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「ほう、一騎討ちとな」


 馬頭の挑発に芦屋の爺は楽しげに口角を上げると振り下ろしたままの長巻を引き上げると後ろに下がって距離を取る。


「よいだろう。して、見たところお主は大将のようだが名はなんと申す?」


「足軽大将の馬頭だ。姓は……ない」


「大将なのに名乗る姓がないとな? 姓を捨てたかそれともうしのうたか……まあ猛者であればなんでもよいか」


 芦屋の爺は馬頭の苗字がないことに一瞬だけ眉間に皺をよせるが、一騎討ちが楽しみなのかすぐに笑みを浮かべる。この爺、絶対に戦闘狂だ。


「儂は芦屋達秀じゃ。お主を殺す者の名じゃ。しかとその胸に刻むがよい」


「それはこっちの台詞だ爺さん。とっとと往生しろよ」


 馬頭は自信満々に言うと近くにいた梗に声をかける。


「ってことで梗、大和のこと頼むぜ」


「ったく、仕方ないね」


 馬頭の言葉を聞いて梗が俺のそばにやってくると肩を貸して立たせてくれる。


「まち――っ!」

 

 俺は一騎討ちを止めようと「待ちやがれ」と言おうとするが、激しい痛みに襲われる。


 思っていたよりも身体にガタがきている。ただでさえまだらとの一件で身体がボロボロだったというのに今回の一件で少しムチャをし過ぎたか。


「お前は十分自分の役目を果たした。あとはそこで俺の雄姿を見てるんだな。なあに、すぐに終わらせるさ」


「言うてくれるのう」


 馬頭の言葉に芦屋の爺が不敵に笑うと身体を半開きにして長巻を水平より下に構えて相手の出方を誘う下段の構え。


 それに対して馬頭は刀を頭上に振り上げて瞬時に振り下ろすことができる攻撃に適した上段の構えをとる。


「……」


「……」


 二人は構えたまま無言で睨み合う。


「おい、止めなくていいのか」


 俺は痛みを堪えつつ肩を貸してくれる梗に言う。


 戦況は馬頭が来たことでわかるが、味方が呪術部隊を破って敵陣へと入り込んでおり今は敵味方が入り乱れる乱戦状態。


 わざわざこの状況で大将である馬頭が一騎討ちする必要はない。それどころか大将である馬頭がここで敗れれば味方は総崩れになるだけだ。


「止める? 無駄だよ。お互い乗り気になっている以上口を挟むだけ野暮ってもんだ」


「でも……」


 俺としては一騎討ちを止めたい。


 馬頭の野郎はあのまま普通に戦えば俺を巻き込むから芦屋の爺の注意を引き離すために一騎討ちなんて言い出しやがって。


 そのせいで負けて馬頭が死ぬことになったらまこちゃんに合わせる顔がない。


「心配いらないよ。あいつは馬鹿で阿呆で間抜けの妹狂いだけどあたいらの大将だよ。びしっと決めるところでは決める男さ」


 そう言う梗の目は俺の知らない馬頭を見ているようだった。


 俺の知っているあいつは超がつくほどのシスコンで妹のこととなると見境がなくなり、妹に近づくやつは容赦なく手籠めにして終いには妹を溺愛しすぎてストーキングするような変態野郎だ。逆に言えばそれしか知らないのだが……。


 そんな妹狂いの馬頭が戦闘狂の芦屋の爺に勝てるのか?


 その字面だけ見れば勝てる気がしないが今の俺には二人の勝負を見守ることしかできない。


「……」


「……」


 二人は未だに一歩も動かず睨み合っていた。


 周囲の乱戦など始めから無いものの如く静かに対峙している。


 まるでそこだけ時が止まっているかのようだ。


 ぶつかり合う殺意と殺意で重苦しい空気が二人を包みこんでいた。


 そして、止まっていた時を動かしたのは一刀の刃。


 乱世の最中、どこかの雑兵の持っていた刀が弾かれて空中に舞い、それが両者の間に落ちて地面に突き刺さると同時に馬頭が静寂を破って動き出す。


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