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「くそっ、鳥綱の国の連中め!」


 朽縄城の城主は森の中に敷いた急ごしらえの陣中で自分たちを撤退に追いやった鳥綱の国に怒りをぶつける。


 幸い鳥綱の国から追手は来ておらず朽縄城の城主は朽縄城から北の方角へと逃げていた。あと半日ほど行けば蛇斑だぶち城へとたどり着く予定だ。


「して殿、これからいかがするおつもりですか」


 家臣の一人が城主に訊ねる。


「決まっておろう! これ以上あやつら鳥綱の国の者どもに我が城を自由にさせてはおけぬ。取り返すのだ! でなければ末代までの恥だ」


「しかし殿」


 雪辱を晴らそうとする城主に別の家臣がやや気まずそうに具申する。


「攻者三倍の法則と言われ城を落とすのなら最低でも三倍の兵が必要と言われております。我が手勢は先の戦で五〇を失い、重傷の者を除けば今動けるのは二〇〇ほど。聞けば敵の兵力は噂よりも多い二〇〇だとか。このままではいささか厳しいかと」


「それがどうした! ならばなぜ我が城は落ちたのだ! 貴様は私が無能だといいたいのか!」


 城主は家臣の言葉に激昂する。


「そ、そのようなことは滅相もありませぬ」


 主君に叱られて深くこうべを下げる家臣。


「ふんっ。もとはといえば貴様が敵の策を見破れなかったのが原因ではないか。私であったならすぐに見破れたというのに。この無能が!」


「ははっ! 弁明のしようがございませぬ」


 家臣は内心自分の馬鹿息子が女を漁りに行かなければこんなことにならなかったと思いつつもそれは口に出さずただひたすら謝罪する。もしそんなことを言えばやつ当たりで即刻切り落とされるのが目に見えていた。


 家臣に責任の一端を押し付けたことで溜飲が下がった城主は不敵な笑みを浮かべる。


「兵力に差があるのなら援軍を求めればいいだけだ」


「援軍でございますか?」


 今度は別の家臣が相槌を打つ。


「そうだ。蛇斑城の城主に援軍を求める。数はそうだな……四〇〇ほどあれば十分だろう」


「おお、さすが殿!」


「はっはっは」


 家臣の一人が太鼓を叩くと城主は満足そうに笑う。


 しかし先ほど具申した家臣が援軍と聞いて質問する。


「ですが殿、蛇斑城の兵力は五〇〇。四〇〇もの兵力を貸してもらえるとは……」


「無能な貴様は黙っとれ!」


 と家臣の真っ当な意見を跳ね除けて城主は悪そうな笑みを浮かべる。


「蛇斑城の城主は私に借りがある。私が貸せと申せば貸さぬわけにはいかぬよ」


 その言葉を聞いて太鼓を持つ家臣たちがさすがだと城主を褒めちぎる。


 戦う前から戦勝雰囲気になる陣中に一人の家臣が飛び込んでくる。


「殿! 若が、若が戻ってまいりましたぞ」


「なにっ! 息子がか!」


 女を漁りに行って帰ってこないからってきり死んだと思っていた城主は飛び上がる。


「はい」


「すぐにここに連れて来い」


「ははっ!」


 城主に言われて家臣は陣中を一度去るとすぐに戻って来る。その家臣に連れられて一人の男が入ってくる。


 男の姿はボロボロで着ていた服には血がシミになっており軽薄そうだった顔立ちは泥まみれで汚らしい。腕を怪我をしているのか雑に包帯が巻かれていた。この男は村で村長の孫娘を襲い大和に返り討ちにあった男だった。


「親父!」


「おお、本当に生きておったか。心配させおって」


「すまねえ親父。実は敵の動向を探っていたら捕まっちまった」


 と城主の息子はここに来るまでに考えていた適当なウソを報告する。


「なんと! ってきり女を漁りに行っていたと疑った父を許してくれ」


 息子のウソに気付かず泣きながら息子を抱きしめる城主。それを見て家臣どもが城主の息子を褒め称える。


「いいってことよ。それよりも鳥綱のやつらに討ちに行くんだろ。おれも参加させてくれ。この傷の借りを返さなきゃいけないやつがいるんだ」


 そう言って大和から受けた腕の傷を見せる。


「敵の野郎が不意打ちなんて汚いことしやがって。武士の風上にも置けない野郎だ」


 城主の息子は自分のことを棚に上げてそんなことをのたまう。


 城主は城主でそれを聞いて感銘する。


「汚い連中め。だがよくぞ言った! それでこそ私の倅だ。ともにやつらを倒すぞ」


「それで親父。おれはやつらが次にやる策を聞いてきた」


「でかしたぞ! してやつらの策とは?」


「やつらはおれらが城を奪いに来るのを見越して空城の計をやるらしい」


「なるほど、空城の計か」


 空城の計と聞いて城主は顎に手を当てて納得する。


「なあ親父。空城の計ってなんだ?」


「貴様、そんなことも知らんのか。この馬鹿者がっ!」


 倅の無知っぷりに若干呆れる城主。


「空城の計とは敵将に自軍の戦闘能力を錯覚させる策のことだ。例えば城門をあえて最初から開けられていれば優秀な将ほど何かあるのではないか思うだろ。そういった人の猜疑心を利用した策でたいてい劣勢になったやつが使うものだ」


「なるほど」


「いかにも小狡いやつらのやりそうな策だ。しかし念には念を入れて援軍を呼んで一気に攻め落とするとするか」


 城主は勝利を確信して微笑む。




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