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 圧倒的だった。


 ほんの数日前までは朽縄城攻めは勝てることのない負け戦になると鳥綱の国の兵の誰もが思い、ただ受けた恩を返すべく死地へと向かっていった。


 しかしふたを開けてみたら鳥綱の国の圧勝。


 朽縄城の敵は混乱状態に陥りまともに戦うことができず敗走。


 たった一日で城を攻め落とすという快挙成し遂げたのだった。


 そして現在鳥綱の国の兵たちは朽縄城での勝利を祝して宴を開いていた。


 敵から奪った食事ということでみんな遠慮することなく腹に詰め酒を呑む。一緒に戦った村人もそこに混じったりもしていた。


 各々が酒を片手に自分の武勲を自慢げに語り合い今この一瞬を楽しんでいた。


 しかしみなが勝利の美酒に酔いしれる中、剣呑な雰囲気を漂わせる場所があった。


「納得いきません!」


 と言って栞那は眉を吊り上げて足軽大将である馬頭に喰ってかかる。


「そうは言ってもな」


 馬頭はやや困ったように額を掻く。


「どうして彼が懲罰を受けているんですか。彼の策のおかげでこの城を落とすことができたんですよ!」


 栞那が憤っているのはこの策を考えたあの男が武勲を褒められることなく懲罰を受けていることだった。それどころかなぜか今回の策は自分が立てたことになっていた。


「栞那、お前の言いたいこともわかる。でもそもそもそのことを言いだしたのはあいつなんだ」


「彼が?」


 栞那は馬頭の言っている意味がよくわからず吊り上げていた眉を寄せる。


 いったいどうして好き好んで自分に懲罰を与える男がいるというのだろうか。


 馬頭はそんな栞那にことのあらましを説明する。


「昨日俺っちはあいつと二人で話した時に今回の策を聞いた。明日には間違いなく捜索隊が来るからそいつらを利用して朽縄城の城門を破り、村人たちに旗を持たせて実際の数より多く見せて敵の戦意を失わせて敵を裏門から逃がせってな」


「今回の戦の大まかな流れですね。敵に逃げ道を残しておいたのも決死の覚悟で攻められればこちらの消耗が激しくなりますし」


 馬頭の話を聞きながら栞那なりに今回の戦についての考えを述べる。


「しかしそれがどうかしましたか?」


「おかしいと思わねえか?」


「おかしいと申しますと?」


 馬頭の言いたいことがわからず首をかしげる栞那。


「もし敵が油断せずに立ち向かってきたら負けていたのはこっちだ。だがやつらは油断していた。何故だと思う?」


「……」


 栞那は顎に手を当ててしばし考え込む。そして自信なさ気に答える。


「……敵が、少数だったからでしょうか?」


 栞那の答えに馬頭は頷く。


「そうだ。向こうはこっちが少数だとあなどっていた。いや正確には侮らされていたと言った方がいいか」


「侮らされた、ですか?」


 馬頭の妙な言い回しに栞那は反応する。


「実は大和のやつが敵に情報を流していたんだよ。敵はたったの一〇〇人で兵は捨て鉢でやる気がないってことを行商人を使ってな。普通なら情報を隠すもんだ。だがあいつは逆に真実と嘘を混ぜてそれを利用した。敵だって何かしらの行動があるのを予想して準備しているが、敵がたった一〇〇人のやる気のない兵って知ったら油断するからな。本来なら褒めてやるとこだがあいつは敵に情報を流したから処罰しろって言ってきてな」


「……」


 馬頭の説明を聞いて栞那は押し黙る。


 確かに下っ端の兵が敵に情報を横流しするのは許されないことだ。ばれれば処刑されてもおかしくない。


 だが今回の場合は許されてもいい気がするが流したのは本当の情報だ。多少嘘もあるが判断が難しい。それなら今回の一件は懲罰で済むのならいい方だ。自分でそれを正直に言ったのは理解できないが何かしらの意図があるのかもしれない。


 そう納得しかけた栞那に馬頭が言葉をかける。


「っていうのは、お前が文句を言ってきたら言えってあいつが言ってた建前だ」


「建前?」


「本当はあの村であいつが勝手に村人を助けた責任がお前に及ばないようにするためだ。あの一件は敵を全て撃退できたからいいものの、もし敵を討ち漏らしていたら今頃俺っちが全滅していてもおかしくはなかった。だから今後そういった独断専攻が起こらないように処罰しなきゃならない」


 それは当然だ。お咎めがなければ軍の規律が乱れる。今はまだいいが今後負けが続けば勝手なことをする人間だって出てくる可能性もある。そのためこのまま放置しておくわけにはいかない。


「それなら組頭である私が責任を……」


「だからだよ。責任感の強いお前ならそう言うと思うからあの馬鹿はあんな建前を用意したんだ。あの一件は大和の独断専行。そして組頭であるお前は機転を利かして今回の策を思いついた。そういう筋書きだ」


「ですが!」


「あいつの気持ちをくんでやれよ。お前のとこの隊は女ばかりということでろくな装備を回してもらえなかっただろ?」


「……ええ」


 馬頭の言う通り栞那の隊の装備は今にでも壊れそうな使い古されたものばかり。大和が使っていた槍と具足も同じように使い古されたものだった。


 流民の部隊ということでどうしてもいい装備は整えられず使い古された中古品しか用意できなかった。その中でも女ばかりの栞那の隊にはろくな装備が支給されていなかった。


「でも今回の功績でこの城にある装備を優先的に回してもらえるようになる。そうすれば戦場で生き残れる可能性が増えるだろう」


「……」


 栞那は複雑そうな顔をする。


 馬頭の言う通り今回の功績があればいい装備を部下に渡すことができる。


 女だからといって男に舐められたくないから女ばかりの隊を作ったが、そのせいで部下には苦労をかけさせてきた。今まで苦労かけた分いい装備を渡してあげたい。


 だが生真面目な性格ゆえに素直に喜べないし納得できない。


「わかりました」


 栞那は迷った末馬頭の提案を受け取ることにした。


「ですがあの男に文句を言わなければ気がすみませんのでこれで失礼します」


 と不服そうに言って栞那は大和のいる牢へと向かう。馬頭はそれを微笑ましそうに見送る。




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