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「はあっ!」


 俺へと差し迫る槍の柄を叩き斬った栞那はすぐさま敵との間合いを詰めて長槍を持った兵たちを斬り伏せる。


 どうして栞那がここに来たのかわからないが今はそれどころじゃない。俺は栞那が敵の気をひきつけているその間に見えない鎖を引き千切る。


 見えない鎖を引き千切ると俺はすぐさま呪術師へ攻撃を仕掛ける。


 呪術師たちは俺からの攻撃を避けようとしたので敵の陣形が乱れる。


 どうやらこいつらはまだらのように霊力とやらで障壁を作ることまではできないようだ。こいつらが弱いのかそれともまだらのやつが異常なのか……。


 ともかくこれで陣形が乱れた。俺の背後でこっちに突撃してくる味方の声が聞こえてくる。


 そして栞那に追随して来るように俺がやった槍を棒高跳びのようにして何人かが飛び込んできていた。あれは見たことがある。あの子たちは栞那の隊の連中だ。


「むっ! いかんな!」


 このままではまずいと思った芦屋の爺は新たな指示を出す。


「呪術部隊は迫りくる敵を迎え撃つのじゃ! 後の者は儂に続け! 懐に入って来た者どもを蹴散らす!」


「「「「うおおお!」」」」


 芦屋の爺の指示で押し寄せてくる敵の軍勢。その数五〇。敵の残る兵力の約半数だ。


 一方置盾を超えてやってきた栞那の部下はたったの五人。俺と栞那を合わせても七人しかいない。


 おまけにただでさえ人数が少ないうえに彼女らは最小限の具足しかつけていない。たぶん置盾を飛び越えるために少しでも身軽にしたせいだろう。


 しかし彼女らはそれでも果敢に敵の猛攻を潜り抜け斬り伏せていった。


 俺も彼女に負けないよう一人二人と敵を叩きのめす。


「まったく、あなたのせいであの子たちまでこんな危険な目に合わせることになってしまったじゃないですか」


 乱戦のさなか栞那が俺に背を預けると不満をこぼす。


「だったら俺なんかを助けなければ……」


「あいにく私は助けられる仲間を見殺しにするつもりはありません」


「お前……」


 男嫌いだったこいつが俺のことを仲間だと言ってくれるなんて。


「あなたは何でもかんでも一人でやろうとし過ぎです。もう少し人に頼ることを覚えたらどうです」


「お前に言われたかないよ!」


 男を毛嫌いして男に頼ろうともしなかったくせに。


「何ですかその口の聞き方は!」


「だってそうだろ――ちっ!」


 文句を言い合っているうちに敵が一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 俺はその攻撃をかわして次々と敵を叩き伏せる。栞那も同じように攻撃してきた敵を斬り伏せいていた。


 今は口論してる場合じゃなかったな。


 早く戦いを終わらせないと。


 そのためにはあの爺を倒すのが一番だ。


 どこだ、どこにいる。


 俺は芦屋の爺を探していると探し人は向こうからってきていた。


「見つけたぞ小僧!」


 芦屋の爺は不意に現れると挨拶代わりに長巻と呼ばれる薙刀に似ているが刀身が長く約九〇センチと全体の半分が刀身の武器を俺に向けて振り下ろしてくる。


「ぐっ!」


 俺は咄嗟に持っていた刀で防ぐが、衝撃が身体の芯まで襲ってくる。


「呪術が効かんとは面妖な小僧だが、ここで死ぬがよい」


「ざけんなよ!」


 あまりの衝撃に一瞬怯みそうになるが俺は力を込めて芦屋の爺の長巻を押し返す。


「威勢がいいな小僧。だがな、ふんっ! はっ!」


 芦屋の爺は押し返されて後ろに一歩下がるがすぐさま攻撃を次々と繰り出してくる。俺はそれをかわすのが手一杯だ。


「どうじゃ小僧。手も足も出まい」


「……っ!」


 この爺は強い。


 身体能力では年寄りの爺よりもケガをしている状態でも俺の方が圧倒的に上だ。


 なのに手が出せない。防戦一方だ。


「覚悟なき者が生き残れるほど戦場は甘くはない!」


「んだと老いぼれ!」


 俺に覚悟がないだと。


「ならば何故鞘を抜かぬ」


「……」


「笑止! 殺意なき刃など恐るるに足らぬわ!」


「なら本当に恐くないか試してやるよ!」


 俺は一旦距離を取ると、足元にあった砂を蹴りあげて芦屋の爺の視界を奪い反撃に出る。


 狙いは足。重い甲冑を着ているから足にケガを負えばこの爺とてろくに動けず戦えまい。


 俺は芦屋の爺の足に向けて鞘をつけたままの刀で叩く。


「ぬるい」


 攻撃を喰らった芦屋の爺はニヤリと笑う。


「なに!?」


「ぬるいわ小僧!」


 芦屋の爺は声を張り上げると、そのまま攻撃を喰らった方の足を軸に逆の足で俺に蹴りをお見舞いしてきやがった。


 ミシリ。


 アバラの骨が悲鳴を上げ、蹴りの衝撃で地面を転がる俺。


「ケホッケホッ!」


 思わずむせる。


 どんな神経してるんだよあの爺は。刀に鞘がついていたとはいえ、金属バットで足を叩かれたようなものなんだぞ。


 たとえ甲冑を着ていたとしてもそれなりにダメージがあるはずなのにその足を軸足に威力のある蹴りをお見舞いしてきやがるなんて……。


「人を殺める覚悟のなき身で戦場に立った己を悔やみながら死ぬがよい」


 俺がむせ返っていると芦屋の爺が俺に向けて長巻を振り下してきていた。


 やばい。


「……うぐっ!」


 身の危険を感じて身体を動かそうとするがアバラの痛みで一瞬だけ反応が遅れる。だがその一瞬が戦場では命取りだった。


 芦屋の爺の長巻が俺へと迫ってくるのが見える。


 俺の攻撃と違い殺意の籠った一撃。


 あれを喰らえば俺なんかは簡単に真っ二つに切断される。まだ斬られてもいないのにそんな鮮烈な死のイメージを相手に与える。これが殺意の籠った一撃。


 俺はここで死ぬのか。


 そう思ったが、振り下ろされた一刀は俺の眼前まで迫ると急に止まる。


 いや止められたというのが正解か。


 芦屋の爺の一刀を止めたのは馬頭。俺が斬られる寸前で馬頭の刀が芦屋の爺の長巻を受け止めていた。


「よお、爺さん。歳の割には随分元気じゃねーか」


 馬頭はいつもみたいに軽口を叩く。


「まだまだ若いもんには負けるつもりはないわい」


 芦屋の爺も楽しそうに笑う。


「ならちょうどいい。俺っちと一騎討ちと行こうじゃねーか」


 と馬頭は勝ち気な笑みを浮かべて芦屋の爺を挑発する。


補足

長巻は戦国時代で槍と並んで戦場で活躍した武器だそうです。

その重量と刀身長を生かし、一振りで相手の腕を切り落とし、鎧の上からでも相手の骨を折ることができたんだとか。

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