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 大和が梗に策を話してから三日後。


 時刻は日が沈みきった深夜一時のの刻。


 朽縄城から少し離れたところにある森はほとんどが闇に包まれており、照らす光は枝葉の間から洩れてくる月明かりのみ。


 そんな森の中に総勢五〇〇もの武装した兵が息を殺して潜んでいた。


 朽縄城の城主はその光景を見て満足そうに微笑む。


「ふむ。これだけの軍勢があれば忌々しい鳥綱の連中など楽勝だな」


「さすが殿。まさか蛇斑城から三〇〇もの援軍を得られるとは。殿の人徳がなせるわざですな」


 調子のいい家臣の一人が褒めると朽縄城の城主も満更ではなさそうに笑うが、すぐに不満そうに愚痴る。


「本来ならあと一〇〇ほど援軍があったのだが、あの老害め」


 そう言って朽縄城の城主は蛇斑城の城主に仕える芦屋という家臣のことを思い出す。


 朽縄城の城主は北に半日ほど行ったところにある蛇斑城へ援軍を求めに行った。


 蛇斑城の城主との交渉事態は難なく進んでいた。少しでも嫌そうな態度を取れば弱みをちらつかせると相手は尻に火が付いたかのように態度を改め素直に援軍を出す運びとなった。


 しかしその折に蛇斑城の城主に長年使える重臣の芦屋がそれだけの人数を割かれては城の守りが手薄になると言ってきた。


 朽縄城の城主は敵は朽縄城にいるのだから城の守りが手薄になっても痛手ではないと反論したが芦屋は折れず、結局援軍の数を減らすことになってしまった。


 朽縄城の城主はたかだか一介の家臣に計画を若干狂わされて腹ただしく感じていた。


「昔は名を馳せたようだが今はただの老いぼれのくせに」


「まあ落ち着いてくだされ殿」


 苛立つ主君に家臣の一人が諌める。


「物見から朽縄城の様子を聞くと敵は夜中だというのに裏門を開き、入り口の近くで火を焚いている城門が開いていることをわざとらしく知らせているようだとか。若様が仰ってたとおり空城の計を企んでいるようです」


「ふふん」


 家臣の言葉を聞いて満足そうに近くに控えてきた城主の息子は誇らしげに笑う。


「ならば五〇〇の手勢で一気に攻めれば敵は混乱し十分勝利できましょう」


「そうだな。では完膚なきまでに叩きのめしてやろう」


 朽縄城の城主は凄惨な笑みを浮かべると大声を上げる。


「みなのもの準備はよいか!」


「「「「ははっ!」」」」


「灯りをつけよ!」


 朽縄城の城主の号令でたいまつがつき周囲が一気に明るくなる。


「これより朽縄城を奪還する。われに続け!」


「「「「おおおおおお!」」」」


 朽縄城の城主が馬を駆けるとそれを追いかけるように兵達が次々と続く。兵たちは手柄を立てて恩賞を得ようと朽縄城の城主を追い抜いて怒涛の勢いで城門へと駆ける。


 兵たちの掛け声が響き渡る中、開かれた城門は一向に閉じる気配はなく、易々と兵が城内へと入り込んでいった。表門と違って入り口の小さい裏門だったため大勢で入るのに少し手間取ったが城内から矢で射られるなどといった抵抗すらなかった。


