54-2
俺が敵陣に向かって駆けると敵陣から矢が何本も飛んでくる。
「……っ!」
数本の矢が身体を掠めるが気にせず走る。
その間に味方が放った矢は呪術部隊へと降り注いでいる。
呪術部隊は案の定矢から逃れるために置盾の下に隠れていた。
敵陣に入るには今しかない。
俺は置盾の前までやってくると持っていた槍を地面に突きつけ、棒高跳びの要領で置盾を飛び越える。
そのまま敵陣へと着地して呪術師どもを蹴散らす予定だったが、空中にいる俺目がけて矢が飛んできた。
「くっ!」
俺は身体を無理やり捻ってかわす。
「ほう、やりおる」
俺の動きを見て矢を射った主――芦屋の爺は感嘆の声を漏らす。……あの爺め。
一方空中で無理やり身体を動かしたせいでバランスを崩した俺は着地に失敗して地面を転がる。
まずい!
俺はすぐさま攻撃に移ろうとするが、その前に近くにいた呪術師が印を結ぶ。
すると俺の身体に見えない鎖のようなものが巻きつく感覚に襲われる。
これじゃああの時と同じだ。泥沼の野郎の屋敷でまだらに不動金縛りの術をかけられた時と。
……いや、違う。
あの時のことを思い出して焦るがあの時と違うことに気が付く。
まだらにかけられた時はもっと鎖が頑丈で引きちぎるのも苦労した。しかしこの鎖はまだらの鎖と比べると脆弱だ。
そういえばあの時にまだらのやつは霊力を見えない鎖にしていると言っていた。同じ術でも使い手によって強度も違うのかもしれない。
いける。この程度の強度なら前のように筋肉が引き千切れて血だらけになることもない。
「ふんっ!」
俺が力を込めると見えない鎖は思った通りあっさりと千切れる。
「なん……だと……」
俺が自力で不動金縛りの術を破ると俺に術をかけていた呪術師は驚愕の表情を浮かべる。
もちろん俺はその隙を逃さずに呪術師を鞘のついたままの状態の刀で叩いて昏倒させる。
「ひっ!」
それを見ていた他の呪術師が怯える。
「不動金縛りの術を自力で破るじゃと。なんと面妖な小僧じゃ」
離れたところから一部始終を見ていた芦屋の爺が苦々しそうに言うと、すぐに新しい指示を出す。
「狼狽えるでない! 一人で押さえれぬのなら複数で術をかけるのじゃ!」
芦屋の爺の指示を受けて複数の呪術師が印を結ぶ。
「ちっ!」
一人で複数に術をかけれないけど複数で一人に術をかけることはできるのか。
俺が反撃に出るよりも早く俺の身体に再び見えない鎖が何重にも絡まる。
そしてそれと同時に複数の長槍を構えた連中が俺に向かって襲い掛かってくる。
くそっ! 複数でかけられてもまだらに比べれば大したことじゃないが、それでも見えない鎖を引き千切るのに時間がかかる。急いで見えない鎖をなんとかしないといけないっていうのに。
見えない鎖をなんとかしようとしているうちに長槍を持った連中が雄叫びを上げて近づいてくる。
眼前に迫ってくる鋭く尖った槍の穂先。
間に合わない! 殺られる!
俺が死を覚悟したその時だった。
「はああああ!」
栞那がけたたましい声を上げて上空から飛び降りてくると俺へと突きつけられる槍の柄を瞬く間に叩き斬る。