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「それじゃあなんだい、あんたはあの阿呆を使って敵にこっちの策を教えるのが目的だったって言うのかい」
俺の説明を聞いて梗は意図が読めず疑わしそうに俺を見る。
「ああ。そうだ」
「そうだってあんたね! こっちは紫苑様が敵の総大将を討つまでここで籠城しなきゃならないんだよ。そのために少しでも時間を稼がなくちゃならないってのに何を考えてるんだい!」
「恋は詭道なりと言うだろ」
「はい?」
俺の言葉に梗は素っ頓狂な声を上げる。もしかしてこの言葉を知らないのかもしれん。
「いいか、恋は騙し合いだ」
「何言ってんだいあんた? 頭は大丈夫かい」
俺の言いたいことがわからず梗は怪訝そうな顔をする。微妙にひどいこと言ってないか?
「恋心ってのは複雑だ。好きな相手と仲良くしたいと思っていても好きだということを知られたくなくてつい自分の心を騙し、つんけんとしてしまうものだ。だからこそ恋愛において大事なのは相手の表面的なことで判断するのではなく、相手の行動に隠された真意を見つけてやらねばならない。そして相手の気持ちをくんで素直になれるようにして相手を騙してらないといけないんだ。わかったか!」
「いや、何言ってるんだか全然わかんないんだけど」
「なにっ!」
俺の伝えたかったことが全然伝わってないだと。と思ったら馬頭がフォローする。
「まあつまりこいつが言いたいのは相手の気持ちを察して自分の思うように動かして策にはめるってことだろう」
「合ってるっちゃ合ってるんだけど……」
なんだろう、こいつの言い方だと詐欺師みたいじゃないか。
「何であんたはあんな説明で理解できるのさ……」
と言って梗は頭痛でもするのか額を押さえる。
「あんたら実は仲がいいんじゃないの?」
「おい! ふざけんなよ! 世の中には言っていいことと悪いことがあるんだぞ!」
こんな野郎と仲がいいなんて思われるなんて最悪だ。
「手前こそ言っていいことと悪いことがあんだろ! 俺っちをなんだと思ってやがる!」
「うるさいわね! あんたらの精神年齢が一緒だってことがよくわかったよ! 黙らないとちょん切るよ」
俺と馬頭がケンカしそうになると梗が刀を抜いて仲裁してきたので押し黙る。
そして梗が俺に問い質す。
「で、向こうにはこっちが空城の計をやってくると思わしたんだからどうするつもりなんだい」
「さっきも言ったけど恋は詭道――」
「そんな御託はいいから具体的に何をするのかを教えなって言ってんだよ!」
梗が語気を荒げて言ってくる。まさか怒ってる?
すると馬頭がこっそりと注意してくる。
「おい、こいつを怒らせんなって。狗井の国で狂犬なんて呼ばれてたやつなんだぞ。怒らせたら何するかわかんねえぞ」
狂犬って……。
お前といいこいつといい何でそんな危なっかしい二つ名があるんだよ。過去に何をやっていたか知らんが昔はワルだったみたいなあれか?
だがまあここで怒らせるのは得策じゃないのも事実。俺は具体策を説明する。
「まずはこの城と近隣の村から油を大量に集める」
「油ねえ。火計をやるのかい」
油と聞いてすぐに察する梗は顎に手を当てて考える。
「……それで?」
「次にこの城にある兵糧を近隣の村に全て配る」
「ちょっと待ちな! 兵糧を配ったりしたら籠城なんてできないじゃないか!」
「だから籠城はせずに出陣する」
「出陣する!? 正気かい! せっかく手に入れた城を捨てて野戦で戦うって言うのかい!」
「今籠城しても長くは持たない。それならこんな城は捨てた方がいい。まあ一応この城には一〇人ぐらい残しておくけどな」
「だからってね! どうせ兵糧を近隣の村に配って村人を懐柔して兵にしようとするつもりかもしれないけどそんな上手くいかないよ。あいつらは命を賭してまで戦おうとは思わないから最初は言うことを聞いても身の危険を感じたら真っ先に逃げる。それに武器だって全員分用意できないんだよ」
「それぐらいわかってる」
正直この策をやったからといって絶対に勝てるという保証はない。相手がこちらよりも上手なら逆に厳しい状況に追いやられることもある。
「だがこの策でなければ俺たちは近いうちに全滅だ」
そう言って俺は梗に今回の策の全容について説明する。
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どうもありがとうございます。
本当なら一話の文章量を増やしたいところですが、親知らずを抜いて痛くて執筆に集中できないうえに、明日から2月の中ごろまで忙しいのでスローペースになるかもしれません。でもなるべく毎日更新できるように頑張ります。