 これは楽勝だと楽観視する朽縄城の軍勢だったが、敵を探して城内をくまなく散策するが敵の姿を見つけることはできなかった。


「どういうことだ!」


 城内の奥深くまで入ってきたというのに敵の姿がまったく見えず朽縄城の城主は家臣に怒鳴りつける。

「そ、某にもわかりもうせぬ。もしかしたら敵がこちらを恐れて逃げたのかもしれませぬ」


「なにっ?」


「鳥綱の軍勢にとってここは敵地。籠城しようにも援軍は来ません。ならば籠城するよりも奇襲を弄する方が得策かと」


「なるほどな。敵も大したことないな」


 敵が逃げ出したことに納得した朽縄城の城主は鳥綱軍を嘲る。


「しかし城内に入ってから何か臭うな。やつらこの私の城に何か変なことでもしおったのか」


 敵がいないことがわかり落ち着いた朽縄城の城主はそこでようやく城内に漂う臭いに違和感を覚える。


 その言葉に家臣も疑問に思い、異臭の臭いを嗅ぎながら敵がいないことで冷静になった頭で考えるとハッとする。


「殿! この臭いは油です! すぐに逃げませぬと――」


 と家臣が臭いの正体に気が付くと同時に城内に火矢が撃ち込まれる。


 火矢は城内のあちこちに染み込まされた油に引火して燃え上がる。そしてさらに燃え上がった火が辺りの油に引火していき城内はあっという間に火に包まれた。


「わ、私の城が燃える」


 自分の居城が燃えることで朽縄城の城主は慌てる。他の兵たちも突然のことで騒然とする。


「消せ! 一刻も早く火を消すのだ!」


「無理です殿! 火の手が強すぎてとても消化できません!」


 平常心を失った城主に家臣が正論を述べる。


「くっ! ならばすぐに撤退だ!」


 止む無く城をあきらめて逃げようと裏門へと向かうが、裏門から家臣がやってきて報告する。


「殿! 裏門での火の手が強すぎて裏門から脱出できません」


 裏門のような手狭な門では火の手が強すぎれば通り抜けることは厳しい。


「な、ならば表門だ!」


 と言って表門にまわる。


 朽縄城の城主は表門のように入り口が大きければ多少火の手が強くても通り抜けられることができると考えた。


「表門は土嚢が積まれており脱出するのは困難かと……」


「なん……だと……」


 家臣から表門の状況を訊かされて唖然とする。


 守りを固めるために出入り口は表門と裏門しか作らず、周囲を高く覆う塀は飛び越えて城外に出ることはできず破壊しようとしても一筋縄ではいかない。


 守りを固め過ぎたゆえに出入り口を封鎖されれば逃げ場がなくなってしまったのだった。


「これがやつらの狙いか!」


 朽縄城の城主はそこでようやく自分がハメられたということを悟った。


「どうなってんだよ親父!」


「この馬鹿者が!」


 朽縄城の城主はすがりついてくる息子を殴り飛ばす。


「い、いてえな!」


「お前のおかげで敵の術中にはまってしまったではないか!」


「な、何言ってんだよ親父」


「お前が空城の計だと言わなければこちらとて全軍で突撃はしなかった! もっと警戒してことに当たったものの!」


 空城の計だと知らなければ不審に思いもっと警戒して入念に下調べをしていたし、全軍を突撃して一気に倒そうなんて思わなかった。こんな短慮な行動はしなかった。


 そのせいで敵の策にハマり火攻めにあってしまった。


「お前は敵に踊らされたんだよ!」


「んなのおれの知ったこっちゃねえ! 親父が不甲斐ないから悪いんだろ!」


「なんだと!」


「お待ちくだされ!」


 こんな状況だというのに今にでも親子で殺し合いそうになる二人を忠義に厚い家臣の一人が止めに入る。


「ここで喧嘩をしても致し方ありませぬ。早く脱出の方法を考えなくては」


「ぐぬぬぬ。おのれ! 鳥綱め! この怨み忘れるものか!」


 歯痒い思いに駆られる朽縄城の城主は燃え盛る城内で呪詛の念を叫ぶ。


 こうして朽縄城は燃え落ち、総勢五〇〇の軍勢は一晩で壊滅した。


はたしてあの親子はどうなったのか……。

彼らの今後の出番は未定です。たぶん出てこないと思いますが……。


最近PVが異常に伸びてると思ったら日刊にランキングインしてたんですね。

お気に入り登録や評価してくれた方々ありがとうございます。

これからも期待にそえるよう頑張ります。


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