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「ふー、死ぬ最後の最後まで刀を離さないなんてな。大した爺さんだぜ」


 馬頭は相手の闘志に健闘をたたえると大太刀の血糊を振り払い鞘に収める。


 そんな馬頭を梗が軽く小突く。


「なに気い抜いてんだい。まだ戦は終わっちゃいないんだよ。最後まで気張りな!」


 梗の言う通り芦屋の爺との戦いには勝ったが、戦はまだ終わっていない。


 周囲はまだ乱戦が続いている。


 芦屋の爺は優秀な将だがしょせん一介の家臣に過ぎない。城主の首を取るか城主が負けを認めなければ戦は終わらない。


「わかってるっつーの」


 馬頭はふてくされる様に言うと部下の一人に指示を出す。


「おい、鏑矢を放って下の連中に知らせろ」


「はっ!」


 馬頭の指示聞いて部下の一人が鏑矢を放つ。


 鏑矢はヒョオオオオという甲高い音を立てて飛んでいく。それからその音を聞いた離れたところにいる兵が鏑矢を放って遠くに連中に合図を知らせる。


 この世界じゃ無線なんてものはないからこうやってアナログな方法で伝えるしかない。


 鏑矢の音はどんどん遠ざかって行く。


 この時点で敵軍はこの音が意味することに気が付いちゃいないようだ。それどころか目の前の敵に追われて音にも気づいてない。気付いても何かまではわからないだろう。


 もし芦屋の爺が生きていたのならすぐに何かを感じ取ったかもしれないが。


 それからしばらくすると向かいの山の中腹にポッと明かりが灯る。たいまつの光だ。


 たいまつの光は、最初小さな光だったがだんだんと広範囲に広がって行く。その光はまるで川のように長い列をなす。光はゆっくりとこちらへと向かってくる。


 その光景を見た敵兵は動揺を隠せないでいた。


「な、なんだあれは!」


「向かいのどんどん山が明るくなっていく」


「あれはたいまつの灯りだ!」


「何であんなとこにたいまつの灯りがつくんだ!」


「もしや味方の援軍か?」


「味方の援軍がどうして存在を隠していたんだよ!」


「じゃあまさかあれは鳥綱軍の援軍か!」


「馬鹿な! あのたいまつの数は一〇〇や二〇〇の軍勢ではないぞ」


「少なくても一〇〇〇はくだらないじゃないか」


 向かいの山から見える灯りがこっちに近づいてくるだけで敵軍は戦々恐々に陥ると勝手に援軍の数を拡大解釈していた。


 もちろんそれが俺の狙いでもある。


 あの向かいの山にいるのは援軍ではなくただの村人たちだ。


 ここら一帯の村人は城主たちに食料を持っていかれてしまい、食料と交換に協力してくれると申し出だらあっさりと承諾してくれた。


 戦闘訓練の積んでいない村人は戦場には出せないがただたいまつを持つだけだから協力することも乗り気だった。


 村人の数は二〇〇そこそこ。


 その村人に複数たいまつを持てるようにして山道を歩かせているだけのことで敵からしてみれば大量の援軍に見えているに違いない。


 これが俺の考えた奥の手。


 敵軍が驚くのを見届けて馬頭は大きく息を吸い、辺り一帯にいる敵軍に聞こえる声で叫ぶ。


「お前ら! 敵将の芦屋達秀は俺っちが討ち取った!」


「「「「!?」」」」


 馬頭の声と馬頭の近く動かない人となった芦屋の爺の姿を見て敵軍の動揺が押し寄せる波のごとく広がる。


 それだけ戦場におけるあの爺の存在がここの兵たちにとって大きかったことがよくわかる。


「これ以上無駄な抵抗はやめろ! こっちには一〇〇〇以上の援軍が向かってきている。大人しく城を明け渡すなら全員無事に生かして帰す。そうでないのなら一人残らず叩き潰す!」


「そ、そんな……」


「あの方がいなければそんな軍勢に立ち向かえない」


「もう駄目だ!」


 頼るべき将を失い冷静さを欠いた兵たちは馬頭の言葉を鵜呑みにして戦うことを諦め、手にしていた武器を手離していく。


「こうなったら芦屋様の仇討を!」


「やめろ! 芦屋様は戦場で散って行けたんだ。本望だったんだろうよ」


「そうだ。あの方はあんな城主のもとで朽ちていくよりもこれでよかったんだ」


「おれらはあの方の死に様を遺族に伝えなきゃらなねえ」


 一部で抵抗しようとする連中もいたが芦屋の爺のために命をかけれても城主のために戦う気にはならないようで降伏していった。


 一方最後まで徹底抗戦しようとした城主だったが、家臣に裏切られ首を斬られた。


 最後まで主君のために戦った家臣の芦屋の爺と自分の命惜しさに主君を裏切る家臣。


 なんだか複雑な気分だ。


 ともあれこうして俺たちは辛くも蛇斑城を落とすことに成功した。


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