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翌日、牢屋から釈放されると馬頭がニヤニヤと笑みを浮かべてやってきた。
「よお、大和! 昨日はお楽しみ――」
「この野郎っ!」
俺は馬頭の姿を見つけるやいなや握りしめた拳を振りぬく。
「危ねっ!」
「ちっ!」
ニヤニヤ顔の馬頭の顔面を殴ろうとするが寸前で拳をかわされてしまった。
「ちっ! じゃねー。出会いざまに人を殴ろうとするとか何考えてんだよ。危ねーだろうが」
初対面の時に妹に近づくなとかなんとかで俺をいきなり殴って来たくせによく言いやがる。
「はんっ! 余計なことを喋ったお前が悪い」
「あん? 栞那のことか? 感謝こそされど殴られるいわれはないぞ」
馬頭は胸を張って主張する。
「よく言いやがる。俺はあいつには言うなって言っただろうが。何で言ってるんだよ!」
「確かにお前は言うなといった。だがな、俺は言わないと約束してない!」
ニヤリと笑みを浮かべる馬頭。
「開き直りやがって。この妹狂いの変態野郎が!」
「んだとっ!」
俺の言葉に馬頭が俺の胸ぐらを掴みかかってくる。すかさず俺も掴み返す。
「やんのかっ!」
「ったく、朝からなにやってんだいあんたらは。騒がしいったらありゃしない」
いがみ合う俺と馬頭を見てこの隊の実質的な隊長である梗が豊満な胸を強調するように腕を組んで呆れていた。梗は寝不足なのか目の舌にはクマができていた。
「邪魔するんじゃねえ梗。こいつは俺っちのことを妹狂いの変態野郎とか抜かしやがったんだ」
「事実じゃないか」
梗は何言ってんだこいつといわんばかりに言う。
「なにっ!」
ショックだったのか馬頭が呆けた顔をする。
「まああんたの妹狂いについてはどうでもいいんだよ」
梗は梗で馬頭のことなんてどうでもよさそうに流す。
「それよりこっちは村で捕まえたやつが一人脱走したせいで忙しいんだよ。早いとこ捕まえないと向こうにこっちの策が知られちまうかもしれない」
梗は頭を抱えて困ったようにグチをこぼす。それを見て馬頭が明後日の方角を向いて賛同する。
「ほー、それはたいへんじゃねーかー」
「おまけにその脱走を内部から誰かが手引きしたやつがいたみたいでね」
「ほー、そりゃーふてーやろうがいたもんだ」
「……」
あからさまに挙動不審になる馬頭を梗がジッと見据える。馬頭はその視線に耐えきれず目線を逸らす。
……ダメだこいつ。ウソがヘタすぎる。
梗は馬頭の態度で確信したように問い詰める。
「あんたなんだろ。脱走を手引きしたのは。正直に言わないとあんたのいちもちを切り落とすよ。こっちは脱走があったせいでろくに寝てないんだ」
「ち、違う! 俺っちが悪いんじゃない! 大和のやつがそうしろって言ったんだ!」
「あっテメェ! 汚ねえぞ!」
責任を全部押し付けようっていうのか。
「どっちでもいいからわけを訊かせてもらおうか」
梗は若干クマができた目を細めて俺たちを睨み付ける。