死人が出てもおかしくない殴り合いを繰り広げていた。もし栞那が仲裁に入らなかったら死人が出ていたかもしれない。


 そして馬頭の話ではあの馬糞は俺に対する嫌がらせで飲ませようとしたのではないらしい。


「俺っちの国じゃ馬糞は怪我や病気に効く特効薬だ。傷口に塗っても飲んでも効果が抜群だ。なあ栞那」


「い、いえ! 私の国ではそんな風習はありませんので知りません。というか知りたくもありません」


 栞那が珍しく首がもげるんじゃないかってぐらい全力で否定する。


「なにっ!? そうなのか。なら今度怪我をしたときに飲ましてやろう」


「結構です!」


 頑なに拒絶する栞那。


「むっ! そ、そうか」


 拒絶させられて若干残念そうな馬頭。


「ったく、それなそうと言えよバカが」


 俺が馬頭のバカさっぷりに呆れると馬頭が喰ってかかってくる。


「誰が馬鹿だ! こっちはせっかく善意で持ってきてやったってのに殴ることねーだろうが」


「問答無用で飲ませようとするお前が悪い! 仮に説明したとしても飲まないけどな!」


 当然のごとく馬頭が持ってきた馬糞汁は外へと放り捨ててやった。


「手前よくそんなことが言えるな! えっ? 誰だっけ? 誰かさんの窮地を間一髪で助けてあげた足軽大将は? んん? もっと感謝の気持ちや尊敬の念が足りないんじゃねーのか」


 この野郎……。


「テメェなんかに助けてもらわなくても俺だったら一人で助かっての! 余計なお世話だ」


「あー! そういうこと言っちゃう! だったら再現してやろうか? え?」


 馬頭は拳を鳴らして挑発してくる。


「やったろうじゃねーか!」


「んっんっ!」


 再び殴り合いになりそうになると栞那がわざとらしく咳払いをして仲裁する。


「お二人ともいい加減にしてください。これ以上喧嘩するのなら梗殿を呼びますよ」


「お、おう」


「栞那がそこまで言うならやめよう。味方同士で争っても無益だからな」


 俺と馬頭はすぐに和解する。梗がきたらまたちょん切るとか言い出しそうだしな。


「それで、馬頭殿は他にも用事があったのでは?」


 と言って栞那は話題を振る。


 栞那の言う通り足軽大将がわざわざ雑兵を呼び出さずに自ら出向いて来たんだから何らかの意図があるやもしれない。まあこいつの場合いい意味でも悪い意味でも何も考えてない可能性も否定できないが。


「あっ、そうだったな」


 馬頭のやつは栞那に言われて思い出したかのように手を叩く。


「今後どうするべきかお前の考えを聞かしてもらいにきたんだった」


「どうするって何がだ?」


「決まってんだろ。この次の戦のことだ。蛇斑城を手に入れたのはいいがこっからどうするつもりなんだよ? 俺っちもさっき足軽組頭を集めて話し合ったけどいい案が浮かばなくてな」


 と言って馬頭は栞那を見ると栞那は神妙に頷く。


 二人の様子から察するにどうしたらいいのか行き詰っているみたいだ。


「どうするもこうするも俺らに選択できることはない」


「どういうことだ?」


「だってそうだろ。昨夜の戦いで残った兵力はいくつだ?」


「朽縄城にいった連中を合わせて六〇だが」


 六〇人。ということは四〇も死んだということになる。


「たったそれっぽっちじゃ落とせる城もなんてないし、野戦をやっても勝てることなんてできないのはわかるだろ。どんなに奇策を練っても戦いってのは数だからな」


 恋愛においても不細工よりもイケメンの方が圧倒的に有利なように、戦いとは数が多い方が有利だ。戦いとは始まる前に勝敗が決しているとはよくいったものだ。


 そしてそれを覆すには並々ならぬ努力が必要になってくる。


 今回の蛇斑城攻めだってかなりギリギリの戦いだった。少しでも読み違えれば負けていけてもおかしくない。


 だがそれだけの犠牲を払いながらもこの城を取る価値はある。


「今の俺らにできるとしたら籠城ぐらいだ」


「籠城だと?」


「この城は小城だが川と断崖という地形を利用して作られた城だ。城の背後に流れる川は流れが速いおかげでそこからは侵入することは難しいし、西と東は断崖絶壁で登ることは容易じゃない。城に入るためには目の前にある狭い山道を抜けるか斜面を登るしかない。この城なら少数でも籠城することはできる」


 入り口が一つなら守る場所もそこだけで済むし、道が狭ければ一気に押し寄せてくる敵の数も減らせる。それでも持って一月ぐらいか。


「そのために敵を生かして逃がしたんだしな」


「ん? 籠城することと、敵兵を生かして逃がしたことがどう繋がるんだ?」


「そうです。あれは抵抗せず降伏させるためではなかったのですか?」


 馬頭に続いて栞那も疑問をぶつけてくる。


「もちろんそれもある。でもあれは敵にこっちがたった数日で城を二つ落としたことを確実に知らせるためだ」


「そんなことをしたら敵はこっちを警戒してくるぞ。油断してる連中と違って警戒してる連中を策にはめるのは難しいぞ」


「逆だ馬頭。警戒すればするほどこっちの策にハマる」


「なるほど。そういうことですか」


 俺の言葉を聞いて栞那が納得する。


「どういうことだ栞那?」


「敵が警戒すればするほど敵の動きは慎重になります。そして慎重になればなるほど単純な力攻めはしにくくなり敵の注意をこちらに向けることができます。そうなれば囮としての役割を十分に果たせます」


 敵としてはたった数日で城を落とした相手に十分警戒するだろう。それに敵軍にはたいまつを持った村人が援軍だと信じていたからこちらがどれだけの兵力があるか正確には伝わっていないはずだ。


「そうか。俺っちがここで籠城していれば敵も迂闊に動けなくなるわけか。そしてその間に紫苑様が敵の総大将を討つまで籠城するということだな」


「そういうことになりますね! 紫苑様なら必ずや総大将を討ってくれます」


 栞那は嬉しそうに賛同する。


 だが俺としては紫苑が褒め称えられるのは腑に落ちないので反論してしまう。


「はっ! どうだかな。俺の期待通り紫苑がやってくれるとは限らないけどな」


「むっ! どうして紫苑様を悪く言うのですかあなたは!」


「そうだぜ。何でお前はそこまで紫苑様のことを嫌うんだよ」


 栞那と馬頭が紫苑を否定する俺に突っかかってくる。


「ふんっ」


 こいつらには全裸で町中を連れまわされたり、おちょくられたり、失恋話を大笑いされた俺の気持ちなどわかるまい。


「お前らみたいに紫苑を慕う人間がいるようにあいつを嫌う人間だっているんだよ」


「それはおかしいです。あなたはこれだけ嫌われているのに慕う人間いないじゃないですか!」


 慕う人物を悪く言われて揚げ足を取る栞那。そしてその指摘を聞いて馬頭が大爆笑する。


「う、うるせーよ!」


 一方俺はあまりにも的確な指摘にそれしか言えなかった。ぐすんっ。


総合評価が5000、お気に入り登録が2000を突破しました!

お気に入り登録や評価をしてくれた方々ありがとうございます。


それを記念して明日は閑話として「ドジッ娘足軽さちちゃん(十二歳)!」を投稿しようと思います。本編にはチョロッとしか出ていないヒロイン、略してチョロインの話です。

これからまたシリアスな話になっていくので息抜きできるような話にする予定です。


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