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本丸へと続く道を陣取った芦屋はあっという間に態勢を整えると次の指示を下す。
「呪術部隊前へ!」
芦屋がそう叫ぶと陰陽師が着るような服の上に最低限の身を守る具足を着けた人間が一〇人、そしてそいつらを守るかのように身の丈よりも大きく丈夫そうな置盾を持った人間が一〇人、長槍を構える人間が一〇人。
総勢三〇人が本丸へと続く狭い道に立ち塞がる。
置盾を持った人間が最前面に立ち置盾を構え、その置盾の隙間から長槍を持った人間が長槍を突き出し、陰陽師みたいなやつが置盾の後ろに隠れる。
なんだこの部隊は?
置盾と長槍はわかる。置盾で敵を防いで長槍で止めを刺す。
だが陰陽師みたいな格好をしてるやつはなんだ?
呪術部隊とか言ってたからあいつらはまだらと同じように呪術を使うってことか?
「「「おおおお!」」」
俺が考えあぐねていると血気盛んな連中が呪術部隊に果敢に突撃していく。
「馬鹿野郎! 下がれ!」
突撃していく連中を見て馬頭が怒声を上げる。
突撃していった連中は勢いよく置盾の前までやって来るが、不意にピタリと動きが何かに拘束されたかのように止まってしまった。
そしてそれを狙っていたかのごとく複数の長槍がそいつらの身体に突き刺さる。
あれは……不動金縛りの術か。
「呪術部隊。厄介な連中がいたものですね」
近くにいた栞那が苦々しげに呟く。
「あいつらのことを知ってるのか?」
「当然じゃないですか。蛇骨の国は呪術師の国ですからね」
「えっ? 呪術師の国?」
「まさか知らないのですか!」
キョトンとする俺に栞那は信じられないものでも見るかのように驚くと、あきれるようにため息を吐く。
「何であなたはそう言った常識的なことを知らないんですか」
と言われても俺はこの世界の生まれじゃないからそんなことを言われても困る。
まあ俺自身この世界が戦国時代に近いから常識についてあまり詳しく調べていなかったのも悪いのだけど。
この戦が終わってまこちゃんを助けたらそういった常識について聞いといた方がいいかもしれない。今はこの状況を打破をしなければ。
そう考えていると栞那が呪術部隊について説明してくれる。
「本来呪術師は味方の身体能力を上げたり、敵の身体能力を下げたり動きを止めたりといった補助的なことしかできない術師です」
あれか? 呪術師ってのはゲームで言うバフ使いとか言われる職業か?
「おまけにその術は一度に複数の対象に使うことができず、術の範囲は一〇尺(約三メートル)ほどで術を使っている間、術者はその場から動けません。なので合戦では使えない役立たずとまで言われていました」
効果範囲が短いなら付きっ切りで戦場をまわらないといけないもんな。目まぐるしく戦況が変化する合戦じゃ付いてまわるのも難しいうえに、術を使っている間動けないのなら殺してくれといっているようなものだ。それに一度に一人しか補助ができないのならコストパフォーマンスも悪い。
「それらの欠点を補ったが呪術部隊です。置盾に隠れている呪術師が向かってくる敵を不動金縛りの術で止め、他の者が長槍等の武器を使って倒すという戦法です」
「なるほど」
不動金縛りの術で向かってくる敵の勢いを殺してから止めを刺す。これなら敵が勢いに任して突破するのは難しい。
弓などの遠距離攻撃で呪術師を倒そうにも頑強な置盾があるからそれも難しい。現に今も馬頭はいったん兵を引かせて矢で攻撃させているが置盾に全てガードされてしまい敵には届いていない。
「打開策は?」
「呪術師が対応できないほどの多勢で押し寄せて突破するか置盾のない背後から挟撃するなどありますが……」
と言って栞那は呪術部隊が陣取る場所に目をやる。
呪術部隊がいるのは本丸へと続く狭い道で、こっちが攻撃するには正面からしか突っ込むしかない。これじゃ挟撃はできない。
それにこっちの数は多くないし狭い道では数で押すこともできない。
そのせいでこっちも攻めあぐねている。
一応奥の手は残っているが今使っても効果は薄いだろうな。
まったく、厄介だな呪術部隊ってのは。
だが何より厄介なのはそれを見越して本丸へと続く狭い道で戦おうとした芦屋の爺さんだ。普通なら出て来ずに籠城をするものだというのに。これだから経験豊富な年上というのは厄介なんだ。
まあ逆に言えばあの爺さんを倒せばこの城は落としたも同然なんだがな。
「あとは焙烙玉や火爆符を使って敵陣を乱すなんてこともありますが、こちらには焙烙玉もなければ符術師もいませんし……」
と栞那は言う。
焙烙玉ってのは手榴弾みたいなやつのことだったっけ? 焙烙っていう調理道具に火薬を詰め込んで投擲するようなもののことだよな。
火爆符ってのはよくわからんが焙烙玉と似たようなものだろうか?
確かに敵陣にそんなものを投げつければ陣形が乱れて突入しやすくなる。
でもないものはどうしようもない。
かといってこのまま長引けば長引くほど不利になるのはこっちだ。長引けばこっちの奥の手も使えなくなるし、援軍だって来るかもしれない。
決着をつけるのなら今日中に決着をつけなくちゃならない。
「……栞那、頼みがある」
俺はしばし考えて栞那に訊ねると栞那は冷静そうにこちらを見るがどこか期待したように俺を見る。
「何か策があるのですか?」
「策なんて言えるほど大層なもんじゃないさ」