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59

 蛇斑城を落として一夜が明けた。


 昨夜の戦闘でみんな疲れているはずなのに外は騒がしく喧騒が絶えない。


 死体の処理や壊れた柵などの修理。


 戦が終わったからといってやることはまだまだ残っている。


 そして俺はというと一人で部屋に籠って自分のケガの治療中だ。


 やはり昨夜はかなりムチャをし過ぎたようで身体のあちこちに切り傷が出来ていたし身体にもガタが来ていた。


 特に芦屋の爺の蹴りは効いた。


 骨は折れていないようだがアバラにヒビが入っているようだ。そのせいで腕を上げるのも一苦労だ。


 あとは呪術部隊に突っ込んでいった時に受けた矢傷とかもあった。よく生き残れたもんだと自分でも感心してしまう。


 というわけでそんなケガに効くのが亜希にもらった塗り薬と丸薬だ。


 塗り薬は傷口に塗れば掠り傷程度なら驚くべき速さで治るし、丸薬は飲めば痛みが少しだけ引いて楽になる。便利な薬だ。。確か卯月の国から取り寄せたって言っていたな。


 そういえば亜希は今頃どうしているだろうか?


 窮鼠の国に帰ってケジメをつけに行くとか言っていたっけ。


「亜希のやつ元気にしてるかな?」


「誰ですかその方は?」


 ポツリと呟いたひとり言に反応する声が聞こえてきた。


 幻聴か? と思いながら声のした方へと振り返るとそこには栞那がいた。


「何でお前がここにいるんだ?」


「いちゃ悪いんですか?」


 ムスッと不機嫌そうに答える栞那。何で機嫌が悪いんだ?


「悪くないけどどうしたんだ? お前が俺に会いに来る理由なんてないだろう」


「別に大したことじゃありません。あなたが一人で怪我の治療をしていると聞いて手伝ってあげにきただけです。一人じゃ包帯を巻くのは大変でしょうしね。一人じゃ」


「おい! 何でやたらと一人ということを強調するんだよ! 嫌味か!」


「私は事実を言ってるだけです」


「……うっ!」


 まあ確かに栞那の言う通り一人だけど。


 どうも俺は集団行動とかは苦手で未だにこの隊の連中とは全く馴染めない。


「それで、亜希という人はどなたなんです?」


「ん? ああ。この薬をくれた子だ」


 そう言って俺は栞那に塗り薬を見せる。


「それは……」


 栞那はまじまじとその薬を見ると目を見開いて若干驚いた声を上げる。


「まさか卯月の国の薬ですか?」


「そうだけど。もしかして欲しいのか? まっ、まあお前にはあの時助けられたからなそんなに欲しいのなら分けてやるのもやぶさかじゃないぞ?」


 呪術師に動きを封じられた時に助けてくれたことは感謝しているが、どうも面と向かって礼を言うのはなんだか気恥ずかしい。


「いりませんよ。私はそこまで無粋ではありませんから」


「無粋?」


 栞那の言葉の意味がわからずキョトンとする俺。


 そんな様子の俺を見て栞那は残念なものでも見るような目でこちらを見るとため息をこぼす。


「亜希さんという方が不憫ですね」


「どういうことだよ?」


「いえ、なんでもありません。それよりも服を脱いでください。包帯を巻きますから」


「包帯ぐらい自分で巻ける――ッ!」


 大丈夫だと証明しようと腕を上げようとしたらピキリとアバラが痛む。


「あばらをやられてますね。ほら、動かないで」


「……むぅ」


 仕方なく俺は栞那に言われるまま包帯を巻かれる。


 包帯と言っても現代のガーゼのような包帯と違いどちらかというとさらしに近い。それをテーピングのようにして痛みを抑えるようだ。


 栞那は手馴れているようで黙々と作業をする。


「……」


「……」


 栞那が包帯を巻いている間、微妙な沈黙が流れる。今までに女の子と二人っきりになったことはあるがこういったシチュエーションは初めてだ。


 そのせいで時折栞那が顔を近づけると女の子独特の甘い香り鼻孔をくすぐったり、包帯を巻くときに胸が当たったりしただけだというのにドギマギさせられる。栞那め、意外に胸が大きいんだな。


 いかん! 俺は一途で真っ直ぐな男だ。好きでもない女の子の匂いを嗅いだり胸が当たったからと言って興奮なんかしない。そんな色欲なんかに踊らされる俺ではない!


 色即是空しきそくぜくう空即是色くうそくぜしき。煩悩退散!


「はい、終わりましたよ」


「お、おお」


 ひたすら煩悩を振り払っているとパンッと軽く背を叩かれ正気に戻る。


「これで貸し借りはなしです」


「貸し借り?」


「朽縄城攻めの時のことです」


 と素っ気なく答える栞那。


 朽縄城攻めの時のことと言うと栞那に武勲を立てさせたことか。


「律儀なやつ」


 俺としてはあの時に助けれてくれて貸し借りなしになったと思っていたと思うんだが。


「そういう性格なんです。それじゃあ私はこれで」


 俺が肩をすくめて言うと栞那は用件が終わったようで部屋から出ていこうとする。


 だがその前に強烈な臭いを漂わせてやってきた人物によって阻害されてしまう。


「おい大和。いいもん持ってきてやったぞ」


 やってきたのは馬頭。馬頭は入ってくるなり強烈な異臭を放つ汚水を自慢げに見せてくる。


「はあ?」


 いいもん? あの汚水がか?


 こいつついに頭がいかれた? それともケガした俺にケンカを売ってるのか。


「これは馬糞まぐそを水で溶いてやつだ。これを飲めば怪我だろうが病魔だろうがいちころだぜ。ほらほら」


 と言うと馬頭は俺に馬糞を問答無用で飲ませようとしてくる。


「何がいちころだ。テメェをいちころにしてやろうか!」


 身の危険を感じた俺はケガの痛みなど忘れて馬糞を飲ませようとする馬頭に全力で殴りかかる。


馬糞は戦国時代に負傷に効果があると考えられ傷口に塗ったりと治療に使われていたそうです。

つまりドラクエに出てくる何の役にも立たない馬の糞にもそういった隠れた使い道があるのかもしれません……。

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