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「いたぞ! あそこだ」


 敵がこちらに気が付いてこっちに向かって走ってきた。


 まず足の速い一人目が俺に接近するとすれ違いざま斬りかかってくる。


「くらえ!」


「遅いんだよ!」


 俺はその一撃を相手の懐に潜り込みながらするりとかわしてバットを振りぬくように相手の顔面に鞘を叩きつける。鞘からメキャッと鼻の骨が折れる感触が伝わってきた。そして顔面を殴られた侍は空中で錐もみしながら吹っ飛んでいく。


 とそこへ俺が攻撃するために立ち止まった隙をついて横から一刀が振り下ろされる。


 俺はそれを身体をひねってかわしてそのまま一回転して回し蹴りを食らわせる。回し蹴りがあばら骨を粉砕し、激痛が襲い悶絶していた。


「ひっ!」


 その光景を目の辺りにして刀を振り上げたまま怯んだ侍の鳩尾みぞおちに突きをお見舞いする。


「ぐあ!」


 急所を一突きされてあっさりと気絶した。


 これで三人目。


「ば、化け物か」


 一瞬で三人をのしたことで侍どもが怯える。


「ひ、怯むな! 相手はしょせん一人。いくら強かろうともこの人数で囲ってしまえば何も問題ない」


 一人が一喝すると残った六人の侍は俺を囲うように立ち回る。


 前と後ろに三人ずつ。


 最初に攻撃してきたのは前にいる真ん中の侍。わざとらしく大声を出しながら攻撃をしかけてくる。


 思わず笑みがこぼれる。


 価値観が違っていようともやっぱり戦い方が大きく違うことはないみたいだ。


 おそらくこの攻撃を左右によければ左右に控えている連中の攻撃が襲い掛かってきて、後ろに逃げれば後ろの三人の攻撃が襲い掛かってくるって魂胆だろう。まあ左右も後ろもダメな真ん前へと逃げるだけだ。


「でや!」


 前から攻撃してくる真ん中の侍はさっきの攻防で大きく振りかぶる攻撃は危険と判断したようで隙が少ない突きを選択した。


 俺は大きく前へ一歩踏み込んで敵の懐まで入って突きをかわす。そしてそのまま着物の衿を掴んで強引に投げ飛ばすと侍は受け身を取れずに地面に背中を打つと血を吐いて倒れる。


 そこから呆気にとられている横の二人の頭に鞘をお見舞いして気絶させる。


 六人目。


 すぐに後ろにいる残りを倒そうと思うがドスンと倒れ伏す音が聞こえてくる。


 振り返ると血塗れの中に倒れる三人の侍と抜刀している栞那の姿が見えた。


 どうやら栞那が残りの三人を始末したようだ。


「やるな」


 雑魚とはいえあの一瞬で三人を倒すとは。おまけに自分には返り血がついていない。


「それはこっちの台詞です」


 俺が褒めると栞那は不服そうに言う。


「以前私と決闘した時とは動きが全然違いました。まさか私が女だから手を抜いていたんですか」


「別に手を抜いていたわけじゃない。あの時はあれが全力だっただけだ」


「……」


 俺の返答に納得できないのか栞那は眉をしかめる。


「それで、こいつらをわざわざ生かしたのには理由があるんですか」


「もちろん」


 といって俺はさっきから痛い痛いと喚き続けているあの軽薄そうな侍のところまでやってくる。


「おい」


「いだいいだい!」


「おい!」


 反応がないから腕に刺さった槍を抜いてやる。


「ああああああ!」


 槍を抜くと軽薄そうな侍は転げまわる。そして俺の存在に気が付いて睨みつけてきた。


「な、なんだお前! おれにこんなことをしてただで済むと思うなよ!」


「うるせーなお前。この状況でもそんなこと言えるのかよ」


「お前なんておれの取り巻きが……やられてる」


 九人の取り巻きがやられたのを今頃になって気が付いて呆然とする。アホかこいつ。


 こういうタイプはまともに相手にするとめんどうだからさっさと聞きたいことだけ聞いておこう。


「お前は朽縄城から来たのか」


「はっ! 誰がお前なんか――のおおお!」


 口答えするから傷口を踏みつける。


「余計なことは口にするな。これは尋問だ。お前は俺の質問に答えればいい。じゃなければ拷問するぞ。わかったか?」


 俺は脅迫するように言うとアホは必死に首を縦に振って肯定する。


「お前は朽縄城から来たのか?」


「は、はい」


 さっきの威勢はどこへやら従順になるアホ。


「だったら朽縄城の構造と陣容を話せ。後で他のやつにも聞くから違ってたらもっと痛い目に合わせるぞ」


「わ、わかりました」


 と言うとアホは城の構造や陣容をペラペラと喋る。


 話を聞く限り朽縄城は城というが石垣とかはなく五メートルほどの高さの塀で囲われた砦といった感じの作りらしい。門は表門と裏門の二つ。普段は表門が使われているんだとか。


 それが正しい情報かはあとで他のやつにも聞いて確認しておくか。


 アホから城の様子をあらかた聞き終わったところで村人を引き連れた村長がやってきた。


「先ほどは孫娘を助けていただきありがとうございました」


 孫娘とはそこのアホに突っかかっていった五歳児か。


「礼を尽くしたいのですが生憎今はもてなすこともできない状況でして……。もしわしの身体でよかったら好きにしてくだされ」


「いらねえよ」


 即答する俺。


 この村長天然なのか? よくこんなんで村長なんてやってこれたな。


「それよりも今後の身の振り方を考えろ。こいつらが城に帰ってこなかったら異常を察して明日には別の兵が偵察にやってくるはずだ」


「そ、そんな!?」


 村人たちの表情が絶望へと変わる。


「そーだそーだ! このおれをこんな目にあわせたことを後悔させてやる」


「黙れアホ」


「あぎゃあああ」


 俺は傷口を踏みつけて調子に乗るアホを黙らせる。


「もし今のままこいつらに搾取されたいのならこいつらを城まで連れて行って助命を申し出ればいい。それが嫌なら俺の言うことを聞け。そうすれば腹いっぱいメシを食わしてやる」


「し、しかし……」


 と迷う村長。村人たちもどうしていいのかわからない様子だ。


「お前らは悔しくないのか? こんなアホに自分たちが汗水たらして作った食料が一方的に奪われたりして。あげくに自分の大切な人を奪われたりもして」


 俺の話を聞くと村人たちがざわつく。日頃からの不満が溜まっていただけに悔しいという気持ちは十分にあったようだ。


「別にお前らが前線に出て戦えとは言わない。ただほんの少し手伝ってもらえればいいだけだ」


 自分たちが前線で戦わないと聞いておおっと湧く村人。


 どうせこんなガリガリな状態で前線に出ても役に立たないしな。


 そしてしばらくすると村長が協力を申し出てきた。


 これで下準備はいいか。


「ちょっと! 勝手に村人を仲間にしてどうするつもりです」


 村人が協力するということに疑問を感じた栞那がこっそりと俺に問い詰めてくる。


「しょうがないだろ。あのまま放置したら誰かがこのことを密告するかもしれないだろ。それならこっちに取り込んだ方がいい」


「……それもそうですけど、あの状態ではまともな戦力になるとは思いませんよ」


 栞那はガリガリに痩せ細った村人を見る。


「いいんだよ。数は力って言うだろ。それよりも馬頭に連絡して兵を全てここに集めといてくれ。明日、朽縄城を攻め落とすぞ」


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